第五十話 光と影
簡単ではありますが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。
ライトは《光の剣》でカゲロウに斬りかかる。
――ッガキィン!
火花が散った。
影が刃の形となり、ライトの攻撃を防ぐ。
《光の剣》と《影の刃》が激突し、狭い通路に轟音が響き渡る。
「ぐっ……! やはり影使い……か!」
「……お前は何者だ!! 一体、なんなんだよ!!」
カゲロウが声を荒げる。
「俺は――人魔革命団のライトだ!!
龍鈴を返しやがれ!!」
「……お前がライトだと? そんなわけがあるか!!」
カゲロウの影が刃や槍になり、ライトを襲う。
「くそ! お前なんかに構ってる暇なんかねぇんだ!」
ライトは《光の翼》で影を掻い潜ってカゲロウに接近する。
「お前がライトだなんて認めないぞ! どう見ても龍型の魔族じゃないか!!」
影の刃がライトの布を切り裂く。
「しまった!」
ライトの顔が曝け出す。
「おい……その顔……」
カゲロウは布の下から現れた素顔を見て目を見開く。
「……本当にライトなのか? いや、ライトが魔族の味方をするわけがない!それにその姿……この偽物が!!」
さらに影の刃が襲いかかる。
ッキィン! ッキィン! ッキィン!
《光の剣》で影を弾くライト。
「お前に俺の何がわかるってんだ!!」
《光の斬撃》を飛ばすライト。
「全部知っているさ!!ライトのことなら……!」
幾重にも影を重ねて《光の斬撃》を防ぐカゲロウ。
「……俺は、お前なんか知らない!!」
その一言が、カゲロウの胸を抉るように響いた。
(知らない……?俺を……知らない……?
……違う。こいつはライトじゃない。
ライトのはずがないんだ!!)
仮面の奥で、瞳が赤く揺れた。
「わかったぞ? ライトの体は……龍型に操られているんだな。
あの金色の龍人に、体を乗っ取られたんだな!!」
ーーゴォォッ!!
カゲロウの影が斧、剣、槍へと変幻し、嵐のように襲いかかる。
「……《光の盾》ッ!!」
――ギィンッ!
剣が《光の盾》へと変形し、影の連撃を次々とはじき返す。
ーーガガガガンッ!!
「やられてたまるか……!
俺は龍鈴を取り返すまで、絶対に退かねぇ!!」
影の連撃を盾で受けながらも前へ進むライト。
「お前、人魔革命団と言ったよな?
人間と魔族が共存?ふざけるな!そんな事は幻想だ!
俺は……俺たちは、お前たち魔族に全てを奪われたんだぞ!!」
攻撃の手を緩めないカゲロウ。
「幻想なんかじゃねえ!これから実現させるんだ!
それを龍鈴は本気で信じてる!
そして……俺もそれを信じるって決めた!!」
さらに前へ進むライト。
「黙れッ!!ライトの姿でそれを言うな、この化け物!!
家族を、仲間を、故郷を……
全部、魔族に食い潰された痛みが……!!」
圧倒的な憎悪が影を膨張させる。
(……なんて深い恨みだ……こいつは……)
「ライトの体を返せ!!龍型のくせにその体を穢すな!」
影が槍となって突き出される。
「……何言ってんだ!俺は俺だ!」
《光の盾》が槍を受け止め、眩い火花が散る。
「俺だって、大事な仲間を失った!
だからもう誰も、何も失わなくて済む未来のために……
俺は剣を握ってるんだ!!」
「違う!……仲間を失わないために魔族を殲滅するんだ!
なんでそれがわからない!!」
ーーズガァァァンッ!!
光と影がぶつかり合い、通路全体が震えた。
石壁が砕け、破片が飛び散る。
その衝撃で、
――ガランッ。
砕けた仮面が床に転がり、
カラン……と乾いた音を立てて止まった。
立ち上る埃の向こう、
露わになった素顔を見た瞬間――
「……っ!? 嘘だろ……お、お前……ユ、ユージ……なのか?」
ライトの瞳が大きく揺れる。
かつて共に笑い、共に励まし合い、
共に旅をして、幾度と死線を越え、
同じ夢を語り合った――。
ライトが一番に会いたかった、
誰より信頼していた仲間。
ユージがそこにいた。
しかし今そこにいたのは、
深い傷と、燃え盛る憎悪に塗りつぶされた男。
「……っ! やめろ……その名で呼ぶな!!」
ユージ――否、カゲロウは、額に走る大きな傷を手で覆いながら、震える声で怒鳴った。
その指先から滲む影がざわめき、獣のように形を変え始める。
「俺はユージなんかじゃない……カゲロウだ!!」
「ユージ……! なんでお前がこんな所に……!?
冒険者はもう、やめたんじゃなかったのか!」
「なぜ……なぜ俺を知っている!?
お前が本物のライトだとでもいうのか……!?
だとしたら――お前こそ何をしている!!」
影が爆ぜる。
「ノイスを殺した龍型の味方をして……
俺たちを馬鹿にしてるのか!!!」
「そ……それは……色々あったんだ……!」
「黙れ!!“色々”で片付くか!!
ライトは……もう死んだんだ!!
あの日、龍型に殺されて――
俺の前から消えた!!」
「ユージ! 何言ってんだ! 俺は生きてる。
俺らが戦う必要なんてない! 仲間じゃねえか!」
「……な、仲間……っ」
その言葉が胸に刺さった瞬間、
ユージの脳裏に、かつて三人で笑い合った日々が一瞬だけよぎる。
幼い頃の夜、焚き火の前で未来を語り合った声。
肩を並べて戦った冒険者としての日々。
――その温もりが、ほんの刹那だけユージを揺らした。
だが。
「っ……ならば――!」
ーーシュッ!
膨れ上がった影が、人の手の形を成してライトの目の前に突き出された。
「もし……もしお前が本当に“ライト”だと言うなら――」
カゲロウは影の手を開き、狂気と渇望が入り混じった瞳でライトを見据える。
「俺のところへ来い……一緒に魔族を滅ぼすんだ。
ライトの“仲間”は――俺とノイスだけだ。
龍型なんて、どうでもいいはずだろ……?」
「っ……!」
その声は懇願にも似ていた。
胸に突き刺さる叫びだった。
「お前がライトだと言うなら、この手を握って……
昔みたいに、戻ってこいよ……ライト……!」
ライトは歯を食いしばり、首を振る。
「それは……出来ねぇ! 俺にはやることがあるんだ。
俺にしか出来ねぇ事が……!!」
「何言ってんだ! 龍の姿にされたのを気にしてるなら、戻す方法を一緒に考えてやる。
そうだ!総帥なら何とか出来るかもしれない! さあ!一緒に来い!」
影の手がさらに伸びて、ライトの目の前に来る。
「すまねぇ、ユージと一緒には行けねえ……俺には俺の生まれてきた意味、やらなきゃいけない事があるんだ!」
そう言って、影の手を振り払う。
――ボワン。
振り払われたカゲロウの影の手はぼやけて消える。
カゲロウの瞳からすうっと色が失っていく。
「……そうか」
影が揺らぎ、再び刃の形に尖り始める。
「わかってくれるのか……?ユージ」
「いや、やっぱりお前は――“俺の知ってるライト”じゃない」
その表情には、怒りでも悲しみでもなく。
ただ、完全な決別の狂気が浮かんでいた。
カゲロウの瞳が、揺らぎから狂気へと沈んでいく。
「あはは……わかった。
ああ、わかったぞ……全部……あいつが悪いんだな」
影がざわりと膨張する。
「金色の龍型……! あいつに“洗脳”されたんだろ……ライト……!あいつさえいなければ……全部元に戻るんだ!!」
次の瞬間、影が床を滑り、
カゲロウの身体は奥の部屋へと疾走する。
「ッ!? おい!やめろ! 何考えてんだ!ユージ!!」
「やめろ……だと?
あいつがいるとライトがライトじゃなくなる!
あいつを殺せば全てが戻るんだ……」
カゲロウの影が槍へと変形し、
一直線に地下牢の奥の扉へ向かっていく。
「今ここで……俺が終わらせてやる!!
お前を元に戻してやる!」
「やめろ!ユージ!! 龍鈴――――っ!!!」
ライトは《光の翼》を広げ、
雷のような速度でカゲロウの後を追い、飛び込んだ。
「はああああ!《光の剣》ッ!!」
閃光が巨大な刃となり、
横合いからカゲロウの胴を捉え――
――ドガァァァァンッ!!
轟音と共にカゲロウは吹き飛び、
石壁が砕け散った。
「……くっ! すまん、ユージ!!」
罪悪感を振り切るように叫び、
ライトは崩れ落ちた瓦礫を飛び越えて、
カゲロウが向かった奥の牢へと駆け込んだ。
石片に埋もれ、視界がぼやける中でゆっくりと身を起こすカゲロウ。
その顔は、怒りでも憎悪でもない。
ただ、壊れたような虚ろな笑み。
「……は……はは……
はははははははははははは!!」
笑い声は次第に、
嗚咽と涙が混じったものへ変わっていく。
「なんでだよ……ライト。そんな龍型なんか。
俺の方が……ずっと……ずっと……!」
影が彼の周囲に蠢き、
その身体を飲み込むように包み込む。
狂気と絶望が入り交じったその笑いは――
龍鈴の捕えられた奥の牢へまで、
薄暗い通路を這いながら響き渡った。
⸻
ーー薄暗い牢の奥。
龍鈴は粗い鎖で両腕を吊り上げられ、
裸足の足先が床をかすめるだけの体勢で固定されていた。
全身には無数の傷。
本来美しかった金色の翼はボロボロに裂かれ、鱗もいくつも剥ぎ取られて血が滴っている。
「……この鱗、魔素伝導率が高いな。サンプル用で何枚か持ち帰ろう」
研究員が龍鈴の鱗を剥ぎ取り、感心する。
「血液も十分確保した。……信じられん速度で凝固していく。これが龍型の回復力の源かもしれない」
二人の研究員の淡々とした声だけが、湿った牢に響く。
龍鈴は苦痛に耐えるようにぎゅっと唇を噛みしめ、声を上げることなく耐えていた。
だがその瞳は――決して折れていなかった。
その時。
ーーガシャァァァァンッ!!!
爆音とともに、牢の扉が粉砕された。
「……龍鈴ッ!ここにいるのか?」
眩い《光の翼》を広げたライトが飛び込んでくる。
突然の侵入に、研究員たちが慌てて叫んだ。
「なっ、誰だッ!?」
「警備はどうしたッ!」
しかし――。
侵入者は、彼らの声など聞こえていないかのように、ただ一点を見つめていた。
鎖に吊られ、血に濡れた体を晒す龍鈴。
「……ッ」
胸の奥で、心臓が凍りつく。
思考が止まり、呼吸すら忘れる。
誰よりも優しく、気高く、美しかった龍鈴――
その身体は無数の傷に覆われ、翼は裂け、剥がれた鱗から血が滴っていた。
そのあまりに痛ましい姿は、直視することが出来ない。
そして次の瞬間、ライトの中で何かが音を立てて切れた。
灼熱の怒りが胸の奥で爆ぜ、理性を焼き尽くしていく。
「……お前ら……」
握る《光の剣》が震え、刃が燃え上がるように光が噴き上がる。
「……絶対に許さねぇぞ」
爆ぜる閃光が牢獄の闇を裂き、壁を白く照らし出す。
「ぶち殺すッッ!!!!!」
その叫びと同時に、ライトの瞳は燃え盛る炎のように赤く染まった。
もはや“怒り”では済まされない――純粋な憎悪だけがそこに宿っていた。
ライトの怒号と共に、牢獄に光が爆ぜた。
《光の剣》が唸りを上げ、研究員たちの顔が恐怖に引き攣る。
「ひ、ひぃッ! ま、待て!たすけ――」
「黙れッ!!助けろ……だと?
龍鈴にこんな事しやがって……龍鈴が何をしたって言うんだ! てめえら、生きて帰れるなんて思うなよおお!!」
怒りに飲み込まれ、《光の剣》が振り下ろされようとした
――その瞬間。
「ライト!……何をしているのです!!
憎しみで剣を振りかざすなど――私が許しません!」
頭の中に響く龍鈴の声が、真っ先にライトの胸を突き刺した。
ライトが振り向くと、
龍鈴はやつれ、血に濡れ、傷だらけの体でありながら――
それでもしっかりとライトを力強く睨みつけていた。
その瞳だけは折れていない。揺らがない。
「……龍鈴。……でも……やっぱりダメだッ!!」
ライトの声は震えていた。怒りと悔しさで喉が焼ける。
「これだけは……どうしても……どうしてもダメだ!!
平和を願って……誰よりも優しくて……
みんなのために一生懸命な龍鈴に……こんなことしやがって……!」
握る剣が震え、目の奥が赤く染まる。
「許せるわけ……ねぇだろ……!!」
涙ぐみ、怒りに震える鱗の腕で研究員の胸ぐらを掴み、
片手で軽々と持ち上げる。
もう一人の研究員もライトに《光の剣》を向けられ動けない。
「ひ、ひぃッ! お、降ろしてくれ!
俺は……総帥の命令で……解剖をしろと言われただけなんだ!」
「……っ!」
持ち上げた研究員の睨みつけるライト。
「ライト!今すぐにやめなさい!!
何の為に私たちが人魔革命団を作ったか、考えて……!
ライトの憎しみは、新たな憎しみを生むだけです!」
鎖に吊られたまま、龍鈴は涙を浮かべ、
それでも凛とした瞳でライトを見つめていた。
「……けどよ……!」
納得がいかずに掴む手に力が入る。
「それ以上その者たちに危害を加えるようなら……あなたは憎しみに囚われた単なる“悪″です」
龍鈴の言葉が胸を打ち、掴む手が弱まる。
「……くそぉ……」
「私はこうして、私のために怒ってくれる人がいるだけで……それだけでとても幸せなんです。
だから……お願い、ライト……離してあげて」
「……龍鈴……」
その声に、ライトの全身から力が抜けていった。
やがて、掴んでいた手をゆっくりと下ろし、
研究員を床に置くように手を離した。
「ひ、ひえええーーっ!!化け物だ!!」
研究員たちは四つん這いで逃げ出し、牢獄には静寂が戻る。
ライトは深く息を吐き、龍鈴の拘束された鎖へと剣を向けた。
――ガシャァン!!
硬い鎖が砕け散り、龍鈴の両腕が解き放たれる。
ライトは急いで駆け寄り、崩れそうな体を優しく抱きとめた。
「……遅くなって、ごめんな。龍鈴」
「いえ……ライトが来てくれると、私は信じていましたから……」
涙に濡れた瞳で微笑む龍鈴を、
ライトは震える腕で強く抱きしめるのだった。




