第五話 装備一新
簡単ですが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。
依頼を終えて数日。
初報酬を手にした三人は、浮かれながら街の武器屋へ向かっていた。
「お金が手に入って浮かれるのもいいが、次の依頼のためにまず装備を揃えるぞ」
ユージが手にした袋を掲げて言う。
「まあ、今回の金はユージの賭けで儲けたからな。まずはユージから装備を整えてくれ!」
ライトが胸を叩いた。
「え、いいのか?」
「大活躍のライトが言うんだもん! 異論はないよ!」
ノイスもにっこり。
「そうか! 助かるよ!」
ユージは頷き、店内の棚を物色し始めた。
「俺は二人より武器や道具を多く使うからな。これで戦術の幅も広げられる」
ユージがまず手に取ったのは――左腕に装着する小型クロスボウ。
「おっ、それカッコいいな! 弓はやめるのか?」
「リック村には弓しかなかっただけで、本当は得意じゃないんだ。
状態異常を乗せられる飛び道具なら何でもいい。小回りが利く方が俺向きだ」
「なるほどね~。ユージの戦い方には合ってるかも」
ノイスも感心したように頷く。
「そいつは威力はそこそこだが、十本まで自動装填できる代物だ」
武器屋の親父が得意げに説明する。
「しかも慣れりゃ左手だけで扱えるぞ。試すか?」
「ぜひ」
ユージは左腕に装着し、レバーを握る。
「なるほど……この引き金で――」
カチッ。矢が軽快に飛び出す。
「いいな。俺のスキルとも相性が良さそうだ。これに決めた!」
「毎度あり!」
⸻
「いいなー! 僕も新しい杖ほしい!」
ノイスが棚を見上げる。
「お、こっちの坊やは魔法使いかい。どんなのがいい?」
「うーん……重くないやつ!」
「……おい、ざっくりすぎだろ」ユージが苦笑する。
「なるほどな。杖はな、重さだけじゃなくサイズでも魔素の通りが変わるんだ」
親父が実演しながら説明する。
「小さい方が小回りが効くが、出力の高い魔法には不向きだ。 逆にでかい杖は魔素を溜めやすく、出力の高い魔法に向くが小回りが効かねぇし重い。基本的にはそうだが例外もあるし、杖じゃない魔法道具もあるぞ」
「杖ってそんなに奥が深いんだ……! 施設のやつしか使ってなかったから、知らなかったよ」
「なら慣れてるサイズで軽いやつがいいんじゃないか? これなんてどうだ」
親父が手渡したのは淡い木色の杖。
「それはこの地方じゃ珍しい“ココの木”で作った杖だ。軽くて丈夫、魔素の流れもいいぞ」
ノイスは手に取ってみる。
「今までのと同じくらいの大きさだけど、断然軽いよ!」
「試しに撃ってみるか? あそこに魔法吸収の的がある。出力は抑えてくれな!」
ノイスは構え、先端に魔素を集めた。
「《ファイヤーボール》!」
バフッ! 的に見事命中。
「お見事! 詠唱早いな、坊や!」
「うん!魔素の通りがいい! しかも使い心地はそんなに変わらない! ありがとうございます! これにします!」
「毎度あり!」
⸻
「よし! 次は俺だな!」
ライトが胸を張る。
「なんせ剣、折れちまったからな~。……おっ、この剣、なんか良さそう!」
ライトがやたら装飾の多い剣を持ち上げる。
「へへっ、いくぞ? 《光の剣》!!」
……何も起こらない。
「おおー……?」「あれー?」
二人が首を傾げる。
「おっかしいなー。さっき折れたロングソードなら出せたのにな」
「店のロングソードならどうだ?」ユージが差し出す。
「《光の剣》!!」
ピカァッ――!
ロングソードが光を帯びる。
「おおお! 光った!?」「ほんとに出た!」
「すげぇスキルだな! どんなスキルなんだ、あんちゃん!」
武器屋の親父が目を丸くした。
「あはは、実はよく分かってなくて……スキルは《自動回復》なんですけど」
ノイスが苦笑い。
「回復スキルで剣が光る、ってより折れた剣を《自動回復》させた感じか? ロングソードが体の一部みたいな……」
ユージが顎に手を当てる。
「さあな。……けど、ユージが言うならそうなんだろ。ロングソードならどれでも光るみたいだしな」
「そんな適当な……」
「まあライトは珍しいスキルだし、そういう派生があってもおかしくないかもな」
「へへっ、どうでもいいけど、ロングソードでしか出来ねえならロングソードでいいか!」
「面白ぇあんちゃんだ! ロングソードくらいならサービスしとくぜ!」
「おお、助かる!! サンキュー!」
「ライトは安上がりで助かるな」
「……なんだと!? ユージ!」
「褒めてんだよ!」
ユージは笑いながら、自分用に短剣も選ぶ。
「ライトの武器で浮いた分、近接用にこのダガーも買っちまおっと」
「毎度あり! 景気がいいねぇ、あんちゃんたち。また寄ってくれ!」
⸻
三人は武器屋を出て、防具屋へ向かった。
「次は防具だな!」
「武器はロングソード一本だったし、防具はカッコいいやつ選ぶぜ!」
ライトは目を輝かせながら店内を物色する。
「お前、防具いるのか? 《自動回復》あるんだから軽装の方が良さそうだけど」
ユージが確認する。
「怪我はしねぇに越したことねぇんだよ! 回復中は無防備だしな。まあ……見た目も大事だけど!」
「わかるよライト! 僕もローブがいいんだ! 魔法使いって感じがするから!」ノイスが賛同する。
「そんなんで大丈夫か? 機能面が一番大事に決まってるだろ」
「ユージはつまんないなぁ。 僕はこのローブなんかそれっぽくて気になるなあ」
ノイスはローブを手にする。
「ローブは防具だけど、攻撃を防ぐだけではないわ。魔素の補助が付いてるのよ」
防具屋の女性店員が教えてくれる。
「それに魔法使いは“イメージ力”が何より大事。自分が強いと思う属性や形で魔法はより冴えるのよ」
「そうだね。僕だと炎と氷が得意だな。イメージしやすいんだよね。魔法が武器の形なのも強いってイメージがあるからなんだ! 火力も上がる気がするし。」
「へぇ〜。 魔法も色々あるんだな……」
ライトは感心する。
「ライトが知らな過ぎるだけだよ。 施設にも魔法の本あったのに!」
「本見てると眠くなっちまうんだよ。」
「いつもそうやって逃げるんだから! こんなに楽しいのにな」
「魔法が好きかどうかも適正に関わってくるわ。何より自分の感覚も大事なの。だから、防具ひとつでも自分の感性を大事にした方がいいわよ」
「わかりました! これにします!」
ユージは軽鎧を手に取る。
「俺は動きやすさ重視だな」
と言いつつ、黒いマントのような外套も選んでいる。
「ユージこそ、好みで選んでるじゃねえか!」
「……いいだろ? 別に……」
少し照れくさそうなユージ。
――そして、三人はそれぞれの装備を整えた。
ライト「へへっ、いかにも“冒険者”って感じになったな!」
ユージ「……やっぱり、テンション上がるな」
ニヤニヤするユージ。
ノイス「どうかな? どうかな? 出来る魔法使いって感じする?」くるりと回るノイス。
「おう! イケてるぜ! ノイス!」
「えへへ! 良かった!!」
三人とも、顔を見合わせて笑った。
ユージ「……装備は揃ったけど、また金がなくなったな」
手の中の袋は、もうほとんど空。
「まあ、また依頼受けりゃいいだろ! なんでもこいだぜ!」
ライトが明るく笑う。
「とりあえず、集会所に行こっか」
ノイスが提案する。
「よし、次の依頼だ!」
三人は新しい装備を身にまとい、再び集会所へと向かった。
集会所の扉を開けると、ざわついていた冒険者たちの視線が一斉に集まる。
「おい、期待の新人達が来たぞ!」
「いやー、なんか他のやつとは違うと思ってたんだよな!」
ついこの間まで鼻で笑っていた冒険者たちが、今では手のひらを返したように三人を褒めちぎっていた。
「歓迎されるのは嬉しいけど……ちょっと複雑だね」
ノイスが苦笑いする。
「気にしないでいいさ」
周りに目もくれず、掲示板へ向かう。
三人は掲示板の前に立ち、依頼書を眺める。
「さて、どんな依頼があるかな?」
ライトがひとつひとつ確認する。
「たくさんあるな……迷うぞこれは」
「新しい装備も試したいし、どデカい依頼がいいな!」
「ライトはそればっかなんだから」
三人はわくわくしながら掲示板に張られた紙を見ていく。
「ええと……薬草採取、鉱石の採掘、薪割り、家具の移動……大量発生ネズミ型の退治……」
ノイスが順に読み上げる。
「思ったより地味なのも多いな」
「簡単な依頼や、カタドラ付近の仕事は報酬が安いからな」ユージが言う。
「お、魔族退治もあるぞ。洞窟に大量発生したコウモリ型の討伐!」
「うーん。洞窟の中だと装備や魔素灯の準備が必要だし、慣れてないと迷いそうだ。却下だな」
「やっぱ簡単なのがいいよー」ノイスが情けない声を上げる。
その時、ユージが一枚の依頼書に目を留めた。
「……少し遠いけど、この“沼地に生息するベルゼバエの複眼の調達”って依頼、どうだ?」
「ええと……報酬は複眼一枚で5ゴールド。その複眼の数だけ報酬を出す……?」
ノイスが読み上げる。
「一体で二つ取れれば、10ゴールドってところか。単価は高くないが、数を狩れば稼げるな」
ユージの目が輝く。
「ベルゼバエってなんだ?」
「見たことないけど、虫系の魔族だよー。リック村だと虫系はあまりいなかったもんね」
ノイスが説明する。
「ああ、虫系な。ワーム型とか昆虫型は倒したことあるけど、あいつら食えねぇしな」
「僕、虫系は気持ち悪くて苦手だなぁ……」
依頼書にはこう書かれていた。
ベルゼバエの複眼は光を当てると七色に輝く。
その複眼から作られるアクセサリーや器は富裕層に人気が高く、高値で取引される。
「なるほどな。カタドラは加工技術が進んでるな」
「――あ、冒険者レポートも出てる!」ノイスが指差す。
冒険者レポートにはこうあった。
ベルゼバエはやや大型のハエ型。
強いわけではないが、すばしっこく、群れで行動する。
束になって襲われると厄介。
なお、沼地はとにかく臭い。
「……危険度は低くそうだな。これにするか!」ユージが頷く。
「早く装備を試したいぜ!」
「すばしっこい魔族に魔法当てられるかなぁ……」
「ノイスは後ろで見てればいいさ! 俺がまとめてやっつけてやる!」
「後ろで見てたら臭いだけじゃん……ふうぇ、行きたくないよぉ!」
「ほら、行くぞ!」
「ま、待ってよ〜、二人とも〜!」
三人はそんな掛け合いをしながら、街を後にした。
目的地――湿地帯の沼地へと向かう。
――新たな依頼が、三人を待っていた。




