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第四十九話 龍鈴奪還作戦

ーーゲトラム・魔族殲滅軍の駐屯地。


分厚い城壁に囲まれた城塞都市の広間は、普段にないざわめきに包まれていた。


「龍型が……捕まったって本当か!?」

「嘘だろ……あの凶暴な龍型が、生きて捕縛されたなんて……」

「最近幹部になった仮面のカゲロウ様が仕留めたらしいぞ」

「さすが殲滅軍の幹部だ……!」


ざわめく兵士たちの中心にいたのは――

鎖で拘束された、美しくも威圧感を放つ金色の龍人。


その存在は、ただ“そこにいるだけ”で兵士たちを恐れさせた。


龍鈴は一切鳴き声も発さずに、ただ静かに――冷たくも悲しげな視線を返す。

その瞳に射抜かれ、兵士たちは思わず後ずさった。


――その時。


重々しい扉が軋む音と共に開き、

広間に重い声が響き渡った。


「……ほう。これが――龍型ですか」


「そ、総帥!!」


場の空気が一瞬で変わる。

誰もが背筋を伸ばし、緊張が広がった。

魔族殲滅軍総帥。魔族殲滅軍の代表。

総帥は威厳を纏いながら、ゆっくりと前へ歩む。


「カゲロウ君……相変わらず素晴らしい働きですね。

実にお見事です」


「……恐れ入ります、総帥」


総帥は龍鈴の目の前に立ち、兵たちの制止を片手で払いのける。


「下がっていなさい。この目で確かめてみたいのです」


懐から細身のナイフを取り出し、

龍鈴の腕を軽くなぞるだけで――


――スッ。


金色の鱗が割れ、淡い赤の血が流れ落ちた。


兵士たちが息を呑む。しかし龍鈴は一切、声を漏らさない。

怯えることも、痛がる素振りすら見せない。


総帥は興味深げにその傷口を見つめた。


「……表情ひとつ変えませんか。

怯えもせず、痛がりもしない。痛覚が鈍いのか……それとも――覚悟の問題か」


こぼれ落ちた血は瞬時に固まり、傷はみるみる塞がっていく。


「そしてなんという再生力。

普通の魔族とは、次元が違いますね。まさに規格外……」


カゲロウが静かに進み出る。


「総帥……この龍型は“人魔革命団”と関わりがある可能性が高いと思われます。以前にゲトラムの魔族を保管する檻を破壊した龍型がいました。おそらくこいつです」


「……人魔革命団、ですか。

人間と魔族の共存を掲げているくだらない集団ですね」

総帥の声色が変わり、口調は柔らかいが威圧感がある。

「魔族たちを解放し、ヒーロー気取り……」

総帥の声は氷のように冷たかった。


次の瞬間――

総帥の手が素早く伸び、龍鈴の細い首を掴み上げる。


ギュッ……!


広間に生々しい音が響く。


「人間がどれだけ魔族に奪われ虐げられ続けてきたと思っている……!?

それを忘れて共存だと? 笑わせないでください」


鎖が千切れそうなくらい龍鈴の身体が持ち上げられ、影が床に落ちる。


だが――彼女は抵抗しない。


苦痛に顔を歪めながらも、

その翠色の瞳だけは、真っ直ぐ総帥を見返していた。


怯えではない。敵意でもない。

ただ――悲しみと、揺るぎない意志。


それを見た兵士たちは、誰ひとり言葉を発せられなかった。

静まり返る視線に総帥はふいに我に返ったように手を緩めた。


「おっと……いけないいけない。つい感情的になってしまいましたよ。

龍型に討たれた者たちのことを思うとつい……」


優しい声色なのに、底知れない寒気を帯びた笑み。

そのまま龍鈴を鎖ごと床へ放り捨てた。


ガシャァン!


「――地下の研究室に入れておきなさい。

徹底的に“調べる”必要がありますから」

総帥はニヤリと笑い、それに兵士たちは震え、即座に従った。



ーーゲトラム・魔族殲滅軍本部・地下研究室。


湿った空気が満ち、滴る水音と鎖の軋みが響く薄闇の牢獄。

龍鈴は両腕を高く吊られ、服の下から覗く傷跡には血が滲んでいた。


深い傷は塞がり、また切り裂かれ、それでも再び塞がり――

何度も繰り返された暴力の痕跡が刻まれている。


「どれだけ斬っても……すぐに塞がる……!

なんだ、この再生力……信じられない!」


「怪物め……! しかし、少しの反応もないぞ。不気味過ぎる……!」


兵士たちが怯えの混じった声で囁く。

その足元で、赤黒い血の染みが静かに広がる。


それでも龍鈴の瞳は揺れなかった。

痛みを訴えることも、怯えることもなく――ただ前を見据えている。


やがて、重い扉が開いた。


「……実に興味深い」


松明の炎を背に、総帥が姿を現す。


「痛みに顔色ひとつ変えない。

恐怖も、憎しみも……感情の欠片すら見せない。

さて……本当に“心”があるのですかね?」


顎を掴まれ、無理やり顔を上向かされる。


「何を見ている?何を言いたい?私たちを恨んでいるのか?拘束を解けば暴れるのか……

それとも……君には意思など存在しないのか?」


だが、龍鈴の瞳に宿っていたのは

怯えでも憎しみでもなかった。


燃えるように澄んだ――揺るぎない意志。


総帥の眉がわずかに動く。


「……その気持ちの悪い目は、何だ?」


龍鈴は静かに目を閉じ、胸の奥で祈るように呟く。


――(ライト……それでも私は信じています。

必ず、人と魔族が手を取り合える日が来ると)


身体は傷に溺れ、血に濡れ、鎖に縛られようとも。

その魂だけは――消えず、折れず、揺らがなかった。

例えどんな地獄の底に落とされても。



ーーゲトラム郊外・古びた地下室。


湿った石壁にランプの光が揺れ、影が震えていた。

ライトは、その薄暗い空間で聖剣の灯火の仲間たちと向かい合う。


「……やはり来ましたか、ライトさん」


ナタリアが静かに言った。


「ああ。龍鈴が攫われた。

早速で悪いが居場所を知ってるなら、教えてくれ」


焦りと怒りを隠せない声。

ランプの炎がぐらりと揺れ、部屋の空気が張り詰めた。


「捕らえられた龍鈴様は……魔族殲滅軍の本部。

ゲトラム中心部の城砦にいます」


別の仲間が口を開く。


「地下牢のさらに奥、“研究所”と呼ばれる区域です。

魔族を閉じ込める厳重な檻と解剖が行われる場所で……」


ライトの拳が震える。


「……ッ!」


もう一人が言葉を続けた。


「あそこは厳重に管理されてます。軍の幹部たちだけでなく……常に“総帥”の影があります。

あの総帥だけは底が知れません」


「総帥……そいつがボスか。

……なるべく早く救いたいんだ。どうすればいい?」


「総帥との接触だけは避けてください。危険すぎます。

“聖剣の灯火″の仲間が軍に潜入していますので……

せめて総帥が不在の時を狙ってください」


「……くそっ。わかった」


ナタリアが真剣な眼差しで見つめてくる。


「龍鈴様とライト様は……人魔革命団の希望です。

どうか必ず……生きてお戻りください」


ライトは、ゆっくりと頷いた。


「……ああ。 必ず、龍鈴を連れて帰る」


聖剣の灯火の手を借り、総帥が席を外していることを確認したライトは、一瞬の迷いもなく夜のゲトラムへ――

魔族殲滅軍の城砦へと向かっていった。



ーー魔族殲滅軍の牙城。


潜入の決意を胸に、ライトは大きい布に身を包み、夜のゲトラムへと踏み込んだ。

城砦の上空を冷たい風が吹き抜ける。


街全体は静寂に沈んでいる。

だが、その中心にそびえる魔族殲滅軍本部だけが――

獣の喉奥のような、重く不穏な気配を放っていた。


「……ここだな」


月光を背に、《光の翼》がゆるやかに広がる。

ライトは屋根から屋根へと滑るように飛び移り、

やがて城壁の深い影に降り立った。


巡回兵の足音が近づく。


ライトは壁に背を預け、息を潜める――

足音が通り過ぎる瞬間、影へと身を滑らせた。


ーーシュッ。


《光の翼》は淡く消え、

ライトは闇に溶けるように姿を隠した。


(……龍鈴、待ってろ。必ず助け出してやるからな)


城砦の裏手へ進むと、地下牢へ続く鉄扉があった。

「聖剣の灯火が言ってたのはきっとここだな。ここまでのルートも完璧だ……さすが、聖剣の灯火」

ライトは音を立てないよう、そっと押し開く。


ーーギィィ……。


湿った冷気が流れ出し、

奥から建物が軋む音が聞こえてくる。


「……ここにいるのか?龍鈴」


一歩、足を踏み入れた――その瞬間。


「侵入者だ!!」


警備兵の怒号が石壁に反響し、

松明の炎が揺らぐ。

剣と槍を構えた兵士たちが一斉に押し寄せる。


「チッ……! やっぱり見つかるか!」


突き出される槍――

ライトは手に光が集まり、それは盾の形へと形成していく。


「《光の盾》!」


――バシュウッ!!


光が凝縮し、巨大な盾が生まれる。

突撃してきた兵士たちは弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。


「すまねぇ……構ってる暇はねぇんだ!」


「ぐはっ!」「なんだ、この力は!龍型なのか?」「か、カゲロウ様に知らせなければ!」


ライトは盾で弾くだけに留め、殺さぬようなるべく怪我をさせないように最小限で突破していく。


一人の兵士が幹部室に報告にきていた。

「カゲロウ様! りゅ、龍型が現れました!!」


「……なに? さっそく助けに来たということか。

俺が直接向かう! アヤたちにも知らせろ!」


カゲロウは黒い外套を翻し、侵入者の元へ向けて走り出した。


ーー地下牢の奥。


冷たい石壁に反響する鎖の軋み――

ライトは《光の盾》を構え、兵士たちを弾き飛ばしながら駆け抜けていく。


「龍鈴……どこだ……どこなんだ!」


焦燥を押し殺し進んだその先――

通路の影が集まり、ふいに人の形を取った。


「……随分と派手に暴れてくれるな」

黒い影が、静かに立ちはだかる。

鉄のように冷たい声。

漆黒の外套を揺らし、仮面がこちらを見据えた。


「俺の名は――カゲロウ。 魔族殲滅軍の幹部だ」


その姿を見た瞬間、ライトの拳が震える。


「カゲロウ……?

その黒い仮面……バッテンが言ってたやつだな……お前が龍鈴を攫ったんだな!」


《光の翼》が広がり、盾は剣へと変わり眩い光を帯びる。


「……この龍型はしゃべるのか!?魔族が言葉を発するなど――」


その姿を見たカゲロウは、思わず息を呑んだ。

体は布に包まれているが、龍型の尻尾がはみ出している。

布から出た両腕は龍型の鱗に覆われている。

しかし――

(今の声……それに《光の翼》と《光の剣》まさか……ライト!?

いや……ライトは死んだはず……。ならこいつは……何だ……?どういうことだ……?)

動揺が、仮面の奥の瞳に一瞬だけ走る。


「そこを退け!

俺は――仲間を連れて帰るだけだ!!」


「……仲間だと?」


その言葉は、カゲロウの心に深く刺さった。


(仲間……?ライトの仲間は俺とノイスだ。

捕えたあの龍型を……“仲間”と呼ぶ……やはりライトではないのか……?)


だが表情を読ませまいと、すぐに声の温度を凍らせる。


「……悪いが、ここから先は行かせん」


光と影。

正反対の力を持つ二人が、狭い通路で向かい合う。


ーーライトとカゲロウの初めての対峙。


互いの運命を、大きく揺さぶる戦いの幕が――

今、静かに上がろうとしていた。

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