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第四十八話 攫われた姫

簡単ではありますが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。

ーー龍族の集落・人魔革命団の拠点。


長い遠征を終え、ライトたちが拠点へ戻ってきた。


「ただいま戻ったぜ! 聞いてくれ!龍鈴!

ベラニカでの戦争を止めたぞ!」


リュウガとドサイも続くが、拠点は明らかに違った雰囲気になっていた。

そして、本来真っ先に出迎えるであろう龍鈴の姿が、どこにも見当たらなかった。


代わりにそこにいたのは――

地面に倒れ伏し、血に濡れたバッテンの姿だった。


「バッテン!? おい、大丈夫か!!」


ライトが駆け寄ると、バッテンは力なく手を伸ばした。


「……ラ、ライト……すまねぇ……俺が……守りきれなかった……」


「何があった! 龍鈴はどこだ!?」


バッテンは呼吸を荒げ、震える脚で外を指し示す。


「……人間だ……仮面の男が来やがった……。

龍鈴様は……みんなを守るために……ひとりで……」


「……龍鈴……!」

ライトは怒りに歯を噛みしめ、拳が震えた。


周囲の団員たちがざわつく。


「……人間共か。今すぐ斬り殺してやる」

リュウガが一歩踏み出すが、ドサイが巨大な腕で制した。


「待て! ここで人間を襲ったら、龍鈴の理想は水の泡になる!」


バッテンは意識が途切れゆく中、最後の力で言葉を絞り出した。

「……龍鈴は……連れ去られる時に……言ってたんだ……

『私は大丈夫です……人間と魔族が分かり合うために、少し行ってきます』……って……」


その一言を残し、バッテンはぐったりと気を失った。


「クソッ……!

言葉も通じねぇ龍族が人間の街に連れていかれたら……どうなるかなんて……!」


ライトが地面を叩くほどの焦燥を露わにすると、リュウガが吠える。

「こうしてはいられん! 今すぐ龍鈴様の元へ行くぞ!!」


「……待て。リュウガ! ここは俺一人で行かせてくれ!」


「バカな……貴様ひとりに任せられるわけが――」


「俺らには、龍鈴が必要だ。

だからこそ慎重に動く必要があるんだ!」


ライトは振り返り、真っ直ぐに皆を見据える。


「リュウガが行けば、“龍族が救出に来た”って人間に警戒される。そうなれば龍鈴の身はもっと危険になる。

……けど俺なら、人間の街に潜り込んで、誰にも気づかれずに接近出来る!」


場に沈黙が走る。


やがて、リュウガは低く呟いた。

「……龍鈴様に何かあれば……貴様を血祭りにあげるからな」


「ああ……必ず連れ戻す」

ライトは短く応え、走り出す。


背に、仲間たちの重い視線と、託された希望を背負いながら。

南へ――。

龍鈴を取り戻すための、孤独な旅が始まった。


――そして、物語は静かに遡る。



ーー二日前。龍族の集落。


冷たい風が吹き抜ける谷間を、仮面の男――カゲロウが進んでいた。

「……この地に来るのは久しぶりだ。ぐぬ、古傷が……疼く」

仮面の縁に手を触れたその時、横から小さな声が飛ぶ。


「だ、大丈夫……? ユージ」

アヤが心配そうに覗き込む。


「その名で呼ぶなと言っているだろう! 何度言えばわかる!」


「ごめ……いえ、申し訳ありません」

そのやり取りを、魔族殲滅軍の制服を着用した斧を担いだ女戦士が呆れたように後方から見ていた。


「はぁ……こんな仮面の辛気くさい奴と遠征とか、まったく気が滅入るぜ」


「……なんだと、グレンダ」

仮面越しに鋭い視線が向けられるが、グレンダは鼻を鳴らす。


隣に同じく魔族殲滅軍の制服を着用する魔法使い――アリスもぼそりと毒を吐く。

「……アヤちゃんは、これのどこがいいのか……理解できない……」


「ちょ、ちょっと! アリスまでそんな事言わないでよ!」

慌てるアヤをよそに、カゲロウは胸を張った。

「俺はお前たちの上官だ。口を慎め」


「はいはい、わっかりました。上官様の“ご立派な命令”ね」

面倒くさそうにそっぽを向くグレンダ。


アリスは聞こえるように小声で呟いた。

「……パワハラ……」


「だから二人ともやめてってば!!」

アヤの言葉が虚しく響いた。


「まったく……緊張感のない奴らだ。

これから死地へ向かうというのに……」

 

一人の魔族殲滅軍兵士が口を挟む。

「先に見える火山が龍型の拠点……ですよね? 本当に……大丈夫なんでしょうか……?」

緊張で震える声に、カゲロウの返答は冷たかった。


「決して油断するな。これは命懸けの任務だ。

龍型はただの魔族ではない。殺すか、殺されるか……そのどちらかになる……」


その言葉に、前を歩く三人の表情が一瞬曇った。


「……ここでライトは……死んだんだよな」

グレンダの呟きは、わずかに震えていた。


「グレンダ……」

アヤが反応する。

 

「ノイスも……戻ってくるって言ったのに……」

アリスの声は、風にかき消されそうなほど小さい。


だが次の瞬間、グレンダは涙を振り払うように前を見た。

「……だからこそ、今度は私たちがやる。

龍型なんかに負けてたまるか……!」

アヤが続く。

「そうよ……カゲロウ様のためにも!無念を晴らすの」


「ふん……勝手にしろ」

仮面の奥から漏れる冷淡な声が、隊の空気をさらに張り詰めさせる。


ふと、カゲロウが立ち止まった。

「……以前よりさらに静かだな」


グレンダも周囲を見渡す。

「本当にここが龍型の巣なのか? わかんねえけど……それにしては気配が薄い気がするな」


「いや、間違いない。間違うはずもない。

ここに奴らはいた……あの“黒き龍”もな」

仮面の下で奥歯を噛みしめる音がした。


その時――。


「……待って。何かの気配がする!」

アヤが声を張り、全員が武器を構えた。


岩陰から、小さな影が飛び出す。

「……龍型か? なんか弱そうじゃねえか」

その小さい龍型はパタパタと走り回っている。

 

「待て……。以前も小さい龍型がいた。しかし、倒したところで大型に襲われた。もしかしたら囮のようなものかもしれん。

しかし、憎き龍型であることに変わりはない。やれ!」


アリスがフルートを構え、魔素を注ぐ。


「(フルートの音色)……《サンダースパロー》!」

雷光の雀が一直線に飛ぶ――その瞬間。


キィィィィン――!


黄金の光が弾け、子龍の前に防壁が展開された。


「なっ……防いだ!? 今のは……?」

驚くカゲロウ。

 

そして、光の向こうから現れたのは――

金色の鱗を纏った、龍と人の姿を併せ持つ存在。

凛と立つその姿は、威厳と気高さをまとっていた。


カゲロウは低く呟く。

「なんだあれは?……全員、警戒しろ!」


魔族殲滅軍の兵たちが一斉に武器を構えた。


だが、黄金の鱗を持つ龍人は――

子龍を逃した後、バリアのようなものを展開しながら、

攻撃の気配を一切見せず、ただ静かにこちらへ歩み寄ってくる。


「……おかしいな。敵意を全く感じねーぞ」

グレンダが斧を構えたまま眉をひそめる。


「こちらを……試しているのかもしれないわ」

アヤもまた、龍人の視線に圧を感じていた。


張り詰めた空気の中、

砂を踏む龍人の足音だけが、やけに響く。


やがて黄金の龍人は攻撃もせず、

両手を高く上げ、ゆっくりと前に進んでくる。


まるで――

『戦う意思はない』

と告げているかのように。


「……襲ってこない……だと?」

グレンダが戸惑いの声を漏らす。


「何かを伝えようとしている……のかしら?」

アヤもまた、龍人の仕草に違和感を覚えていた。


龍人はただただ視線と動きで――必死に何かを訴えかけているようにも見える。


だが。


「……何を企んでいるんだ。まあいい。龍型は皆殺しだ!」

カゲロウが怒鳴り、影を地面に落とした。


《影囲い》――漆黒の影が巨大化し、

龍人の張った光のバリアを包み込む。


――バリイィィインッ!!


耳を裂く破砕音とともに、黄金の防壁が砕け散った。


「まあいいさ! 悪いが、倒させてもらうぜ!」

グレンダが斧を振り上げた――その瞬間。


ドゴォッ!!


横合いから黒い影が飛び込み、

グレンダの腹に鋭い頭突きを叩き込む。


「ぐはっ……!? な、何だコイツ!」


倒れ込むグレンダの視界に映ったのは――

頭に古いバッテンの傷跡を持つ、小柄な魔獣。


「パ、パキラ……!? ここは龍型の巣よ!どうしてこんな所に!」

アヤが目を見開く。


カゲロウも、見覚えのあるその姿に瞳を細めた。

「……待て。そいつは……ライトの……!?」


そう――

ライトのパキラ、バッテンだった。


パキラは龍人の前へと飛び出し、

その小さな体で龍人を庇うように立ち塞がる。


鋭い眼光で魔族殲滅軍を睨み、低く唸り声を響かせた。


「……どういうことだ……?」

カゲロウが低く呟く。


「な、なんだって……!?ライトのパキラだと……!?

なんでこんな所に……!」

グレンダも驚愕する。


そして、必死に立ち塞がるパキラの頭に、龍人がそっと手を伸ばす――

威嚇するパキラを宥めるように、優しく撫でた。


「……不思議。龍型が……弱い魔獣のパキラを撫でてるなんて」

アリスが息をのむ。


「まるで……仲間みたい……」

アヤの声も震えていた。


その様子を見つめながら――

カゲロウの瞳が鋭さを増していく。


「……そうか、そういうことか。わかったぞ。

龍型には“特殊な個体”がいるんだ。“黒い龍”も、龍型ではありえない闇の剣を出現させる術を使っていた」

一人で納得したかのように頷くカゲロウ。


「この金の龍型も同じく少し人間に近い造形をしている。何らかの特殊な術を使うとみて間違いないだろう」


「魔族が術を使うなんて!?」

アヤが目を見開く。


「つまりこいつは、魔族を操る術を使うんだ。

そして、ライトのパキラを操り、ゲトラムに侵入した」


「じゃあ、この間のゲトラムに現れた龍型っていうのは……」

アヤが聞き返す。

 

「目撃情報には輝く翼で飛んでいったともあった。こいつは金色の龍型だ。翼も金色。

こいつが“ライトの名を使って侵入した龍型”に違いない!!」

仮面の奥に宿った光は、もはや“敵”を見る目だった。


「カゲロウ様!! さらに龍型が近付いて来ます!」

ゆっくりと歩み寄ってくる龍人。


カゲロウの仮面がギラリと光る。

「……ようやく掴んだぞ。“ライトの影”……!

全軍戦闘態勢!あの龍型を捕えろ!!」


魔族殲滅軍の兵士たちが一斉に駆け出した。

剣が抜かれ、弓に矢が番えられ、殺意の渦が龍人を包む。


だが――


黄金の龍人は反抗するでもなく、

ただ静かに両手を広げた。


眩い光がほとばしり、半球状のバリアが展開される。

兵士たちの攻撃はすべて弾き返された。


「な、なんだこの力は!? 斬れねぇ!」

「化け物め……!」


「何をしている!」

カゲロウが怒声を上げる。


「……やるしかないのね! 《対魔手裏剣・爆》!」

アヤが印を結び、爆ぜる手裏剣を投げ放つ。


バグゥッ!!


だがライトのパキラが飛び出し、その身で受け止めた。


「……っ、パキラが身を挺して!」


「(フルートの音色)……《ファイヤーキャット》!」

アリスが魔法を放つ。


ボゥッ!!


地を蹴った炎の獣が龍人へ襲いかかる――

しかしもう一体のパキラが飛び出し、炎を全身に浴びて倒れ込んだ。

「クウェッ」

黒煙が立ちのぼる中、パキラは倒れる。


グレンダが斧を握りしめて呟く。

「……なんて顔してやがる。

まるで、泣きそうじゃねぇか……」


黄金の龍人は、

苦しむパキラたち2体を見て震えていた。


そして――

ゆっくりと、自らバリアを解いた。


「……バリアを、解いた……?」

兵士たちが息を呑む。


龍人は逃げもせず、

ただ一歩、また一歩と前へ進む。


カゲロウの前へ――。


「……俺たちを舐めているのか!?

それとも何かの術なのか!!」


影が地面を走り、大鎌の形を成す。


「――《影裂き》ッ!!」


――ザシュッ!!


鋭い影の刃が龍人の肩を裂き、

黄金の鱗が赤い血に染まった。


それでも龍人は怯まず、

静かに、まっすぐに歩き続け――

その手を、前に突き出した。


「や、やめろ!! うわぁ!」

突き出された手に驚き、顔を手で覆うが、何も起こらず、カゲロウの拍子抜けた声だけが響く。

 

龍人はカゲロウに両手をただ差し出している様子だった。

「……大人しく捕まるって事なのか……?」

兵士たちがざわめく。


「バカを言うな!! 龍型はそんな事をしない!」


影が足元に広がり、

無数の鎖のようにうねり始める。


「――《影捕縛》!」


漆黒の影の鎖が黄金の龍人の四肢を絡め取った。

ギリギリと締め上げるが――


龍人は、抵抗しない。悲鳴も上げない。

ただ涙を零しながら、静かに縛られていった。


「龍型をついに捕まえたぞ……ふはははは!」

影の鎖がギリリと音を立てて食い込む。

アヤが震える声で叫ぶ。

「カゲロウ様……そこまでしなくても……!」


グレンダも斧を下ろし、険しい顔で言う。

「……おい、抵抗してねえんだ。やめろよ……」


アリスは苦しげに唇を噛んだまま沈黙していた。


だがカゲロウは、仮面の奥で怒りを燃やしていた。

「黙れ! こいつは龍型だ。何するかわからん!」


その時――

ライトのパキラが、縛られた龍人へと駆け寄り、横に並び立つ。

そして、何かを伝えようと深い瞳でカゲロウを見上げる。


その視線が、カゲロウの神経を逆撫でする。


「……そんな目で俺を見るなッ!」

パキラを蹴り飛ばすカゲロウ。

「ックウェ」

しかし、また立ち上がり、龍人へと近寄る。

「ライトのパキラの癖して、こんな龍型に従うな!」

怒声と共に、ライトのパキラへ影が襲いかかる。


――ガシィッ!!


横から伸びた斧が、カゲロウの影を止めた。


「……やり過ぎだ、カゲロウ。パキラにまで手だすな」

それはグレンダだった。


「何……? 貴様、上官に歯向かうつもりか?」


「もう目的は果たしただろ。龍型を捕えた。

……さっさとずらかろうぜ。ここに長居すりゃロクなことにならねぇ。そんな気がする」


重たい沈黙が落ちる。


アリスもアヤも、複雑な表情でただ見ているしかなかった。


カゲロウはしばらく睨みつけていたが――

舌打ちをし、渋々手を引いた。


「まあ、いいだろう……前回の龍型討伐の事を考えたら龍型を捕えるなぞ奇跡に等しい。

以前のような戦いになれば、俺はともかく軍は無事では済まないだろう。そうなれば、総帥に申し訳が立たない」

そう言い放ち、魔族殲滅軍は帰路につく。

 

黄金の龍人は影の鎖で縛られたまま、

パキラたちの悲痛な鳴き声に包まれながら連れ去られていった。


荒涼とした火山地帯を後にし、

魔族殲滅軍はゲトラム――その本拠地へと戻っていくのであった。


挿絵(By みてみん)

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