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第四十七話 三方の魔王

挿絵(By みてみん)

ーー旧魔王の居城・黒鉄の城砦。


玉座には白き巨体――西魔王・白虎が悠然と座していた。

黄金の双眸が細められ、重々しい声が広間を震わせる。


「……モウガにバゾウまでが……敗れただと?」


ひれ伏す獣族兵が震えながら答える。


「は、はい……ベラニカにて、“人魔革命団”なる者どもに討たれ……軍はやむなく撤退を……!」


――ドゴォォォン!!


白虎の爪が玉座脇の石床を叩き割った。

分厚い黒鉄の床が粉々に砕け、広間に冷気すら走る。


「人魔革命団……? フン……あの“クソ魔王”の小娘が旗振り役だと聞く。くだらん幻想を……!」


魔族たちは息を呑み、誰一人として顔を上げられない。


その中で、艶やかな女豹獣人・ジャスミナだけが一歩進み出た。


「白虎様……ご心配には及びません。所詮は寄せ集めの烏合の衆。長くは持ちませんわ」


隣で猫獣人のニャルカが尻尾を揺らしながら鼻を鳴らす。


「やられたモウガもバゾウも、魔昌核すら使いこなせない半端者にゃ。やられたのは当然にゃー」


白虎はゆっくり立ち上がり、牙を剥き出しにして唸った。


「……やはり、この俺が直接出ねば終わらぬか」


その瞬間、白虎の身体がわずかに傾き、脇腹を押さえる。

そこには深々と走る大きな傷――青龍との死闘で刻まれた傷跡があった。


ジャスミナが思わず叫ぶ。

「白虎様……!」


ニャルカも顔を青くして駆け寄る。

「む、無理しちゃだめにゃ! その傷、まだ完治してないにゃ……!」


白虎は怒気を含んだ声で唸った。

「……青龍め……大人しく殺されていればいいものを……!」

 

牙を軋ませながら、白虎は玉座に拳を叩きつけた。

「ジャスミナ! お前はあの軽薄な朱雀のもとへ向かい、人間領への侵攻を促せ!」


ジャスミナは片膝をつき、恭しく頭を垂れる。

「かしこまりました……必ずや朱雀様を動かしてまいります」


白虎は続けて怒鳴る。

「ニャルカ!! お前は玄武の居城へ行け!

あの腰の重い老獣を引きずり出し、戦場に立たせろ!!」


「えぇえぇぇ!? 北の地は寒いし、空気は重いし、臭いし嫌にゃ!でも……でも白虎様の命令なら仕方ないにゃ……!」


白虎は再び拳を握りしめ、低い咆哮を漏らした。


「黄龍の娘……あの忌々しい小娘ごと――

“人魔革命団”をまとめて叩き潰す……!!」


広間に満ちる殺気は、まるで城砦そのものを軋ませるほどだった。



ーー南方の島・紅蓮宮。


灼熱の大地にそびえる紅の宮殿。

その中心、広間で南魔王・朱雀は黄金の盃を弄びながら、

侍る女たちを気だるげに眺めていた。


「……ふん、今日も退屈だな。

もっと僕を楽しませる遊びはないのか?」


扇情的な赤い羽根を揺らし、朱雀は笑う。

その時、広間の空気が変わった。


ジャスミナが、軽やかだが隙のない足取りで進み出た。

豹の耳と尾が揺れ、炎の光がその肢体を艶やかに照らす。


「失礼いたします……南魔王・朱雀様」


「ほぅ。珍しい客人だね。白虎君のところの女豹じゃないか……ええと、名前は……」


わざとらしく彼女の体を舐めるように視線が滑り落ちる。


「ジャスミナと申します。白虎様の命により、参上いたしました」


「あはは……君が僕への“貢ぎ物”ってわけかい?」


「恐れながら。私は貢ぎ物ではございません。

白虎様のご意志をお伝えしに参りました」


「はぁ……つまらないね」

朱雀は肩をすくめる。


ジャスミナは眉一つ動かさず、静かに言葉を続けた。

「これは白虎様の重き命にございます。

冗談では済まされぬ話にございます」


「ふん……そう。で、要件は?」

退屈そうに足を組む朱雀。

 

「白虎様は、朱雀様のお力を求めておられます。

今、魔王の娘・龍鈴が“人魔革命団”を名乗り、

人間と魔族の共存を掲げて活動を始めました」


「……ああ。黄龍のところの、かわい子ちゃんか。

人魔革命団ねぇ……中々に面白いじゃないか」


「しかし彼らは、人間侵攻の障害となり得る存在。

白虎様は、朱雀様にも共に“討伐”をと……」


朱雀は薄く笑った。

「ええと、ジャスミナ……だったね。

君が今夜、僕の相手をしてくれるなら――考えてあげてもいいよ?」


ジャスミナはためらわず衣の紐に手をかける。

「協力くださるのなら……どうとでも」


朱雀はため息をつき、盃を指で弾いた。

「はぁ……ほんと、君ってつまらないね。

忠義一辺倒で、色気も遊び心もない。……興醒めだよ」


目元は笑っているが、双眸は猛禽そのものの鋭さだった。

  

「まあいいさ。

人魔革命団――黄龍の娘が旗を振ってるんだろう?

そっちと遊ぶ方が、よっぽど面白そうじゃないか」


ジャスミナは深く一礼する。

「……では、協力いただけると受け取ってよろしいのですね?」


朱雀は唇を吊り上げて笑った。


「協力、ねぇ……

“前向きに検討中”とでも、白虎君には伝えておきなよ」


「それは具体的に、どのような――」


朱雀の瞳が細められ、空気が一瞬で凍りつく。


「僕がそう言っといてと言ったんだ。

なら、そう伝えなよ。

――それとも、ここで消されたいのかい?」


ジャスミナは息を呑み、言葉を失う。


朱雀は再び盃を傾け、赤い羽根を揺らしながらつぶやいた。

「退屈は嫌いでね。龍鈴……黄龍の娘。

……なんだか欲しくなってきちゃったな」


朱雀との対面を終え、ジャスミナは広間を静かに後にした。


 

ーー北方の地・氷海の果て。


吹き荒れる氷雪を切り裂くように、巨大な氷壁がそびえていた。

その内部――氷の海に浮かぶ城砦には、魔道具や古文書、魔素を封じ込めた瓶がずらりと並ぶ研究室がある。

その研究室で、巨甲を背負う大魔族が黙々と作業を続けていた。


北魔王・玄武。


深海を思わせる瞳は静謐。

その周囲の空気すら凍りつかせるような威圧感をまとっていた。


そこへ――。


「おーい! 玄武のジジイ!!」


氷の床に軽快な足音を響かせ、

猫耳をぴょこぴょこ揺らしながらニャルカが堂々と進み出た。


「西魔王・白虎様の命令で来てやったにゃ!

ありがたく思うにゃ!」


玄武は一瞬だけまぶたを上げ、深く低い声を落とす。

「……騒がしい。何の用だ」


声が響いた瞬間、氷の城砦全体が“うなり”を上げたように震えた。


ニャルカは怯むどころか、尻尾をふりふりさせながら叫ぶ。


「“人魔革命団”とかいう連中が出てきたせいで、

人間どもが調子に乗ってるにゃ!

白虎様はもう殲滅する気満々にゃ!

だからアンタもとっとと腰を上げて協力するにゃ!」


玄武は瞼を細め、長い吐息を吐いた。

その吐息さえも白煙となり、空気が凍りつく。


「……人魔革命団? なんだ、それは」


「こんなところに引き篭ってるからわからないにゃ。

魔王の娘、龍鈴が作った寄せ集めの団体にゃ!

人間と魔族の共存なんて、寝言をほざく頭の沸いた奴らにゃ!」


玄武の瞳の奥がわずかに揺れる。


「……あの黄龍のところの生娘か。

お前たちでどうにかせい。

どうせ人間との対話など成立せん。

共存など――不可能だ」


「それがにゃ!

人魔革命団には“人間なのに魔素疎通を使えて、龍族の翼が生えてるイカれた奴”がいるらしいにゃ!」


玄武の目が、わずかに――ほんのわずかに細められた。


「……ほう?」


深海の底に光が差したような、重々しい興味の色。


「それは人間のスキルの進化か……

あるいは新たな魔族の誕生か……

……興味深いな」


「そんなのどうでもいいにゃ!!」


「……いや、気になる。よかろう。

人魔革命団とやら――

私が接触してみるとしよう」


「お! なんか空気が変わったにゃ……!

まあいいにゃ!そういう事だから、せいぜい適当に潰しといてくれにゃ!」


ぶつぶつ文句を言いながら、ニャルカはそそくさと退室していった。

「あーあ!寒くて敵わないにゃ」

 

静寂が戻る。


玄武は巨大な甲羅を揺らし、ゆっくりと目を閉じた。


「……かつて絶大な力を誇った黄龍。

その死を境に、力の均衡は崩れ始めている。

若き虎に、この時代は背負えまい」


氷室に響くのは、地の底のような重い声。


「そして――この変革の時に現れた魔素疎通を使うという人間。いや、龍族なのか……」


深く、瞑想するように呟く。


「……時代が、変わろうとしているのかもしれんな」


――孤高の研究者である魔王・玄武は、手を止めることなく、迫りくる変革の気配を静かに受け止めていた。



ーー龍族の集落・人魔革命団の拠点。


「……ライト……早く戻ってきてくれ……!」


バッテンは全身に傷を負いながらも、よろめく足で立ち続けていた。

その瞳には、信じる者の帰りを待つ焦りと不安が滲んでいる。


人魔革命団は、今まさに窮地に立たされていた。

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