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第四十六話 守るための力

モウガ将軍の魔昌核暴走から、白虎軍の獣族兵は再びベラニカへの侵攻を開始した。


戦場は、もはや混沌そのものだった。


白虎軍の獣族兵たちが雄叫びを上げて突撃し、

ベラニカ兵は必死に応戦する。


矢も魔法も無差別に飛び交い、

白虎軍と人魔革命団と人間の境界はとうに崩れ、乱戦状態となっていた。


「やめろ!! 戦う必要なんてないんだ!!

お互い退いてくれ!!」


《光の翼》を広げ、上空から必死に声を張り上げるライト。

だが――


ヒュンッ!


矢が容赦なく放たれ、翼をかすめて通り抜けていく。

「黙れ! 魔族とつるむ奴など信用できるか!!」

ベラニカ兵は、白虎軍だろうが人魔革命団だろうが関係なしに攻撃を浴びせてくる。

 

「人間に下った裏切り者め! 殺せッ!!」

一方白虎軍も、間に入る人魔革命団ごとベラニカ兵を襲う。


怒号が飛び交い、

誰も彼の声に耳を貸そうとはしなかった。


そして、人魔革命団は、両陣営から攻撃を受け始める。


「ちくしょう……!

このままだと被害が増えるだけだ!」


拳を握りしめ、地面へと降り立つライト。


その瞬間――


ドガァァンッ!!


暴走したモウガとバゾウの魔素が爆ぜ、

戦場全体が地響きと衝撃に包まれる。


遠くで、ドサイとリュウガが必死に暴走を押さえ込んでいた。


「あっちはドサイとリュウガがなんとかしてくれる……

俺はここで被害を抑えるんだ!!」


だがその想いとは裏腹に、

戦いはさらに激しさを増すばかりだった。

 

「このベラニカから出ていけ、化け物ども!!」

「人間共、皆殺しにしてやる!!」

両軍の叫びが飛び交い、混乱はさらに加速していく。


「や、やめろ……近づくな!」

「死ねぇ!!」

ベラニカ兵の悲鳴が上がり、一人が倒れる。


「よし!囲んだぞ!!」

「……くそっ! 助けてくれ!!ぐわ!」

今度は白虎兵の獣族兵が絶望の声を上げるが、槍で串刺しにされる。


その一つひとつの声が、

ライトの耳にはっきりと届いてしまう。

怯え、憎しみ、痛み、そして“生きたい”という必死の叫び。

 

ライトは目を見開き、愕然と呟いた。

「……今まで魔族と戦ってきた時、こんな声……聞こえた事なんてなかった……。

俺は……助けを求めてる魔族まで、殺してたってことか……?」


胸を締め付けるような痛みが走る。

「もうやめてくれぇぇぇ!!!」

叫んでも――戦場は止まらない。


「《ファイヤーボール》!!」

「体が……燃える……! ちくしょう!」

魔法が炸裂し、獣族兵の悲鳴が響く。


怒号、泣き声、憎悪、恐怖。

人間と魔族、互いに殺し合い、

その声がすべてライトの胸に突き刺さる。


「どうして……どうしてこんな……!」

《光の翼》が震え、ライトはその場で立ち尽くすことしかできなかった。


しかし、戦場の前線では、戦況が傾いていた。


「だ、だめだ!押し返せない!」

「うわっ……ぐあああッ!」


白虎軍の獣族兵たちは、暴走したモウガやバゾウに引きずられるように力を増し、その勢いは普段の比ではなかった。


鋭い爪が盾ごと兵士を吹き飛ばし、

腕力に物を言わせた突進が次々と防衛線を破壊していく。


「前列、もちません! 中央が崩れます!!」

悲鳴混じりの報告が飛び交い、倒れた仲間を踏み越えて後退する兵士も出始める。


既に負傷者は山のように積み上がり、

治療班の叫びも戦場の轟音にかき消されていた。


「後退するな! 踏ん張れ!!」

指揮官が怒号を飛ばすが――

その声に応じる兵は、もうほとんど残っていなかった。


「……も、もう無理だ……これ以上前に出られない……!」

武器を握る手が震え、

剣先が地面に落ちる乾いた音が聞こえた。


その光景を見た指揮官の表情に、焦りと覚悟が交錯する。


(このままでは、本当に前線が壊滅する……!

街までなだれ込まれれば、民間人が……)


胸中で苦渋を噛み締めながら、

指揮官は魔法隊へ声を絞り出した。


「――魔法隊、前へ。極大魔法の準備に移る!!……魔法隊、構えろ!!」

指揮官の怒号に、ローブ姿の魔法兵たちが一斉に前へ出る。

「はっ!」

杖を掲げ、魔素が空気を震わせるほどに編み上がっていく。

「この混乱に紛れて……戦場ごと吹き飛ばす! 極大魔法――発動準備!!」


「まだ我が兵たちが善戦しております! 極大魔法を使用すれば、前衛の兵たちが……」

「どっちにしろこのままでは全滅する。これ以上寄られては極大魔法を放つことはできん! 今しかないのだ!」


少し戸惑った魔法兵たちであったが、やむを得ず詠唱を始めた。

「《集え光よ――裁きの炎よ――》」

低く響く詠唱が重なり、

上空には巨大な魔法陣が浮かび上がり始める。

眩い光がせり上がり、戦場を丸ごと飲み込もうとした。

 

その異常な魔素や光にライトはいち早く気付いた。

「なんだ、この魔法は?すごい魔素だ……やめろ!! そんなことしたら……ベラニカ兵だって巻き込まれるぞ!!」


「承知の上だ! 我らが守らなければならないのは街と民。ここを抜かれる訳にはいかんのだ!」


ライトは必死に叫ぶが、指揮官の決意は揺るがない。


「《――すべての咎を焼き尽くし、闇を穿て!》」


魔法兵たちの詠唱は続き、魔素が上空に集まる。

そして、極大魔法が今まさに完成しようとしていた。


「もうどうにも出来ないのか……」

諦めかけたライトの脳裏に龍鈴の言葉がよぎる。

(……殺し合いを止めたいんです。

共に生きる未来を……私は信じます)


「龍鈴……!」

胸の奥から、熱が突き上げる。

彼女の涙。微笑み。信念。

すべてが光になってライトの身体を満たしていく。


「俺が……やらなきゃ!!」


《光の翼》が大きく広がった。

「うおおおおおおおお!!」

ライトは遥か上空に飛び上がり、魔方陣の元へと向かう。

「龍鈴の夢……こんなところで終わらせてたまるか!!」


ライトが天にかざした《光の剣》が徐々に形を変え、

眩い巨大な《光の盾》へと変貌する。


「こ、この形は!! これならみんなを守る力になる!

――《光の盾》ッ!!」

その盾が、遥か上空から戦場全体を包み込んだ――。


ベラニカ指揮官が杖を高々と掲げ、怒号を放つ。


「極大殲滅魔法――

《裁きの閃光ジャッジメント・レイ》!!」


次の瞬間――

天を裂く光柱が轟音と共に降り注いだ。

 

――ゴゴゴゴゴゴッ!

 

「はああああああああ!!!!!」


ライトは真上から叩きつけられる光に、全身でぶつかっていく。

砕けそうな腕に力を込め、喉が裂けるほど叫ぶ。


「――やらせるかあああああああッ!!」


光と光が激突し、

天地が割れるような衝撃が戦場を揺らした。


地面には漏れた光が降り注ぎ、空気が震え、

兵士たちは思わず目を覆う。


その光の壁は、白虎軍もベラニカ兵も、人魔革命団すらもまとめて包み込む、“無差別の盾”となっていた。

 

「……ッ!? ま、眩しい……!」

「なんだこの光ッ!!」


――そして。


光柱は霧散した。

圧倒的な輝きは嘘のように消え失せる。


上空に残るのは――

巨大な光の盾を構えたまま、肩で息をするライト。


その背には、

龍化が進み、黒い鱗を帯びた尻尾が、ゆらりと揺れていた。


「な、なんて事だ……!

あの《裁きの閃光》を……受け止めただと!?」


指揮官が震える声で呟く。

「馬鹿な……極大魔法が……」

 

「いったい何なんだ……あいつは……」

兵士たちが次々と声を失ったように漏らす。


バキィィィィン……!


《光の盾》が砕け、破片が光の粒となって消えていく。

ふらつきながらも、ライトは一歩前に進み、声を振り絞った。


「……みんな、もう……やめようぜ……!

これ以上戦っても……犠牲が増えるだけだ……!」


戦場に――静寂が落ちた。


ベラニカ兵も、白虎軍の獣族兵たちも、

その姿をただ見つめる。


誰もが、そこに立つ青年を

『生きた奇跡』のように見ていた。


その沈黙を破ったのは、土煙の向こうに横たわる二つの巨体だった。


「……モウガ将軍が……!」

「バゾウ将軍まで……!」


白虎軍の獣族兵たちの顔から、血の気がみるみる引いていく。

倒れている盟友たちの姿――それは、暴走したモウガを打ち倒したドサイと、

バゾウを斬り伏せたリュウガの勝利を物語っていた。


「……もう戦えねぇ……」

「う、嘘だろ……俺たちが……負けたのか……」

戦意は完全に折れ、獣族兵たちは武器を握る力すら失っていく。


その前に立つドサイが、息を整えながら声を放つ。

「……もういいだろ。ここまでだ。モウガも、バゾウも倒れた。これ以上は無駄死にだ……白虎軍、ここで引け」


「仕方がない……撤退だ!戻るぞ!」

獣族兵たちは重い足取りで後退し始めた。


しかし――その背を見たベラニカ兵が怒気を上げる。

「逃がすな! ここで叩けば二度と立ち上がれん! 追撃の準備だ!!」


「うおおおおっ!!」

剣を構え、弓を引き絞る兵士たち。

その行く手を、大きく手を広げて塞ぐ影があった。


「待て!!」

《光の翼》がきらりと揺れ、ライトが彼らの前に立ちふさがる。


「どけ! 奴らを見逃せば、また必ず戻ってくる!」

指揮官が怒号を飛ばす。


「それでも――ここで追い打ちなんてしたら、新たな憎しみを生むだけなんだ! 相手は退いたんだ……街は守られた。もういいだろ」

ライトは叫ぶ。


「俺たちは“人魔革命団”……

人と魔族の争いを止めに来たんだ。

ここで戦闘を続けさせる訳にはいかねぇ!!」


その言葉に、指揮官は険しい目でライトを見据え、沈黙した。


やがて、深く息を吐き、指揮官は鞘に剣を収める。

「……よかろう。今回は貴様らに免じて兵を引かせる。

だが忘れるな。人間を裏切るなら、真っ先に討つのは我らベラニカだ」


ライトは静かに頷いた。

「……ああ。それでいい。俺達は裏切らねぇ」


その言葉を聞き、ベラニカ兵たちも緊張が解け始める。

固く握っていた武器が、次々と下ろされた。


白虎軍は退き、ベラニカ軍も後退を始める。


――こうして、人間と魔族が殺し合った血の戦場は、

わずかにせよ、一つの均衡を取り戻したのだった。



戦場の余波が静まって数日後。

ベラニカで起きた「人魔革命団と魔族との衝突」の噂は、瞬く間に各地へ広がっていった。


「魔族が……魔族から人間を守っただと?」

「人魔革命団……噂だけの存在じゃなかったのか」

「“共存″なんて幻想だ!」

「いや、あの日……確かに奴らが戦いを止めたんだ」


街の酒場でも、冒険者ギルドでも、兵舎の中でも――

その名は誰もが知るものとなりつつあった。


信じる者、恐れる者、嘲る者、期待する者。

希望と疑念が入り混じり、人々の心を揺らし始める。


ベラニカの指揮官は、苛立ちながらも認めざるを得なかった。

「……あの日、奴らがいなければ、我々は魔族に蹂躙されていた。

それにしても――人魔革命団にいた、半ば魔族のようなあの少年は一体……」


ベラニカ兵たちは戸惑いながらも、確かに見たのだ。

“魔族から人間を救った人魔革命団”という存在を。


その事実はゆっくりと、

しかし確実に――

「共存」という言葉を、各地へと広め始めていた。

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