表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/87

第四十五話 暴走する力

魔昌核を取り込んだ瞬間――

モウガの体は異形へと変貌した。


「モガァァァァアアアアアア!!」

咆哮とともに肉体が膨張し、筋肉が裂けるほど肥大化していく。


ライトが叫ぶ。

「おい! 魔素の塊はお前が回収したんじゃないのか!」


隣で見つめていたリュウガは、険しい表情で答えた。

「あれは魔素の塊と言う名ではない。“魔昌核″だ。魔王・黄龍様の圧倒的な魔素を結晶化したものだ。

魔素は魔族のエネルギー源……あれ一つで何体もの魔族が“一生分の力”を得られる」


ライトが息を呑む。

「そんなヤベぇもん……なんであいつらが持ってるんだよ!」


「白虎のクソ野郎が独占したのだ。黄龍様亡き後にな……」

リュウガの声は怒りを押し殺していた。

「そして、魔昌核を悪用して人間の領地を荒らした。白虎自身の手を汚さずにな。その回収のために俺たち龍族は動いていた……だが、それすら白虎の策。結果、人間からの攻撃を受けることになった」


ライトは龍討伐の惨劇を思い返し、拳を握りしめた。

「……そういや、龍鈴もそう言ってたな」


「そんなことより――まずいぞ」

リュウガの言葉と同時に、異形となったモウガが咆哮を上げた。


「モオゴオオオオッ!!」

暴風のような勢いで大地を蹴り、一直線にドサイへ突進する。


「モウガのやつ! ぐっ……うおおおッ!!」

ドサイが正面から受け止めようとするが、あまりの力の差にドサイは宙を舞った。

モウガの角で打ち上げられたのだ。

地面を抉りながら転がり、土煙を巻き上げて止まる。


「ドサイ将軍っ!!」

部下たちの悲痛な叫びが戦場に響いた。


異形となったモウガは、獣そのものの瞳で天に向かって吠える。

「モグウゥゥアアアアアアア!!」


「……くっ、正気を失ってやがる……! それにしてもなんて力だ……!」

ドサイは膝をつきながら、歯を食いしばって立ち上がる。

その場の空気が、圧力で潰されるように重く沈んだ。


モウガの咆哮が、大地を震わせる。

「グガァァァァァ!!」


あまりに異様なモウガの姿に白虎軍の獣族たちは怯んでいたが、やがて一体の獣族が叫びを上げた。

「今だ! モウガ将軍に続けェェ!!」


「「「ウオオオオオオ!!!」」」

鬨の声を上げ、白虎軍が一斉に突撃してくる。

停滞していた戦場は再び――地獄のような渦へと飲まれた。


ライトが歯噛みした。

「チッ……やっぱりこうなっちまうのかよ!」


リュウガが《闇の剣》を構える。

「構わん。斬り伏せるのみだ……!」


ドサイは苦悶の表情で巨体を踏ん張った。

「……クソッ、戦いは止められないのか!!」


混乱に包まれた戦場で、ベラニカ兵も構えを取り直す。


「魔族たちが動き出したぞ! 全軍、迎撃準備!」

ベラニカの指揮官が怒号を飛ばした。


《光の翼》を広げたライトが叫ぶ。

「人魔革命団、行くぞ!! 絶対にここで止めるんだ!!」


その号令に応じるように、

龍族の咆哮、獣族たちの雄叫び、人間の怒声――

三者入り乱れた地獄の戦場が動き始めた。


白虎軍の獣族たちが雄叫びを上げ、突撃する。


「構えろ、迎え撃て!!」

「うおおおおッ!!」

矢の雨が空を覆い、魔法の閃光が戦場を照らす。


リュウガが低く呟いた。

「……フン、問答無用だな」


振り抜かれた《闇の剣》が飛来する矢を粉砕する。

さらに、そのまま迫り来る獣族をまとめて薙ぎ払った。


ライトは必死に叫ぶ。

「おい!ベラニカのみんな!落ち着いてくれ!

俺達は――!」


だが返るのは敵意のみ。


「黙れ! 魔族と共にいる時点で信用出来るものか!」

「うおおおおッ!!」


「くそ! 乱戦になれば被害が増える……ベラニカ兵は俺が何としても止める!リュウガは西の獣族たちを頼む!」

「俺に指図するな!」

と言いつつも、リュウガは獣族の中心へと踏み入れていく。

戦場は瞬く間に混沌へ沈んでいった。


――その中心で。

「ンモモオオオッ!!」

モウガとドサイは死闘を繰り広げていた。

暴走したモウガが咆哮を上げ、振り下ろされる巨腕。

大地が爆ぜ、土煙が舞い上がる。


「ぐっ……!」

ドサイは後方へ大きく跳び退り、辛うじて回避した。


「力が桁違いに跳ね上がってやがる……!

おいモウガ! もうやめるんだ! これ以上、魔昌核の力を使ったら――もう二度と元には戻れねぇぞ!!」


返事の代わりに、さらに狂暴な拳が飛ぶ。

「グルルルル……モガアアッ!!」


理性の欠片もない瞳。

そこにはもう、かつての戦友を映す光はなかった。


ドサイは歯を食いしばり、吼える。

「こ……これが……白虎様の望む事なのか!!!」


その瞬間――

脳裏に、モウガと共に歩んだ日々が鮮烈に蘇った。



――ガァンッ!!


砂煙が立ち込める闘技場。

若き日のドサイとモウガが、拳と拳をぶつけ合っていた。


額には汗が滲み、呼吸も荒い。

だが――互いの口元には、確かな笑みが浮かんでいた。


「ハァッ、ハァッ……どうした、ドサイ! もう限界かぁッ!?」


「はっ、バカ言え……! てめぇこそ、足が止まってんじゃねぇか!」


重い拳がぶつかるたび、骨が軋む音が響く。

それでも二人はお互い引かず、一撃ごとに歓声を浴びていた。観戦していた仲間たちの声が飛ぶ。


「やっぱりあの二人は別格だな!」

「互いを高め合って……将軍にふさわしいのはどっちだ!?」


モウガは拳を振り抜きながら、楽しげに笑う。

「こうして特訓してるとよ……いつかこの力を存分に振るう日が来るんじゃねぇかって、ワクワクするぜ!」


拳を受け止めながらも、ドサイは落ち着いた声で呟く。

「そんな日なんざ……来ない方がいいのかもしれないぞ」


「何を言ってやがる! 俺たちは戦士として生まれたんだ。いつか戦場に、自分の死に場所を見つける……それが誇りだろ!」

モウガは勢いのままドサイへ突っ込んだ。

「――隙あり!」

その勢いを利用して、ドサイはモウガの体勢を崩す。

「ぐわっ!」


ドサイが軽く拳を引き、顎へ寸止めする。

「熱くなると前のめりになる。悪い癖だ」


倒れたモウガは悔しそうにしながらもドサイに微笑んだ。

「計ったな、ドサイ! しかし、これで300戦中……150勝150敗、か」



――鮮やかな記憶は、

今まさに暴走し、狂獣と化したモウガの姿と重なっていく。

ドサイは血を滴らせた拳を握りしめ、叫んだ。

「なあ?お前が選んだ“死に場所”はここなのか!! そんな石ころ一つに心まで乗っ取られるほど……お前は弱かったのか、モウガ!!」


暴走した獣のように、モウガが咆哮を上げた。

「グウアアアアアッ!!」


両者の巨拳が激突し、地響きのような轟音が戦場に鳴り響く。


「モグァルァァァァァ!!」


「ぐぬぅぅぅッ!!」


雷鳴のごとき衝撃が何度も走り、周囲の兵士たちは思わず後ずさった。


血反吐を吐きながらも――

ドサイは一歩も退かず、真正面から拳を振り抜く。


「……お前の最後が、こんなんでいいわけないだろ!!

モウガァァァァァ!!」


その叫びに、モウガの瞳がかすかに揺れた。


「……ドサイ……オレハ……マケナイッ!!」


確かに、ほんの一瞬だけ“仲間の声”に反応した。

だがすぐに、狂気がその光を飲み込む。


「モオオグアアアア!!!」


その突進を――

ドサイはまるで昔をなぞるように、低く沈んだ構えで迎える。


「――隙ありッ!!」


暴走する勢いを受け流し、巨体を地面に叩きつける。

土煙が爆ぜ上がり、戦場が震えた。


続いて放たれた渾身の拳が――


――バキィィィィンッ!!


モウガの胸に埋まっていた魔昌核を砕き、

禍々しい魔素が四散して空へ消えていく。

「グ、グオオオオォォォ!」

魔昌核を失ったモウガの身体から、一気に力が抜け落ちた。肥大化した体は萎んでいく。

そのまま大地に倒れ込み、二体の荒い呼吸だけが震えて響く。

「熱くなると前のめりになる……悪い癖だ」

拳を強く握りしめたまま、ドサイは苦く呟いた。



モウガとドサイの拳がぶつかり合っていたその頃――

リュウガもまた、戦場の渦中にいた。


「……っ! あれが……龍族のリュウガだ!!」

「囲め! 絶対に討ち取れぇ!!」

白虎軍の獣族兵たちが怒号と共に突撃してくる。

リュウガは眉一つ動かさず、《闇の剣》をひと振りした。


――ズバァァァッ!!

黒い剣閃が奔り、突撃してきた兵がまとめて吹き飛ぶ。

「ぐあああっ!」

「つ、強すぎる……!」


「雑魚が群れたところで、この俺を止められるものか!」

《闇の剣》を振るわれる度に黒い閃光が戦場を裂いた。

白虎軍の屍が次々と積み上がり、血煙が舞った。

それでもリュウガの足取りは乱れない。

むしろ瞳に宿る闇は、より深さを増していく。


「フン……所詮は汚い手しか使えぬ白虎の兵共、その程度か!」


その刹那――


――ズゥゥゥン……!ズゥゥゥン……!

地鳴りが戦場を揺らした。

土煙を割って、一際、巨大な獣人が姿を現す。


「……バ、バゾウ将軍だ!!」

獣族たちはその大きな体を見上げる。

分厚い皮膚、長大な牙、岩壁のような肩幅。

ゾウの獣人・バゾウが仁王立ちになり、リュウガを見下ろした。


「パオパオ……貴様がリュウガか。――“腰抜け青龍”の腰巾着」


その名を聞くだけで胸が焼ける。

リュウガは牙を噛みしめた。

「……今、何と言った?」

リュウガは睨みつけるが、バゾウはその長い鼻で笑い、さらに言葉を重ねる。

「聞こえなかったか? 腰抜け青龍の、その腰巾着だと言ったんだよ。チビ」


「……貴様ァ……ッ!!」

怒りに燃える瞳が紅く光り、

リュウガの周囲に黒い魔素が噴き出すように立ち上った。

 

「青龍様を侮辱する事は……絶対に許さんッ!!」


バゾウがあざ笑う。

「パオパオ!笑えるな。青龍は実力もないくせに“次期魔王”気取り。 だが結果は……どうだ?無惨に殺されただけじゃねぇか!」


「黙れッ!!」

《闇の剣》が唸りを上げ、怒りのままに振り下ろされた。

しかし――


――ドゴォォォン!!


バゾウはその一撃を巨腕で受け止め、大地が裂けた。

衝撃波で周囲の兵たちが吹き飛ぶ。


「流石だな。“次期東魔王候補”とまで呼ばれただけのことはある。だが、これでどうかな?」


不敵に笑い、バゾウは――魔昌核を取り出した。


「貴様まで……!」

結晶を胸へ突き立てる。

瞬間、禍々しい光が弾けた。


「パアアウォオオオオオオン!!!」


筋肉は破裂しそうなほど膨張し、硬い皮膚はさらに岩のように硬化。

赤黒い紋様が浮かび上がり、瞳から理性が消えた。


「くそっ、芸のない奴らめ……!」

暴走したバゾウが拳を振り下ろす。

大地が陥没し、爆風が巻き上がる。


「ぐっ……重い……ッ!」


リュウガは《闇の剣》で必死に受け流していたが、

一撃ごとに腕の骨が軋むほどの衝撃が走った。

「パオオオオォォォン!!」

長い鼻が鞭のように唸り、

丸太の腕が嵐のごとく振り下ろされる。


斬撃をいくら叩き込んでも――

硬化した皮膚が火花を散らし、刃を弾き返した。


「……チッ、効かぬか!」


「バウォォォォオン!!」


巨体が突進してくる。

避けきれず、リュウガの身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。

――ズザザザザザッザ!

土を噛み、血を拭いながらゆっくりと立ち上がる。

その紅い瞳には、怒りと闘志が静かに燃え上がっていた。

 

「黄龍様の遺した“魔昌核”を……こんな使い方をするとは……。西の愚か者ども……絶対に許さん……!」


握りしめた《闇の剣》が、黒い脈動をはじめた。

周囲の魔素を吸い込み、刀身が細く鋭く――まるで“怨念”を凝縮するように変質していく。


「“魔昌核”は……土地の魔素が枯れ、生きていくことすら出来なくなった魔族たちのためにと、黄龍様が最後に残してくださった物だぞ……!」


リュウガの声が震え、怒りが爆ぜる。


「それを――貴様らはッ!!その温情を利用し、踏みにじったぁぁぁ!!到底、許されない!」


翼が一気に広がり、黒い風圧が周囲を薙ぐ。

リュウガはそのまま地を蹴り――一直線にバゾウへと突進した。


《闇の剣》が高く振りかぶられる。


「――これで終わりだァッ!!」


咆哮とともに踏み込むリュウガ。

対するバゾウも、獣の本能そのままに大地を割る勢いで最後の突進を放つ。


二体の魔族が凄絶な力をまとってぶつかり合う――。


――ズガァァァァァン!!


轟音が大地を割り、戦場全体を揺るがした。

――ドッシン!

土煙が吹き飛ばされる中――バゾウの巨体が、膝から崩れ落ちる。


膨張していた筋肉がみるみる萎み、赤黒い紋様が消えていく。その姿は、もはやただの“抜け殻”だった。


「フン……口だけの男だ」

荒い息を吐きながらも、リュウガは冷たく呟く。


そして――握っていた黒い刀身を下ろすと、もう片方の手を掲げた。


「……これは返してもらうぞ……!」

そこには、バゾウから抉り取った魔昌核が黒く脈動していた。


――同じ頃。


土煙の向こうでは、ドサイが血を流しながらも、

暴走したモウガを地に沈めていた。


二つの巨躯が倒れ伏し、

二つの決着が――まるで示し合わせたかのように、同時に訪れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ