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第四十四話 人魔革命団 初出陣

――龍族の集落・人魔革命団の拠点。


西魔王の軍が人間の街を滅ぼしたという報せが届いてから、数日。

硬い空気に包まれた会議の場で、龍鈴は静かに立ち上がった。


「……皆さん。西魔王・白虎の進軍を止めるため、人間側の最前線都市ベラニカへ向かいます」

その一言に、場がざわめく。


ベラニカ――人間と魔族の境界に位置し、常に戦が絶えない最前線。主に西の魔族の地と隣接する。

そこへ向かうことは、大陸を横断する長い旅路を意味していた。


リュウガが一歩前に出る。

「白虎軍と正面からぶつかる事になるな……。ならば俺が全てを斬り払おう」


握りしめた拳から、黒い気配がにじむ。

その瞳には、憎悪と決意が宿っていた。


だが巨体の影が、その前に立つ。

「待て、リュウガ」

ドサイが低く唸る。

「俺は無駄に血は流したくねぇ。まずは“説得”だ。

人間を侵略する事がどれだけ愚かか……あいつらに叩き込んでやる。それが出来りゃ、戦わずに済む」


「白虎軍が言う事聞くとは思えないな……足を引っ張るつもりなら、貴様も斬り捨てるぞ」

リュウガの剣気が揺れる。

それを、龍鈴の澄んだ声が制した。


「リュウガ……私達は白虎軍を倒す為に行くのではありません。――魔族と人間が殺し合う未来を止める為に行くのです」


「…………」

リュウガは何も言わないまま闇を収めた。


ライトは自分の腕に浮かぶ黒い鱗を見下ろし、深く息を吸う。

「俺は……無駄な争いをさせないためにも、ベラニカの人たちに人魔革命団の事をアピールしてくる。魔族と手を取り合うって考えを、みんなに伝えなきゃならねぇ」


龍鈴が、まっすぐにその言葉に頷いた。

「私は、ここに残ります。

リュウガ、ライト、ドサイ将軍。

どうか皆さんと人魔革命団の力のすべてをもって、この戦いを止めてください」


「龍鈴……」


「あなた達が道を切り拓いてくれる。

その信じた未来を……私はこの場所で待っています」

その想いを胸に、人魔革命団の主力は出発した。


龍族の翼が大空を翔け、獣族たちが大地を踏み鳴らし、

そして――龍の血を宿す人間、ライトがその先頭に立つ。


向かうはベラニカ。

西魔王・白虎の軍勢を止めるため――

人魔革命団は、希望を掲げ、風を切って進んでいった。


 

――ベラニカ北方、城塞都市・前線。


轟音が大地を揺らし、戦場は火と血の匂いで満ちていた。


「構えろォッ! 盾を崩すな!!」


怒号とともに、重装歩兵が巨大な鉄盾を噛み合わせ、分厚い“鉄壁”を形成する。

その背後からは、槍兵が長槍を突き出し、白虎軍を迎え撃った。


突撃してくるのは獣族達――。

牛型の巨躯は地を砕き、豹型の獣族は矢のように走り、狼型の兵は耳をつんざく咆哮を上げる。

その力も速さも、人間の数倍以上。


「う、うおおおおおっ!!」


鋭い槍先が獣族の腹を穿つ――

だが、その獣族は槍を引きちぎるように掴み、そのまま槍兵を吹き飛ばした。


「グブァオオオオン!!」


獣じみた咆哮が響き、鮮血が土を染める。


「怯むな! 第二列、前へ!」


指揮官の叫びで、次の列が即座に前へ盾を寄せる。

ベラニカ兵は一歩も引かず、隊列を維持し続けた。


崩れれば――街が終わる。


「魔法部隊――炎矢を放て!!」


後衛の魔導兵が詠唱し、炎の矢が空を裂く。

火炎に包まれた獣族数体が倒れるが――


「まだ来るぞ!!」


燃え上がりながらも獣族達は突進し、兵士を薙ぎ倒した。


「ひっ……! こ、こいつら……怪物だ!」


鋭い爪は胸甲を簡単に裂き、盾を構える兵士もその力で盾ごと潰される。

獣族たちの猛攻に次々と倒れていくベラニカ兵。


それでも――ベラニカ軍は退かない。


「退くなッ!! 俺たちが退けば……街がやられる!!」


「「おおおおおおっ!!!」」


必死の咆哮とともに、槍が一斉に突き出される。

獣族の脚を止め、押し返す。


――まさに拮抗。


圧倒的な“力”で攻める白虎軍。

緻密な“隊列と戦術”で守るベラニカ軍。


炎と血が舞い、誰もが一歩も退かない死闘が続く。


轟音。火煙。悲鳴。振り下ろされる牙と槍。

戦場は、地獄そのものだった。


「くっ……押し返せッ!!」

指揮官の叫びにも、獣族の咆哮がかき消すように響き渡る。


「グルルルァァァァ!!」

白虎軍の獣族がさらに隊列を揺るがし、鉄盾の壁がミシリと悲鳴を上げた。

 

その時――

バサァァァァッ!!


空を裂いて、眩い光の翼が広がった。

「な、何だ!?」

「魔族の増援か!?」


ベラニカ兵たちが動揺の声を上げる。


光を纏った青年――ライトが空から降り立つ。

その背後には黒いオーラを帯びた龍人リュウガ、そして、地上から巨体のサイ獣人ドサイ。

さらに龍族の戦士たちが空を翔け、ドサイの部下の獣族たちが地を揺らしていた。


「龍型……!? 魔族の増援だ!!」

「おしまいだ! もう持たねぇぞ!!」

ベラニカ軍に混乱が走る。


だが――同時に白虎軍の獣族たちも動きを止め、鋭い目を向けた。

「……龍族? 何しに来やがった……」

戦場に、嘘のような静寂が落ちた。


ドサイが前へ歩み出る。

血濡れた大地に転がる獣族の亡骸へと視線を落としながら、低く問う。


「お前ら……人間の街を侵略して、何になる?

仲間まで死なせて……そこまでして戦う意味があるのか?」

白虎軍の兵が目を見開いた。


「……やはり本当だったか。

ドサイ将軍――白虎様を裏切り、龍族についたと噂されていたが……!」


そして、一際巨大な影が前へ出る。

「ドサイ! この裏切り者……ここで始末してやる!!」

現れたのは牛型の獣人。

「……モウガ。お前が来ていたか」

二人の間に重たい空気が走った、その瞬間――。


「……今だ! 奴らの動きが止まったぞ! 撃てぇ!!」

弓部隊が硬直した戦場に矢を放つ。

――ヒュンッ!!――ガキィィンッ!!

矢の雨が降り注ぐが、リュウガが《闇の剣》で全てを弾き落とした。


「……殺されたいのか!人間共!」

ギロリ、とリュウガの視線がベラニカ兵を射抜く。


「やめろ!! リュウガ、絶対に手ぇ出すな!!」

ライトが両手を広げ、リュウガの前に立ちはだかった。

そして、ベラニカ兵に向き直り、大きな声で語りかけた。

「聞いてくれ!!

ベラニカ兵のみんな、俺たちは敵じゃない!!」


「……言葉を喋る魔族がいるぞ!?」

「なんだあいつは……人間なのか?」

ざわめく兵たちの中、ライトは一歩、また一歩と前へ進む。


「止まれ! これ以上近付けば攻撃するぞ!!」

ベラニカ指揮官が武器を構え、ライトを威圧する。

 

「俺たちは“人魔革命団”だ! 人間と魔族の共存を掲げる者だ! 侵攻してきた獣族を止めに来た!

……この場は俺たちに任せてほしい!!」


「人魔革命団……? 噂だけだと思っていたが……」

ベラニカ指揮官はこの間の新聞の記事を思い出す。

“魔族と共存を掲げる謎の勢力――人魔革命団”

と書かれていた記事だ。

「信じるんですか、隊長!?」

「魔族とつるむやつなんて信用できるかよ!」


ベラニカ指揮官は一瞬迷い――剣を静かに下ろした。

「……全軍、手を止めろ。

ただし……こいつらの動きから目を離すな。

怪しい素振りを見せたら、即座に討ち取れ!」


「はっ!」

剣を構えたまま包囲を維持する兵士たち。

その視線には、疑いも恐怖も敵意も混じっていた。


「……ありがてぇ。少しでも話を聞く気があるなら十分だ」


リュウガが舌打ちし、低く呟く。

「チッ……人間共め。敵意が丸出しだ」


モウガが唸るように叫んだ。

「俺達を捨てて龍族に尻尾を振るとは、なんと情けねぇ……!

白虎様をあれほど慕っていたお前が、そんな裏切りをするとはな!!」


対するドサイは、静かに息を吐いた。

「……勘違いするな。今でも俺のボスは白虎様だ。

だが――白虎様は焦っている。

人間の街を潰すため、仲間を犠牲にする戦に……何の意味がある? それを伝えなければならんのだ」


モウガは鼻で笑い、獰猛な眼光で睨みつける。

「フンッ! 白虎様が間違っているとでも言うのか!

弱く卑しい人間を滅ぼし、獣族が誇りを取り戻す!

それこそが白虎様の御心に決まっている!!」


ドサイは首を振り、低く言い返した。

「……誇り、か。

俺の目にはただ――人間を恐れているように見える」


その一言に、周囲の獣族たちがざわついた。


モウガは激昂し、地面を踏み砕く勢いで前へ踏み込む。

「黙れェ!! 裏切り者が御託を並べるなッ!!」

巨体が弾丸のように迫る。

「誇りを汚すお前に、生きる価値はねぇ!!」


ドサイは即座に構え、真正面から拳を突き出した。

「……やっぱり、話し合いだけでは無理か!」


――ゴォンッ!!


大地を揺るがす衝撃。

砂煙が舞い上がり、人間も白虎軍も思わず息を呑む。


「ま、魔族同士が……戦ってる……!?」

「なんて迫力だ……!」

ベラニカの兵士たちが震え声で呟いた。


拳と拳が火花を散らす。

ドサイは歯を食いしばりながら吠えた。

「俺は……仲間を無駄に死なせる戦なんざ認めねぇ!

それが白虎様の命令であってもだ!!」


モウガが獣の咆哮を上げる。

「グモオオオオッ!!黙れ!この腰抜けが!」


振り下ろされる豪腕が地面を砕き、石片が飛び散る。

ドサイも拳を突き出し、ぶつかり合う――。


「ぬるいぞ、モウガァ!!」


――ドゴォォン!!


獣人二人の死闘に、大地そのものが震えた。


モウガは怒号を吐き捨てる。

「魔王黄龍の掟のせいで俺たちは人間に手出し出来なかった……

それをいいことに人間共は好き放題に攻め込み、蹂躙し、仲間がどれだけ殺されたと思っている!」


ドサイも喉を震わせて叫んだ。

「わかっている!

だが――だからってこんなやり方続けりゃ、犠牲はもっと増えるだけだ!」


モウガの眼が血のように赤く染まる。

「犠牲だと?違うな! 人間殲滅の大義の為に死ぬのなら、むしろ誇りだ! 惜しくはない!」


ドサイは拳を握りしめ、魂の底から叫び返す。

「……バカ野郎! 死んじまったら、誇りも何も残らねぇ!!」


二人の咆哮がぶつかり、戦場全体が震えた。

両陣営の白虎軍も、ベラニカ兵たちも、その迫力に動けない。


ライトは息を呑んだ。

「すげえ……これが獣人同士の本気の戦いか……!」


互角だったはずの死闘は、次第にドサイが押し始めていた。

巨体からは想像できない速さで放たれる拳と蹴り。

モウガは必死に受け止めるが、後退を余儀なくされる。


ドサイが吠える。

「どうした、モウガ! お前の“誇り”とやらは、その程度なのかッ!」


「ぐっ……! ま、まだだ……!」

モウガは大地に叩きつけられ、砂煙を巻き上げながら立ち上がった。


「さすが白虎様に目をつけられるだけはある……

だが、俺はこいつを白虎様より預けられた!」


その手に握られていたのは――

漆黒に輝く、歪な結晶。


ライトが目を見開く。

「あれは……魔素の塊!?」


ドサイの表情が強張る。

「……ッ! そ、それは……!!」


モウガの口元に、不気味な笑みが浮かぶ。

「ははは……そうだ。魔王・黄龍が遺した“魔昌核”。

これを取り込めば……俺は更なる力を得る!」


「モウガ!考え直せ! それを使えばどうなるか、わかっているだろう!!」

ドサイの必死の叫びも聞く耳を持たない。


「そんな事はわかっているさ!」

モウガは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握った。

「それでも……ここで尻尾巻いて逃げるくらいなら――俺は何だってする!」

獣のように吠え、結晶を胸へ押し当てた。


瞬間、結晶が不気味な光を放ち――

モウガの体に吸い込まれていく。


「フハハハハ! 貴様ごときでは……もはや俺を止められんッ!!」


次の瞬間、禍々しい魔素が爆発した。

筋肉が膨張し、裂けんばかりの異形の姿へと変貌していく。

「グモオオオ!! ドサイィィィ!!」

その咆哮は獣のものですらない。


「やめろ、モウガ! そんな力に頼ったら……もう戻れないぞ!!」


だが、モウガの瞳からは――

もう正気の光は消えていた。

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