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第四十二話 友との再会

ライトとバッテンは、どうにかフルーレ王国へ辿り着いていた。


「でかい城だなぁ……」

 

「場所知らねぇって言われたときは、正直どうなるかと思ったぜ」

「まあ、こうして辿り着けたんだからいいだろ?」


城壁の前では、入国者を厳しく取り調べる兵士たちの姿がある。

名前を名乗り、冒険者カードや所属証を確認されている。


「ライト……どうするんだ?」

「……どうにかして入るしかねぇ。王都に入らなきゃルイーゼには会えねえ。今俺が頼れるのは、あいつだけなんだ」


二人は日が沈むまで待ち、夜陰に紛れて忍び込む作戦を選んだ。



「それじゃあ行くぞ、バッテン」


――バサッ!


《光の翼》を展開し、バッテンを抱えて夜空へと舞い上がる。

城壁の上に降り立ち、物陰に身をひそめると、ライトはそのまま王都の内側へ飛び降りた。


「……そこまでです。不審者」


「――ッ!」


突然背後から声。振り向けば、盾を構えた女騎士が立っていた。


「フルーレ王国を甘く見たな。観念しろ」

そのすぐ隣に剣を柄に手を置く男騎士。


ライトは反射的に武器に手を伸ばすが、その顔を見て目を見開く。


「シルヴィ! レオン!!」


その名を呼ばれ、シルヴィの瞳が細められた。


「……どうして私たちの名前を……?」

「目的はなんだ?」


レオンは剣先を軽く突きつけてくる。


「俺だよ!俺! ライトだ!」


だが二人の表情は強張ったままだ。


「その名を……軽々しく口にするとは命が欲しくないようですね……!」

シルヴィは盾を構える。

「ライトの事で……ルイ様がどれほど悲しまれたと思っている!!」

レオンも剣を握る手に力がこもる。

 

ライトは唇を噛み、ゆっくりと手を伸ばして――

顔を覆っていた布を剥いだ。


月光が差し込み、死んだはずの“ライト”が現れる。

しかしその顔の一部は龍の鱗に覆われている。

 

「う、嘘……その顔……本当に……?」

「……! そんなはずは……」


「シルヴィ、レオン……俺は死んでなんかいないんだ!」


シルヴィは表情を揺らしながらも、まだ盾を下ろさない。


「……声も仕草も、確かにライトさん。でも……その顔の鱗は魔族である証です。あなたは一体……」


「俺は正真正銘ライトだ! なぁ……信じてくれよ!

頼む……俺はルイーゼに会いにきたんだ!」


ライトは必死に頭を下げた。


その姿に、レオンはしばらく沈黙したのち、剣を静かに納める。


「……ルイ様を“ルイーゼ”と呼び捨てにするのは、お前らくらいだ。――ライト、お前だと信じよう」


「レオン、あなたは本当に単純ですね……魔族が化けてるとしたらどう責任を取るつもりですか」


そう言いながらも、シルヴィの声には僅かな安堵が混じっていた。


「ははっ……二人は変わんねぇな!」


シルヴィはようやく盾を下ろし、小さく笑って言った。


「……仕方ありません。私も信じます。ですが――ここは目立ちすぎます。ライトさん、とりあえずこちらへ」


二人に案内され、ライトとバッテンは近くの小さな物置小屋へ入る。

扉が閉まり、ひとまずの静寂が訪れた。

 

「……一体、何があったのです?」

シルヴィが静かに問いかける。


「色々ありすぎて、どこから話せばいいか……。二人は、どこまで聞いてるんだ?」


レオンが息を呑み、答えた。

「……お前とユージとノイスは、龍型討伐の依頼で火山へ向かった。そこで龍型と戦い……ノイスとお前は死んだ、と」


「では……ノイスさんも……っ!」

「……すまねぇ。ノイスは本当に……」

小屋に重苦しい空気が一気に満ちる。


ライトは拳を握りしめ、かすれた声で続けた。

「俺は龍との戦いで……確かに一度は死にかけた。だが、龍族に助けられたんだ」


シルヴィが眉を寄せる。

「……龍型に助けられた? にわかには信じがたい話ですね」


「ああ、龍族で魔王の娘でもある龍鈴に助けられたんだ」


「おい待て! 魔王?龍鈴? よくわからんが、何故そんな事がわかる?」

レオンが詰め寄る。


「俺は、魔族の“声”がわかる。人間には聞こえないはずの魔素疎通を……理解できちまう」


レオンが息を呑む。

「魔族に……“言葉”が? そんな知性があるなんて……。いや、それより、人間には聞こえないはずってお前は……?」


「これを見てくれ」

ライトが袖をまくると、黒い鱗がびっしりと浮かんだ腕が露わになる。


「なっ……こ、これは……!」

シルヴィもレオンも、息を止めたように固まる。


「俺には龍族の血が混じってるらしい……龍と共に過ごすうちに、その血が目覚めたのかもしれねぇ」


シルヴィが声を震わせる。

「そんな……! 人間に魔族の血が流れてるなんて、聞いたこともないですよ!」


「俺だって知らなかった! 向こうに行って、初めて色々とわかったんだ!」

ライトの拳は震え、その瞳には恐怖すら宿っていた。


レオンは頭を抱え込む。

「驚くばかりだ……頭が追いつかん……」

沈黙が落ち、シルヴィとレオンは互いに視線を交わす。

 

「ちょうどいい。バッテン来てくれるか?」

パキラがライトに近付いてくる。

「わりい、バッテン。その場で一周まわってくれ」

バッテンがその場で回ってみせる。

「こ、これは!?」

「パキラに言葉が通じているのですか?」

信じられない光景をみて、目を丸くする二人。

「これで、わかってくれたか?」

 

そして、ライトは大きく息を吸った。

「――端的に言うぞ。一部の魔族が本格的に人間を侵略しようとしてる。このままだと大きい戦争になっちまう」


レオンが椅子を鳴らして身を乗り出す。

「な……!? どういうことだ!」


「上手く説明できねぇが……とにかく厄介で桁違いに強い魔族たちが人間を絶滅させようとしてるんだ。あの魔族城の比じゃないくらいのな」


「そんな!?」

身震いするシルヴィ。


「ああ! だから俺は――人間との共存を掲げる魔族たちの団体“人魔革命団”の一員になった。そいつらを止めるために!」


レオンが息を呑んだ。

「……待て。人間との共存を掲げる魔族と……手を組んだ、だと……?」


「そうだ! 戦争になれば人間も魔族もたくさんの被害がでる。そうなってからじゃ遅いんだ!止めるなら今しかない!」


シルヴィは息を呑み、言葉を飲み込む。


ライトは一歩踏み出し、頭を下げた。


「だから、協力して欲しいんだ。魔族たちを止めるにしても、これから先は人間側にも協力者が必要なんだ。

俺はこんな見た目だ。魔族だと疑われて誰にも信用されねぇ……頼れるのは一国の王子であるルイーゼしかいないんだ!」


レオンは目を伏せ、重く口を開いた。

「理解出来ないことも多いが、なんとなく事情はわかった」

「じゃあ――」

「……すまん、ライト。ルイ様に会わせることは出来ない」


「なっ……何言ってんだよ! このままじゃ――」


シルヴィがレオンの前に出るようにして言った。


「ルイ様はこれから“王”になるための大事な時期なのです。そんな時に“魔族と手を組む”など……到底許されません。きっと王候補から降ろされてしまいます」


「王だの王子だの言ってる場合か! その間に人間と魔族の大規模な戦争になるんだぞ!……本当にそれでいいのかよ!」


「ルイ様は……これまで、民を救うために、国を導くために、誰よりも努力してこられたのだ。

その歩みを無にするわけにはいかない!」

レオンが言い切る。


ライトは机を殴りつけた。

拳に浮かぶ黒い鱗が、ランプの光を反射してぎらりと光る。

「くそっ! なんでわかんねぇんだよ……!

俺は……もう誰も死なせたくねぇだけなんだよ!」


シルヴィは唇を噛みしめ、強く、しかし震える声で言う。


「……ライトさん。あなたの気持ちは理解しました。状況も……全てとはいきませんが、理解したつもりです。

ですが――それでもルイ様を巻き込まないでください」


レオンは苦しげに目を伏せる。


ライトは必死に叫ぶ。


「頼む! ルイーゼに会わせてくれ! あいつなら……必ず話を聞いてくれる!」


レオンが叫ぶように返す。

「無茶を言うな!」


「ルイ様は、あなたの言葉を聞けば――全力で助けようとしてしまう!

だから言っているのです……お願いです。帰ってください」

シルヴィの願いは必死で、そして悲痛だった。


ライトは言葉を失い、ただ拳を震わせていた。

「そんな……」


しばらくの沈黙の後、レオンが小さく息を吸い、ぽつりと言った。

「……ライト。覚えているか? 俺たち……あの時の模擬戦で引き分けたことがあったな」


「レオン!? あなた、何を言い出すのですか!」

シルヴィが思わず声を上げる。


しかしレオンは静かに剣を抜いた。

ギリ、と刃が鞘をこすり、夜気を鋭く裂く。


「……表に出ろ、ライト。言葉ではなく――その覚悟、力で示してみせろ。お前が勝てばルイ様に会わせてやる」


ライトは眉をひそめた。

「……レオン、お前……本気か……?」


「互いに退けないのであれば、力で決着をつけるしかあるまい」


「……いいぜ。受けて立つ!」


光がほとばしり、ライトの手に《光の剣》が形成された。

夜の闇を裂くように眩く輝く。


「レオン!勝手なことを……今がルイ様にとってどれだけ大事な時期かわかるでしょう!」

シルヴィが必死に止めるが、二人の瞳は揺るがなかった。


「わかっているさ、シルヴィ……それでも男には決して退けない時があるんだ」

剣を構えるレオン。

「さあ、全力でかかってこい!!ライト!」

「遠慮なく行くぜ!」

――ガキィィィィンッ!!


剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。


「……昔と変わらん。まるで基礎が出来ちゃいない!」

レオンが鋭い剣筋で斬りかかる。


ライトはその剣筋を受け止める。

「……っ! レオンは相変わらず型にはまった動きだな!」

激しい打ち合いが続く。

 

ライトが距離を取り、《光の翼》を展開し一気に間合いを詰める。

「これでどうだっ!」

「う……なんて速さだ!」

レオンは剣で受け流すが、衝撃で腕が痺れる。


剣がぶつかり合う音が王都の夜道に響き渡り、二人の想いが剣を通してぶつかり合う。


――ガキィィンッ!!


押し合った剣の軋む音が響く。

レオンの足元の石畳に亀裂が入った。


「ぐっ……! これほどまでとは……!」

レオンの剣が押し返され、《光の剣》の圧力が襲いかかる。

「《サイレント・ブレード》!!」


レオンが技で受け流すが、ライトの猛攻は止まらない。

「悪いが、勝たせてもらうぞ!」

龍の血に目覚めたライトから放たれる一撃はかつてのライトとは比にならない。

「ルイ様の為、私も退けぬのだ!《サイレント・ブレード》!!」

レオンの全てを賭けた渾身の一太刀が打ち込まれる。

 

――ドガァァッ!!

《光の剣》を受けきれずにレオンが弾き飛ばされ、壁際まで吹き飛ばされる。

剣を支えに立ち上がったが、呼吸は荒く乱れていた。


「……これが龍の血を継ぐ者の力……! 《サイレント・ブレード》ですら……受け流せないとは……!」


ライトが追撃に踏み込んだ――その瞬間。


「――何をしている!」


夜を裂く澄んだ声。

月光の中に現れたのは――白いマントを翻す一人の青年。

王家の紋章を刻んだ剣を携え、凛と立つ影。

「レオンが押されている……?お前は何者だ!」

振り返るとそこにはルイの姿があった。

目が合う二人。時が止まったかのように二人は動かない。

「ライト……君なのか……?」


迷いも恐れもなく、彼は駆け寄りライトの肩を掴んだ。

「ライト!生きていたのか! 心配したんだぞ!!」


ルイはためらいもなくライトを抱きしめた。

その腕に触れた瞬間、龍の鱗の硬さがはっきりと伝わる。

それでも、抱きしめる力は緩まなかった。


「ルイーゼ……俺は……こんな姿になっちまったんだ。龍の血が混じってるって……」


「そんな事は関係ない!」

ルイは即座に言い切った。


「君は僕の友だ。龍であろうと魔族であろうと……私が知っている“ライト”であることに変わりはない!

よくぞ生きていてくれた。それだけで十分だ……」

ライトの肩を掴む手が震えるルイ。


「……ルイーゼ……」

ライトは抑えていたものがこみ上げ、ルイの言葉に涙を滲ませた。


シルヴィはそっと息を吐いた。

「……ルイ様は……これは……」


レオンも剣を収め、静かに膝をつく。

「……ルイ様……申し訳ありません」


「話は後だ。夜とはいえ、少し目立ちすぎた。まずは状況を確認したい。部屋に案内しよう」

ルイは、城の中の応接間にライトを通す。


その後、ライトの話をひとつ残らず親身に聞き終えたルイは、深く頷く。


「ライト……本当に苦労したのだな。ライトが命を落としたと聞いた時は私は暫く立ち直れなかったぞ」

安堵の笑みを浮かべるルイ。

「そこまで俺の事を……それにこんな話を信じてくれるのか?」


「端から君を疑うつもりなどないさ」


ライトは目を丸くする。

「ルイーゼ……」

ルイはシルヴィとレオンに向き直った。

「二人とも。私のことを案じてくれたのは感謝している。だが――これからは必ず、私にも話を通してほしい」


シルヴィは悔しそうに唇を噛む。

「ですがルイ様……ライトさんの話を聞けば、王位を犠牲にしてでもライトさんの為に動いてしまう。それが怖かったのです」


ルイは静かに微笑んだ。


「シルヴィ……心配はいらない。

私は王になる。それが王族に生まれた私の責務だ。

だからといって友を捨てるつもりはない。王位も友も――どちらも決して諦めない」


レオンは目を潤ませながら頭を下げた。

「……ルイ様……立派になられて……」


ルイはライトに向き直る。

「遠くから私を頼りに来てくれたんだな。ありがとう、ライト。表立っては動けないが……協力を惜しむつもりはない」


「……ありがてえ!」


「まずはその“聖剣の灯火”を探し出す。それから……君が安全に過ごせる場所を用意しよう」


ライトは思わず笑う。

「へへっ、ルイーゼは……見ないうちに、ますます王様っぽくなったな」


「ははっ。そう見えるかい? まだまだ未熟者だよ。ただ……私は君に恩返しがしたいんだ」

屈託ない笑顔が、ライトの胸を温かく満たした。

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