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第四十話 人魔革命団

「これより私たちは――人間と魔族の共存を掲げる、“人魔革命団”として歩みます!」


龍鈴の宣言が響いた瞬間、場に衝撃が走る。

一瞬の静寂のあと、ドサイが低く笑った。

「……面白い姫さんだ」


龍鈴はまっすぐに顔を上げ、声を張る。

「今、世界は戦争へと傾き、多くの憎しみを生もうとしています。

ただ“生まれた場所”や“種族が違う”というだけで。

でも、誰もが本当は――平和を願い、安心して暮らしたいだけなのです」


その静かな言葉に、龍族も獣族も黙って耳を傾けた。


「そして、これまで私たちは、人間と対話すらできず、この苦しみから抜け出せませんでした。

ですが今は違います。ここに――人間でありながら、魔素疎通をもって私たちと語り合える者がいる。

そして魔族をただの“敵”とせず、理解しようと努力する者がいる」


龍鈴の視線がそっと横に向く。

その先には――ライト。


「彼こそ、私たちが待ち望んでいた存在。

人間と魔族を繋ぐ懸け橋となれる……“希望”なのです」


「……おいおい、勝手に担ぎ上げるなよ……!」

ライトが後ずさりし、ざわめく周囲の視線に戸惑う。


「龍鈴様! 本当にこの人間を信用なさるのですか!」

リュウガの鋭い声が飛ぶ。

龍族の一部も不安げに囁き合った。

「人間だぞ……」「人間のせいで我々は……」「でも、あの鱗……龍族の鱗じゃないか?」


「皆、落ち着いてください!」

龍鈴の声が一段と強く響く。

「――先程を思い出して下さい。

あの戦場では、ドサイ将軍率いる白虎軍と、我々龍族は互いを憎み、殺し合いになろうとしていたところでした。

けれど今は違う。歪み合っていた両者が、こうして同じ場に立ち、意見を交わしている。

これは奇跡でも何でもありません。“互いを理解しようとする意志”さえあれば、争いは対話へと変わる。

それを示したのは――まぎれもなくライトなのです!」


静まり返った空間に、重みのある声が落ちる。

「……確かに。俺たちは、この人間に力を示された……」

白虎軍の一人が呟いた。


その一言を皮切りに、場の空気が変わっていく。

「あの人間はドサイ将軍を倒したんだ……すげえ奴なのかもしれん」

「争いのない世界……いいかもしれないな」

 

龍鈴が大きく息を吸い込み、胸を張って宣言した。

「そう、これこそが――人魔革命団の掲げる理想です!

憎しみを超え、互いを認め合い、皆で共に歩む未来を!」


「「おおおおおお!!!」」

龍族からも、白虎軍からも歓声が沸き起こる。

かつて敵として刃を交えた者たちの声が、今はひとつに重なり、龍鈴の名を讃えていた。


「すげぇぞ! これが龍鈴の力……

って、なんじゃこりゃ!」

興奮と熱狂の中、ライトが自分の両腕を見下ろして凍りつく。


手首から肘にかけて――黒光りする鱗がびっしりと浮かび上がっていた。

「……嘘だろ……!? いつの間に……」


龍鈴が駆け寄る。

「ライト。あなたの龍の血が覚醒し始めたのです」


「龍の血……」

ライトは息を呑み、最初に龍鈴から聞かされた言葉を思い出す。


「や、やはりただの人間ではないのか……」

「あれは……龍の黒い鱗……まるで……!」

龍族たちがざわめき、リュウガに視線を送る。

場の熱狂は一転して不安と動揺に包まれた。


「……チッ」

リュウガが舌打ちする。


「おい待て! 俺は……俺は人間だぞ!!」

必死に叫ぶライト。しかしざわめきは止まらない。


「……ライト、落ち着いて聞いてください」


龍鈴の声が静かに響いた。


「それは――龍の血を引く証です。

しかも、その特徴的な黒い鱗は……龍族の中でも限られた者しか持ちません」


その瞬間、場の空気が一気に張り詰めた。


ざわ……と周囲が揺れる。

龍族も獣族も、ライトの腕に浮かんだ黒鱗に視線を奪われ、言葉を失っていた。


「……黒い鱗……まさか……」

「そんなはずは……いや、しかし……」


ざわめきが恐れへと変わる中――


「……ふざけるな……!」


低く絞り出すような声が響いた。

リュウガだった。


「俺は認めない……! 貴様のような半端者が、黒龍の血を引くだとッ!!」

怒気が爆ぜ、闇の翼が広がる。

「そんな馬鹿な話……受け入れられるかッ!!」

鋭い風が巻き起こり、リュウガは光の尾を切り裂くように上空へと飛び去った。


残されたライトは、拳を握りしめながら唖然と呟く。

「ど、どうなってんだ……黒龍って……なんなんだよ……」


龍鈴は静かに歩み寄り、言葉を選びながら答えた。

「黒龍は……かつて東魔王・青龍と並び、龍族の柱と呼ばれた存在です。

そして――リュウガの父に当たります」


ライトの目が大きく見開かれた。

「……っ!」

自分の腕の鱗を見つめ、ライトの手が震えた。


「……ここでは周りの目もあります。少し中で話しましょうか」

ざわつく龍族と白虎軍を背に、龍鈴はそっとライトの腕に手を添え、

まるで不安を鎮めるように静かに奥へと導いた。


洞窟の奥、炎の光だけが揺れる静かな空間に入ると、龍鈴はゆっくりと口を開いた。

 


「……少し、昔話をさせてください」


座りこんだライトの前で、龍鈴は姿勢を正し、静かな声で続ける。


「黒龍は……かつて東魔王・青龍と並び立つほどの力を持つ、偉大な龍族でした」


その語り口には、尊敬と哀しみが深く滲んでいた。


「ですが……黒龍は最初は視察から、人間に興味を持ったのか人間の領地に足を運ぶことが増えました」


ライトは息を呑んだ。


「……人間に興味を?」


「はい。黒龍は、父ともよく話していたそうです。

『魔族と人間は本当に争うしかないのか』

『共に歩むことはできないのか』……と」


龍鈴は膝の上で手を重ね、静かに目を伏せた。


「“魔族と人間の共存”。

今でこそ私が掲げている願いですが……その想いを最初に語ったのは、他でもない黒龍だったのです」


「以前にも龍族が……人間との共存を?」

ライトが聞き返した。

「ええ。しかし、その考えは異端とされました。

西の白虎をはじめ、多くの魔族たちから“裏切り者”と罵られていたのです」


「……!」

ライトの胸がざわつく。


「それでも黒龍は、人間を信じ続けました。

ですが――その信じた人間に……」


「……やられたのか?」

ライトが静かに言葉を継ぐ。


「はい。黒龍は人間によって討たれました。

そして、リュウガはその黒龍の忘れ形見です。

物心ついた時には、もう……父はこの世にいませんでした。

リュウガが“人間との共存”に疑問を抱くのも無理はありません。

――父親はその信じた人間に裏切られ、殺されたのですから」


「……あいつが……」

ライトは唇を噛み、拳を握った。

リュウガの冷たい態度にようやく納得がいった。



――その頃、リュウガが一人になれる場所へと来ていた。

「……黒龍の血……?」

低く震える声が響く。

その瞳は怒りと動揺に濁っている。

「ふざけるな……! あんな出来損ないが……俺と同じ血を引くだと……! そんなこと……認められるか!!」

《闇の剣》を振り抜き、地を抉る。



「もう過ぎた事です。それよりもライトが、黒龍の血を引くとなると……」

龍鈴が言いかけたが、その時、外から声が響いた。

「姫様! 見知らぬ魔族が来ております!」


「……敵か?」

ライトの声に緊張が走る。


「い、いえ……それが戦闘の意思はなく、その……“ライトに合わせろ”と……」


「俺にだと?」

 

「ライト!!」


不意に呼ばれ、ライトは目を見開いた。

「誰だ?」

聞いたことのない声に、自然と身構える。


「オレだよ、ライト! 忘れちまったのか?」


その姿を見た瞬間、ライトの瞳が揺れた。

「お前は……バッテン! バッテンじゃねーか!」


頭に×の傷を持つ、見覚えのあるパキラがそこに立っていた。


「ライト! 無事だったか?探したんだぞ!」

「バッテン……お前、喋れるように……いや、魔素疎通で聞こえるだけか」


「いやー、ライトが魔素疎通できるなんて、世の中わかんねえもんだな!」

バッテンが笑う。

久しぶりに見る懐かしい顔に、ライトの表情が自然と緩んだ。


「……ライトも、そんな顔をするのですね」

無邪気に笑うライトを見て、龍鈴も思わず柔らかく微笑む。


「そうだ! ユージとノイスも一緒にいるのか?」

その言葉で、ライトの笑みが一瞬で消えた。


「……? どうした、ライト」

バッテンが首をかしげる。


ライトは拳を握りしめ、かすれた声で答えた。

「……ノイスは、もういねぇ。

この前の戦いで……死んだ」


「……っ! そ、そんな……」

バッテンが言葉を失う。龍鈴も静かに目を伏せた。


「ユージは……きっと生きてるはずだ。

そうだ。ユージに会いに行って、この事を伝えなきゃ……」


「どうりで“シャドウクイーン”がいないわけだ」

バッテンが呟く。


「“シャドウクイーン″?ユージのパキラか……ってことは?」

ライトが振り向いたその時、背後から声が響いた。


「お久しぶりです、ライトさん」


その声を聞いた瞬間、ライトの目が見開かれる。

「パッキー……なのか!」


そこに立っていたのは、もう一体のパキラだった。

その口には、見覚えのある鞄が咥えられている。


「……そ、それは!」

「ノイスさんが探しているかもしれないと思って、持ってきたのですが……」

パッキーの瞳に涙が浮かぶ。

「ノイスさんはもう……っ」


ライトは静かにその鞄を見つめた。

「パッキー……そこまでノイスのことを……」


「せっかく持ってきたのですが……意味がなかったようですね」


「いや、ありがとう。……ノイスのバッグか」

ライトは鞄を胸に抱きしめ、しばらく言葉を失っていた。


火の明かりがその横顔を照らす。

龍鈴はそっと目を伏せ、小さく祈るように呟いた。

「……ノイスさんという方は、きっと素敵な方だったのでしょうね」

中を開くと、ひときわ輝く星形の魔石が転がり出た。


「近くに落ちていたんです……ノイスさんがとても大事にしていたので、探してるんじゃないかと……」

パッキーがそれを差し出す。


「……こ、これは……アリスの……っ」

ライトの声が震え、堪えきれずに涙が頬を伝った。


その時、バッグの底から一冊の古びた日記がこぼれ落ちた。


「この日記は……!」

ライトが慌てて拾い上げる。

ページの間には、ノイスが翻訳したと思われる紙片が丁寧に挟まれていた。


震える指先でページをめくる。

「これは……“聖剣の姫”、ヘレンの……?」


最初の方のページには、彼女の戦いと勇姿が記されていた。


――『ヘレン様は無敵のごとき強さで、魔族を退けた』

――『その剣を掲げる姿に、兵士たちは勇気を得た』


「やっぱり……伝説の英雄だったんだな」

ライトが小さく呟く。


しかし、読み進めるうちに文章の色が変わっていった。


――『ヘレン様は洗脳などされてはいなかった』

――『あの方は正気のまま、人間と魔族が共に生きる道を模索されていた』


「……ノイスの言ってた通りだ……」

ライトの目が見開かれる。


そして、最後のページには衝撃的な一文が記されていた。


――『ヘレン様は共に志を抱く者たちと、ひそかに“共存の団体”を立ち上げられた。その名も“聖剣の灯火”

その拠点はゲトラムにある――侍女ナタリア』


「ゲトラム……!? ってことは、あの街に……!」


日記を閉じたライトの拳が震える。

ノイスが遺した日記、そしてそこに記された“道標”。


「人間の中にも、魔族との共存を願っている奴らがいる……」


「それは本当ですか!?」

龍鈴が身を乗り出す。


「ああ。ノイスが導いてくれたんだ。今も存在してるかわかんねえが、確認しに行かないと……」

ライトの瞳には、決意の光が宿っていた。


「……人間の領地へ行くのですね。」

龍鈴の声は少し震えていた。


「ああ。ノイスが繋いでくれた道だ。人間の中にも共存を望む者がいれば、龍鈴の理想がより現実的になる」


「オレも一緒に行くぜ。ライトを一人にできねえからな」

バッテンがライトを見上げる。


龍鈴は一瞬だけ迷いを浮かべたが、すぐに静かに頷いた。

「……わかりました。ですが、人間の街に行くのに今のライトの姿では――」


「布で隠すさ。それに、バッテンもいる。心配すんな」

ライトが軽く笑ってみせる。


龍鈴はそっと歩み寄り、ライトの手を取った。

「……必ず、無事で戻ってきてください」


「お、おい……」

頬を赤らめ、慌てて手を引こうとするライト。

だが、龍鈴の瞳は真剣そのものだった。


「あなたは……希望そのものです。どうか、自分を粗末にしないで」


「……っ、わかってるよ」

恥ずかしそうにライトは小さく頷く。


龍鈴は名残惜しそうにその手を離した。

「私はここで待っています。必ず……また」


「……ああ。すぐ戻る」


「……んじゃ、行くか!」

バッテンが元気よく声を上げ、二人は振り返らずに走り出す。


ゲトラムへ――

希望と過去の真実が交差する地へ向かって。


龍鈴はその背中を見送りながら、両手を胸の前で組み、そっと祈るように呟いた。


「……どうか。ライトに――ご加護がありますように……」

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