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第四話 オオカミ型討伐

日が暮れる頃、三人はオオカミ型が現れるという山の麓で身を潜めていた。


「うーん、暗くなってきて、なんだか怖いなー」

ノイスが杖を握りしめ、震える。


「オオカミ型は夜目が利く。仕掛けてくるのは、完全に日が落ちた頃だ」

ユージが低く言う。


「まだ来ねえのか」

ライトは落ち着かない。


やがて――外が完全な闇に沈んだ時、森影から影が溢れた。


「や、やっぱり大きいね……」

話に聞いた通り、大型のオオカミ型がずらりと山から降りてくる。


「待ちくたびれたぜ。ようやく来たか」

飛び出そうとするライトを、ユージが制した。


「待て、ライト。少し観察する。仕掛けるならノイスの魔法からだ。警戒が薄い今が意表を突ける」


オオカミ型は周囲を伺いながら畑を物色し始め――。


「よし、今だ!!!」

「了解! ――《ファイヤーボール》!!」


ノイスの火弾が弧を描き、群れの先頭に炸裂。合図と同時にライトとユージが距離を詰めた。


「まずは一体だ!」

火に怯んだ個体へ、ライトの剣が閃く。不意を衝かれた一体が倒れた。


奇襲に気付いた群れが一斉に襲いかかる。


「どうだ!」

ユージの《麻痺ナイフ》が飛び、さらに足元のワイヤー罠が絡んで動きを止める。


「二人とも、よけて! 燃え盛れ!業火の大球!――《メガ・ファイヤーボール》!」

短い詠唱の後、ゆっくりと巨大な火球が麻痺し、罠で動けない群れを包んだ。


「よし! このままいくぞ!」

「おう!」


ライトが残りへ切り込む――が、避けられる。

避けた個体の死角から、別のオオカミ型の爪が迫った。


「うわっ!」


ノイスが詠唱に入ると、一体が一直線にノイスへ。


「まずい! ノイスの方に行かれた!」

ユージの投擲――だが別の個体が身を挺して弾く。


「……なんだとっ!」


「業火の盾よ!僕を守って!――《ファイヤー・シールド》!」

ノイスの炎盾が突進を止める。オオカミ型は炎を嫌っている様だ。


「やっぱり炎が苦手なのは大きくても変わらないみたいだね!」

「おい! 大丈夫か、ノイス!」

「この一体を盾で止めるので精一杯! 援護は出来なそう」


「わかった。 ノイスはそのまま耐えててくれ!」


ユージは思考を加速させる。

(おかしい。奇襲したのにこの対応力……単なる群れにしては連携が良すぎる。この数で連携を取られたら厳しいぞ。突破口は――弱点はどこだ)


ライトがオオカミ型に斬りかかるが、別の個体から威圧され、決定打を決められない。

「くそっ、こいつらの動き……まるでユージに指示されて動く俺らみてぇだ」

ライトが歯を食いしばる。


(指示、だと……? まさか)

ユージは視線を走らせ、畑全体を俯瞰できる高所を探す。近くに小さな丘――。


「怪しいな。……いるな、あそこに」


ユージは攻撃をいなしながら、丘の上へ矢を放つ。

――瞬間、群れの動きが鈍った。


「どーしたんだユージ! どこに撃ってる!」

「丘の上におそらくもう一体いる。そいつが指示を出してる。そいつを倒さないと勝機はない! ライト、行ってくれ! こっちはノイスと二人でもたせる!」


「いや、ダメだ! この数じゃ二人は無事じゃいられねぇ。俺がノイスを守りながら、戦う。ユージが行ってくれ!」

「ただの指示役だけなら俺でも対処できるが、特殊なタイプ、リーダー格なら俺の戦闘スタイルじゃ無理だ! ……俺らを信じて、お前が行け!」

「そーだよ、ライト! 行って! 僕のシールドで二人分なら、なんとか時間稼げるから!」


「……わかった! すぐぶっ倒して戻る! 怪我すんじゃねえぞ!」


ライトが丘へ駆ける。すぐにそれを数体が追う――投げナイフと火弾が牽制し、追撃を裂く。


「どうやら丘の方には行かれたくないようだな! 残念ながらお前らの敵は俺らだ!」

ユージはナイフを両手に構えた。

「死んでもここで足止めする!」


「ほらほら! 僕を止めないと、どんどん燃やしちゃうよー!」

ノイスが盾の炎圧を上げる。挑発する。


「なあ? ノイスのシールドでこの数、防げるのか?」

「……えへへ、考えたみたら、ちょっと無理かも……」

「だろうな!」


ライトは全力で駆け、丘の上へ到達した。


「……おいおい、マジかよ」


そこにいたのはオオカミ型であって、全くの別物。

オオカミ型の特徴である鋭い牙、鋭い爪を持つが、二足歩行。

それは上位種――人狼型。


対峙した瞬間、背筋が凍る。街道で遭遇したキマイラにも匹敵する圧。


(ビビってる場合じゃねぇ!)


ライトは踏み込み、剣を振る。

かわされ、返す爪――「っぶね!」 胸に浅い傷。だが《自動回復》がすぐ塞ぐ。


「上等じゃねぇか!」


今度は相手の攻撃にカウンター気味に切り返し、人狼型にも切創。

――だが、傷はみるみる塞がった。


「……なるほどな。お前も条件は同じってわけか」


優位が消え、汗が滲む。


鋭い爪が風を裂き、ライトの頬をかすめた。

熱い血が頬を伝い落ちる。


「っ……危ねぇ……!」


即座に距離を取りながら、剣を横薙ぎに振る。

手応えはあるが、傷口はみるみる塞がっていく。


「浅いか……!」


しかし、深く踏み込めばあの爪が体を抉る。

致命傷になれば、すぐには回復出来ない。

攻撃を避けながらだと、致命傷は与えられない。

 

ライト「っくそ! このままじゃ……!」



「ワアァン、オォーーン!!」

人狼型が吠え、速度が跳ね上がり、一気に距離を詰めてくる。


「うあぁっ!」


剣で捌き切れない猛攻。苦し紛れに出したライトの一撃にも相手は避ける素振りを見せない。

(こいつ……自分が傷付くのを恐れてねえ。このまま攻撃を受け続けてもこちらが負ける……撃ち合いになっても分が悪い)


猛攻に押され、ライトは一旦距離を取った。


(くそ……お手上げじゃねえか。 ユージ、ノイスの為にも早く倒して戻らねーといけねえのに! 大口叩いて、初依頼で負けるのか。死ぬのか。なんて惨めなんだ)


――回想が、脳裏をよぎる。


*幼い頃の三人*

「おれら、ぼうけんしゃなるんだ」――幼いユージの声。

「はぁ? なんだそりゃ」

「わるいまぞくをやっつける人のことだよ」――幼いノイスの声。

「そうか。まぞくをやっつける……おれにぴったりだ」

「おれたちは、さいきょーのチームになれる」

「ふたりはこわくねぇのか? おれはケガなおるけど、ふたりはすぐなおんねぇぞ」

「こわくないよ! ライトがまえにいて、ノイスがまほう。そしたら、まけないもん!」

「そうだ! ライトがたおれなきゃ、ぼくたちはむてきだ!」

――無邪気に笑う三人。


――現在。


「……はは、そうだな。俺が倒れねぇから、俺らは負けねぇんだ。こんな時に、昔のこと思い出しちまった」


「ワオォ、ワオーン!」

「負けてられるか!!!」


ライトは覚悟を決め、被弾覚悟で前へ。

お互いの攻撃が止まらない――回復が追いつかないほどの撃ち合いになる。


(これしかねぇ。真っ正面から、自分を信じて、振り抜く! 痛みなんて知るか! 先に守りに回った方が負ける)


丘の下からユージが見上げる。

「……あ、あれは――人狼型だと!ライトのやつ、あんなのと――くそっ!ノイス、こっち倒して援護に行くぞ!」

 

「うん! いつもはライトが前線だった。たまには僕らも身体張るんだ!」


激しい斬り合いになる両者。激突の最中、ライトの剣は人狼型の爪に弾かれ、軋む。そして――折れてしまう。


「あっ――」


視界が遠のく。敗北の二文字がよぎる。

ライト「ここまでなのかよォォォ!!」

回復が追いつかず傷だらけのライトは剣を握る手が緩む。

 

「……まだだ!」


最後の力を振り絞り、折れた剣を握り直し、なお踏み込む。だが、刃先は届かない。

人狼型の口角が上がり、嗤ったように見えた。


ライト「てめぇ、何……笑ってんだぁ!!」


――その時。折れた剣が振るたびに光が滲み、光帯びていく。


「あれ? ライトの剣、光ってねーか?」

「お、折れた剣が……!」


ぼやけた光はしっかりと刃の形となり、折れたはずの剣身が現れる。

抵抗のない切れ味。重さは消え、まるで剣を持ってないかの様な軽さ。


「こ、これは……《光の剣》……!!」


折れた剣は《光の剣》として再臨した。

その一閃で刻まれた傷は、鋭く、人狼型でも再生が追いつかない。


「す、すげぇ……何だ、これは。 でも、これなら――勝てる!!」


焦りの色が、人狼型の瞳に宿る。

光の剣はさらに速度を増し、空気を裂くように剣を走らせる。


「これでもくらええええ!!」


振り下ろされる瞬間、光はなお膨張する。

今まで防御をしなかった人狼型が、初めて爪で受けに出た。


ライト「へへっ、ビビって守りに回ったな? この勝負……守りに入った方の負けだあああ!!」


光刃は人狼型の両手の爪を砕く。


「これが、俺たちの力だあああ!!!」

 

そして、そのまま人狼型の胴を断つ

――ッズシャン!


「ウ、ヴアア、ワオオォン……」


人狼型は大きな傷を抱え、その場で崩れ落ちた。


ライト「や……やった、ぜ」


ライトはその場に膝をつく。剣は光を失い、ただの折れた剣へと戻っていく。


その瞬間、畑にいたオオカミ型の群れは戦意を喪失し、動きを止めた。


「うりゃあああっ!」

ユージは両手のナイフで走り抜け、オオカミ型を斬り刻む。

「《ファイヤーボール》! 《ファイヤーボール》! 《ファイヤーボール》!!」

ノイスは魔素の限り火球を叩き込む。


二人は、残りのオオカミ型も殲滅していく。


「……あやつら、やりおったわい」

物陰で見守っていた村長ダンドは凄まじい戦闘に感極まり、三人へ駆け寄った。

村の至る所から歓声が湧き上がる。


「うおおおお!! すげぇぞ、あいつら! この村を救った!!」


三人はその歓声の中、静かに意識を失っていた。



数日後


「ライトのやつ、傷はすぐ治ったのに、なかなか起きねーな」

「……あんだけ頑張ったんだよ。寝かせてあげようよ」

二人の声が、遠く聞こえる。


「んー……あー、よく寝たぜ」

「ほら、起きちゃったじゃん」


「……あれから、どれくらい経った?」

「えーと、三日くらい? かな?」

「そっか。どおりで腹ペコな訳だ……ここは?」

「えへへ、村長さんのおうちだよ!」

「おいおい、それより聞きたいこと、あるだろ?」

「あっ、そうだ! オオカミ型は……依頼は――どうなった!!」


ユージが肩を組む。

「お前、やりやがったんだよ。人狼型をな。上位魔族だぞ? すげーよ、まったく!」

「ねえねえ、あの光の剣! どっから出てきたのさ!」

「……気付いたら、そうなってた。俺だってビビったぜ」


「おお、起きたか!!」

「おう、じいさん」


ダンドはその場で膝をつき、深々と頭を下げた。

「改めて礼を言う。ありがとう! 君たちのおかげで村は守られた……!」


「へへっ、やめてくれよ。俺たちは依頼をこなしただけだぜ?」

ライトは照れ隠しに、ベッドから立ち上がるがふらついてしまう。


「いやぁ、それよりもあの光の剣、また見せてくれよ!」

「こらユージ、ダメだよ。ライトはまだ本調子じゃないんだから!」


「……腹、減ったぁ」

「いつ起きるかわからんかったが、ご馳走を用意しておいたぞ!」

「俺らも、ライトが起きるまで我慢してたんだぜ!」

「ほんと、見たことない料理がいっぱい! ユージとうまいって話してたんだー!」

「――って、先に食ってんじゃねえか!」

「三日も寝てるやつが悪い」


三人は料理の並べられたテーブルについた。


「う、うめぇ!!」

「さっきまで死んだように寝てたのに、よく食べられるね!ライトは」

「ライトは普通の人間と作りが違うんだよ。腹ごしらえしたら、集会所に報告だ。報酬も受け取りにいくぞ!」


「おう! 体も鈍っちまったし、ダッシュで戻るぞ!」

「えー、食べた直後は走れないよー!」



集会所


三人はダンドから受け取った依頼の達成書を提出した。


「戻られないので心配しておりました。……おめでとうございます。依頼達成です」

受付嬢の声が弾む。


冒険者レポートには、


“オオカミ型の突然変異は上位魔族・人狼型の指揮によるもの。

人狼型は討伐済み”

と記され、報酬が支払われた。


噂は瞬く間に広がる。

――新人三人組の名は、カタドラ中に轟いた。


「いやはや、本当にやり遂げてしまうとは」

現れたのは管理者デンケル。


「約束通り、賭け金をもらうぜ」

「もちろんですとも」

袋が二つ、ユージの手に収まる。


「人狼型まで現れ、それをも討伐するとは……やがて君たちは、この街の中心人物になるでしょう。特に――ユージ君。あなたの目が気に入った。若い頃の私を思い出しますよ」

「そっか。でも俺は、あんたよりもビッグになるぜ」

「フッフ、実に面白い。困った時はいつでも声をかけてください。お役に立てると思いますよ」


ユージは600ゴールドを受け取り、仲間の元へ戻った。


「これから、忙しくなるぞ……」


「なんか言ったか?」

「なんでもねーよ。……さ、装備でも見に行こうぜ!」


三人は集会所を出て、賑やかな繁華街へと歩き出した。


――新米冒険者、ここに名乗りを上げる。

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