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第三十七話 魔族の現状

ライトは『敵襲』という言葉を聞き、

連盟がまた討伐部隊を差し向けてきたのだと思っていた――その矢先。


「こんなところにいやがったぜ! 魔王の娘がよ!」

暗がりから、二体のハイエナ型の魔族が姿を現した。


「ま、魔王の娘?」

ライトが目を見開く。


「西魔王が差し向けたのね。この場所を嗅ぎつけるなんて……」

龍鈴の表情が険しくなる。

 

「姫様には指一本触れさせないぞ!」

ガルプが一歩前に出て、牙を剥いた。


「龍族のガキがよ! いつも金魚の糞みたいについて行ってる。お兄ちゃんはどこ行ったんだ?」

「アーッハッハッハ! そいつ、人間に殺されたらしいぜ! どんだけ雑魚なんだよ!」


「…………っ!!!」

拳が震え、顔が熱くなる。

「お兄ちゃんは……お兄ちゃんは雑魚なんかじゃない!!」

ガルプが突っ込むが、ハイエナ型の蹴りが腹にめり込み、地面を転がった。


「雑魚の子分はやっぱ雑魚か。おい! 魔王の娘。大人しくついて来い! このガキがどうなってもいいのか?」

泣いてるガルプの首根っこを掴み、龍鈴に見せつける。

 

「……わかりました。ガルプには手を出さないと約束してください」

龍鈴は静かに頷いた。


「おい!!こんな奴らの言うこと信じるのか?」

ライトが叫ぶ。

「私にはこれくらいしか出来ませんから……」

 

「こんな場所に……人間だと? しかも魔素疎通を使いやがる」

ハイエナ型が驚いたようにライトを見る。

「まあ、いいか。魔王の娘は確保したし、人間なんか無視だ」


「おい!黙って聞いてりゃ、人間バカにしやがって……」

ライトの手に《光の剣》が握られる。


「やめとけやめとけ。大人しくしてたら見逃してやるからどっか――」


――ズガァァァァンッ!!


眩い閃光が爆ぜ、次の瞬間にはハイエナ型の身体が地に叩きつけられていた。

胸元には光の剣で刻まれた焼け焦げた線が走る。


「な、何だこいつ!? ほんとに人間か!」

逃げようと背を向けた瞬間――


「――逃がすかよッ!!」


――バシュッ!

光の剣が閃き、首筋に一直線の光が走る。

ハイエナ型は呻き声を上げる間もなく崩れ落ちた。


静まり返る空気。

焦げた匂いが洞窟に漂う。


「す、すごい……リュウガ兄ちゃんみたいだ」

ガルプが呆然と呟く。


「ライト……私達を助けてくれたのですか?」

龍鈴が静かに言う。


「別に助けたわけじゃねえ。俺ら人間を……バカにしたからだ。それだけだ」

ライトは顔を伏せ、拳を強く握りしめた。


「それでもありがとうございます」

ライトに頭を下げる龍鈴。

「それよりも聞きたい事が山ほどある。

なんで魔族同士で争ってんだ。それに魔王の娘って……」


「……まずはこの場所がバレたかもしれません。場所を変えましょう」



少し離れた岩場に移動する。

冷たい風が吹き抜け、遠くで炎の音が微かに響いていた。


「……魔族が魔族を襲うなんて、一体どういうことだ?」


ライトの問いに、龍鈴は静かにうなずいた。


「……今の魔族は、一枚岩ではありません。

いえ、もしかしたら――最初から完全にまとまってなどいなかったのかもしれません」


龍鈴は少し目を伏せ、続ける。


「私の父、魔王黄龍が寿命で倒れたことで、均衡が崩れました」


「魔王……黄龍?」


「はい。かつて魔族を束ねていた存在です。

そして――父は人間への侵攻を固く禁じていました」


龍鈴の声がわずかに震える。


「……魔族が人間への侵攻を禁じてただと?」

「はい。 けれど、それを快く思わない魔族達もいたのです。その歪みが、父の死によって今、解き放たれようとしています」

淡々と話し始める龍鈴。

「おい待てよ! 魔族は俺たち人間に危害を加えてただろうが! 嘘をつくな!」

ライトは話を止め、龍鈴に突っかかる。


「魔族にも、いくつかの種類がいるのです。

人間の土地に踏み入る者たちの多くは――大地の魔素から自然に生まれた魔族たち。あるいは、人間の領域に根付いて暮らす魔族たちでしょう。

けれど、それとは別に……“魔王”の管理下にある魔族たちが存在します。

東・西・南・北――四方の魔王がそれぞれの地域を統べ、

その支配のもとで生きる魔族たちです」


「そんな奴らがいたってのか……」

ライトは理解が追いつかず、眉を寄せた。


「父の圧倒的な魔素によって、世界に“境界線”が引かれていました。人間が魔族の地に入ることも、容易ではなかったでしょう」


「それが……魔族占領地の正体……。

それで魔王が死んだから、魔族同士で争ってるってことなのか?」


「簡単に言うと、そうですね。

ですが――これは魔族側だけの問題ではありません」


龍鈴の声音が少し低くなる。


「今、勢力を拡大している西魔王――“白虎”は、人間という種そのものを、世界から消し去ろうとしています」


「なんだと!?」

ライトの目が見開かれる。


「白虎は、特に父のやり方を快く思っていませんでした。

父の亡き後、魔族を統べ、人間の世界を完全に滅ぼそうとしているのです。

そして――父の意思を継ぐ龍族もまた、白虎は排除しようとしています」


「姫様を狙ったのも……西の奴らだ!」

ガルプが拳を握りしめ、歯を食いしばる。


「何言ってんだ!人間を侵略してるのは龍族だろ?

黒い龍が、魔素の塊を使って魔族を凶暴化させて……!」


「……魔素の塊? ――おそらく西の魔族たちが悪用している“魔昌核”のことですね」

龍鈴が目を伏せる。


「リュウガは魔昌核を回収しに行っていたのです。

西の魔族が人間の領地を侵さぬように見張っていました。

けれど……すべては白虎の策略だったのですね。

人間と、邪魔な我々龍族を戦わせるために……」


「うそだろ……」

ライトは呆然と立ち尽くした。


「この前の戦いは、俺たちのただの勘違いだったってのか……?

ノイスは……そんなことのために命を落としたっていうのか……」

握った拳が、ゆっくりと震える。

口から漏れる声は、怒りでも悲しみでもなく――

ただ、深い絶望の色を帯びていた。


「今回の戦いで……白虎の思惑どおり、私たちの戦力は大幅に削られました。

そして――龍族を統べていた“おじ様”、いえ……東魔王・青龍も、他の三魔王によって殺されました」

龍鈴は唇を噛みしめ、翡翠の瞳を伏せる。

「父の1番の理解者である青龍は、人間を侵略するうえで、最も邪魔な存在でしたから……」

その声音には、静かな怒りと深い悲しみが滲んでいた。


「私たちは、白虎を止めなくてはなりません。

このままでは――いずれ、魔族と人間の全面戦争になります」


「その白虎を倒せばいいのか……?」


「事はそう単純ではありません。

たとえ白虎を倒せたとしても――人間を快く思わない魔族は、他にもたくさんいるのです。

だからこそ大切なのは、“人間と魔族の根本的な誤解”を解くこと。 互いを理解し合うことなのです」

龍鈴は一度言葉を区切り、視線を落とした。


「今現在も、人間と魔族は殺し合い、憎しみ合っています。

その憎しみの連鎖は終わるどころか……むしろ、どんどん膨らんでいきます。

このままでは――本当に、どちらかの種族が滅びるまで戦いは止まりません。

……そんなの、悲しいではないですか」

 

「……っ!」

ライトはノイスの言葉が脳裏に浮かぶ。


――『でも、悲しいじゃないか。こんな魔族を全部倒さなきゃ平和にならないなんて……』


焚き火の光に照らされた彼の優しい笑み。

胸の奥がズキリと痛んだ。


「ノイス……」

小さく呟く。


「どちらかの種族が根絶やしになるまで平和にならないなんて――私は、そんな未来を絶対に受け入れません」

  

「そんなこと、俺に言われてもわかんねえよ!」

ライトが声を荒げた。

あまりにも大きすぎる話に、理解が追いつかない。


「そこで――ライトにはお願いがあります」

龍鈴は一歩近づき、真っ直ぐ彼を見つめた。


「人間と魔族の“架け橋”になって頂きたいのです」


「俺が……架け橋に?」

ライトの声に戸惑いが滲む。


「人間と魔族は、本来争う必要のない存在です。

互いを知り、理解し合うことで――きっとより良い関係を築けるはず。

これまでは、その“想い”を伝える手段がありませんでした。ですが、ライトは違う。人間と魔族――どちらにも想いを届けられます!」


「……人間と魔族が分かり合えるなんてことがあり得るのか?」


「出来たじゃないですか。こうして――立場は違えど、ライトと私は話すことさえ出来れば分かり合えます。今こそ――人間と魔族が手を取り合い、互いを知る時なのです」


「……っ」

翠色の大きな瞳に映る自分。その真っ直ぐな眼差しから、目を逸らせなくなる。


「でも、ノイスは……」

どうしていいかわからずに声が震える。


「ライトにはその方以外にも、大切な人、守りたい人がいるでしょう?……見て見ぬふりをすれば、その人たちまで失います」


「……!」

頭に浮かぶ。ユージ、グレンダたち、そして旅で出会った人々。ライトは息を呑み、拳を強く握りしめた。


「……俺は……ノイスが夢見た、誰も悲しまない“平和な世界”が……見てみてえ」


その言葉は、心の奥底から零れ落ちた。


「ライト……!!」

龍鈴の瞳が潤み、力強く頷く。


「あなたなら――いいえ、私たちなら、人間と魔族の間に立ち、平和を実現できます。

共に――誰も悲しまない世界を目指しましょう!」


龍鈴は静かに手を伸ばし、ライトの手を包み込んだ。


燃える焚き火の音が、二人の決意を包み込むように静かに弾けた。

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