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第三十四話 宿命の敵

ライトたちは、ついに龍型の巣窟へと足を踏み入れていた。

龍型を一体討伐することに成功したが、討伐した個体よりもさらいに大きな龍型と対峙していた。

――ビュンッ!

リィナが渾身の矢を放つが、龍型の硬い皮膚に阻まれて全く効果がない。


「っく……! さっきの龍型とはまるで違う!」

リィナが歯を食いしばる。次の瞬間、龍型の尾が振り下ろされた。


――ドゴォォォッ!!

十人近い兵士がまとめて吹き飛び、血飛沫と悲鳴が舞う。


「うわああああっ!」「た、助け――!」

兵士たちの悲鳴が続き、戦列は一気に崩れかけた。


「一旦下がれ!」

指揮を執るエルディオの声と同時に、龍型の巨体が突進してくる。

それを正面から受け止め、大剣が火花を散らした。


「中々のパワーだ……!」

エルディオは踏み込み、剣を振り払って龍型を押し返す。

その後方で、僧兵マルクが祈りを捧げ、光が負傷兵たちを包む。

 

「ようやく本番ってわけか!」

ガルドが笑い、巨躯を揺らして斧を振り下ろす。


――ゴガァンッッ!!

龍型の鱗が砕け、赤黒い血が飛び散った。


「効いてるぞ! さすがガルドさんだ!」

兵士たちが歓声を上げる。しかし、龍型は怯むどころか怒りを増して咆哮した。


「グオオオオオオオオッッ!!」


「俺らも行くぞ!」

ユージが声を張る。


「《光の剣》!! 《光の斬撃》!!!」

ライトの光刃が龍の顔を切り裂くが、巨体は止まらない。


「……あれ見てよ……」

ノイスが震える指で空を指し示した。


――バサァァァァァッッ!!

灼熱の空を覆う影。同じ規模の龍が三体、四体……次々と翼を広げて降りてくる。


「う、嘘だろ……」「こいつだけじゃなかったのか……!」「も、もう終わりだ……!!」

兵士たちの絶望の声が重なり、勝利の幻想は一瞬でかき消された。


戦場は地獄へと変わる。


「怯むなぁッ! 俺たちが退けば、故郷が焼かれるぞ! 俺たちが死ねば、家族が泣くんだ! ここで踏みとどまれぇッ!!」

エルディオの怒号に、兵士たちが雄叫びで応える。


「「「おおおおおおッ!!!」」」


再び武器が構えられ、冒険者たちも前へ出る。

ガルドの斧が、リィナの矢が、マルクの祈りが、火花のように戦場を照らした。

ライトの《光の剣》、ユージの《影斬り》、ノイスの魔法も交わり、地獄の光景が広がる。


「うわわわああああ!」

兵士の悲鳴。次々と龍型の攻撃に倒れていく。


――ズガァァァァァンッ!!

エルディオの大剣が唸り、また一体の龍の首を断ち切った。


「やった! エルディオがやったぞ!!」

「俺たちにも勝機がある!!」

兵士たちが歓喜の声を上げた、その瞬間――


――ズシュゥゥゥッ!


兵士の体が斜めに裂かれ、黒い痕を残したまま崩れ落ちる。

「……あ……が……」

真っ二つになった仲間を見て、兵士たちの悲鳴が響いた。


「……やっと出てきやがったな」

ライトが熱気の中、前方を睨みつける。


ゆらりと歩み出る影。他の龍型と比べれば小さく、人の形に近い。

だがその手に握られた剣は、黒いモヤを纏っていた。


剣を軽く振るうたび、地面が焼け焦げる。

その双眸が一瞬、ライトを捉えた。


視線が交差した刹那、ライトの背筋を凍らせる既視感が走る。

「久しぶりだな……黒い龍」

 

「こいつが……黒い龍か? 他の龍型とまるで違うぞ」

エルディオが大剣を構え直し、鋭く吐き捨てた。

闇の剣を振り払うと兵士たちはまとめて吹き飛ばされる。

「ぐわああああ!」

「魔族の癖に……やけに器用に武器を使うじゃないか」

今までの魔族とは全く違うその姿に驚愕する。

だが、エルディオは黒い龍に突進し、大剣を振り下ろす。


――ガァンッッ!!

黒い龍は闇の剣で受け止め、火花が散った。


「ぐっ……こ、こいつ……!」

エルディオの膝が沈む。

龍型の力に加え、剣術の冴えをも兼ね備えた異質な存在――。


冷や汗が伝う。


「龍型の力はとんでもない……だが、わかる。この黒い龍は規格外に強い……!」


押し負けるわけにはいかぬと力を込めるが、闇の剣の重圧はさらに増していく。

「あのエルディオが押し負けている……」

「もうだめだ……龍型相手に勝ち目なんてなかったんだ」

苦戦するエルディオに兵士たちは戦意喪失していた。


その瞬間――。


「エルディオ! こいつは、俺たちに任せてくれ!!」

ライトが叫び、まっすぐ前へ踏み込む。


「なに……!?」

驚くエルディオの目の前で、ライトは《光の剣》を振るい、黒い龍を引かせた。


ユージがすかさず構えを取り、ノイスが詠唱を始める。


「俺たちはこいつと戦った事がある!エルディオはあっちをどうにかしてくれ!」

ユージの声が鋭く響く。

他の龍型たちが兵士たちを追い込み、戦線は崩壊寸前だった。


「黒い龍……怖いけど、僕たちが相手だよ!」

ノイスの声が続き、魔素を杖に集中させる。


エルディオは一瞬驚いたように三人を見つめたが、すぐに周囲を見渡す。


「……ならば龍型の群れは私たちが相手をする!黒い龍は任せた。 必ず勝てよ、少年たち!!」

そう吐き捨て、エルディオは兵士たちへ指示を飛ばす。


ガルド、リィナ、マルク、そして兵士たちがそれぞれの戦線へと散っていった。


残された戦場の中心――。

黒い龍は闇の剣を静かに構え直す。


「……やっぱりな。こいつは俺たちでやる。そう決まってんだ」

ライトが低く呟いた。


「以前とは違うってとこ、見せてやろうぜ!」

ユージが笑みを浮かべながら、影を纏って構える。


「ふえぇぇ……エルディオでも苦戦したのに……でもやるしかない!」

ノイスが震える声で叫びながらも、杖を強く握りしめた。


熱気と殺気が渦巻く中――三人と黒い龍の直接対決が幕を開ける。


「行くぞッ!」

ライトが叫び、《光の剣》を構えて一気に踏み込む。


「援護する!」

ユージが影を携えて回り込み、背後へと走る。


「貫け! 業火の槍よ! 《ファイヤー•ランス》!」

ノイスが詠唱を終えると同時に、灼熱の炎槍が黒い龍へと飛んだ。


三方向からの同時攻撃。

黒い龍は闇の剣をひるがえし、ノイスの放った《ファイヤー•ランス》を一瞬でかき消した。


――ズジュウッ。

灼熱の槍が闇に溶け、跡形もなく消える。


その隙にすかさずライトが斬り込む。

だが、《光の剣》は受け止められ、簡単に押し返された。


「……くそっ!」

歯を食いしばりながら後退するライト。


「これならどうだ!《影斬り•独行》」

ユージがダガーで斬りかかるも、闇の剣で弾かれる。

時間差で襲いかかる影の攻撃すら、黒い龍の翼にかき消された。


「なっ……くそ!」

「嘘だろ……俺らの連携を全部防ぎやがった!」

「そ、そんなの反則だよぉ!」


ノイスが半泣きで叫ぶ中、ユージが叫ぶ。

「ライト! なんとか隙を作ってくれ! そこを俺が影で止める! ノイスはなるべく火力の高い魔法を頼む!」


「あいよ!」

ライトが返し、《光の剣》を握り直した。


一気に踏み込み、閃光が走る。


――ギャリィィィンッ!!


光と闇の剣がぶつかり合い、凄まじい火花が飛び散る。

地面が割れ、衝撃波が砂塵を巻き上げた。


「ぐっ……重てぇ……ッ!」

闇の剣の重圧で押し潰されそうになる。それでも、ライトは歯を食いしばりながら押し返されまいと必死に踏ん張る。


「よし!今だ!」

ユージが叫び、黒い龍の影へ向けてクロスボウの矢を放つ。


「――《影縫い》!」


ライトとの鍔迫り合いで止まっていた黒い龍の影に突き刺さり、地面に縫い付ける。

「頼んだぞ!ノイス!」

ライトが距離を取ると、すかさずノイスの詠唱が響く。


「業火の炎よ! 螺旋を巻き、全てを貫け!――《ファイヤー・スパイラル・ランス》!!」


炎が渦を巻き、巨大な槍となって黒い龍へと突き進む。


――ドゴォォォォォンッ!!


爆炎が戦場を飲み込み、周囲の兵士すら思わず腕で目を覆った。


「やったか!?」

ユージの声が響く。


「……いいや、まだだ!」

ライトが睨む先――煙の中から、ゆらりと影が現れた。


「う、嘘! ……あれでも平気なの!?」

ノイスの声が震える。


「致命傷にはなってないが……少し効いてるぞ!」

少しふらつく黒い龍を見て、ユージが息を荒げながら呟く。


「次だ! 続けて叩き込むぞ!」

ライトが再び剣を構えた瞬間、攻める前に黒い龍が剣を振りかざし襲いかかってきた。

――ガギンッ!

《光の剣》で受け止める。

「うぐっ……!」


「やらせるか! 《影斬り》!!」

ユージの影が地を走る。


しかし、黒い龍は翼を広げ、宙に浮かびながらかわした。


「炎がイマイチなら……突き刺され! 氷の針よ!《アイス•ニードル》!!」

ノイスの叫びと共に、氷の針が放たれる。


宙に浮かぶ黒い龍の翼に命中した。

氷の破片が散り、焦げた鱗や翼に白い霜が張り付く。

 

「動きが鈍った今なら!!」

ライトが高く飛び上がり、《光の剣》を振り下ろした。

黒い龍もライトの攻撃を闇の剣で受け止めるも、空中を維持できず、地面へ叩き落とされる。


「……どうだ!」

地面に叩きつけられて砂埃が舞うも、その奥から黒い禍々しいオーラが覗く。


――ズバァァァァァッ!!


黒い斬撃が一直線に飛び出した。


「っ、やべ! ノイス、よけろ!!」

ライトの叫びにノイスが顔を上げる。


「え――」


黒い斬撃が一直線にノイスへと迫る。

「うわああああっ!」

思わず目をぎゅっと閉じるノイス。


――ザシュッ!


血飛沫が散り、地面に赤黒い線が走った。


ライトは息を呑む。

「おい……マジかよ!」


「……ユージ!? なんで……!」

恐る恐る目を開いたノイスが、青ざめた声を漏らす。


ユージがノイスの前に立ち、身を挺して斬撃を受け止めていた。ダガーで防いだものの、斬撃は僅かにずれ、ユージの顔に深々とした裂傷が刻まれていた。

苦痛に顔を歪めながらも、ユージは口角を上げた。

 

「……ここで勝ち切るには、一番火力の出せる魔法使いのノイスが必要なんだよ」


「そんな……僕のために……!」

ノイスは今にも泣き出しそうな声をあげる。


「別にノイスのためってわけじゃない。この場を勝ち切るためだ……」

顔からの出血で左目が開かない。ユージは流れる血拭きながら、ダガーを構え直した。

 

「てめぇ…………やりやがったなあ!!」

ライトが怒りの咆哮を上げ、一人で黒い龍に向かっていく。

光と闇の剣が激しくぶつかり合い、閃光が爆ぜる。


「ユージ……傷が……!」

ノイスが駆け寄るが、ユージは首を振る。


「気にすんな! もう一度奴を抑える。今度はもっと大きい隙を作る。やれるか?ノイス」


ライトが一歩、前へと踏み出す。

《光の剣》を大きく振りかぶり、正面から黒い龍に斬りかかる。


――ガキィィィィンッッ!!


光と闇が激しくぶつかり合い、爆ぜた火花が周囲を白黒に染める。

衝撃波が地面を割り、砂塵が舞い上がった。


だが、力の差はあまりにも大きい。

押し返され、ライトは足を踏ん張りながらも歯を食いしばる。


「くそっ……! やっぱりつえぇ……!」

 

ユージは血を滲ませながらも、黒い龍に影と一緒に突っ込んでいく。

「ライト! ノイスの魔法の時間を稼ぐぞ!」

「無理すんな、ユージ!一旦引け! 俺に任せろ!!」

「お前だけじゃ無理だ! いいから言うこと聞け!!」

ユージのあまりの気迫にライトは何も言えなかった。

「いいか? タイミングを見て飛び上がって《光の剣》を黒い龍に向けてくれ。影が濃くなるほど、俺の《影縫い》の効果があがる。一発勝負だ!」

ユージとライトは黒い龍の隙をうかがっていた。

ノイスは後方よりその様子を見ていた。

「僕が……僕がやらなきゃ! 二人がやられるんだ。二人はいつも僕の前にいる。いつも傷だらけになって……」

杖を高く掲げ、全身の魔素を燃やす。

――ゴォォォォォッ!!!

「僕が今出来る最高の魔法。 僕の全てを炎の力に変えるよ……」

紅蓮の炎が槍の形をとり、轟音と共に伸び上がる。

 

黒い龍が、ノイスの魔法に反応して一瞬気を取られた。

その隙を突いてユージは黒い龍の足元まで忍び込んだ。

「今だ!ライト!」

「ああ!《光の剣•最大出力》!」

ライトは飛び上がり《光の剣》高く掲げる。

「《影縫いー絶封ー》!」


――ビ、ビキッ!

ユージと影は黒い龍の影に同時にダガーを突き立てる。


「「今だ、ノイス!!!」」

ライトとユージの叫びが戦場を震わせた――。

 

「業火の炎よ! 最大の出力を持って敵を討ち滅ぼせ。

天の審判を司る神々よ。その一閃、天と地を貫き、悪しきを焼き尽くせ!――《ファイヤー・ランス》……!」

ノイスの声と共に、杖の先で炎が唸りを上げる。

灼熱の光が一点に集束し、眩い一本の槍へと変わった。


「《グングニルゥゥゥゥゥ》!!!!!」

叫びと共に、紅蓮の槍が轟音を立てて空を裂く。

炎の尾を引きながら、一直線に黒い龍を貫かんと突き進んだ。


その熱気だけで兵士たちは思わず目を閉じ、

皮膚が焼けるような灼熱を感じる。


「いっけぇえええ!!」

ライトが叫ぶ。


「ここで終わらせろぉおおお!!」

ユージの声が重なり、戦場が震えた。


黒い龍は必死に抗おうとする。

しかし――影に縛られ、光の剣に押し留められ、

逃げ場を完全に失っていた。

ノイスの放った渾身の《ファイヤー•ランス-グングニル-》は真っ直ぐ黒い龍の胸元へと突き進んだ。

 

ライトたちの勝利は、確実に思えた。

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