第二十三話 魔族城突入
不利になっていく戦況を打破するため、ルイはチームの分断を決断した。
ライト、ユージ、ノイス、グレンダ、アヤ、アリス――六人に、城内突入を命じたのだ。
「いいか、皆! 私たちはライトたちを城内へ送り込むため、全力で城門前まで進む! その分、魔族との距離も近くなる――覚悟してくれ!」
エレキが頷き、力強く答える。
「それしかなさそうだね。僕らの魔法で安全な道を作るよ! 二人とも――ありったけの魔法をぶつけよう!」
エレキ、ドルン、マリーナは顔を見合わせた。
マリーナが頷き、ノイスとアリスに向けて静かに微笑む。
「ええ。できるだけノイスとアリスの魔素は温存しておきたいわね」
ドルンは深く息を吸い込み、目を閉じて杖を構える。
「……魔素を集中させる。少しだけ時間をくれ」
ルイが全体に声を張る。
「魔法部隊を援護する! 三人の魔法の準備が整い次第、城の前まで突っ込むぞ!」
その言葉と同時に、シルヴィが盾を掲げた。
「指一本、触れさせません! 《ゼロ・シールド》!」
《カリスマ・ジ・オーラ》の加護を受けた防壁が、光の膜となって魔族たちを押し返していく。
そして――ドルンが地面に両手を叩きつけ、苦しげに声を張り上げた。
「不動なる大地よ、堅き壁となり進む道を示せ――《ストーンウォール・グランドロード》!!!」
大地が唸りを上げて隆起し、並び立つ岩壁が一直線に城までの道を形成していく。
続いてマリーナが杖を掲げ、祈るように詠唱を紡いだ。
「清き水聖よ! 滴は流れとなり、流れは波となり、すべてを包む奔流へと変われ。穢れを洗い、命を潤し、我が願いに応えて……
――《アクアウェーブ・ストリィーム》!!!」
轟音とともに、生成された大量の水がストーンウォールの道を勢いよく駆け抜け、魔族を押し流す。
すかさずエレキが詠唱を開始する。
「天を裂き、地を焼く雷帝よ! 眠りし憤怒を今、呼び覚ませ!闇を裂き、災いを討つ聖なる閃光となれ――我が声に応え、万象を貫け!
――《ライトニング・ラグナボルト》!!!」
――ドゴゴゴォォォォォン!!
一瞬、世界が白に染まった。
眩い閃光が走り、轟雷が水流を伝って魔族の群れを焼き尽くしていく。
ノイスが目を見開き、言葉を失う。
「こ、こんな高度な魔法……すごすぎる!」
隣でアリスは呆然と立ち尽くしていた。
「…………」
エレキは額の汗をぬぐい、息を整えながら苦笑いを浮かべる。
「ちょっと……魔素を使いすぎちゃったけどね」
隣ではマリーナとドルンも肩で息をしている。
アヤが叫ぶ。
「アリス!何ぼさっとしてるのよ! 行くわよ!」
先頭でシルヴィが盾を構え、前へ踏み出す。
「私の後ろについてきてください!」
彼女は魔族城に向かって全力で駆け出した。
その盾から光が広がり、防御の膜が走った軌跡を覆うように展開されていく。
ルイが剣を高く掲げ、声を張り上げた。
「ここが勝負の分岐点だ! 必ず城まで送り届ける!――頼んだぞ、シルヴィ!」
光の道を切り開くように進むシルヴィの背中を、仲間たちは迷いなく追った。
彼女の周りには《ゼロ・シールド》の光膜が展開され、
投げ込まれる石、飛び込んで来る魔族はすべて弾き返された。
すぐ後ろを走るアヤが感心したように呟く。
「……これは快適ね」
「ルイ様は、魔族城攻略の鍵を握る突入部隊として、あなたたちを選びました。それは――最も成功の可能性が高いと、心から信じているからです。……ルイ様の期待を、裏切らないでくださいね」
シルヴィの言葉に、胸の奥がずしりと重くなる。
《ストーンウォール》の向こう側から、地上の魔族や空を飛ぶ魔族たちが一斉に襲いかかってくる。
――ッバン!
銃声が響き、空の魔族が次々と撃ち落とされた。
「走りながらは苦手なんだがな……」
ダリオが淡々と呟きながら、狙いを外さず撃ち抜いていく。
その横で、ルイが迫る魔族たちに刃を振るった。
「剣だってずっと習ってきたんだ! 皆ほどではないが、この程度の魔族なら――!」
ルイの剣が閃き、魔族を一体、また一体と斬り倒していく。
アヤが笑みを浮かべ、忍者刀とクナイを巧みに操りながら続けた。
「意外とやるのね、王子様!」
「敵わないな……」
ルイが苦笑しつつ、肩を並べて進む。
二人はそのまま魔族をなぎ払いながら、前衛組のもとへと駆け抜けていった。
――その頃。
一足先に到着したユージから作戦を聞いた前衛組は、静かに頷いた。
リーオが笑みを浮かべる。
「ルイはんの判断なら、間違いあらへんな!」
コンたちが力強く頷く。
「我々も従おう!」
グレンダが肩を回しながらニヤリと笑った。
「魔素の塊ってことは――例の黒い龍がいるかもしれねぇな」
ライトが《光の剣》を見つめる。
「仕留め損ねた“あいつ″との因縁……今日、ここで終わらせる!」
ユージが冷静に確認する。
「俺たちが城に侵入出来たとして、残ったお前らは大丈夫なのか?」
レオンが静かに頷いた。
「ルイ様の判断だ。問題ない。私たちでこちらを持ち堪えるだけだ」
セツが手を振って笑う。
「なるべく早く、魔素の塊をどうにかしてほしいある!」
ソウが短く言葉を添える。
「……頼んだぞ」
前衛組はライト、ユージ、グレンダを囲むように陣形を取り城門前へ駆け出す。
「魔族は気にするな! すべてこちらで処理する!」
レオンの声が戦場に響き渡った。
前衛組は一斉に動き出し、ライトたちに攻撃が及ばぬよう、迫りくる魔族たちを次々と払い除けていく。
斬撃と衝撃音が入り乱れ、火花が散る。
その激戦を抜け、ライトたちは城門前でシルヴィたちと合流した。
「無事だったか、ライト!」
ルイが声をかける。
「ああ。今のところはな……」
ライトは短く答え、目の前にそびえる一際大きな魔族を見上げた。
「グウウウアアアア!」
門番のように立ちはだかる魔族が、牙をむき出しにして咆哮を上げる。
ライトが剣を構える。
「こいつを倒さなきゃ、入れねぇな!」
レオンが前へ出た。
「ライトたちは力を温存しろ。ここは私たちがこじ開ける――その瞬間を見逃すな!」
「背中は任せてください!」
シルヴィが盾を掲げ、突進してくる魔族の攻撃を受け止めていた。
門番の魔族に臆せず、コン、ソウ、セツが同時に跳びかかる。
「うおおおおおおっ!!!」
だが、岩のように硬い魔族の腕が振り下ろされる。
「ガアアアウッ!」
ソウが歯を食いしばる。
「気功を込めても攻撃が通らない!」
セツが叫んだ。
「こんなの聞いてないあるよっ!」
「危ないっ!」
ノイスの声が響く。
門番の魔族が大きな拳を振り下ろした――。
――ドンッ!
下敷きになったかと思われたその瞬間、
レオンが剣を掲げ、一撃を受け流していた。
「《サイレント・ブレード》!」
音ひとつ立てずに、巨腕の勢いをそらす。
ユージが呆然と呟いた。
「すげぇ……あの一撃を無傷で受け流した……!」
レオンは巨大な腕を切り払いながら、低く告げる。
「ルイ様の力あってこそだ。貴様の力の流れ……すべて見切った!」
鋭い一閃――。
音のない剣筋が走り、魔族の腕が真っ直ぐに断ち切られる。
「グウウウアアアアアアアッ!!」
リーオが歓声を上げた。
「レオンはん、すごいでぇ!」
続けてリーオが魔族の腕を駆け上がり、頭上へと飛び乗る。
「隙だらけやでぇっ!」
二本の剣を交差させ、頭から足先まで一気に切り刻みながら降りてくる。
――ズバッズバッズバッズバッズバッ!
「我々もゆくぞ!!!」
コンが叫び、ソウとセツが応じた。
「はあいっ!」
コンの棍が魔族の膝を折り、体勢を崩す。
「たあいっ!」
ソウの槍が胴を貫く。
「はあいなっ!」
セツのヌンチャクが魔族の体を砕いた。
「この間合いなら――!」
レオンの静かな斬撃が、魔族の首をはね飛ばす。
――ズドンッ!
巨体が崩れ落ちる音が戦場に響く。
「いいもん見せてもらったぜ……!」
グレンダが思わず息を呑む。
「今だ! 門をこじ開け、中へ進め!!!」
ルイの号令が飛ぶ。
六人は一斉に動き、城の門を突き破って中へと飛び込んだ。
「頼みましたよ……」
シルヴィが小さく呟く。
すぐに魔族たちが門へ押し寄せるが、リーオたちが立ちはだかった。
「邪魔したらあかんで!」
蹴散らされた魔族たちが吹き飛び、直後――
門は再生し、完全に閉ざされた。
リーオが剣を肩に担ぐ。
「これで、お役目ごめんやな」
「これからが本番だぞ!」
ルイの声が響き渡る。
「六人が戻るまで、この退路を死守する!」
リーオが目を丸くする。
「退散ちゃうんかい!?」
ルイは力強く答えた。
「中で何が起こるかわからない。――撤退する時は、全員でだ!」
「我らの《気功武具》の強みはその持久力にある……」
コン、ソウ、セツは息を整え、武器に気功を通わせる。
エレキが杖を握り、魔素を再び流し込む。
「魔素も少し戻ってきたし……やるよ! マリーナ、ドルン!」
魔法使い組の二人も、それぞれ杖を握り直した。
「諦めろ……この戦場からは逃げられないさ」
ダリオはリーオに声を掛けながら、銃口に弾を込める。
リーオが肩越しに笑う。
「ほんなら、早よその“魔素の塊”っちゅーのをどうにかしてもらわんとなぁ!」
レオンは静かに呟いた。
「不思議なものだな……窮地に立たされているというのに、ルイ様の剣でいられる。この上ない名誉だ。それに負ける気がしない」
シルヴィが微笑みを浮かべ、短く応じる。
「良い心掛けですわ。――私も、負ける気は一切いたしません」
「ライトたちは必ず――魔素の塊を破壊してくれるはずだ!私たちはここで、その六人の帰還を待つのみ!誰一人欠けることなく、この戦場を乗り切るぞ!!!」
ルイの声が戦場に響き渡る。
彼らは魔族城の前で陣形を組み直し、再び武器を構えた。
その瞳に宿るのは、恐怖ではなく――仲間を信じる強い光だった。
そして再び、戦いの咆哮が大地を揺らした。




