表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

第二十一話 魔族城攻略チーム

会場を出ると、すぐ外でルイたちが待っていた。


「ライト! どうだった?」

「なんとかなったぜ。あの魔導生物、電撃まで使いやがって……ちょい痺れたけどよ」

「電撃……やはり個体ごとに特性が違うらしいな」


ユージが眉を寄せる。

「“やはり”ってどういう事だ?」

「ここで待っていたが、挑戦者の負傷の仕方がバラバラだったのでな。火傷の者もいれば、切り傷だらけの者もいた」


シルヴィが続ける。

「私たちの相手は“二体に分裂して、同時に倒さないと再生する”タイプでした。幸い一体一体はさほど強くなかったので、合わせて落とせましたが」

ユージが顎を触る。

「なるほどな……各特性への対処力を見てる試験ってことか」

レオンが感嘆の息を漏らす。

「それにしてもゲトラムの技術は驚嘆に値する。あれだけのものを造るとは」


夜になると合格者の呼び出しがかかり、大広間に集められる。人数は4分の1以下に減っていた。


「諸君、合格おめでとう!」

壇上の連盟職員が声を張る。

「この試験を突破した諸君は、冒険者の中でも紛れもないトップクラスだ。長らく奪還できなかった“魔族城”も、この精鋭ならば攻略できるだろう。三日後、再びここに集合してほしい。我々の誘導員が現地まで案内する。それまでに同じ攻略チーム同士、交流を深めておいてくれ」


解散の声がかかるや、ルイが一歩前へ出た。

「魔族城攻略の前に、互いの戦い方や人となりを知っておきたい。強制はしないが――親睦を深め、信頼を築くことが成功への鍵になるはずだ。このあと、少し時間を取って親睦会をしないか?」

 

ユージが小さく笑う。

「相変わらず、リーダーシップの塊だな」


呼びかけに、次々と賛同者が集まってくる。


「おいおい、男前のあんちゃんがバシッと決めたな!あたしたちも参加するぜ」

巨大なアックスを片手で持ち、グレンダが豪快に笑う。


アヤは髪をかき上げて小さくため息をついた。

「まったく……しょうがないわね。どうしてもって言うなら、付き合ってあげてもいいけど」


ノイスが聞こえないように小声で話す。

「あの三人組もしっかり合格してるんだね」


その様子を見て、ユージが呟く。

「……ダイヤ山の時に感じたが、三人とも強い。何より連携が取れてる。悔しいが、実力は本物だな」

 

――食事場。

長卓を囲み、冒険者たちが腰を下ろす。


「一つ、みんなに言っておきたい。私はフルーレ王国第三王子、ルイだ」

ざわ、と周囲が揺れ、レオンが目だけで問いかける。

「……よろしいのですか?」

「構わない。これから共に死地へ赴く仲だ。隠し事はしたくない。そして、ここでの飲食代は我々が持とう。――それと、出来れば皆も軽く自己紹介を頼む」

食事場に着くや否や、場を仕切るルイ。


一番にグレンダが豪快に立ち上がる。

「王子様が魔族退治たあ、傑作だな。あたしはグレンダ。スキルは《剛装備》。どれだけ重い防具や武器でも重さを感じねぇ。よろしくなっ!」

巨大なアックスを片手で軽々と持つ。どよめきが起こる。


「忍びのアヤ。スキルは《忍法・異常封具》。武器に異常効果を付与出来るわ」

アヤの手裏剣やマキビシにノイスが反応する。

「わぁ、こんな形の武器、初めて見た! スキルの使い方はちょっとユージに似てるね」

ユージを睨むアヤ。

「余計なこと言うなよ!また絡まれるだろ!」

ユージがノイスの口を塞ぐ。

「……アリス。魔法、得意……」


「早速の自己紹介、ありがとう」

ルイが頷く。


「俺はライト! スキルは《自動回復》。近接担当だ!」

そう言ってテーブルのナイフで自分の手を軽く切り、瞬時に塞がってみせる。

「パフォーマンス込みはサービス良すぎやろ!」

と特徴的な訛りの男が笑う。

「わいはリーオ。スキルは《超反応》や。――ほな、じゃんけんぽん! ……ほれ、ワイの勝ち。じゃんけん無敗やで!」


ユージが短く名乗る。

「ユージ。スキルは《影の暗殺者》」

「ぼ、僕はノイス! 人前だと緊張しちゃうけど、魔法使いです!」


無口な帽子の男がひと歩下がって会釈する。

「……ダリオ」

リーオが補足する。

「この帽子の兄ちゃんは口数少ないけど腕は確かや。一緒に試験に参加したんや。遠距離からバンバン撃つで!」

ユージが目ざとく武器に目を留めた。

「それはなんだ?」

「俺の相棒だ。金属の弾を“炎魔法”で撃ち出す」

「……そんな武器があるんですね。魔法道具に分類されるのかな?」

ノイスが感心しながら武器を眺めていた。


続いて、武術系の三人が前に出る。

「我らは棍使いのコン」

「槍使いのソウ……」

「ヌンチャク使いのセツあるよ!」

「スキルは《気功武具》。気を武具に伝達するスキルだ」


魔法使い組も名乗りを上げた。

「僕らは三人とも魔法使いなんだ。僕はエレキ。スキルは《雷魔法適性》」

「私は水魔法使いのマリーナ。よろしくね」

「土魔法のドルンだ」


「皆もありがとう。――私のスキルは《カリスマ・ジ・オーラ》。発現したばかりだが、今いる従者二名の能力を底上げできるスキルだ。従者の剣士レオン、盾使いのシルヴィだ。よろしく」


グレンダがニヤつく。

「変なスキル名だな? 覚えづらいし、もし自分で付けたならセンスないぜ?」

シルヴィが即座に口を出す。

「黙って聞いていれば……ルイ様に対してその態度の大きさ。大きいのは体付きだけにしてください」

「んだと?盾女?」

「“盾女”ですって? 最初に見かけた時、あなたの言葉遣いがあまりに荒っぽくて、男性の方かと思いましたよ」

睨み合うグレンダとシルヴィ。

「シルヴィ!」すぐにルイが制した。

「連れが失礼した。気分を害したなら謝ろう」

アヤもグレンダを肩を押さえる。

「グレンダも喧嘩売りすぎよ」

「へいへい」


各自の自己紹介が終わり、ルイは皆を見渡して口を開いた。

「ここに――力の在り方も、生まれも、歩んできた道も異なる十七人が揃った。 だが今この瞬間、我らは同じ志のもとに立っている。そして確信している。この場に集った十七人こそ、間違いなく“最強”の仲間たちだ。この十七人で――“新たな伝説”を刻もう!」

ルイの言葉が終わると、場の空気が変わった。誰もが、自分の胸の奥に火が灯るのを感じていた。


グレンダが大斧を担ぎ、ニッと笑った。

「上等だ。ビシッと決めてくれたな、王子様」


ライトが椅子を蹴って立ち上がる。

「伝説か……悪くねえな、それ!」


シルヴィがグラスを置き、凛とした声で続ける。

「……ルイ様。なんとご立派なお言葉でしょう。必ず――この手で道を切り開いてみせます」

バラバラだった17人に確かな一体感が生まれた。


打ち解けてくると、話題は自然と戦術や武勇譚へと移っていった。


リーオが興味津々に身を乗り出す。

「影のスキルっちゅうんか? かっこええな! どんな技なんや?」

ユージはグラスを回しながら淡々と答える。

「影に矢を刺して動きを止めたり……自分の影を飛ばして斬ったりだ」

「なんやそれ! 最強やん! なあなあ、一緒に組まへんか?」

ユージは苦笑して肩をすくめた。

「悪いが、パーティはもう間に合ってるんでな」


エレキがノイスにぐっと身を乗り出した。

「ねぇノイス君、君はどんな魔法が得意なんだい?」

ノイスは少し考えてから答える。

「えっと……炎と氷かな。他はあんまり得意じゃないんだ」

エレキの目が丸くなる。

「二属性!? それ、かなり珍しいよ!」

「えっ、そうなの?」

マリーナが感心したように微笑む。

「私たちの魔法国家でも、二属性使いは滅多にいないわ。普通はどちらかに偏ってしまうものよ。……どこで学んだの?」

ノイスは照れくさそうに頬をかく。

「施設の本で独学で勉強したんだ。誰かに教わったわけじゃなくて……」

ドルンが目を見開いた。

「今の時代に独学でここまでやるとは……信じられん」

「え、えへへ……そ、そんなに褒めないでよぉ」

エレキが嬉しそうに手を叩く。

「いや、本気で凄いって! 独学で相反する二属性を扱えるなんて、天才としか言いようがない!」

マリーナも頷きながら優しく言う。

「ちゃんと学べば、きっとすぐに上級魔法使いになれるわ」

エレキの瞳がさらに輝く。

「ねぇ、この戦いが終わったら、うちの魔法学院に来てみない? 特待生も狙えると思う!」

「ぼ、僕が魔法学院に……?」

「ああ。魔法書は読みきれないほどあるし、教員も一流だ。君ならきっと満足できる!」

ノイスは夢見るように呟いた。

「そんな……夢みたいな話が、本当に……」

エレキは笑ってノイスの肩を軽く叩く。

「ぜひ前向きに考えてみて!」

「う、うん……ありがとう。考えてみるよ」

 

別卓では、武術組とライトがすっかり意気投合していた。


コンが興味深そうに問いかける。

「皆は、何故この依頼を受けたんだ?」

グレンダが骨付き肉をかじりながら笑う。

「決まってんだろ! 面白そうだからさ! “攻略不可能の魔族城”――聞いただけで血が騒ぐだろ?」

ライトも豪快に笑って応じる。

「俺も強ぇ魔族がいるなら、戦ってみてぇ!」

グレンダが大きく頷いた。

「なんだよ、話がわかるじゃねぇか!」


ソウが苦笑しながらグラスを傾ける。

「二人は本当に戦いが好きそうで、うらやましい……」


ライトが首を傾げた。

「戦いが嫌いなのか?」


セツが少し俯きながら口を開く。

「私たちの故郷は、とても貧しいある。報酬が出るなら、どんな戦いでもやるあるよ」


その言葉に、コンとソウも静かに頷いた。

三人の表情には、どこか影が差していた。


そんな空気を感じ取ってか、グレンダは骨付き肉を平らげると、わざと明るく笑い声を上げた。

「そっか! まあ、報酬も大事だけどな! せっかく戦うなら、楽しんだもん勝ちだろ!」

 

ライトがふと思い出したように顔を上げる。

「なあ、黒い“龍型”の魔族を見たことはねぇか?」

コンが首を横に振る。

「すまない。龍型すら見たことはない」

ライトの表情が少し険しくなる。

「そいつは“魔素の塊”を操って、各地で悪さをしてる。……俺は、そいつを追ってここまで来たんだ」

グレンダが興味を隠さず笑った。

「へぇ、面白ぇじゃねぇか。そんな奴なら、一度やり合ってみたいね」

「強ぇぞ?」

「だからこそだよ! そのためにアタシは冒険者になったんだ!」

ライトは拳を握りしめる。

「……俺は一度、あいつに負けてる。だが次は絶対に負けねえ」

グレンダは豪快に笑い、拳を突き合わせた。

「わかるぜ、その気持ち。負けっぱなしってのは、性に合わねぇよな!」

 

その光景をアヤとシルヴィは横目に見ていた。

「いつの間に意気投合して……まったく、グレンダは自由なんだから」

「いつもああなのですか?」

「お察しの通りよ」

「苦労しますね。こちらも連れにどうしようもない阿呆が一人」

二人は同時に言った。

「はぁ、悪い人じゃないんだけどね」

「はぁ、悪い人ではないのですけど」

「……お互い苦労しますね」

「ええ、ほんとに」


その様子を眺めていたルイが笑う。

「言われているぞ、レオン」

「シルヴィの口は刃より辛辣ですから」


「でも皆、打ち解けてくれたみたいで良かった! 君は楽しくないか?」

ルイは一人離れがちなアリスに声を掛ける。

「……こういう時、どうしていいかわからない」

「好きにしてればいいのだ」

「……賑やかなの、苦手」

「すまないな。嫌な思いをさせてしまったか……」

「でも……グレンダ達が楽しそうだから、別にいい」


――こうして、魔族城攻略組の親睦会は夜更けまで賑わい、見知らぬ者同士だった顔ぶれに、確かな“横の線”が一本、通ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ