第二十一話 魔族城攻略チーム
会場を出ると、すぐ外でルイたちが待っていた。
「ライト! どうだった?」
「なんとかなったぜ。あの魔導生物、電撃まで使いやがって……ちょい痺れたけどよ」
「電撃……やはり個体ごとに特性が違うらしいな」
ユージが眉を寄せる。
「“やはり”ってどういう事だ?」
「ここで待っていたが、挑戦者の負傷の仕方がバラバラだったのでな。火傷の者もいれば、切り傷だらけの者もいた」
シルヴィが続ける。
「私たちの相手は“二体に分裂して、同時に倒さないと再生する”タイプでした。幸い一体一体はさほど強くなかったので、合わせて落とせましたが」
ユージが顎を触る。
「なるほどな……各特性への対処力を見てる試験ってことか」
レオンが感嘆の息を漏らす。
「それにしてもゲトラムの技術は驚嘆に値する。あれだけのものを造るとは」
夜になると合格者の呼び出しがかかり、大広間に集められる。人数は4分の1以下に減っていた。
「諸君、合格おめでとう!」
壇上の連盟職員が声を張る。
「この試験を突破した諸君は、冒険者の中でも紛れもないトップクラスだ。長らく奪還できなかった“魔族城”も、この精鋭ならば攻略できるだろう。三日後、再びここに集合してほしい。我々の誘導員が現地まで案内する。それまでに同じ攻略チーム同士、交流を深めておいてくれ」
解散の声がかかるや、ルイが一歩前へ出た。
「魔族城攻略の前に、互いの戦い方や人となりを知っておきたい。強制はしないが――親睦を深め、信頼を築くことが成功への鍵になるはずだ。このあと、少し時間を取って親睦会をしないか?」
ユージが小さく笑う。
「相変わらず、リーダーシップの塊だな」
呼びかけに、次々と賛同者が集まってくる。
「おいおい、男前のあんちゃんがバシッと決めたな!あたしたちも参加するぜ」
巨大なアックスを片手で持ち、グレンダが豪快に笑う。
アヤは髪をかき上げて小さくため息をついた。
「まったく……しょうがないわね。どうしてもって言うなら、付き合ってあげてもいいけど」
ノイスが聞こえないように小声で話す。
「あの三人組もしっかり合格してるんだね」
その様子を見て、ユージが呟く。
「……ダイヤ山の時に感じたが、三人とも強い。何より連携が取れてる。悔しいが、実力は本物だな」
――食事場。
長卓を囲み、冒険者たちが腰を下ろす。
「一つ、みんなに言っておきたい。私はフルーレ王国第三王子、ルイだ」
ざわ、と周囲が揺れ、レオンが目だけで問いかける。
「……よろしいのですか?」
「構わない。これから共に死地へ赴く仲だ。隠し事はしたくない。そして、ここでの飲食代は我々が持とう。――それと、出来れば皆も軽く自己紹介を頼む」
食事場に着くや否や、場を仕切るルイ。
一番にグレンダが豪快に立ち上がる。
「王子様が魔族退治たあ、傑作だな。あたしはグレンダ。スキルは《剛装備》。どれだけ重い防具や武器でも重さを感じねぇ。よろしくなっ!」
巨大なアックスを片手で軽々と持つ。どよめきが起こる。
「忍びのアヤ。スキルは《忍法・異常封具》。武器に異常効果を付与出来るわ」
アヤの手裏剣やマキビシにノイスが反応する。
「わぁ、こんな形の武器、初めて見た! スキルの使い方はちょっとユージに似てるね」
ユージを睨むアヤ。
「余計なこと言うなよ!また絡まれるだろ!」
ユージがノイスの口を塞ぐ。
「……アリス。魔法、得意……」
「早速の自己紹介、ありがとう」
ルイが頷く。
「俺はライト! スキルは《自動回復》。近接担当だ!」
そう言ってテーブルのナイフで自分の手を軽く切り、瞬時に塞がってみせる。
「パフォーマンス込みはサービス良すぎやろ!」
と特徴的な訛りの男が笑う。
「わいはリーオ。スキルは《超反応》や。――ほな、じゃんけんぽん! ……ほれ、ワイの勝ち。じゃんけん無敗やで!」
ユージが短く名乗る。
「ユージ。スキルは《影の暗殺者》」
「ぼ、僕はノイス! 人前だと緊張しちゃうけど、魔法使いです!」
無口な帽子の男がひと歩下がって会釈する。
「……ダリオ」
リーオが補足する。
「この帽子の兄ちゃんは口数少ないけど腕は確かや。一緒に試験に参加したんや。遠距離からバンバン撃つで!」
ユージが目ざとく武器に目を留めた。
「それはなんだ?」
「俺の相棒だ。金属の弾を“炎魔法”で撃ち出す」
「……そんな武器があるんですね。魔法道具に分類されるのかな?」
ノイスが感心しながら武器を眺めていた。
続いて、武術系の三人が前に出る。
「我らは棍使いのコン」
「槍使いのソウ……」
「ヌンチャク使いのセツあるよ!」
「スキルは《気功武具》。気を武具に伝達するスキルだ」
魔法使い組も名乗りを上げた。
「僕らは三人とも魔法使いなんだ。僕はエレキ。スキルは《雷魔法適性》」
「私は水魔法使いのマリーナ。よろしくね」
「土魔法のドルンだ」
「皆もありがとう。――私のスキルは《カリスマ・ジ・オーラ》。発現したばかりだが、今いる従者二名の能力を底上げできるスキルだ。従者の剣士レオン、盾使いのシルヴィだ。よろしく」
グレンダがニヤつく。
「変なスキル名だな? 覚えづらいし、もし自分で付けたならセンスないぜ?」
シルヴィが即座に口を出す。
「黙って聞いていれば……ルイ様に対してその態度の大きさ。大きいのは体付きだけにしてください」
「んだと?盾女?」
「“盾女”ですって? 最初に見かけた時、あなたの言葉遣いがあまりに荒っぽくて、男性の方かと思いましたよ」
睨み合うグレンダとシルヴィ。
「シルヴィ!」すぐにルイが制した。
「連れが失礼した。気分を害したなら謝ろう」
アヤもグレンダを肩を押さえる。
「グレンダも喧嘩売りすぎよ」
「へいへい」
各自の自己紹介が終わり、ルイは皆を見渡して口を開いた。
「ここに――力の在り方も、生まれも、歩んできた道も異なる十七人が揃った。 だが今この瞬間、我らは同じ志のもとに立っている。そして確信している。この場に集った十七人こそ、間違いなく“最強”の仲間たちだ。この十七人で――“新たな伝説”を刻もう!」
ルイの言葉が終わると、場の空気が変わった。誰もが、自分の胸の奥に火が灯るのを感じていた。
グレンダが大斧を担ぎ、ニッと笑った。
「上等だ。ビシッと決めてくれたな、王子様」
ライトが椅子を蹴って立ち上がる。
「伝説か……悪くねえな、それ!」
シルヴィがグラスを置き、凛とした声で続ける。
「……ルイ様。なんとご立派なお言葉でしょう。必ず――この手で道を切り開いてみせます」
バラバラだった17人に確かな一体感が生まれた。
打ち解けてくると、話題は自然と戦術や武勇譚へと移っていった。
リーオが興味津々に身を乗り出す。
「影のスキルっちゅうんか? かっこええな! どんな技なんや?」
ユージはグラスを回しながら淡々と答える。
「影に矢を刺して動きを止めたり……自分の影を飛ばして斬ったりだ」
「なんやそれ! 最強やん! なあなあ、一緒に組まへんか?」
ユージは苦笑して肩をすくめた。
「悪いが、パーティはもう間に合ってるんでな」
エレキがノイスにぐっと身を乗り出した。
「ねぇノイス君、君はどんな魔法が得意なんだい?」
ノイスは少し考えてから答える。
「えっと……炎と氷かな。他はあんまり得意じゃないんだ」
エレキの目が丸くなる。
「二属性!? それ、かなり珍しいよ!」
「えっ、そうなの?」
マリーナが感心したように微笑む。
「私たちの魔法国家でも、二属性使いは滅多にいないわ。普通はどちらかに偏ってしまうものよ。……どこで学んだの?」
ノイスは照れくさそうに頬をかく。
「施設の本で独学で勉強したんだ。誰かに教わったわけじゃなくて……」
ドルンが目を見開いた。
「今の時代に独学でここまでやるとは……信じられん」
「え、えへへ……そ、そんなに褒めないでよぉ」
エレキが嬉しそうに手を叩く。
「いや、本気で凄いって! 独学で相反する二属性を扱えるなんて、天才としか言いようがない!」
マリーナも頷きながら優しく言う。
「ちゃんと学べば、きっとすぐに上級魔法使いになれるわ」
エレキの瞳がさらに輝く。
「ねぇ、この戦いが終わったら、うちの魔法学院に来てみない? 特待生も狙えると思う!」
「ぼ、僕が魔法学院に……?」
「ああ。魔法書は読みきれないほどあるし、教員も一流だ。君ならきっと満足できる!」
ノイスは夢見るように呟いた。
「そんな……夢みたいな話が、本当に……」
エレキは笑ってノイスの肩を軽く叩く。
「ぜひ前向きに考えてみて!」
「う、うん……ありがとう。考えてみるよ」
別卓では、武術組とライトがすっかり意気投合していた。
コンが興味深そうに問いかける。
「皆は、何故この依頼を受けたんだ?」
グレンダが骨付き肉をかじりながら笑う。
「決まってんだろ! 面白そうだからさ! “攻略不可能の魔族城”――聞いただけで血が騒ぐだろ?」
ライトも豪快に笑って応じる。
「俺も強ぇ魔族がいるなら、戦ってみてぇ!」
グレンダが大きく頷いた。
「なんだよ、話がわかるじゃねぇか!」
ソウが苦笑しながらグラスを傾ける。
「二人は本当に戦いが好きそうで、うらやましい……」
ライトが首を傾げた。
「戦いが嫌いなのか?」
セツが少し俯きながら口を開く。
「私たちの故郷は、とても貧しいある。報酬が出るなら、どんな戦いでもやるあるよ」
その言葉に、コンとソウも静かに頷いた。
三人の表情には、どこか影が差していた。
そんな空気を感じ取ってか、グレンダは骨付き肉を平らげると、わざと明るく笑い声を上げた。
「そっか! まあ、報酬も大事だけどな! せっかく戦うなら、楽しんだもん勝ちだろ!」
ライトがふと思い出したように顔を上げる。
「なあ、黒い“龍型”の魔族を見たことはねぇか?」
コンが首を横に振る。
「すまない。龍型すら見たことはない」
ライトの表情が少し険しくなる。
「そいつは“魔素の塊”を操って、各地で悪さをしてる。……俺は、そいつを追ってここまで来たんだ」
グレンダが興味を隠さず笑った。
「へぇ、面白ぇじゃねぇか。そんな奴なら、一度やり合ってみたいね」
「強ぇぞ?」
「だからこそだよ! そのためにアタシは冒険者になったんだ!」
ライトは拳を握りしめる。
「……俺は一度、あいつに負けてる。だが次は絶対に負けねえ」
グレンダは豪快に笑い、拳を突き合わせた。
「わかるぜ、その気持ち。負けっぱなしってのは、性に合わねぇよな!」
その光景をアヤとシルヴィは横目に見ていた。
「いつの間に意気投合して……まったく、グレンダは自由なんだから」
「いつもああなのですか?」
「お察しの通りよ」
「苦労しますね。こちらも連れにどうしようもない阿呆が一人」
二人は同時に言った。
「はぁ、悪い人じゃないんだけどね」
「はぁ、悪い人ではないのですけど」
「……お互い苦労しますね」
「ええ、ほんとに」
その様子を眺めていたルイが笑う。
「言われているぞ、レオン」
「シルヴィの口は刃より辛辣ですから」
「でも皆、打ち解けてくれたみたいで良かった! 君は楽しくないか?」
ルイは一人離れがちなアリスに声を掛ける。
「……こういう時、どうしていいかわからない」
「好きにしてればいいのだ」
「……賑やかなの、苦手」
「すまないな。嫌な思いをさせてしまったか……」
「でも……グレンダ達が楽しそうだから、別にいい」
――こうして、魔族城攻略組の親睦会は夜更けまで賑わい、見知らぬ者同士だった顔ぶれに、確かな“横の線”が一本、通ったのだった。




