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第二十話 魔導生物

ユージが腕を組みながら、眉をひそめる。

「魔導生物って、どんなやつなんだ? さっぱりわからないな」


ノイスが杖を磨きながら答える。

「訓練とかで使う、連盟が開発した魔族に近い存在なのかな?」


ライトは肩を回しながら笑う。

「どっちにしろ、ぶっ飛ばせばいいだけだろ。相手が何だろうと関係ねぇさ」


会場には番号札が配られ、冒険者たちは整列させられていく。

ルイーゼたちの組はライトたちより少し前の順番だった。


そんな中、聞き覚えのある豪快な声が響く。

「おやぁ? どっかで見た顔だと思ったら――この前、魔族にガツンとやられてた三人じゃねぇか!」


声の主はグレンダ。隣にはアヤとアリスの姿もあった。

アヤが腕を組んで冷ややかに言い放つ。

「あそこで負けてるようじゃ、魔族城攻略なんて無理ね。今のうちに諦めたら?」


ライトは煙たそうな顔で言い返した。

「あん時はいろいろあっただけでな。別にお前らがいなくても何とかなってたさ」


アリスが無表情のまま呟いた。

「……言い訳……かっこ悪い」


ユージが苛立ったように口を開く。

「また絡んできやがったな。お前らこそ、女だけで大丈夫なのかよ?」


その一言で、グレンダの眉がピクリと動く。

「カッチーン! あんた今、私らに一番言っちゃいけねぇこと言ったな! 強ぇか弱ぇかは男も女も関係ねぇだろ!」


ライトは笑いながら同意する。

「それはそうだな! このデカ女の言う通りだぜ、ユージ!」


「カッチーン! 二番目にムカつくこと言いやがったな!!」

グレンダが巨大なアックスを構え、肩を鳴らす。


アヤがため息をつきながら間に入った。

「その辺にしときましょ。 勘違いしないでよね!こっちは“親切”でやめとけって言ってあげてるんだから!」


ノイスは恐る恐るアリスに話しかけた。

「君、あの時魔法を動かしてたよね? それにその笛が杖の代わりなのかな?」


アリスは少し顔を背けて、ぼそりと答える。

「……ナンパされるの……迷惑」


「ふ、ふうぇ!? ナンパ? ち、違うってば!」

ノイスが慌てて手を振る。


そこへ、連盟の職員の鋭い声が飛んだ。

「そこ! 争い事はやめてもらおう。それとも――試験の参加資格を取り消すか?」


グレンダはアックスを肩に担ぎ、ニヤリと笑う。

「今まで誰も攻略できなかった魔族城だ。そんな面白そうな依頼、ここに来て取り消すわけにはいかねぇな」


ユージも短く返す。

「俺らもだ。ここまで来てやめられるかよ」


やがて、場内の緊張が戻る。

前方から「ドンッ!」「ガンッ!」という爆発音が響き、冒険者たちのざわめきが広がった。


「うわあああああっ!!」

悲鳴混じりの声が遠くから聞こえてくる。


ユージが眉をひそめる。

「……今の、悲鳴だよな? 大丈夫なのか?」


ノイスは無理に笑って答える。

「き、気のせいだよ、きっと……! 人工的に作ってるなら、ちゃんと操ってる人がいるはずだよ!」


ライトが視線を前に向けた。

「そろそろルイーゼたちの番だぜ」


ルイーゼは頷き、静かに剣の柄に手を添えた。

「行ってくる」


「落ち着いて行けよ! ルイーゼなら大丈夫だ!」

ライトが拳を突き出す。


ルイーゼは小さく笑い、拳を合わせた。

「私もこんなところで足止めを食らうつもりはないさ」


三人は見送る。

ノイスが呟く。

「あの三人なら問題ないよ。ルイーゼのスキルで、ただでさえ強い二人がさらに強化されるんだから」


ユージも頷いた。

「ああ、試験内容的にも得意とする三人での戦闘だ。問題ないはず」


しばらくして、次の冒険者たちが呼ばれる。

ノイスが呟く。

「終わったのかなぁ……?」

ライトはルイたちを心配していた。

「ルイーゼたち、どうなってるかな……」


「人の心配してる場合じゃねぇぞ」

ユージが小声で返す。


その後も順調に呼ばれていき、グレンダたちの番になった。

「うう……でも魔導生物がどんなのかわからないから、対策しようがないよ」

ノイスが肩を落とすと、ユージが即座に指示を出す。

「いつも通りで行くぞ! ライトが前衛、俺が支援と指示。ノイスは後方から魔法だ」


その時、試験場の奥から轟音が響いた。

――ドカンッ! バチバチッ!

「あいつら、派手にやってるな」

ユージが眉を上げる。

 

しばらくすると静かになり、次の冒険者たちが呼ばれる。

しかし、不自然なほど次々と冒険者たちが呼ばれていく。

「次の組、入場!」

「次の冒険者、準備を!」


ライトが首を傾げた。

「なんか急にペース早くねぇか?」

「明らかに進みが早い……」

「そ、そうだね……これだとすぐに順番が回ってきそう」


――そして、ついに。


「次、ライト・ユージ・ノイスの組!」


「よし、出番だな!」

ライトが立ち上がり、拳を鳴らす。


試験場は小さな闘技場のような構造だった。

厚い鉄扉の前に案内人が立ち、説明を始める。


「今から“魔導生物”と戦ってもらう。この扉の向こうにいる。一度扉が閉まると、中からは開かない。いいな?」


ユージが確認する。

「魔導生物は……壊しちまってもいいんだよな?」


案内役の職員は短く頷いた。

「構わない。本気でやってくれ。試験官は別の場所から観察している。強さを――存分に見せてほしい」


その頃、試験場の奥では、連盟の職員たちが慌ただしく声を交わしていた。

「おい!あの個体……強すぎる。冒険者たち一瞬でやられている!」

「一度出したらもう戻せない。このまま進行しろ!」

「これじゃ……これから先、誰も合格できなくなるぞ!」


緊迫した空気が漂う中、彼らの声は分厚い壁の向こうに遮られ、外には届かない。


――そんな事など露ほども知らず、ライトたちは静かに扉の前に立っていた。


扉の向こうから、低くうなるような音が聞こえていた。

「準備はいいか?」


低い声が響く。

ライト、ユージ、ノイスは迷いなく前を向いた。


「「「はい!」」」


重い鉄扉が音を立てて開く。半円形の闘技場、半径二十メートル。壁は人の背の二倍、天井は鉄格子越しに薄明かり。

中央に“それ”が立っていた。異様なオーラを放つ紫の皮膜、右腕の関節から刃を生やし、皮膚の下で青白い電が踊る。

そして、周囲にはすでに戦闘不能となって倒れている冒険者たちの姿――。


「……なんだ、これ」

ユージが呟いた瞬間、魔導生物がこちらを認識し、鋭く振り向く。


「来るぞッ!!」


ユージの声が響くより早く、怪物は地を蹴った。

「ノイス、距離を取れ!!」

「う、うん!」


轟音とともに怪物が突進。

ライトが迎え撃つように剣を構え、叫ぶ。

「おりゃあっ!!」


剣を振るが、ギリギリのところで避けられる。

次の瞬間、怪物の腕が光を帯び、

「バチッ! バチバチバチッ!!」


稲妻が走った。

「な、なんだこいつは!」

ライトを電撃が薙ぎ払う。


ノイスが叫ぶ。

「あれは雷魔法!? 魔導生物って魔法まで使うの!?」


ユージの目が鋭く光る。

「思ったより厄介だな……俺が動きを止める!」


ユージは素早く駆け出し、床を滑る影に狙いを定め、小型クロスボウを構えた。

「――《影縫い》ッ!」


放たれた矢が床を貫く。だが、怪物はわずかに身をずらし、影を動かし矢から逃れる。


「避けやがった!? スキルを理解してるのか!?」


「ブギャァアアアッ!!」

咆哮とともに怪物が跳びかかる。

腕から伸びた刃がユージに襲いかかるが、ダガーで受け止めた。


「くっそ、重ぇッ!」


そこへライトが割り込む。

「こっちだ!――《光の剣》ッ!」


左側から光の一閃が走る。

――キィン!

だが、魔導生物は左腕からも刃を出現させ、攻撃を受け止める。

「剣が生えてきやがったぞ……!」


ノイスが詠唱に入る。

「二人とも避けて!――《ファイヤーボール》!」


炎弾が一直線に飛ぶ。

しかし、魔導生物は驚異的な反応速度で足を振り上げ、炎弾を蹴り飛ばした。


「うそ!……蹴った!?」


その勢いのまま、ライトとユージは強烈な蹴りを受け、壁に叩きつけられた。


「ぐはっ!」

「ぐっ……!」


ライトが息を荒げながら立ち上がる。

「あの反応速度と動きの速さ……速すぎてどうしようもねえぞ……!」


ユージが冷静に分析する。

「あの機動力は足あってこそだ。まずは脚を潰すぞ!」

 

「ああ、わかった」

ライトが脚を狙い再び斬りかかるが、またも刃で受け止められ、受け止めた刃から電撃が走る。

「うわぁあああっ!!」


「ライト!」

「だ、大丈夫だ……ちょっと痺れただけだ!」


ノイスが詠唱を切り替えた。

「突き刺され! 氷の針よ!――《アイス•ニードル》!」


足元を狙うが、魔導生物は上空へ跳躍して回避。

だが、避けた先の影が伸びる。


ユージが叫ぶ。

「《影斬り》ッ!」


そこにライトの斬撃が重なった。

「《光の斬撃》ッ!!」


二人の攻撃が同時に炸裂。


ユージが息を詰める。

「……やったか!?」


煙が晴れ、怪物は両腕の刃で攻撃を受け止めていた。

しかし、その体がわずかに傾く。


ノイスが息を呑む。

「防がれたけど、効いてるよ!」


「今だ!畳み掛ける!!」

ユージとライトが同時に飛び込む。


だが、怪物の全身が一瞬光を放ち、

――「ギャアアアアア!!」


刃が外向きになるように体を捻り、縦軸に回転し始めた。

電撃を纏った竜巻のように、突進してくる。


「くそっ、回転しながら突っ込んでくるぞ!」


――ビリビリビリビリッ!

なんとか避けたはずの二人も、電撃の余波に巻き込まれる。

「「うわあぁぁ!」」

そのまま魔導生物はノイスへと突っ込んでくる。

ノイスが即座に詠唱。

「業火の盾よ!僕を守って!――《ファイヤー・シールド》!」


炎の盾が広がり、魔導生物を受け止める。

「ぐぅっ……炎の盾が削り取られる!」

魔導生物はノイスの盾に阻まれ、一旦距離を取った。


「なんて技だ! あの状態じゃ、攻撃なんて出来ねぇぞ」

ライトが光の剣を構え直す。

「いや、俺たちは運がいい。あいつが退避したあの場所!矢が刺さったところだ!――《影縫い》」

魔導生物の動きが止まる。

「へへっ、でかしたぞ!ユージ!!」


光の剣が閃き、動けない無防備な魔導生物の首元を確実に狙う――が、

――キィンッ!

なんと首元から刃が生え、防がれる。


「うそだろ!?」


「ブギャオオオオオ!!」

怪物は咆哮を上げ、影の拘束を打ち破る。


ユージが舌打ちする。

「くそっ、長くは持たねぇか!」


ノイスが声を上げた。

「でも、見て! なんか苦しそう!」


魔導生物が痙攣している。

刃を出した箇所からも黒い液体が噴き出し、紫色の肌は電撃を出している影響か焼き焦げている。


ユージの目が鋭くなる。

「自分の技で自分を苦しめているのか……?」

ノイスが提案する。

「もしかして、この試験は強力な魔導生物を消耗させて倒す。そういう事?」

ライトは《光の剣》を握り直す。

「だったら、持ち堪えれば俺らの勝ちだな」


「よし!三人で固まるぞ、守りに徹する!」

ユージの掛け声で三人は密着して陣を組む。


「グワガァァァァアアアアアア!」

――ッジャキン!

魔導生物が咆哮を上げ、全身から刃を突き出した。

「これが最後の一撃ってわけか……!」

三人は身構える。

先程と同じように、全身に電撃をまとい、縦回転しながら突進してくる。

――ビリビリビリビリッ!!!


「業火の盾よ!僕たちを守って!――《ファイヤー•シールド》!!」

真っ直ぐに炎の盾にぶつかってくる。

――ギュインギュインバチビチ!

炎の盾が、すさまじい勢いで削られていく。


「もたないよっ!!」

「加勢する! ふおおおぉぉっ!!」

ライトが《光の剣》で押し出す。


ユージが矢を装填する。

「効くかわからんが――《麻痺矢》!!」

麻痺を付与した矢を連続で魔導生物へ撃ち込む。


「「「止まれええええぇぇぇっ!!!」」」


魔導生物の動きが止まる。


「……止まった?」

ノイスの声が震える。


焼き爛れた皮膚から刃がボロボロと抜け落ち、重い音を立てて崩れた。


ユージが膝に手をつきながら、息を吐く。

「……やった、やったぞ……!」


ライトが笑みを浮かべ、剣を肩に担ぐ。

「へへっ、なんとか勝ったな」


その時、重い扉が開き、連盟職員が入ってくる。

「おめでとうございます。合格です!」


連盟職員は間髪入れずに出口に案内する。

「次の組の準備があります。すぐにお進みください」


三人は互いに顔を見合わせ、

疲れ切った笑みを浮かべながら案内されるまま会場を後にした。

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