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第二話 自然回復(オートヒール)

キマイラは吹き飛ばされたライトにトドメを刺すべく、巨腕を振り上げて迫る。


――ドンッ!


大地が震えた。

次の瞬間、キマイラの巨体が逆に吹き飛ばされる。


「な、何が起きたんだ!」

ユージが目を見開く。


「あれを見てよ、ユージ!!」

ノイスが指差した先――そこには一人の男が立っていた。


「エ、エルディオだ……!」

「ホ、ホンモノのエルディオだ!!」


生きる伝説。

三人が憧れてやまなかった冒険者――エルディオが、そこにいた。


「君たち、キマイラ相手によくぞ足止めをしてくれた!」

ライトを抱えながら、エルディオが感心したように微笑む。


「そもそも私がキマイラを追っていたのだが、逃げられてしまってね。そのせいで……この子は……」

エルディオはライトの失われた腕を見つめた。


「へへっ、こんなん、やられたうちに入らねぇぜ。俺にはまだ右手があるしな!」

ライトはニッと笑い、残った右手で剣を構える。

「エルディオ! まだ戦えるぜ、俺は!」


「はっはっは! 面白い少年だ。――では、三人とも! お手伝い頂こうか!」


エルディオは身の丈ほどある剣を軽々と振るい、キマイラへ斬りかかった。


――ガギンッ!


エルディオの攻撃はキマイラの爪のとぶつかるが、キマイラを押し返す。


「すごい……! なんてパワーだ。キマイラに力負けしていない!」

ノイスが息を呑む。


エルディオの猛攻に、キマイラは怯んで後退した。


「させるか!」

ユージが放った矢がキマイラの足を射抜く。


「足元ならどうだ!」

少し動きが鈍ったキマイラに、すかさず――


「貫け!氷の槍よ!……《アイスランス》!」

ノイスの氷槍が命中する。


「「うおぉおっ!」」

ライトとエルディオが同時に駆け抜け、剣を交差させて斬り裂いた。


キマイラは悲鳴を上げ、地面に崩れ落ちた。


「やった!!」

三人の歓声が響く。


「はっはっは! いいコンビネーションだ。三人とも、なかなかに筋がいい!」

エルディオが満足そうに頷いた。


「……ライト、大丈夫か?」

ユージが駆け寄る。


「へへっ、見てみろよ!」

ライトは笑い、千切れたはずの腕を掲げた。

――そこには、再生した腕があった。


「ここまでやられたのは初めてだけど……どうやら腕くらいなら再生できるみたいだ」


「君は……回復系のスキルなのか!? 切り落とされた腕を戦いながら再生させるとは。

今まで数多くの回復スキルを見てきたが、これだけの再生力は初めてだ! はっはっは! やはり面白い!」


「へへっ、あのエルディオに褒められちまったぜ」

「褒められたのはお前のスキルだけどな! ……それより、エルディオが来てくれて助かった。流石にもうダメかと思ったぜ」


ユージはライトが褒められた事に少し嫉妬していた。

 

「申し訳ないのはこちらさ。キマイラのような上位魔族がこの辺に出ることはない。

私でも苦戦する相手だ。私が追い詰めたせいでこんな所まで逃げてしまったんだ。」


エルディオは三人に頭を下げていた。


「わ、わぁ! やめてください!!エルディオさん!」

頭を下げるエルディオにノイスは慌てて両手をぶんぶん振った。

「それより、こんなところでまた会えるなんて感動です!

僕たちはリック村の施設からここまで来たんですよ!」


「リック村の施設か……ああ、確か立ち寄ったことがあったな。懐かしい。

ということは、もしかしてあのとき話した“冒険者志望の子どもたち”か」


「おう!そうだぜ! エルディオが“冒険者になれる”って言ってくれたから、ここまでやってこれたんだ!」

「エルディオ――いえ、エルディオさんが寄付してくれたおかげで、俺たちは冒険者を目指すことができました! 本当に感謝してます!」

「ありがたく使わせてもらってます!」


「はっはっは! そう言ってもらえると私も嬉しいな。 三人とも、名前を聞いてもいいか?」


「俺はライトだ!」

「ユージって言います!」

「ノイスです! エルディオさんに名を聞かれるなんて光栄です!」


「ライト、ユージ、ノイス……か。覚えたぞ!」


「俺ら、まだ冒険者登録が済んでなくてさ。カタドラに向かう途中だったんだ」


「そうか! 私もキマイラ討伐の報告で寄る予定だ。――共に行くか?」

「ぜひ!!」

三人とエルディオは、そのまま街カタドラへ向かった。

街へ入ると、三人は見慣れない光景に目を丸くする。


「すげーな! こんなに人がいるの、初めて見たぜ」

街カタドラは人で賑わい、活気に満ちていた。


「よっ、エルディオ! でっけぇ子どもたち連れて……いつの間に子どもができたんだい?」

屋台の店主が笑いながら声をかける。


「はっはっは! 私の子ではないよ。未来ある冒険者たちだ!」

「まあ頑張れよ! この間エルディオに頼んだ“サラマンダーの素材で作った調理器具”、調子いいよ。最高の火加減さ!」

「それはよかった。それでは、その肉串を四つもらえるかな?」

「毎度あり!」


「い、いいんですか?」

「さっきは協力してもらったからね。キマイラなんて、普通の冒険者じゃ足止めすら難しい相手だ。気になるものがあったら何でも言ってくれ!」


「腹減ったから助かるぜ。あっちのやつも食べてみてぇ!」

「はっはっは! 遠慮するな、どんどん食べてくれ!」


「うおっ、肉串うめぇな! こっちの肉まんも、食べたことねぇくらいうまい!」

「さっき“サラマンダーの調理器具”って言ってたけど、どういうことなんですか?」ユージが尋ねる。


「そうか、リック村じゃ魔族素材の加工品はあまり出回らないか。カタドラでは魔族素材を加工して、日用品や装具、アクセサリーにしてるんだ」

「もごもごもごご」

「食べながら話すな!」

ノイスは頬を膨らませながら、ユージに突っ込まれてしゅんとする。


「今食べてる肉串、絶品だろう? イノシシ型魔族を食用に育てた肉なんだ」

「どうりでいつもより柔らかくてジューシーなわけだ!」

ユージが味わって食べている横で、ライトが勢いよく飲み込んで――。


「ッフゴッ……み、水!」

店主が慌てて水を差し出した。


「その水も“アクアスライム”から湧き出る水さ。魔素が溶け込んでて元気が出るぞ。氷だって“アイスゴーレム”の素材で作った冷凍庫で作るのさ」

「すごい! 魔族の素材にそんな利用価値があるなんて!」

「魔族素材の加工が発達してるから、この街には冒険者への依頼が絶えないんですね!」

「はっはっは! その通りだ! ノイス君は物分かりがいいな」

「えへへっ」


「そうだ! 魔族の素材を手っ取り早く売れる所ないですか? 資金の足しになるかなと思って持ち歩いてるんです」

「それなら“カタドラ商店”がいい。たいていの素材はそこで買い取ってくれる」

「ちょっと寄ってもいいですか? 荷物重くて」

「すぐそこだ。挨拶を兼ねて行くといい」



カタドラ商店は、買取だけでなく、武器や珍しい魔族素材まで幅広く並んでいた。


「……どうも。魔族の素材を持ってきたんだが、買い取ってもらえるか?」

「ふむふむ……低級魔族の素材が多いが、珍しいのも混じってる。これは……キマイラの素材か! よく手に入ったな」

「これは、エルディオに分けてもらったようなもんかな」

「エルディオか。彼なら納得だな。全部まとめて――150ゴールドってところだ」

「まあそんなもんか。それで頼むよ」


ユージは金を受け取った。

「リック村でコツコツ貯めた150と合わせて300ゴールドか……見た感じ、物価もリック村より高い。これじゃ厳しいよな……」

ぶつぶつ言いながら、皆と合流した。



その後、エルディオに案内され、三人は集会所へ着いた。


「ここが集会所だ。冒険者はここで依頼を受け、報酬を受け取る。逆に頼み事があればここへ依頼を出すんだ。――すまないが、私は別件があるのでここまでだ」

「そうですか。助けてもらった挙句、街の案内まで……ありがとうございます!」

「いつかこのご恩、返せるように頑張ります!」

「俺はいつか、エルディオみたいな冒険者になる!」

「はっはっは! 君たちは筋がいい。なれるさ、良い冒険者に! またどこかで会えるのを楽しみにしているよ。では!」

「じゃあなー! 次会う時は、見違えるくらい強くなってるからな!」


エルディオは三人をしっかり見つめ、去っていった。

「強く生きろよ、少年たち……」



三人はエルディオを見送ると、集会所の扉を押し開けた。

酒をあおって大声で笑う者、今にも喧嘩しそうな者、掲示板の依頼を物色する者――街以上の熱気が渦巻いていた。


「すごいよ! 強そうな人もいっぱいいる!」

「なんだか冴えない奴もいるけどな」


三人は受付へ向かった。

「お帰りなさいませ。冒険者登録のカードはございますか?」

「冒険者登録がまだなので、登録したいんですけど」

「かしこまりました。お名前、クラス、年齢をご記入ください」


「クラスってなんだ?」

「冒険者は使う武器やスキルで、一応クラスが分かれてるんだ。ライト、お前なら剣士だろ」

「そうか。ユージとノイスは?」

「僕は魔法使いだよ。ユージは……スキル的には狩人か盗賊になるのかな?」

「盗賊って、ユージは盗みやってるってことか!? いくら金が欲しくてもダメだぞ!」

「やってねぇよ! スキルの関係で、弓と小回りのきくナイフを使うからさ。そうなると確かにクラスは盗賊か狩人になるんだな……聞こえも悪いし、俺も剣士かな」

「はぁ!? 同じのつまんねーよ。盗賊っぽいし、盗賊でいいだろ!」

「うわっ、こいつ勝手に書きやがった! なにすんだ!」

「二人とも、やめてよー!」


念願の集会所ではしゃぐ三人を、周囲の冒険者がちらりと見る。

「……あいつら、クラスも知らねぇみたいだし、あんなボロ服で大丈夫か?」

「どっかの田舎から出てきたんだろ。放っとけ」


「あはは……なんか目をつけられちゃったかな」

「気にすんな。言わせておけ」


受付嬢が笑顔でカードを差し出す。

「登録は以上になります。依頼は集会所認定のものなら何でも受領可能です。最新や緊急の依頼は掲示板をご確認ください。――冒険者ライフをお楽しみください!」


こうして――。

三人はついに、小さな頃の夢を叶えた。

それぞれの胸に、熱い期待を抱いて。


ここから、三人の本当の冒険が始まる。

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