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第十九話 選抜試験

六人はゲトラムへ向かう街道を歩いていた。

丘を越え、風に砂が混じる。先頭を行くルイがふと立ち止まり、掌を見つめる。

「私のスキルでは……ライトたちにオーラは送れないのだな」


試しに光を放つが、ルイの後方にいる三人――ライト、ユージ、ノイスには何の変化もない。


シルヴィが穏やかに微笑んで口を開く。

「詳しいことは分かりませんが……私たちが“ルイ様に仕える者”だから、ということではないでしょうか」


ユージが顎に手を当て、分析するように言う。

「人数制限って線もあるな。あるいは、信頼関係の深さとか……そういう要素かもしれない」


するとライトが、にっと笑った。

「そうか? 俺はルイーゼのこと信頼してるぜ!」


突然の言葉に、ルイの耳がほんのり赤くなる。

「め、面と向かって言われると……少し照れるな。だが――私もライトのことは、もちろん信頼しているぞ」


そのやりとりを見ていたレオンが、穏やかに頬を緩めた。

「あのルイ様が照れていらっしゃる……随分と仲良くなられたのですね」


シルヴィも控えめに笑みを浮かべる。

「ええ。でも少し嫉妬してしまいますね」


笑い合う六人の足取りは、どこか軽やかだった。

そして、ついにゲトラムの城壁が見えてきた。


「やっと着いたよぉ……!」

ノイスがパッキーの手綱を握りしめながら、ほっと息をついた。


「ここが――ゲトラムか」

ユージが眩しそうに街を見渡す。


ルイは風に翻るマントを押さえながら、仲間たちへ向き直った。

「私たちは、着いたらすぐに魔族城攻略の情報を集めるつもりだ。ゲトラムへ来た目的もそれだからな。……ライトたちは、どうする?」


ライトは少し考え込み、やがて笑みを浮かべた。

「そういやそんな話してたな。魔族城か……どんな魔族がいるのか気になるな」


「よければ三人も魔族城攻略に参加しないか? 私も信頼のおける仲間がいると心強い!」

ルイの提案に、ライトの目が輝く。

「おう! もちろん参加するぞ!」


ユージがすぐに制止する。

「おいおい、勝手に決めんな! 報酬とか条件とか、ちゃんと確認してからだろ。それに、そもそも選ばれた冒険者しか参加できねぇんじゃないのか?」


ユージの質問にシルヴィが答えた。

「私たちも魔族城攻略に向けて腕利きの冒険者を募るという情報までは掴んでいるのですが、詳細は現地でしかわかりませんね。とりあえず集会所に行こうと思います」


ユージが頷く。

「どっちにしろ俺たちも集会所に行く予定だし、そこまでは一緒だな」

 

「魔族城の情報があるといいな!」

ライトが勢いよく拳を突き上げる。


――ゲトラムの城壁前。

重厚な門の前で、六人は兵士に身分証の確認を受けていた。

冒険者カードを順に見せると、兵士がうなずく。

「確認した。ようこそ、ゲトラムへ」


門をくぐると、すぐ右手に「魔族預かり所」と書かれた施設が見えた。

この街では、魔族を連れての入場は禁止されているらしい。


「ここでパキラたちを預けないといけないんだな」

ユージが案内板を見ながら呟く。


ノイスは名残惜しそうにパキラの首筋を撫でた。

「パッキー、すぐ戻るからね。いい子にしててね」


預け先の係員が笑顔で言う。

「ご安心を。餌付きで面倒はしっかり見ますよ。お代は先払いでお願いします」


「……金、かかるよな」

ユージが苦い顔をしながら財布を開く。


支払いを終え、三人は肩を並べて歩き出した。

「街の中じゃ、バッテンを連れて歩くのは無理か」

ライトがため息をつく。


ノイスが小声で続けた。

「パキラたちを預けたら……ほんとにお金がなくなっちゃったね」


ユージは頭をかきながらぼやく。

「次の依頼、早く見つけねぇとな……」

ゲトラムの街は、活気に満ちていた。

人の声、荷車の音、そして香ばしい屋台の匂いが入り混じり、どこかカタドラを思わせる賑やかさがある。


ルイは通りを歩きながら、穏やかに微笑んだ。

「以前来た時よりも……随分と活気づいているな」


「ルイーゼさん、来たことあったんですね!」

ノイスが目を丸くして反応する。


ルイは頷きながら答えた。

「王国の視察で一度だけだけどな。あの頃よりずっと人が増えている」


そんな話をしながら、六人は石畳の大通りを抜け、冒険者の集う集会所へと足を運んだ。


中に入ると、活気の熱気が肌を刺した。

広いホールの壁にはびっしりと依頼書が貼られ、受付前には列を作る冒険者たち。

鎧の軋む音や笑い声が絶えず響いている。


「ほあああっ! この活気はカタドラ以上だぜ!」

ライトが思わず声を上げる。


「ゲトラムは魔族の被害が多い地域ですからね」

シルヴィが冷静に周囲を観察しながら言った。

「依頼の内容も討伐系ばかりです」


ルイは頷き、早速受付へと向かう。

「すまない。魔族城攻略に関する依頼を募集していると聞いたのだが、詳しく知りたい」


受付嬢はすぐに微笑み、机の下から一枚の依頼書を取り出した。

「こちらの件ですね。ちょうど最近、参加者の募集が始まったところです」


ルイが受け取ると、シルヴィが横から覗き込み、依頼文を読み上げた。

「『かつて人間の領地であった城は、魔族の手に落ちた。

幾度となく奪還を試みるも、城を守る強力な魔族たちによって失敗を重ねている。そこで各地から実力ある冒険者を募り、一つの部隊を編成。攻略に先立ち、実力を測るための“選抜試験”を行う』――とありますね」

ルイは依頼書を見つめ、静かに呟いた。

「選抜試験、か……。これが噂の正体か」


受付嬢が穏やかに説明する。

「ご参加を希望される場合は、こちらに署名と冒険者カードの番号を記入してください」


「よっしゃ、書くぞ!」

ライトが勢いよくペンを掴む。


「おい、待て!」ユージが止めに入る。

「危険そうな依頼だ。ちゃんと内容を確認してからだ!」


「そ、そうだよ! 今までの冒険者も失敗してるって……!」

ノイスも慌ててユージに続く。


シルヴィが依頼書を手に取り、声に出して読む。

「『報酬は選抜試験の合格者のみ。魔族城攻略 参加費500ゴールド。達成報酬10000ゴールド……』」


その額を聞いた瞬間、ユージは無言で記入を始めていた。


「ノイスの分も書いておくぞ!」

「えっ……! ふうえ!?」


ライトが笑いながら叫ぶ。

「へへっ、選抜試験ぜってえ合格するぞ!」

ノイスがため息をつく。

「……やっぱりそうなるよね」


申込書に記入を終えたルイたちは、ライトたちに別れを告げた。

「ここまでの旅路――三人がいなければ、きっとここまで来られなかった。どんな試験内容かはわからないが、私たちは選抜試験までにさらに腕を磨いておく」


「おう! 選抜試験でまた会おうぜ!」

ライトが力強く笑う。


「ライトたちなら問題なさそうだな……行くぞ、レオン、シルヴィ」

「「はい!」」


ルイたちは背を向け、集会所を後にした。


ユージが依頼書を手に取り、真剣な眼差しを向ける。

「さて、俺たちは今日の宿代すらない。依頼探すぞ」


ノイスがその場にぺたりと座り込み、ため息をつく。

「ふえぇ~、疲れたよぉ……」


ライトが笑って叫ぶ。

「よし! 選抜試験の前に腕試しだ!」

この後の三人は今日の宿代を稼ぐため、依頼をこなしていった。

その夜、三人は宿を見つけ、選抜試験に向けた作戦会議を開いていた。


「試験内容はわからないが、報酬は“合格者一人あたり”と書かれていた。……つまり、パーティ全員が合格できるとは限らないってことだな」

ユージが真剣な顔で言う。


「ふぇっ!? 僕だけお留守番になっちゃうかも!?」

ノイスが慌てて声を上げる。


ライトが笑って肩を叩いた。

「ノイスなら大丈夫だって! 心配すんな!」


「え、そ、そうかな……?」


ユージは腕を組み、考え込むように続けた。

「もしかしたら、冒険者同士の戦闘――模擬戦になるかもしれないな」


「おっ、それは面白そうじゃねぇか!」

ライトが嬉しそうに食いつく。


だがユージはすぐに首を横に振った。

「いや、その場合は冒険者同士のスキル相性が大きく出る。対人戦に特化した連中ばかりが残って、魔族城攻略には不向きになるだろう」


「……よかったぁ。僕には無理だよ、そういうの。あれかな? 面接とか?」

ノイスが胸を撫で下ろす。


掲示板の前で、ユージが腕を組みながら呟く。

「面接、か……。あるかもしれねぇが、対策できるようなもんでもねぇな」

彼は小さく息を吐き、額に手を当てる。


その横で、ライトが腕立て伏せをしながら元気に口を挟んだ。

「結局、やってみなきゃわかんねぇだろ!」


ユージは苦笑いを浮かべる。

「お前はいつもそれだな……」


ノイスが諦めたように横になった。

「まあ、試験の日になってみないとわかんないよね。日程も少し先みたいだし、その時考えよう」

宿のベッドで今にも眠りそうなノイス。


こうして三人は、ゲトラムで日々の依頼を受けながら、選抜試験の日を迎えることとなった。


――選抜試験当日。

試験会場には、すでに数多くの冒険者が集まっていた。

広場の中央には簡易の舞台が設けられ、周囲には団体で集まるパーティや、単身で挑む者の姿も見える。


ゲトラムで名を馳せる有名な冒険者から、まだ駆け出しと思しき若者まで――


「すげぇ数だな……」

ユージが人混みを見渡して呟く。


その横でライトが声を上げた。

「おっ、ルイーゼもいるぞ! おーい!」

手を大きく振るライトに、ルイがこちらを見つけて軽く手を振り返す。


「げっ……ダイナ山にいたあの女冒険者たちもいるぞ」

ユージが眉をひそめて、会場の一角を睨む。そこには見覚えのある女性冒険者たちの姿があった。


ざわめく会場の中、やがて舞台に立った連盟の役人が声を張り上げる。

「静粛に――!」


会場が次第に静まり返る。


「この度は“魔族城攻略 選抜試験”にご参加いただき、誠にありがとうございます」

役人は堂々とした口調で続けた。

「魔族城は、我々人間の手によって築かれた城です。しかし長きに渡り、魔族の支配下にあり、今なお奪還は叶っておりません。これまで幾度も冒険者たちが挑みましたが、城の周囲に巣食う強力な魔族に阻まれ、被害ばかりが増える結果となっていました」


聴衆の中から、声が飛ぶ。

「なら全員で攻めりゃいいんじゃねぇのか!」

「そうだそうだ!ケチくせぇこと言うなよ!」


ざわ……と、広場がざわつく。


役人は動じず、淡々と続けた。

「その意見ももっともです。しかし――今回の作戦は“選ばれし者”のみで行う必要があります。一定以上の実力がなければ、味方の足を引っ張る危険すらあるのです」


会場が再び静まり、冒険者たちの表情が引き締まる。


壇上の連盟役人が一歩前に出て、広場全体を見渡した。

「皆さんも気になっていることでしょう。では――今回の試験内容をお伝えします」


ざわ……と周囲が静まり、全員の視線が集まる。


「これより皆さんには、《魔導生物》と戦っていただきます」


ざわめきが再び広がる。

ノイスが首を傾げた。

「魔導生物? 聞いたことないな……」


役人は頷き、淡々と続けた。

「魔導生物とは、人工的に作成された魔族です。手加減なしで存分に自分の力とスキルを発揮できるでしょう」


ルイは腕を組み、安堵したように息をついた。

「そうか……正直、冒険者同士の決闘かと思っていたからな。それなら気が楽だ」


役人はさらに告げる。

「個人の力だけでなく、チームとしての適性も見たい。よって、最高三人までのパーティで挑んでもらいます。もちろん一人、もしくは二人での参加も可能です」


ユージは小さく笑みを浮かべた。

「よし!運がいいぞ。三人で組めるならどうにでもなる」


周囲でも、参加者たちが次々と話し合いを始める。

「どうする? 二人ずつに分かれるか?」

「うちは五人だから、三人と二人で行こう」

「おい! 組んでくれよ、頼むって!」


喧騒の中、ひときわ目立つ声が響いた。

「おお、あんさん! えらい実力者と見ましたで! 一緒に組みませんか?」

関西訛りの男が、隣の帽子を深く被った青年に声をかけている。


だが、その青年は冷ややかに答えた。

「悪いな。俺はいつだって一人でやってきた。今回もそのつもりだ」


「ほぉ……えらい自信やな。そうとは言わずご一緒させてくださいな」

男の口調に、周囲の冒険者が思わず笑みを漏らす。


会場が少し落ち着いた頃、再び職員の声が響いた。

「では、これより順に試験を受けていただきます。公平を期すため、他の冒険者が戦っている様子は一切見られません。また、試験内容の共有も禁止です」


「なあ? 魔導生物を戦闘不能にすれば合格ってことでいいんだな?」

前列の冒険者が声を上げた。


「はい。ですが――人工的に作られたとはいえ、魔導生物は全力でかかってきます。怪我や命の保証は一切できません。それでも参加を望む方のみ、残ってください」


その一言で、会場の空気が一変した。

張り詰めるような緊張が走り、パーティに入れなかった者や軽い気持ちで来た何人かの冒険者が静かに会場を後にする。

ライトは口元を吊り上げ、剣の柄を軽く叩いた。

「へへっ……手加減なしでいいってことか。本気でやれそうだな」


その言葉に、周囲の空気がわずかに引き締まる。

役人は静かに頷き、低い声で告げた。

「――それでは、準備が整い次第、試験を開始します」


その瞬間、冒険者たちの表情が一斉に変わる。

緊張と興奮、そして闘志。

それぞれの覚悟を胸に、次々と呼ばれた者たちが会場の奥へと歩みを進めていく。


ライトたちもまた、順番を待ちながら剣の柄を握りしめた。

――静まり返った空気の中、戦いの幕がゆっくりと上がろうとしていた。

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