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第十八話 王の器

ライトが大型の熊型魔族と対峙している間に、ルイーゼは四人を起こしに向かった。

「みんな! 魔族が出た!ライトが交戦中だが、援護が必要だ!」

「かしこまりました!ルイ様!」

「見張りが終わった後だと言うのに嫌なタイミングですね」

レオンとシルヴィがすぐに目を覚ます。


「どう言う状況だ?」

「ふぁああ、眠いなあ」

少し遅れて、ユージとノイスも起きてくる。

「大型の魔族が出た! ライトを援護しに行くぞ!」

四人が武器を持ち、駆け出した瞬間に奥から二足歩行のワニ型が現れる。


ユージが武器を構える。

「……あいつか!」

ルイーゼは首を横に振った。

「違う!また別の魔族だ!!」


ワニ型はそのままルイーゼに突進してくる。

「させません!」

 シルヴィが盾で正面から受け止めた。


「大丈夫か!?シルヴィ!」


「問題ありません。それにしても、馬鹿みたいな力ですね……」

ジリジリと押されるシルヴィ。

「こっちは任せろ! ユージとノイスはライトを援護してくれ!ワニ型はこっちで対処する!」

ルイーゼが叫んだ。

「わかった。行くぞ、ノイス!」

二人はすぐにライトのもとへ向かう。

 

残ったレオンが剣を抜いた。

「私が相手だ!」

シルヴィが後ろに引き、レオンが剣を振る。

「《サイレント•ブレード》!」

静寂を裂くように、レオンの剣が閃いた――

……だが、刃はその硬い鱗に弾かれた。


「なんて硬さだ! 刃が通らない!」


背後でルイーゼが声を掛ける。

「大丈夫か?レオン!」

「大丈夫です! 下がっていて下さい!」

「わ、わかった。シルヴィ!レオンを援護出来るか?」

ルイーゼはシルヴィに目を向けるが、シルヴィはもう一つの影に目を向けていた。

そして「ノソノソ」と不穏な音がする。

「どうやらレオンの心配をしている場合では無い様です。」

さらに、もう一体のワニ型が木々を揺らして現れた。

「もう一体いるのか……」

「下がっていてください!《ゼロ•シールド》!」


シルヴィが咄嗟に盾を構える。

それはあらゆる攻撃を無に返すスキル。盾にぼんやりと光が纏う。

ワニ型の突進を簡単に受け止める。

「シルヴィ、ありがとう!これなら――」

ルイーゼが背後に回り、剣を振り上げた瞬間。


「いけません!!!」

シルヴィの叫びと同時に、鋭い尻尾がルイーゼに襲いかかる。

――キンッ!

ルイーゼに直撃したように見えたが、ワニ型の尻尾は弾かれた。

それと同時にシルヴィの盾から光が失われる。

「っあ!」

ワニ型を抑えていた盾は簡単に払い除けられ、ワニ型の振り回した腕がシルヴィに命中する。

「……っうが!」

「シルヴィ!」

吹き飛ぶシルヴィ。

駆け寄ったルイーゼの目に映ったのは、脇腹に傷を負った仲間の姿。

「気を抜いてしまっただけです。大丈夫です」

苦しそうに脇腹を押さえながら、微笑むシルヴィ。


だがルイーゼは分かっていた。

シルヴィは《ゼロ・シールド》を自分の盾から咄嗟に自分に張り替えていた事に。


その光景に、ルイーゼの胸の奥で押し殺していた感情が一気に溢れ出した。

「……もうやめてくれ。どれだけ私に惨めな思いをさせるんだ……」

ルイーゼの声が震える。


「ルイ様、何を……とりあえず後ろへ!」

シルヴィが再び盾を構えて、ワニ型を受け止める。


「《ゼロ•シールド》を私にかけるな!自分に使え!シルヴィ!!」

「……もしかして、何かライトさんに言われましたか?それは、ただの戯言で…」

「もう良いって言っただろ!! シルヴィもレオンも私が戦場では役立たずだとそう言えば良いではないか!!」

珍しく声を荒げるルイーゼに二人は驚く。

「それは……それは違います!!ルイ様!」

「そうです……私達はルイ様がいるから……」

「何が違うと言うのだ!!!」


ルイーゼの叫びが夜気を裂く。

「もう疲れたんだ……二人に気を遣わせて、迷惑までかけて……その先に私の目指す道はあるのか?」


押し寄せるワニ型の攻撃を受けながら、レオンとシルヴィは言葉を飲み込んだ。

「……その件は後でゆっくり話しましょう。今はこの魔族を退けます。下がっていてください」

レオンは真っ直ぐ魔族と向き合う。


レオンの剣が爪の攻撃を受け流し、返しの一閃を浴びせるも刃が通らない。

また、ワニ型を押さえるシルヴィの盾も軋み、力で押し返される。


「また力押しなんて芸のない魔族ですね……」

二人の額に汗が滲む。


「私には何も出来ないのか……」

二人が必死に体を張って闘う中、何も出来ない自分に腹が立つ。力の無い事が悔しくて、戦う二人からも目を逸らす。

(どうする? 私が下手に動けばまた二人の負担になる。何か出来る事は?……いつも護られてるだけの私に出来る事なんてあるのだろうか)

考えるルイーゼだが、何も思いつかない。

(私の軽率な行動でシルヴィは怪我をした。なのに、いつも気に掛けてくれる二人にさえ文句を言って……何が王だ……大事な仲間にすら気を遣わせて困らせてるだけじゃないか)

諦めて立ち尽くすルイーゼ。

(もう終わりにしよう……所詮、器ではないのだ)

その時、背後から怒声が飛ぶ。

「何してだよ!!!ルイーゼ!!お前の為に二人は今も踏ん張ってんだぞ!!」

ライトは大型の熊型と戦闘中だが、ルイーゼに声を掛ける。

「でも私には何も……」

「決めつけんな! 全部分かったつもりでいるんじゃねぇ。二人をちゃんとみろ!何も感じないのか!!」


その声に、ルイーゼの視線が自然と二人へ向かう。

刃が通らずとも、なお斬り続けるレオン。

傷の痛みに堪えながらも、盾を押し返すシルヴィ。


胸の奥が熱くなる。

「間違っていた……王子とか王位とかスキルがないとかはどうでも良い」ただ助けたい――二人に報いたい。

その一心で、ルイーゼの体が白い光に包まれた。


「今までは自分の事ばかりで、二人の事をちゃんと見てなかった……」


ゆっくりと放たれた光が二人を包み込む。


「これから王になろうという者が、自分が強くなって皆を護らなければと、勝手に思い込んでいた……」


「この光は……」

「力が漲ってくる……」


ルイーゼの声が響く。

「王の本質は違う! 武勇の才がない私が戦うということ、それは……皆の士気を高めることだ!《カリスマ•ジ•オーラ》!」


白いオーラが広がり、二人の身体を照らす。


「不思議だ……父上が前線で闘うタイプだから私自身もそうだと思い込み、レオンとシルヴィにサポートに回ってもらっていた。力で支配する事を否定した自分が力を求めていたんだ」

ルイーゼの光はまだ暗い空を照らす。


「私のスキルは《カリスマ・ジ・オーラ》。従う者に力を与える。――私ひとりでは何も成せぬ。民あってこそ、王は王たり得る!」

「これがルイ様の光……王の器……」

ルイーゼのオーラが剣にも伝わる。

「ルイ様の為に剣を振える。こんな幸せな事はない」

レオンの剣を構え直すとまるで音がなくなったかのように静まり返る。


「いつもよりさらに静かに……この剣は斬る音すら失う。《サイレント•ブレード》」


剣を振り抜き、そして鞘に収める。

ワニ型に変化はない。

「ガウガウガアアアアアウ!」

動き出したワニ型はバラバラと崩れ落ちた。

「斬られた事にも気付かぬか……」


ルイーゼからの光はシルヴィと盾にも移っていく。

「ああ、暖かくて心地良い。この光にはルイ様の心の優しさと強さが詰まってます。 汚いワニ型ごときがその光を拝めるだけありがたいと思ってくださいね?《ゼロ•シールド》」


噛みつかれていた盾が輝きを増し、ワニ型の牙はボロボロと崩れる。

「ガ、ウガウガア」

牙を失い、戦意喪失したワニ型をさらに盾で押し込む。

「はああああああああ!」

そのまま岩に叩きつけられたワニ型は動かなくなった。


「私の《ゼロ•シールド》がある限り、ルイ様に触れることすら叶いません」


その頃、ライトたちも熊型を仕留めていた。

「へへっ、やるじゃねーか!お前ら!」

「《カリスマ•ジ•オーラ》……とんでもないスキルだな」

「ルイーゼさん! すごいスキルですね!」

レオンとシルヴィに纏っていた光がルイーゼに戻る。

「ライトから貰った言葉のおかげで、自分に向き合えた。礼を言う」

ルイーゼが微笑むと、レオンとシルヴィがひざまずく。

「申し訳ありません! ルイ様に嘘をついてました」

「どんな処罰もお受けします。」


「二人共やめてくれ。謝るのは私の方だ。二人に甘えていたのは私だ。二人が私の為を思ってやってくれていた事は十分に伝わっている!だから、これからも私と共に戦ってくれるか?」


「もちろんです!ルイ様!」

「生涯、ルイ様に尽くします!」


「ううう、三人共良かったねぇ、、」

ノイスは感動して涙ぐんでいた。


「ライト。気付いているかもしれないが、私は“ルイーゼ”ではない。フルーレ王国第三王子――ルイだ。」

ルイーゼが笑顔で手を差し出す。

「いや、俺にとってはルイーゼはルイーゼだ。ただの友達だ」

差し出した手を握るライト。

「おい!ライト!」

ユージがライトの態度を咎める。

「いいのだ。 皆もルイーゼと呼び捨てで呼んでもらって構わない」

「ルイ様! 流石にそれは!」

シルヴィの言葉を遮る。

「ライトたちと出会えたおかげで、自分と向き合う事ができ、スキルも発現した。三人は私の恩人だ」


「俺たちは関係ねぇぞ。ルイーゼ自身が掴み取ったんだ」

笑顔を向けるライト。

「ハハハハハ!ライト、君に出会えて本当に良かった!私に必要だったのは力で無く、君の様な友だったのだな。 ライトそのままでいてくれ」


「おうよ!」


「次期王様と友達で恩人なんて俺らはこれから安泰かもしれないな!」

ユージが小声で笑う。


「ユージの目がお金になってるよ……」

ノイスが呆れる。


そして、六人は再びゲトラムに向かって歩き出す。


「それにしてもさ、あいつらのスキルってさ」

ルイーゼたちに聞こえない距離でライトがユージとノイスに話しかける。

「そうそう、《サイレント•ブレード》に《ゼロ•シールド》さらには《カリスマ•ジ•オーラ》だってさ……」

「ああ、わかるぜ?」


三人が同時に言った。

「カッコつけ過ぎだよな」

「カッコつけ過ぎだよね」

「カッコ良すぎるよな」

三人の声が重なり、次の瞬間――。


「「「え゛っ」」」

「やっぱユージのセンスって……」

ノイスが顔を見合わせる。

「はあ?なんだよ!」

「やっぱユージはユージだな」


笑い声が、明け方の森を淡く照らし出していった。

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