第十六話 護衛
簡単ではありますが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。
街道を風のように駆けるパキラ三頭。鞍の上でライトが満面の笑みを見せる。
「こいつはいいや!快適だ!」
ノイスは自分のパキラの首筋を優しく撫でた。
「パッキー。重くないかな?」
「クウェイ!」
パッキーが短く鳴く。ノイスは嬉しそうに頷く。
「大丈夫みたい!えらいね! ところで二人は名前をつけてあげないの?」
とノイスが振り返る。
「確かにな! うーん。頭に出来た傷が×になってるからお前の名前はバッテンだ!」ライトはパキラの頭の×印をなぞった。
ノイスは呆れたように笑った。
「なにさ、それ! 適当じゃない?」
「いや、パッキーも変わらんだろ」
ユージが口出しした。
ノイスがじと目でユージを見る。
「え〜、そんなユージはネーミングセンスがあるのかな?」
ユージはそっぽを向く。
「俺は別に名前とかはいいかな……」
ライトが肘で小突く。
「おい、逃げるなよ! 名付けてみろよ!」
ユージは小声で捻り出した。
「そ、そうだな……シャドウクイーンとか……ノイスが女の子って言ってたし……」
我慢してた二人は同時に吹き出した。
「「ガハハハハハッアハハハハハハ」」
ライトが腹を抱える。
「なんだよ! シャドウクイーンって!」
ノイスは涙目になりながらも笑いが止まらない。
「自分が影の技使うからって!はー、お腹痛い」
ライトが親指を立てた。
「やっぱりユージはユージだな!」
ユージはむくれ顔で言い返す。
「うるせーな! お前らよりマシだよ!」
ノイスはにんまり。
「それはないよー。ユージのネーミングセンスには負けるって」
ユージは視線をそらした。
「……勝手にしろ!」
――そうして三日。
ユージが地図と空を交互に見て唸る。
「地図で見るとこっちの方だけど、割とざっくりした地図だし、わからなくなってきたな」
ノイスは首を傾げた。
「うーん。この地図だけだと心許ないよね」
ライトは手綱を軽く引き上げる。
「バッテンたちで移動してるからスピードも出過ぎて、余計に今どこにいるのかわかんねぇな」
その時、藪が割れて熊型の魔族が現れる。爪が発達して長く鋭い個体。
ユージが短く告げる。
「……こいつは手強いぞ!」
ライトは一足で前へ。
「行くぞ!《光の剣》!」
閃光が弧を描き、熊型を薙ぎ払う。
ユージの影が熊型を追撃する。
「……《影斬り》!」
ノイスは後衛位置より魔法を放つ。
「《ファイヤーボール》!」
三人の連携で熊型を退ける。
その時、近くで魔族と戦う人の姿があった。
「これでどうだ!!」
ズバッ――見知らぬ男の一刀が、魔族に止めを刺した。
ライトが目を細める。
「お! あいつらも魔族を倒してるぞ!」
ユージは視線だけ流し、素っ気なく言う。
「他の冒険者か……関わるとろくな事にならん。放っておこう」
ノイスは首を振った。
「え! 同じ冒険者じゃん!もしかしたら同じくゲトラムを目指してるかもしれないし。声掛けてみようよ」
ライトが魔族を退治していた三人組の冒険者に話しかけた。
「おす!お前らも冒険者か?」
長身の剣士の男が剣を構える。
「貴様!何者だ!」
近づくと、立派な装備をしている。
ライトは気圧されず名乗る。
「俺はライトって言うんだ。ゲトラムっていう街を目指してるんだ。お前らは?」
剣士の男が食ってかかる。
「お前らだと?誰に向かってそのような口を……」
その隣の青年が手で制した。
「待て。名乗ったのだ。こちらも名乗るのが礼儀であろう。私はルイ、、ルイーゼだ。こっちの剣士がレオンでこっちの盾使いがシルヴィだ。よろしく頼む」
ライトが笑って頷く。
「ああ、よろしくな」
ユージも淡々と続く。
「俺はユージだ」
ノイスが人懐っこく手を振る。
「僕はノイス!よろしくね。ルイーゼさん!」
レオンが眉間に皺を寄せる。
「貴様ら、随分と馴れ馴れし、、」
ルイーゼの一喝。
「レオンッ!」
レオンは咳払いして引っ込む。
「んんっ、何でもない」
シルヴィは呆れ顔でため息。
「まるで学習能力がありませんわね」
ライトが小声で漏らす。
「なんか変な奴らだな」
ルイーゼが話題を切り出す。
「君達もゲトラムを目指しているという事はやはりあの魔族城の噂を耳にしたのか?」
ユージが首を傾げた。
「魔族城? 何かゲトラムにあるのか?」
ルイーゼは少し意外そうに目を瞬く。
「そうか。知らずに目指していたのか。今ゲトラムではあの魔族城の攻略に動き出していて腕利の冒険者を集めているという噂があるんだ」
ノイスが興味津々で身を乗り出す。
「その魔族城って有名なんですか?」
シルヴィが鋭く言い返す。
「無知ほど怖いものはありませんね」
ノイスは頭をかく。
「あはは、ごめんなさい」
ルイーゼはシルヴィを宥めつつ、話を始めた。
「よいではないか。魔族城とは元々人間が住んでいた城であったが魔族に乗っ取られて以来、強い魔族が出る様になり誰も近付けなくなったと言われている城だ」
ライトの口元が釣り上がる。
「強え魔族か。面白そうだな」
ルイーゼは表情を引き締めた。
「今までも腕利の冒険者が挑んできたのだが、ことごとくやられていてな。城に近付く事すらままならないとか」
ユージは冷静に疑問を投げる。
「わざわざそんな所に行く理由がわからないな」
ルイーゼは指を一本立てた。
「この魔族城の攻略は連盟から依頼が出ていて、報酬も莫大になるとか」
ユージの目が途端に真剣味を帯びる。
「それは是非参加したいな!」
ノイスは頬を膨らませる。
「お金が絡むとすぐこれなんだから……」
レオンは鼻で笑った。
「ただ行けば、依頼を受けさせてくれるわけじゃない。ゲトラムで実力を認められた者だけの先鋭部隊で攻略に行くらしい。私達の王国にもその話が来たわけだ」
ライトが聞き返す。
「王国?」
レオンが口ごもる。
「あ……その、ええと」
シルヴィがさらりと補足する。
「私達が住んでいる国、フルーレ王国の冒険者の中でその様な噂があったのです」
ノイスは目を輝かせた。
「そーなんですね。色んな冒険者が各地から集まるなんて、なんだか緊張しちゃうな」
ルイーゼは手を差し伸べるように提案する。
「これも何かの縁だ。ゲトラムまで共にゆくか?」
ユージはそっと手綱を引き、首を横に振る。
「あー、俺達はパキラに乗っていくから。先に行くわ。情報ありがとな!」
去ろうとするユージに、ライトが顔を寄せる。
「おいおい!こいつら面白そうだから着いていこーぜ!」
ノイスもユージを引き留める。
「その地図もいつのかわかんないし、辿り着けないかもしれないよー」
ユージは二人を押し除ける。
「ぜってぇ変な事に巻き込まれるって!俺の勘がそう言ってる!」
シルヴィが涼しい声で一言。
「……聞こえてますよ」
ユージが固まる。
「ギクッ!」
ルイーゼは穏やかに押す。
「先程も手強い魔族が出た。ここは協力しない手はないと思うが」
ユージは渋々折れた。
「……わかったよ。怪しい行動があったり、足を引っ張る様ならすぐに置いて行くからな」
レオンが反論する。
「貴様らがそれを言うか、怪しいのはどう見ても貴様らの方だろ!」
ルイーゼが再び制す。
「レオンッ!」
シルヴィはため息を吐く。
「気にしないでください。このバカの事は」
レオンが吠える。
「誰がバカだ!」
ライトは楽しそうに笑った。
「へへっ、賑やかなパーティだな」
ルイーゼは照れくさそうに笑みを返す。
「そう言ってもらえると助かるよ」
以後、六人は並走しながら魔族を順調に討伐して進む。
――ザシュッ!
レオンの刃が敵を崩し、すぐに声が飛ぶ。
「ルイ様!あとはお願いします!」
「任せろ!」とルイーゼが止めを刺す。
「ルイ様!後ろから魔族が、、」
――カンッ!
ルイーゼは背中に攻撃を受けたと思ったが、魔族の攻撃は弾かれる。
「そんな攻撃では、私には通用しないぞ!シルヴィは自分の身だけ何とか守ってくれ!」
「かしこまりました。」
その戦いぶりを見て、ライトは小さく首を傾げた。
「おかしいな。何でレオンはギリギリ倒さない様に戦ってんだ?手抜いてるのか?」
レオンが動揺を隠しきれない。
「あ……え、何を言っている。田舎者よ」
ライトは眉をひそめる。
「いや、さっきから見てるが、魔族をギリギリまで弱らせて最後はルイーゼに譲ってる……そんな風に見えるんだ」
レオンは視線を泳がせる。
「わ、私は状況を見極めているだけだ」
ルイーゼが間に入る。
「そうだぞ。レオンは本気でやっている」
ノイスはシルヴィを見て素直に感心する。
「シルヴィさんは流石ですね。防御魔法を的確な位置に出すのはかなりの熟練度が必要なはずです。さすがですね」
シルヴィはすぐに訂正する。
「私は防御魔法など、使っていません。……あなたみたいな魔法使いは自分の妄想で語るので厄介です」
ノイスが目を見開く。
「ふうぇ!」
「いや、それでもよ……」
ライトが食い下がろうとした瞬間、ユージが二人を呼び寄せた。
「ライト、ノイスちょっといいか?」
三人で少し離れ、ユージが小声で解く。
「察せよ。おそらくルイーゼは国の偉い奴、もしくは王子だ。それで二人は従者。接待してるんだよ。接待!」
ノイスが目を丸くする。
「ふうぇ!?そうなの?」
ライトは首を傾げる。
「なんだ? 接待って?」
ユージは装備や紋章を顎で示す。
「あの高そうな装備に家紋のような紋章。明らかに普通の冒険者じゃねーだろ!つまり冒険者ごっこだよ」
ライトがふんと息を鳴らす。
「なんだ、それ?納得出来ねーぞ。ちょっと確認してくる!」
ユージは慌てて袖を掴む。
「おい!バカか!身分がバレたとか言って、俺らも何かされるかもしんない。ここは知らんふりしてやり過ごすぞ。いいな?」
ノイスは頷く。
「うん。わ、わかったよ」
その時、ルイーゼが振り返る。
「どうした?こそこそと魔族を倒す作戦会議か?」
ユージは即座に笑ってごまかす。
「えへへ、何でもないっすよ!」
ルイーゼは歩調を再開した。
「そうか。……では、先を急ごう!」
列の後ろで、シルヴィがそっと近づき、低い声で告げる。
「その様子、やはり気付かれたのですね?」
ノイスが裏返った声を出す。
「な、な、何のことでございますでしょうか?」
ユージは頭を抱えた。
シルヴィは呆れた様に話した。
「そもそもバレないと本気で思っているのは王子とあの阿呆くらいでしょう」
ライトが目をむく。
「王子って事はやっぱり!」
シルヴィは淡々と明かした。
「私達はフルーレ王国からきました。ルイーゼことルイ様のお父上は現王のルシウス様になります」
ユージが眉をひそめる。
「……そんなお偉いさんが、なんでこんな所に?」
シルヴィは視線を前に向けたまま続ける。
「ルイ様にも色々と事情がございまして、今は冒険者としての功績が必要なのです。身分を隠す必要は無かったのですが、色眼鏡で見られる事をルイ様が嫌っていまして……」
ノイスがおそるおそる。
「その事情って何か聞いてもいいですか?」
シルヴィは涼しい声で刺す。
「女性に何でも聞く男性はモテませんよ」
ノイスの声が裏返る。
「ふうぇ!」
シルヴィは小さく笑った。
「ふふふ、冗談ですよ。簡単にご説明しますと、王子には兄弟に当たる方がたくさんいまして、他にも王位を狙える人物が何人もいるんです。その中で“魔族討伐で功績を上げた者を次期国王にする″と現王が言い出したのです」
ユージが呆れ混じりで呟いた。
「はちゃめちゃな王様だな」
シルヴィはそのまま続けた。
「現王ルシウス様は王族ではありますが、腕を磨く為に若き頃は前線に赴き、魔族との戦闘の日々だと聞いております。『王は強くないと民はついてこない』と」
ライトは力強く頷く。
「それはもっともだな!」
シルヴィは薄く微笑む。
「あなたみたい単純な人は良いですね。気楽で」
ライトが親指を立てる。
「おす!」
ノイスが小声で突っ込む。
「嫌味言われてるんだよ……ライト」
シルヴィは本題に戻る。
「話は逸れましたが、戦闘能力はあんまりですが、ルイ様は民のこと一番を考え、弱き者に優しく、器も大きい。まさに王位に着くべきお人なのです。」
ノイスは目を丸くする。
「す、すごい人なんだ……」
シルヴィはさらりと言い切る。
「あなた方にも知ったからには協力して頂きますよ」
ユージは即座に拒否する。
「それはごめんだぜ。面倒事は嫌いなんだ」
シルヴィは肩越しに条件を投げた。
「そうですか。こちらは王族。報酬もご希望に添える物かと思いますが……」
ユージは即転身。
「やります!接待でも何でもやらさせてもらいます」
ノイスが額に手を置く。
「もおーーユージ!!」
ユージは真顔で答える。
「俺らも旅続きで懐が寂しいんだ。あって困るもんじゃないだろ」
シルヴィは満足げに頷いた。
「話が早くて助かります。金銭で得た人間関係は信用出来るので。ルイ様は戦闘においては並以下です。戦闘の基礎こそありますが、秀でる物もなく、スキルも判明しておりません」
ノイスが確認する。
「魔法適正とかは?」
シルヴィは淡々と続けた。
「ルイ様は現王様と同じ近接戦闘を好まれます。ちなみに本人は魔族の攻撃を無力化し、魔族に対してダメージが上がるスキルだと勘違いしています」
ライトが呆れ半分で眉を上げる。
「勘違いだと?すぐわかりそうなもんだが」
「それは私達のせいですね……」
シルヴィは遠い目で告白した。
「私達は幼き頃よりルイ様につかえる従者です。幼き頃、ルイ様に魔族狩りを楽しんで頂こうと防御魔法を私が使い、レオンが瀕死の状態まで魔族を弱らせてルイ様に狩って頂くようにしておりました。それがルイ様は自分が強いとそれがスキルだと勘違いしたまま育ってしまったのです。今となっては現実をお伝えした方がルイ様の為だったかもしれませんが、今更引き下がれなくなりました」
ユージは肩をすくめる。
「いつかバレるんじゃないか?それ」
シルヴィは首を横に振る。
「わかった様な事言いますね。ですが、この状況で魔族と戦える才能がないと伝えてしまったら王位を諦めてしまうかもしれません。それだけは阻止しなくてはなりません」
「随分面倒なことになってるな。まあ報酬が貰えるなら協力するけどな」
ユージは無理矢理納得した。
シルヴィは当然のように告げる。
「あなた達には、ルイ様の護衛についてもらいます。まあ私とレオンがいれば、必要ないとは思いますが……」
その時、前方からルイーゼが振り返る。
「シルヴィー! 話し込んで何かあったか? それとも同世代の男の子が気になるお年頃かな?」
シルヴィは無表情で切り返す。
「ははは、ご冗談を。その発言はセクハラですよ」
ルイーゼは苦笑し、手を振った。
「はは、手厳しいな」
空の色はゆっくりと琥珀に沈み、山影が長く伸びる。
――しばらく進むと、道は夕闇に飲まれ始めていた。




