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第十四話 旅のお供

三人は森を抜け、開けた丘陵へ出た。乾いた風が頬を撫でる。


先頭のライトが周囲を見渡してぼやく。

「あいつの向かっていた方はこっちだと思ったが、街も村も全然みえねぇぞ」


地図を覗き込んでいたノイスが、手元の紙を指で辿りながら答える。

「うーん、距離はあるけど、この方向にカタドラほどじゃないけど、ゲトラムって大きい街があるみたい」


ユージが目を細め、ノイスの手元へ顔を寄せた。

「なんでわかるんだ?」


ノイスは得意げに地図を掲げる。

「実はアレスさんから森の周辺地図を貰ったんだ」


ユージは地図を覗き込み、苦い顔をする。

「どれどれ?げ!結構な距離だぞ。このペースで行っても10日間以上かかるな」


ノイスは肩を落として呻いた。

「ふうぇ!そんなに遠いーの!?また野宿の日々だよ」


ユージは額に青筋を浮かべ、地図をノイスから取り上げる。

「地図持ってるのに、そんな事も分かんなかったのか!俺によこせ」


ノイスは照れ笑いした。

「あはは、やっぱりこーゆーのはユージじゃないとね」


ユージは歩調を落とさず、先の行程を組み立てる。

「これから移動しながらの生活になるから、この長距離移動の事も考えないとな」


ライトが空を見上げ、口角を上げた。

「足の速い魔族に乗るってのはどーだ?」


ユージは即座に現実的な疑問を投げる。

「乗れたとしても言う事聞くとは思えないな」


ノイスが真顔で付け加える。

「背中に乗ったら、怒って攻撃されちゃうよ」


そんな他愛もない会話をしながら、三人はゲトラムの方へ歩を進める。

すると、後方から蹄のようなリズムが近づいてきた――パカラ、ッパカラ。


ノイスが目を輝かせて指差す。

「ねえねえ!!あれみて!魔族が台車を運んでるよ!!」


ユージが半眼になりつつも確認する。

「……マジだな」


ライトが剣の握りを意識しながら身構える。

「こっちに近付いてきてる。厄介な敵かも知んねえな」


三人は戦闘に身構えた。

やがて近づいてきた魔族の背に、人影。

ノイスが思わず声を上げた。

「ひ、人が乗ってるよ!」

ライトは話しかける。

「おい!おっさん!すげーな。魔族の上に乗ってるぞ!」


荷台の上の男が三人を睨む。

「誰だ!お前らは?」


ノイスが慌てて頭を下げる。

「わわ、すいません。僕たちは冒険者やってます。ちょっとゲトラムまで向かってまして」


男は鼻を鳴らし、名乗った。

「冒険者ねぇ。俺っちは荷運びのスミスってんだ」


ユージが興味を隠さず尋ねる。

「スミスさんはどうやって、この魔族を動かしているんですか?魔族を使役するスキルとか」


スミスはにやりと笑い、手綱を掲げた。

「よそもんは知らねーよな!この手綱だよ。アグロークの街で開発されたのさ!」


ノイスが目を丸くする。

「手綱って……それで魔族を操れちゃうって事?そんな事出来るの?」


スミスは得意満面で、下にいる魔族の首輪をぽんと叩いた。

「ああそうさ!だが、なんでもってわけじゃねぇ。低級魔族の中でも温厚なタイプくらいらしい。人気あるのはこのパキラって魔族くらいさ」


ノイスは観察しながら呟く。

「馬型の魔族? でもちょっと違いますね」


ライトの目がきらりと輝いた。

「へへっ、面白そうじゃねーか」


スミスは鼻歌交じりに胸を張る。

「こいつは俺っちの相棒さ!荷運びの仕事してたらもう手放せないぜ」


ライトが感心して頷く。

「すげーな!魔族を従えてるのか!」


ユージは思わず本音を漏らした。

「そんな魔族を思い通りにできるなんて……」


ノイスが袖を引っ張って囁く。

「ユージ!このパキラって子ほしーなー」


ユージは現実的な条件を確かめる。

「……その手綱は簡単に手に入る物なのか?」


スミスが割って入ってくる。

「俺っちはとある筋から、買ったんだ。欲しかったらアグロークへ行ってみるか?俺っちもこれからアグロークの方へ行くぜ?荷台に乗るかい?」


ライトが前のめりに答える。

「いいのか!おっさん!!」


ノイスも勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます!」


スミスは指を立てて見せる。

「ラッキーだな!今日は荷物が少ねえ!1人10ゴールドだ」


ユージが即ツッコミを入れる。

「いや、金とるんか!」


スミスは鼻で笑った。

「荷運びは決してただで物を運ばないぜ」


ライトがユージの顔を覗く。

「どうする?ユージ」


ユージは少し考えてから頷く。

「俺らも懐に余裕があるけじゃないしな」


スミスは淡々と現実を述べた。

「荷台が重くなるとこいつも燃料がいるからタダって訳にはいかねぇさ」


ノイスが首をかしげる。

「ね、燃料ですか?」


スミスは当たり前だろと言わんばかりに答えた。

「食いもんさ。こいつも生きてるから働かせるには飯を食わせないといけねぇ」


「そうだな。このまま歩くにも限界がある。聞きたいこともあるし、乗せてってもらうか」


スミスが笑顔で親指を立てた。

「毎度あり!」


荷台に乗り込むと、パキラの大きな背中がしなり、車輪がガタゴトと回り出す。

ライトが狭い荷台から顔を出す。

「うひょー!旅の移動にこれは便利だなー、ちと遅いけどな」


スミスが鞍越しに肩越しで説明する。

「こいつは荷運びするから大きくて力の強い個体なんだ。その代わり足はおせえ。もっと足の速ぇ個体もいるぜ?」


ノイスが目を輝かせて相槌を打つ。

「へぇーすごいなぁ」


ユージはふと疑問を口にした。

「さっきも思ったんだが、何でここまで使い勝手が良いのに流行らないんだ?」


スミスはニヤリと笑い、指を三本立てた。

「理由は3つある。聞きたいか?」


ユージとノイスが同時に身を乗り出す。

「「聞きたい!」」


スミスはさらりと言い放つ。

「10ゴールドだ」


ユージが天を仰いで財布を開く。

「商売上手だな」


渋々渡すと、スミスは軽快に語り始めた。

「毎度あり。一つ目はこの手綱にある。この手綱を作れるのはアグロークの魔術師タシュッドさんだけだ。どこでも買えるってわけじゃねえ」


ライトが身を乗り出して叫ぶ。

「おい! 俺らは買えるのか!」


スミスは手で制して続けた。

「話は最後まで聞けって!手綱は便利だが、悪用される場合もある。操れるのは低級魔族だけとは言われているがどう使われるかわかんねぇ。だからタシュッドさんは売る人を選ぶんだ」


ユージが納得の相槌を打つ。

「なるほどな」


スミスは二本目の指を立てる。

「2つ目はこのパキラって魔族が希少だって事さ」


ライトが横目でパキラを眺める。

「確かに見た事ねー魔族だ」


「こいつが生息してる場所には簡単には行けねえ。最近じゃ凶暴な魔族もでやがる」


ライトはにやりと笑う。

「魔族退治ならお手のものだぜ」


スミスは満足げに頷いた。

「そいつは頼もしいこった」


ノイスが急かすように問う。

「3つ目は何ですか?」


スミスは一呼吸置き、やや声を潜めた。

「3つ目は魔族殲滅軍て奴らのせいだ」


ライトが眉をひそめる。

「魔族殲滅軍?」


スミスは肩を竦めた。

「なんだか全ての魔族の殲滅を掲げている団体らしいんだが詳しい事は不明だが。魔族を使役する道具を作るアグロークに圧力をかけているらしい」


ユージは淡々と返す。

「魔族は俺ら人間の敵だ。倒すのは普通だろ」


スミスは首を傾げるだけで、それ以上は語らない。

「俺っちも詳しいことは知らねーんだ」


ユージは短く締めた。

「そうか」


スミスはふと思い出したように笑う。

「まあ、お前らとあったのも何かの縁だ。タシュッドさんには俺から推薦状を書いといてやる」


ユージが即座に値段を確認する眼差しになる。

「……いくらだ?」


スミスは親指を立ててにっこり。

「話がわかるねー。まけといてやるよ!1人10ゴールドだ!」

「絶対まけてないだろ!!」

パキラが引く荷車は、乾いた街道を滑るように進み、やがて前方に城壁の影が現れた。

「あそこに見えるのがアグロークさ」


ライトが身を乗り出す。

「おお!あそこがアグロークか!」


ユージは街並みを一瞥し、規模感を測る。

「思ったより小さい街だな」


スミスは荷台を止め、手綱を軽く引いた。

「俺っちが案内するのはここまでだ。荷運びの仕事もあるからな!達者でな!」


ノイスが深く頭を下げる。

「ありがとうございます!」


ユージが財布の残りを見て、苦笑する。

「あのおっちゃん中々に商売上手だぜ」


ライトはわくわくが抑えられない様子で言う。

「なあ!さっさとあのパキラってのをゲットして、その大っきい街を目指そうぜ」


三人はアグロークの門をくぐり、手綱とパキラを手に入れるべく街へ入った。


ライトが通りを見回して感心する。

「街には魔族がちらほら見えるな。みんな、あの手綱を付けてる。どこ行けば手に入るんだ?」


ユージは本能的に周囲の魔族へ警戒を向ける。

「魔族がこんなにいると戦闘態勢をとっちまうな」


ノイスが現実的な導線を提案する。

「まずはそのタシュッドさんていう魔術師を探さなきゃなのかな?」


ライトが首を傾げる。

「その魔術師ってーのはなんなんだ?」


ノイスは小さく肩を竦める。

「僕もよくは知らないけど、魔法使いとも違うみたい」


ユージは胸元から推薦状をちらり。

「俺達には推薦状があるからな、街で聞いてみよう」


ノイスは近くの住人に声をかけた。

「すいません。タシュッドさんて知ってますか?」


街人が気さくに頷く。

「ああ勿論知ってるよ。君達も手綱が目当てだろう?」


ユージが状況を確認する。

「君達もって事は他にも来たんですか?」


街人は答えた。

「パキラ目当てで、この街にくる冒険者も少なくないからな」


ユージが本題に入る。

「タシュッドさんて人はどこにいるんですか?」


街人は街の中心を指差した。

「魔術研究所さ。この街の中央にある変わった形の建物だ。すぐにわかると思うよ」


ライトが手を振る。

「サンキューな!」


三人は案内された魔術研究所の重厚な扉の前に立った。


ユージが周囲を確認して呟く。

「魔術研究所、ここみたいだな」


ライトは躊躇なく扉を押し開け――大声をあげた。

「おいっす! タシュッドって人いる?」


ノイスが慌てて袖を引く。

「ちょっと!ライト! いきなりそんな入り方びっくりされちゃうよ!」


ローブ姿の魔術師が現れ、鋭い視線を投げる。

「何のようだ?」


ユージが一歩前に出て簡潔に告げた。

「自分達は、パキラという魔族に乗れる手綱を買いに来たんです」


魔術師は首を横に振る。

「タシュド様は忙しい。受付する事はできん。お帰りなさい」


ユージは落ち着いて推薦状を差し出した。

「ちゃんとスミスって人から推薦状も頂いてます」


魔術師は紙を確認し、次に三人の身分証を求める。

「確認する。君達は冒険者か?冒険者登録カードはあるか?」


三人がカードを提示すると、魔術師は頷いた。

「……いいだろう。タシュッド様は奥の部屋にいる」


ライトが分厚い扉に手をかけて首を傾げる。

「この扉どうやって開けるんだ?」


魔術師は手を上げた。

「ちょっと待て。今開ける。」


指先に魔力が集まり、重い扉が音もなく滑る。

ウィン――。

ノイスが感嘆の声を漏らす。

「すごい!触れずに扉を開けたよ。さすが魔術研究所」


ユージも素直に感心した。

「すごい技術だな」


三人は奥へと進み、簡素な机に向かう壮年の男と相対した。

「君達は……?」


タシュッド――五十路ほどの落ち着いた瞳。

ライトが元気よく名乗る。

「おう!俺はライトって言うんだ! 魔族に乗れる手綱が欲しくて来たんだ」


タシュッドは口元に微笑を浮かべた。

「元気の良い子だね。何故パキラを求めるんだい?」


ユージが代表して答える。

「自分達は、旅をしている冒険者です。長距離の移動に適していると思ったので」


タシュッドは首を横に振る。

「その答えは感心しないな。パキラはいい子達だ」


ノイスが首を傾げた。

「いい子……ですか?」


タシュッドは柔らかい声で言葉を置く。

「ああ、だからパキラを道具のように扱うのはやめてほしい。手綱で無理に従わせようとは思わないで欲しいんだ」


ライトが腕を組む。

「魔族に優しくしろって言ってんのか?」


タシュッドは静かに頷く。

「そうだよ。彼らは別に魔族に生まれたってだけで、私達と大差無いはずだ。魔族だからと差別するのは私のポリシーに反していてね」


ユージは現実的な危険を指摘する。

「魔族は突然襲ってきます。犠牲も少なくありません。……それでも、危険ではないとおっしゃるんですか」


タシュッドは目を細め、ゆっくりと反論した。

「君達は魔族を誤解しているんだ。凶暴で人を襲う魔族もいれば、温厚で人懐っこい魔族もいる。元々この手綱も魔族と仲良くなれる為に私が開発したんだ」


ノイスの目が輝く。

「つまり魔族とは友達になれるって事ですか?」


タシュッドは嬉しそうに微笑んだ。

「友達……いい表現だ。君名前は?」


ノイスは背筋を伸ばす。

「ノイスと言います」


タシュッドは志を語る。

「私はいつか全ての魔族とも友達のような関係が作れると考えている」


ユージは半信半疑のまま呟く。

「魔族と友達??そんな事が……」


タシュッドは手綱の原理に触れた。

「この手綱は私の魔族を従えるスキルの力を利用し作られている」


ライトが食いつく。

「魔族を従える力だって!!」


タシュッドは手のひらを見下ろしながら説明する。

「私のスキルは魔族を使役する。直接触れる事で言う事を聞かせられるんだ」


ユージが試すように問いかける。

「……例えばグリフォン型とか龍型も操れたりするのか?」


ノイスが小声で焦る。

「ユ、ユージそれって!」


ユージの問いに、タシュッドは静かに首を振る。

「すまない。会った事ないが、おそらく無理だろう。従えると言うのは操るのとは違う。私単体を超える力は制御できない」


ユージは短く返した。

「そうですか」


タシュッドは穏やかにまとめる。

「私のスキルは魔族と友好関係を作るためにあると私は考える。それの第一歩が、パキラに着ける手綱さ」


ライトが笑う。

「大体の事はわかったぜ!パキラはいい魔族って事だろ?」


ノイスは額に手を当てて小声で突っ込む。

「簡単に考えすぎじゃないかなー」


タシュッドは軽く微笑んだ。

「ふふ、今はそれでいいさ。だが、パキラは今は私の手元にはいない」


ユージの目が細くなる。

「どう言う事ですか?」


タシュッドは申し訳なさそうに肩を竦める。

「商人達や冒険者に私が管理していたパキラは譲ってしまってね」


落ち込むノイス。

「それじゃ、どーすれば……」


タシュッドは地図から山脈を指した。

「パキラは本来ダイナ山の頂上付近に生息する。ここまで無傷で連れてこられたら、手綱は三人にプレゼントしよう。 どうだね?」


ライトは目を輝かせる。

「お!タダでくれるなんて気前がいいな!」


タシュッドは嬉しそうに頷いた。

「君達の様な若い冒険者が、魔族の事を理解してくれるなら、安いものだよ」


ライトが勢いよく立ち上がる。

「こうしちゃいられないな!行くぞ!ユージ!ノイス!」


ノイスが慌てて荷を掴む。

「待ってよーライト!」


三人は研究所を飛び出し、ダイナ山へ向けて駆け出した。

背後で、タシュッドが窓辺に立ち、小さく呟く。

「ふふ、野生のパキラを手懐けられるかな?」


――こうして、三人はアグロークを飛び出し、ダイナ山を目指す。

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