第一話 旅立ち
簡単な物ですが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。
ここは、人間と魔族が“共存”している世界。
そんな中、三人の少年は孤児院を抜け出し、今日もこっそり魔族の狩りに森の奥まで来ていた。
「この辺の魔族じゃ、相手にならなくなってきたなー」
森の中を軽快に歩きながら、魔族を探すライト。
「素材だけはちゃんと拾っておけよ! 金になるんだからな」
呑気なライトにユージがツッコミを入れる。
「ちょ、ちょっと〜! 二人とも待ってよー!」
ノイスが慌てて後を追いかけた。
ライト、ユージ、ノイス――三人は小さなリック村の孤児院で育った幼なじみだ。
魔族との争いで身寄りを失った彼らは、同じ痛みを抱えながらも、いつか“冒険者”として生きる夢を共有していた。
「痛てぇ……油断した」
イノシシ型の魔族に体当たりされて、ライトの腕に切り傷が出来る。だが、その傷はすぐに塞がり消えていった。
彼のスキル――《自然回復》(オートヒール)。致命傷に至らない限り、自動で傷を修復する能力だ。
「まったく、もっと計画的に動けよ!」
ユージがナイフを投げる。鋭い軌跡を描いた刃は、イノシシ型の魔族に突き刺さり、動きを止めた。
「ブギィッ!」
ユージのスキルは《異常状態付与》。
武器に毒や麻痺などの効果を乗せることができる。小回りの効くスキルの為、三人の中では、戦闘の指揮をとることが多い。
「動かない魔族には魔法が当てやすいね! ――《ファイヤーボール》!」
ノイスが詠唱し、赤い炎が空気を焦がす。
彼のスキルは《詠唱短縮》。魔法の発動速度を大幅に高める、魔法使いにとって理想的なスキルだ。
二人に比べて近接戦は苦手だが、魔法適性は非常に高い。
三人の連携は見事だった。
森の奥で次々と魔族を狩り、血煙と焦げた匂いが漂う中、ライトが笑った。
「今回の狩りも楽勝だったな! 俺ら三人なら最強の冒険者になれるぜ!」
「そうだな……バンバン依頼受けて、金に困んない生活がしてーな」
ユージはボロボロの服の裾を見下ろし、苦笑する。
「えへへ、僕は三人で生きていければ、それだけでいいんだけどな」
ノイスが柔らかく笑った。
討伐したイノシシ型魔族を食用として孤児院に持ち帰る。
三人は腕を磨くため、時間を見つけては狩りに出かけていた。
施設長からは「あまり森の奥には入るな」と何度も釘を刺されていたが、近場の魔族はもう狩り飽きていた。
強敵を求め、三人は今日も奥へ奥へと進んでいた。
⸻
三人には、冒険者を目指すきっかけとなった憧れの存在がいた。
その名は――エルディオ。
“生きる伝説”とまで呼ばれる男だ。
彼はたった一人で冒険者の道を歩み出し、数々の依頼をこなし、今やその名を知らぬ者はいないとまで言われている。
エルディオも裕福な出ではなく、苦労の末にその名を広めた。
だからこそ、自分と同じ境遇の子どもたちに希望を与えたいと願い、稼いだ依頼金の多くを児童施設や、魔族に荒らされてしまった村に寄付をしていた。
ライトたちの施設にも、直接訪れたことがある。
食料や武器を手にして現れ、笑顔でこう言った。
「君たちには可能性がある。進みたい道を進め!」
その言葉が、三人の胸に深く刻まれている。
「俺らもエルディオみたいに強くなれるか?」
「ハッハッハ! きっとなれる。いや――きっと私よりも強くなれるさ!」
ライトはその強さに憧れ、
ユージはその成功に憧れ、
ノイスはその優しさに憧れた。
そして今、三人はついに――
冒険者登録ができる年齢に達していた。
「冒険者登録ができる一番近い場所は、街カタドラだ」
ユージが古びた地図を指差す。
「カタドラは人口も多くて、賑やかなところみたいだから、なんだか楽しみだね」
ノイスの目が輝く。
「ついにだ。ついにこの時が来た! 待ち侘びたぜ!」
ライトは拳を突き上げ、胸を高鳴らせた。
⸻
三人が旅支度をしていると、背後から穏やかな声がかかった。
「三人共、本当に行くのか?」
振り返ると、施設長が立っていた。
しわだらけの手には、いつも三人を見守ってきた温かさがにじんでいる。
「あたりめーよ!」ライトが即答する。
「冒険者の道は甘くないぞ。わかっておるか?」
「今日のためにこれまで特訓してきたんだ。ここまできて諦められるかよ」
ユージが真っ直ぐに言い返す。
「僕たちのスキルは、冒険者適性が高いと思います。心配いらないですよ」
ノイスも穏やかに笑った。
施設長は深く息をつき、目を細めた。
「確かに三人とも強い。しかし、冒険者は危険な職業じゃ。毎年、何人も命を落としておる……他の道は考えられんか?」
冒険者は安定した収入もなく、命の危険と隣り合わせの仕事。
出来ることなら、彼らには別の道を歩んでほしかった。
「もう聞き飽きたよ、じーさん! 俺のスキルなら怪我しねぇ。俺が前線にいれば、二人も無事だ!」
「ライトよ……自分の力を過信するな」
施設長の声には、父親のような優しさと不安が入り混じっていた。
「ま、俺らもいるし、ライトにも無茶はさせないさ」
ユージが軽く肩を叩く。
「……今さら何を言っても無駄じゃな」
施設長は苦笑しながらも、最後まで心配を隠さなかった。
「だが、ここ最近、魔族が凶暴化していると聞く。三人とも気をつけるんじゃ。カタドラへの道は魔族が多い。リック村の周りとは訳が違うぞ」
「あはは、それももう何回も聞いたよ」
ノイスが苦笑する。
「ああ、そうか……それと、その――元気でな」
その言葉に、三人は少しだけ胸が熱くなった。
今までの思い出が一気にこみ上げてくる。
「今までお世話になりました。この施設に居れて、幸せでした――いってきます!」
三人は振り返らず、勢いよくリック村を飛び出した。
施設長はその背中をいつまでも見送りながら、小さく呟いた。
「……無事でいてくれ」
三人の無事を、ただただ祈っていた。
施設長の言う通り、村を離れるほどに魔族の数は増えていった。
「村から出ると、途端に魔族の数が多いな」
ライトが剣を構えながら呟く。
「あの辺りは、魔族が発生しにくい地域だったのかもな」
ユージが冷静に分析する。
だが三人の勢いは衰えなかった。
オオカミ型、スライム型、ゴブリン型――次々と現れる魔族たちを、難なく討伐していく。
「数は多いが、大したことないな」
ライトが余裕の笑みを見せる。
「小さい頃から、散々抜け出して魔族狩りしてたからね」
ノイスも楽しそうに笑った。
さらに三人は森を抜け、街道を進んでいく。
「ユージはやたら荷物が多いな」
「今まで倒してきた魔族の素材だよ。村じゃ売れないけど、街カタドラなら多少は金になるかもしれない。さすがに村で貯めた150ゴールドじゃ心もとないからな」
ユージが背中の袋を軽く叩く。
三人は魔族を狩って食料を確保し、野宿を繰り返しながらカタドラを目指した。
「そろそろ街が見えてきたよ!」
ノイスが指差す先、地平線の向こうに巨大な城壁がそびえていた。
そこが――三人が憧れ続けた冒険者の街、カタドラだった。
「でっけぇ……これが街か」
「こんだけ遠くからでも、賑わってるのが分かるな」
村を出るのは初めての三人。その規模の大きさに思わず息を呑む。
そのとき――。
ゴウッ、ゴウッ――。
地鳴りのような風切り音が響いた。
「なんだ!?」
ユージが振り返る。
「あれ見て!」
ノイスが指さした先にいたのは、見たこともない巨大な影だった。
「なんだこいつは! 見たことねぇぞ……ライオン型、ってやつか?」
ライトが剣を構える。
「でも翼が生えてる……」
「……あれ、村の図書館で見たことある! キマイラってやつかもしれないっ!」
ノイスが叫んだ。
「見た目、強そうだけど……なんとかなるか?」
「いや、こんな場所に現れるなんておかしい……本で見た限り、相当手強い魔族のはずだよ」
「……なるほどな……一旦引くぞ、リスクが高い」
ユージが判断する。
三人は距離を取ろうとした。――だが、キマイラの瞳がギラリと三人を捉える。
「走るぞっ!!」
ユージの声と同時に三人は駆け出した。
だが、次の瞬間――。
「ブゥウワァーッ!」
突風が吹き荒れ、視界が白くかき消された。
「すごい風圧だ! 前が見えない!」
「くそ! 足止めする!」
ユージがナイフを投げ、キマイラの胴に突き刺さる。
「麻痺のナイフだ! これで少しは動きが鈍るはず――」
だが、キマイラの動きは止まらない。
むしろ瞳の奥に怒りの炎が灯る。
「効いてねぇどころか、余計怒ってねーか!? こうなったら――ここでやるしかねぇ!」
ライトが叫び、真っ向から突っ込んだ。
「おい、ライト! ……くそ、しゃーねぇ。援護するぞ、ノイス!」
ユージも弓を構え、矢を放つ。
ライトの剣が振り下ろされるが、キマイラの爪がそれを弾き飛ばす。
ユージの矢は、翼から生まれる風圧にかき消された。
「――《ファイヤーボール》!」
ノイスの魔法が命中するが、炎の中からキマイラは平然と姿を現した。
「ぜ、全然攻撃が通らねぇ……!」
「――これならどうかな? 《アイスニードル》!」
ノイスの詠唱が響き、氷の針が空を裂いて突き刺さる!
「ブウウワァーッ!」
「若干効いてるぞ!」
「炎には耐性があるけど、氷は効くみたい!」
キマイラがノイスに狙いを定め、翼をはためかせて突進する。
「行かせねぇ!」
ライトとユージが同時に回り込み、進路を塞ぐ。
「時間稼ぐから、できるだけ威力の高い氷魔法を頼む!」
ユージが叫び、ライトは振り下ろされた爪を剣で受け止めた。
「二人とも、ありがと!」
ノイスは詠唱を続ける。
「くっ……押し負けるっ!」
二人がかりでも力は拮抗しない。足元の地面がめり込む。
「――いっくよ!」
ノイスの声が響いた。
「貫け――氷の槍よ! 《アイスランス》!!」
氷の槍が轟音とともに放たれ、キマイラの胴に直撃した。
「やったか!?」
「ブウブゥグァァァァーッ!!」
咆哮とともに、キマイラの体がのけぞる。――しかし、致命傷ではない。
「ノイス、危ない!!」
ユージの叫びが響く。
「ひっ……!」
ノイス目掛けて、キマイラが突進する。避けきれない――。
「うおおおっ!」
ライトが体を投げ出し、ノイスを突き飛ばす。
次の瞬間、牙がライトの腕に食い込んだ。
「ブブブウアガァ!!!」
キマイラが頭を振り回す。ライトの体が宙を舞った。
「ラ、ライト!!!」
ユージの絶叫。
血飛沫が舞い、ライトの腕が――千切れていた。
「ぐっ……ぁああああっ!!!」
地面に叩きつけられ、ライトは叫ぶ。
「そ、そんな……どうやっても勝てないよ……! こんなはずじゃ……考えが甘かったんだ……!」
ノイスの声が震える。
「ちくしょう! これ以上、どうしようもねぇのか……! 俺らは、こんなもん……なのか!!」
ユージの拳が地面を叩く。
キマイラは倒れたライトを見つめ、巨大な腕を振り上げた――。




