劇場
此処へ来るまでの道のりを、私は思いだせるのだろうか。
最後の一葉は、どんなに期待をかけられようとも無情に落ちた。
朝の風景。田園に佇むのは案山子だった。
この情景も、10年後には忘れているのだろうか。
夜の風景。蟋蟀が音を奏でる。
何処にいるのだろうか。その姿は夜に溶け込んでいる。
あなたは、何処にいるのだろうか。
あそこの鳥居にあなたはもたれかかっていたような気がする。
あなたはあそこの案山子を見つめていたような気がする。
そしてその後あのコップで水、いや紅茶か。飲み物を飲んでいた気がする。
不安定な記憶は私に不安を与える。
人生は、長い長い映画のテープの様なものだ。
巻かれたテープが上映されるように、時は進んでいく。
そのテープが、偶々他のテープに重なっただけの話。
商店街ですれ違った人は今まで何人いるだろうか。思い出せ無い。
重なった時間がほんの僅かだったから。
これまで私が夢中になった人は何人いるだろうか。一人だ。
重なった時間が長いという事、ほぼくっついていたという事。
それが無くなった時、自分の中にぽっかり穴が開いたような気がするのだ。
地球に同情を感じるのは私だけだろうか。
月は、地球の一部だったという。
何万年、何億年、いや何十億年と、お互いの姿は見えてはいるものの、手を伸ばすことさえできない。
月は・・・そういえば、あなたは私のことを覚えているのだろうか。
判らない。判るはずもない。
だって、私はあなたではないのだから。
日常を送る。
テープを再生する。
無数のテープと、重なる。
でも、あなたのようなテープに私はあなた以外に出会った事が無い。
それは、これからもずっと、そうなのかもしれない。
そうであってほしい。




