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序章[5] 東京湾上空

4/1 序章を連続で投稿します。

「わー、とうきょうがあんなにちいさい……じめんがまるい……」


ミツボはディスプレイに映し出される空から見た地上の光景に見入っているようで、怖がるでもはしゃぐでもなく、大人しく自分の席に座っていた。


「こんなデカブツで空を飛んでるなんて……これもやっぱり、魔法の力ってヤツっスか?」


「魔法と科学を融合した『超技術』が使われてるっていう話だけど……詳しい原理は、私には説明が難しいかな」


ソウイチロウの疑問にハナコが答える。


「バックグラウンドで魔法が使われてるってなら、色々と納得するしかないっスね。なんでもアリっていうか……」


「そうだね。私も未だに驚くことばかりだよ」


「ってか……」


言葉を続けようとするソウイチロウを、合成音声のアラートが遮った。


『敵部隊との接触まであと五分』


ソウイチロウの頬を冷汗が流れた。

僅かな時間の後には敵との戦闘が始まるのだ。


「そういえば君って、プログラミングが得意なんだよね?」


「まぁ、そうっすね……その界隈(かいわい)では日本のトップレベルかもって感じっスか」


ソウイチロウは自分を大きく見せる言い方をした。


「ふーん……。凄いスキルの持ち主なんだね。実はこのニルビス、プログラムの開発が間に合っていなくて。使えない武装があるんだ」


「えっ、そのまま戦闘して大丈夫なんスか?」


「パンチやキック、あとはトマホークが使えるから、それだけでも戦闘はできるけれど……やっぱり不安要素だよね。そこで相談なのだけど……」


そう言うと、ハナコはコクピットの正面に向かって話しかけた。


「ニルビス。二番席の端末(コンソール)にニルビス・ビームの制御プログラムを表示させて」


そういえば、先ほどからハナコは操縦に類する仕草を何ひとつ行っていない。

全て口頭での命令で完結している。

このニルビスには、かなり高度な自律制御と音声操作のシステムが搭載されているようだ。


ハナコの命令を受け付けたニルビスは、ソウイチロウの座る席に備え付けられたディスプレイに、英数字と記号の羅列を表示させた。

どうやらこれが、ニルビス・ビームと呼ばれる武器に関係するプログラムのソースコードのようだ。


「どこがおかしいか、プログラミングが得意なら見て分かる?」


本来であれば無茶な依頼である。

一言でプログラミングといっても、その分野は多岐に渡る。

PC、モバイル、ウェブ、組み込み、汎用機……ある分野には詳しい場合であっても、別の分野のことは全く分からないということは往々(おうおう)にしてあるのだ。


スポーツを例にすれば分かりやすいだろう。

一言でスポーツと言っても、陸上競技、水泳、体操、自転車、球技、格闘技……大雑把にもこれだけの種類がある上に、球技だけでも野球、サッカー、テニス、バレー、バスケットボールとさらに細かく分けられるのだ。

コンピューター・プログラムも同じである。


「プロのアスリートなら、どんなスポーツでも上手に出来るよね? サッカーの試合でも、大活躍出来るよね?」


などとゴルフやフィギュアスケートの選手に言い放つようなものだと言えば、ハナコの相談の無茶振り具合が想像できるだろうか。

だが、プログラマーに対する理解不足から、このような無茶振りが度々起こってしまうのが、ITという業界なのである。

このような悲劇からプログラマーが解放される日は訪れるのであろうか……。


話が逸れ始めたので元に戻そう。

普通のシステムであれば無茶な話であろうが、ソウイチロウが触れているのは魔法が背景にあるシステムである。

そんな無茶をある程度は吸収できる仕組が備わっているのだ。


「えっ、このロボットのプログラムって、Javaで書かれてるんスか!? コメントも英語じゃなくて日本語だし」


ソウイチロウの目には、自分にとって一番に見慣れたプログラミング言語によるプログラムが表示されていた。


「その端末(コンソール)、使う人に合わせてプログラムを自動的に翻訳する機能があるんだって。私の場合には……チェケラッチョ? えっと、なんだったっけ……」


「もしかして、Scratch(スクラッチ)っスかね?」


「それ! まあ、見てみたところで、私にはプログラムの内容を全く理解できなかったのだけれど……君ならどう?」


「なるほど、魔法って本当に便利っスね……これならコードを読めそうっス……」


ソウイチロウの目が据わる。

目の前のプログラムに引き込まれ、集中を始めたのだ。


『敵部隊との接触まであと一分。戦闘機、数9』


(なご)やかになりかけていた場の空気が、アラートによって再び緊張したものに変わる。


「始まるよ……! それじゃあ君は、プログラムの解読をお願い!」


ハナコが言うのとほぼ同時に、ニルビスの機体周囲から爆発音が何度も鳴り響いた。

戦闘機から発射されたミサイル攻撃がニルビスに襲い掛かったのだ。


「うわっ、どーんってなったよ!」


ミツボは大きな音と僅かな揺れに驚いたが、恐怖を感じている様子はなかった。

戦闘機から発射されたミサイルは対戦闘兵器用のものであり、テーマパークに巻き散らされた対人用の爆弾とは比べ物にならない威力を持つ。

にもかかわらず、コックピット内に伝わる振動が僅かなものであったのは、ニルビスが持つ強固な装甲と、内部のダメージコントロール性能の高さ故である。


「ニルビス! 近づく敵機をパンチで迎撃!」


ハナコの命令を受けて、ニルビスは戦闘機を手近な機体から手当たり次第に殴りつける。

ニルビスの拳に触れた戦闘機はそれだけでバラバラになり、東京湾へと沈んでいった。


「…………」


激しい戦闘の中、ソウイチロウは完全に無言でキーボードの操作を続ける。


「みっつ! つぎはえーっと、よっつめ……!」


戦闘機を撃墜する度に、ミツボが数えていく。

ニルビスと戦闘機との戦いは、圧倒的にニルビスに分があった。

これなら、「ニルビスの中にいた方が安全」というハナコの言葉にも頷くことができた。


「次でラスト!」


あっという間に、戦闘機は一機を残すだけとなっていた。


「やっちゃえー!」


ニルビスに殴られた九機目の戦闘機が爆散する。

激しい戦闘が終わり、コックピット内は落ち着きを取り戻した。


「ふぅ……戦闘は終わったよ」


「みつぼたちのかちー!」


「あれ? もう戦闘は終わっちゃったんスか……?」


ソウイチロウは、まるで戦闘が始まっていたこと自体にも気付いていなかったという様子で、辺りをキョロキョロと見回していた。


「君って本当に、集中するとプログラム以外の何も、目や耳に入ってこなくなるんだね……結構それなりに大きな音がしてたと思うんだけど」


「よく言われるっス。んで、ビームが発射できない原因について、目星が付いたっスよ」


「えっ、本当なの?」


ハナコが驚きの声を上げる。


「多分……。試しに一度、ニルビス・ビームを撃ってみて貰えるっスか」


「わかった。ニルビス、ビームを発射してみて!」


『プログラム・エラー発生、エラーコードE203。ビームを発射できません』


ハナコの命令の後すぐに、コックピット内にアラートの音声が響く。

ソウイチロウは端末(コンソール)を操作しながら喋り始めた。


「やっぱりだ。エラーログでも確認できたけど、どうやら入力パラメータのエラーチェックに引っかかってるみたいっスね……。詳しくは分かんないけど、なんとかパワーって変数の値が大きすぎる場合にはエラーとするような処理が直接の原因っぽい。多分だけど、今のプログラムはテスト環境用のものをそのまま載せただけで、これからパラメータ周りを調整する必要がある代物なんじゃないかな……と」


「はー……はー?」


ミツボはキョトンとした顔でソウイチロウの話を聞いている。

顔や声に出さないだけで、それはハナコも同じのようだ。


「……コードの内容を聞かされてもよく分かんないけど……どう、直せそう?」


流石にこのハナコの要求は無茶が過ぎるというものである。


「うーん、興味はあるっスけど、ちょっとソースコードを見ただけで直すのは厳しいかな。どういう意図でチェックの処理が組み込まれているのか、資料が無いと」


仕様の分からないプログラムほど、恐ろしいものはない。

ましてや、今ソウイチロウが見ているのは、兵器に関わる()()()()()プログラムなのだ。


「ふーん。まあ、いいか……。戦闘も無事に終わったし、その辺りは戻ってから直せばいいよね」


その時である。

コックピット内にアラート音声が響いた。


『新たな敵影をキャッチ。スーパーロボット、数1。接触まであと一分』


「増援!?」


レーダーにはニルビスに接近する新たな敵影が表示されていた。

お読みいただきありがとうございました。


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個人サイトでも投稿しています。

https://maynek.net/

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