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神野君の憂鬱3




神野君と別れ暗くて長い廊下をひたすらまっすぐに進んだボクは、ようやく廊下の突き当たりに辿り着いた。

いまボクの目の前には木で作られた重厚感のある扉が立ちはだかっている。


(うん、何もないね。)

念の為、扉に手をかざして確認する。どうやら術の類はかかっていないようだ。

ボクはドアノブに手をかけガチャりと扉を開けた。


(うぇ。ホコリすご。)

部屋の中は背の高い本棚と本棚に入り切らずに転がっている本でめちゃくちゃになっていた。

その為、本来は狭くもない部屋だろうにまるで窮屈でとても小さな部屋のような印象を受ける。


「なになに…げっ悪魔図鑑~?」


足元に落ちている本を手に取ると、表紙には金色の派手な文字で『悪魔図鑑』と書かれていた。

(…オカルト好きな人間だったのかねぇ。)

あまりにも胡散臭いが、好奇心に負けて試しに数ページめくってみる。

しかし、意外にも中身はある程度しっかりしており、悪魔の目撃情報と共にその悪魔の種類と著者による考察などが書かれていた。

ちょっとだけ関心しながら眺めていると、『もし悪魔に遭遇したら』という小タイトルが目に入る。


「…えーと、もし悪魔に遭遇してしまった場合、悪魔に好物を渡す事で交流を深めよう。手ぶらのキミも大丈夫! 何故なら悪魔の主食は人間の、たい、えき……うわ、うわぁー! なんか人間ってこういう所あるよね! ほんと人間の想像力って凄いな…。」


人間の想像力には、稀に感動すら覚える。

一応訂正しておくがボクは人間の体液を好ましく思ったことは一度も無い。

そこだけは、ちゃんと頭に入れて置いて欲しい。


気を取り直して探索を始めることにしたボクは、なるべくホコリを立てないようにゆっくりと宙に浮いた。

物が多すぎて歩きずらいうえに、本棚の背が明らかにボクよりも高い為、浮いた方が探索しやすいことに気づいたのである。


「うーわ見なかったことにしよ。」


床も酷いホコリだが、上の棚はさらに悲惨だ。

あまりの汚さに早くもやる気を失い始めたボクは、ぷかぷかと部屋のなかを適当に探索し始める。


「…? なんだろ。」


しかし、直ぐに部屋に違和感を感じるようになりボクは首を傾げた。

なんと言うか…部屋の荒れ方が不自然なのである。

否、部屋だけではない。

探索の途中で、手に取った数冊の本は年季がはいっているばかりか酷く状態が悪い。

殆どの本が、まるで故意にそうされたかのようにボロボロになっているのだ。

また部屋の奥に進むにつれて床板の痛み具合も酷くなり、もし下手に歩きでもしたら床が抜けてしまいそうである。

ボクは、さらに高く浮かび上がると部屋の天井に手を添えた。

非常に分かりずらいが天井にも沢山の細かい傷が残っているのが分かる。


(この屋敷そんなに古くないはずだけどな。)

確か村雨から送られた資料では、この屋敷に完全に人が訪れなくなったのは今から5年ほど前であったはずだ。

それなのにこの部屋の荒れようはなんなのだろう。


「ん? 」


ボクはふと気になって目の前にあった本を手に取った。

本棚の丁度ボクの目線の先に差し込まれていたその本は、他の本よりかは多少丁寧にしまわれているように感じる。


(…これもひどいな。)

だが丁寧に仕舞われていると感じたその本でさえも、手に取ると他のと同じ様に表紙がボロボロになっており、紙の劣化が著しいことが分かった。

本をクルりと回し背表紙と表紙を確認するが、タイトルらしきものは見当たらない。

ボクは宙で胡座をかきながら本のページをめくる。


「わっ! 」


ページをめくった拍子に本の中からバサバサと何枚ものページが抜け落ちた。

ボクは呆然と、抜け落ち床へ広がっていったページ達を見つめる。


(こ、これボク片付けなくて大丈夫だよね。)

少し悩んだ末、やりたくない気持ちが勝ってしまったボクは落ちたそれ等を見なかったことにして、手に残っている他のページへ目を移した。


『悪魔の創り方』

他よりも少し大きめの文字で記されたソレが一番にボクの目を引く。


「くだらなー。」


ボクはポイッと本を投げ捨てると、部屋の中を改めて見渡した。

悪魔の発生は例えるなら、自然災害の発生と同じである。

故に人間が自然災害の創成を操ることが出来ないように、悪魔を創り出すことも不可能なのだ。


しかし今のでこの部屋の目的は理解出来た。

部屋の中の違和感から察するに恐らくこの部屋では、かつて悪魔の召喚が行われたのだろう。


(そして、失敗した。)

この部屋に術の痕跡が感じられないのは、召喚に失敗してから少なくとも5年以上の月日が経ったから。

部屋がめちゃくちゃなのは、術の暴走による物だろうか。

目的がなんであれ、悪魔の召喚はとても難易度の高いものだ。

この屋敷に、それこそ悪魔祓いのような職業の人間でもいない限り素人が悪魔を呼び出すのは難しいだろう。

この部屋を見る限り多少本物もあるようだが、それ以上に先程の図鑑の様な紛いモノが多い。

そんなモノを多く集めている人間が悪魔祓いであるとは考えずらいのだ。


「ええと。つまり、ここに住んでいた人間は悪魔に縋りたくなるほど何か叶えたいことがあったってこと、かな。」


この部屋はそんな無駄なことをする為に使用されていた部屋らしい。


(あーあ。時間無駄にしちゃったな。)

まぁ、仮にボクの考えがあっていたら情報としては1歩進展したことになる、かもしれない。

ある程度時間も潰せたし、神野君も落ち着いた頃合だろう。

ボクはホコリっぽい部屋から出ると、大きく息を吸った。


「うわぁ空気がちょっと綺麗な気がする~! 」


部屋の中よりかは綺麗な空気に感動する。

どうやらボクは少し潔癖のきらいがあるらしい。


「うーん! 戻るかー。」


ボクはぷかぷかと浮きながら神野君が居る玄関ホールへと向かった。


(神野君いるかなぁ~。)

のんびりプカプカ廊下を進んで玄関ホールに到着する。

ボクは重力に従い、絨毯の上にトンっと華麗に着地した。

着地と同時に誰かの視線を感じて、その方向を見る。

そこにはポツンと突っ立っている神野君の姿があった。彼は静かにボクを見つめている。


「あ! 神野さーん。」

「……。」


神野君は相変わらず無口だ。


「えっとですねぇ。……、」


ボクは一先ず、廊下の先にあった部屋のことを神野君に報告した。

話を静かに聞いていた神野君は静かに頷く。


「……ボクも、そう思う。……僕の調べた方はね……、」

「!! はい! 」


(喋った……! )


てっきり光る板でコミュニケーションを取ることになると思っていたボクは、神野君が喋ってくれた事に思わず感動してしまった。

感動レベルで言えば先程の図鑑よりも大きい。


神野君の話をまとめると、他の部屋もある程度荒れていた、また呪物によく似た壺や小瓶などの骨董品が多く残っていたとのことだ。


「つまりですよ? この屋敷には何かしらの理由で悪魔を呼び出そうとした人間がいた。

でも、それは失敗して強い気持ちだけが屋敷に残り、ソレが悪霊を呼び寄せている又は、ソレ自体が悪霊になっているってことですかね。」

「……後者なら厄介。」

「ですねぇ。放置されてそれなりに経ってますから怨念も詰まってそうですよ。」


どうします、と神野君に声を掛ける。

神野君は人形達に寄りかかりながら静かに首を傾げた。


「……キミはつよいの?」

「うーん。お化けごときに負けはしないですけど、援護の方が得意ですかね。」

「…じゃあ僕がやる。キミはこの子達の後ろにいて。」

「了解しました。後ろは任せてください。」


神野君が立ち上がると人形達もワラワラと動き出した。

(なんかいいなぁ。ボクもぬいぐるみ買ってもらおうかな。)

村雨さん買ってくれるかなぁ、と考えているとボクの尻尾を誰かがクイッと引っ張った。

誰か、と言ってもこの場には1人しかいない。

そう。何やら思い詰めた顔をした神野君であった。






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