神野君の憂鬱 2
前回の神野君の憂鬱 1を修正しました。
その結果、学校▶︎仕事の順番を仕事▶︎学校の順に変更しました。
順序を変更しただけの為、前の話を読み直さなくても楽しめるとは思いますが、それ以外にも加筆部分がある為、良ければ読んで頂けると嬉しいです。
「うーん。随分悪趣味ですねー。」
ボクは目の前の洋館を見上げる。
人里から少し離れた所に建てられたこの立派な屋敷は少し前まではお金持ちが別宅として使っていたらしい。
しかし、今やその影を無くし荒れ果てた庭や門の前に投げ捨てられたゴミ、そして粗末な文字がかかれた沢山の張り紙達が屋敷全体をかつての厳かな様子から陰湿で異様な雰囲気に塗り替えている。
ここは、都心から車で1時間程の場所にあるとある山中。
今日ボク達がここにきたのは、勿論遊ぶ為などではない。
監視局としての仕事、まぁつまるところお化け退治をする為にやってきたのだ。
「いかにもって感じのところですねぇ。」
「……。」
ね、と話しかけるも隣に並んだ神野君は一言も発さない。
というのも今朝の会話をしてからというもの神野君はボクと口を聞いてくれなくなってしまったのだ。
いや喋らないのはいつも通りではあるのだが、なんと言うか昨日初めて会った時よりも距離ができてしまった気がする。
(…どうしたもんかなぁ。)
神野君はボクを避けながらも、スマホなる光る板を使って村雨さんからの司令を教えてくれる。
その為、今はまだ何とかなっているがこの現状を変えなければボクに課せられた仕事の方は難しくなってしまうだろう。
(神野君と話し合う必要があるのかな。…面倒だけど。)
「ボク達の初仕事ですね! 頑張りましょーね神野さん。」
「……。」
神野君は小さなリュックサックを背負いスタスタと屋敷へと向かって行く。
ボクもその後を追って屋敷へと近付いていった。
神野君が屋敷の扉に鍵を差し込む。
なんと事前に村雨さんから渡されていたらしい。
「用意が良いですね。流石です! 」
「……。」
(喋らんなぁ…。)
扉をガチャリと開けると屋敷の中に日が入り込み、内装が良く見えるようになった。
中はホコリは被っているものの家具などが破損している様子は無く、比較的綺麗に見える。
ボクはぷかぷかと浮きながら玄関ホールの中をあちこち見て回った。
一方ボクが見て回っている間、神野君はリュックサックを背中からお腹の方へクルリと移動させると何かを取り出す。
それらを床に置いた神野君は、1歩下がると静かに目を閉じ両手をかざした。
「へぇ。神野さん人形使いなんですね。」
ボクの目線の先には四体の人形が立っていた。
それぞれ犬、鳥、人間の形をした人形達は神野君が緩く手を振ると一体だけを残し屋敷の奥へと進んでいく。
ボクは神野君の隣にふわりと飛んだ。
「あの子達は神野さんのお手製? 」
「……。」
神野君はまだ応えてはくれない。
「神野さん…。ボク気に触ること言いましたか? 」
「……。」
「ボクが一緒に学校へ通うことが嫌でしたか? 」
「……。」
神野君は応えない。
(……無理か。)
ボクは神野君との話し合いを一旦諦めることにし、人形達が向かった方向とは違う方向へと進む。
「ボクちょっとコッチの廊下も見てきますね。」
神野君の隣には人形がいる。見たところ戦闘用の個体っぽかったので暫く離れていても大丈夫だろう。
(むしろボクが居ないほうが精神的に良さそうだし。)
廊下の先は窓が少なく、その窓も生い茂る木々達によって日陰ができているせいか午前中だというのに日を取り込めていない。
ボクは床にタンッと足を下ろすと廊下の奥へと向かった。
僕は暗がりへ沈んで行く後ろ姿を見つめていた。
僕より少し大きいくらいのその背中は全く臆することなく暗闇へと進んでいく。
(きっと…あの子は悪魔だから暗いのが怖くないんだろうな。)
怖いことだらけの僕は怖がらないあの子が羨ましい。
(……いっぱい、無視しちゃったな…。)
それでも、無視してもいっぱい話しかけてくれたあの子は僕のことをどう思っているのだろう。
僕は僕に優しくしてくれる人が恐ろしい。
1人になったあの日から僕の味方は居なくなってしまった。
「……僕にやさしくしないで…。」
隣の人形の手をぎゅつと握りしめる。
人形は僕の手を受け入れてくれた。
けれども僕の手を握り返してくれることは無い。
「……。」
(……あったかかったな、悪魔なのに…。)
人形に寄りかかりながら少年は静かに涙を流した。
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