対罪霊監視局1
今回少し長いです
「ていうか、あの願いなんなんですか?人間の味方になれって普通悪魔に願います?」
契約を交わしたボク達は村雨の車に乗り支部とやらに移動していた。
「貴方ね、叶えるとか言っておきながら文句は無しですよ。」
「文句なんて言ってないです! ただちょっと珍しいタイプの願いだなって。
ほらお決まりなのはお金が欲しい、とかですけど。
アンタそういうの興味無さそうだったし、ボクてっきり祓い屋らしく全ての悪霊を消滅してくれ! とかそんなのが来るのかなって思ってたんですけど。」
「できるんですか?」
「ま、まぁ昔ならできた…かも。」
「ハナからそこまで期待してませんので安心なさい。」
「……それはそれでムカつくんですけど。」
(……コイツホント全然可愛くないぞ。)
冷静に憎まれ口を叩く目の前の歳下にムッとする。ぶっちゃけこの世の霊を全て除霊するなんて不可能だ。
人がこの世に存在する限り奴らが完全に亡くなることはないだろう。きっと。
しかし出来ないとこの男の前で断言するのは何だか悔しくてゴモゴモと口を開く。
「……そもそも絶対に出来ない訳じゃな」
「それに そんなことをされたら明日から私はどうやって食っていくんです。」
悔し紛れなボクの言葉を遮るように村雨は淡々と言った。
「……へぇ?」
ボクは村雨の横顔を見つめる。
村雨は特に気にした様子もなく前を見て運転を続けている。
「私も善人ではないのでね。自分の生活が大事なんですよ。」
「その割には随分と良心的な願い事でしたね。」
「悪魔である貴方を所有し、その力を得る事が出来れば最終的に私へのメリットは多大な物になる。ただそれだけの話です。」
そう言い切った村雨の言葉に嘘は無いように見える。
「なぁんだ。ボクはてっきりアンタがツンデレって奴かと思って期待したのに。」
「……気色悪いこと言わないで下さい。」
本気で嫌そうな顔をして村雨は悪魔の言葉を否定した。
ボクはそんな彼を片目に自身の美しい銀色の髪を摘む。
(善人じゃない、ね。)
先程染まったばかりの毛先は窓から差し込む陽の光をキラキラと反射させていた。
(……面白いなぁ人間って。)
「まぁ嫌いじゃないですけど、好きでもないですよその生き方。」
「貴方に好かれたところで1文の得にもなりゃしませんよ。」
「可愛くないガキ。」
「見た目が餓鬼の貴方に言われたくありません。ほらそろそろ着きますよ。」
「はぁーい。」
そう言われて窓の外に目をやると背の高いビルが遠くまで立ち並んでいる。
(ここら辺も前とは違う景色になったんだなぁ。)
街並みを観察するのは一体いつ振りだろうか。
やはり人間の作り出す物はいつの時代も自身の好奇心を刺激する。
果たして今から行く対罪霊監視局の支部とやらはどんな場所なのだろう。
はしゃぎそうになる心をグッと堪えて悪魔は外の景色を楽しむのであった。
走らせること10分と少し、車はとあるビルの地下駐車場に止まった。
どうやら目的地である支部にたどり着いたようだ。
「意外とボロボロなんですね。」
高層ビルの間に挟まれ、老朽化の進んだこのビルが村雨達の本拠地らしい。
「政府の機関だって言うからもっとカッコイイビルにあるのかと思ってました。」
「本部ではなく支部ですから。」
村雨はビルの地下に車を停め鍵を掛けると、物珍しそうにキョロキョロと探索する悪魔に何かを投げつけた。
「わっ! なんですか?これ。」
「許可証です。それがないと祓われるから注意して下さい。」
「えっ、目立つところに付けなきゃ。」
まず首から下げてみる。
(うん、普通だ。)
次に角に掛けてみる。
視界が少し悪くなったようだ。
(普通にしよう。)
首に許可証をかけると扉の前に立っている村雨に声をかけた。
「村雨さん!どうですか?見えやすいですか?」
「……さっさと行きますよ。」
「はぁい。」
素っ気ない対応をする村雨にはもう慣れてきた。
重厚な扉を開けると白くて長い廊下があり、その先に2つの扉が見える。
「どっちですか?」
「右のエレベーターです。行きますよ。」
カツカツと革靴の音が鳴る廊下は必要最低限のものしか無いようでとても無機質だ。
村雨に着いて行きながらエレベーターと呼ばれた扉の中へ入り再びキョロキョロと中を見回した。
「気になりますか? 」
「はい凄く!ここで何をするんですか? 」
「意外と面倒なことを聞きますね。……まぁ言うなれば人や物を上下に運搬する為の装置でしょうか。」
「へえぇ。このエレベーター?は何処にでもあるんですか?それともここが政府の機関だから特別ですか?」
「何処にでもありますね。エレベーターは現代社会に必要不可欠な存在でしょうから。」
「ふぅん。」
周りを見回っている間に目的地に着いたのかガタン、と少し強めに揺れた。
「わっ!着いたんですか?」
「ええ、行きますよ。」
「はーい。」
扉が開くと目の前に見えるのは先程と変わららず長く無機質な廊下だった。
しかし、先程とは違い廊下には小さな子窓が何ヶ所か設置されていて、陽の光が少しだけ差し込んでいる。
(さっきは地下だったから窓が無かったのか。)
周りを観察したいボクに構わず村雨はツカツカと先ひ歩いていってしまう。
待ってくれる気配は微塵もないようなので、仕方なくふわりと宙に浮かびその背を追いかけた。
村雨が扉の前に立つと目の前のそれは勝手に開いた。
「わわっ!村雨さんこれは?」
「自動ドアです。何処にでもあります。」
「へぇぇ。」
「ほら前見て下さい。」
そう言われて前をみると開いた扉の先には大きな机があり、その周りには人間が座っている。
黒髪の青年と金髪の青年、そして二人より年齢の低そうな少年の三人である。
「村雨さんお疲れさまー。」
片手を緩く振りながら軽い調子で金髪の男が村雨に話しかけた。
「ソイツが例の奴ですか?」
対照的に少し警戒した様子の黒髪の男がボクの方を見ながら村雨に尋ねる。
少年は此方に興味がないのかポぉーっと宙を見つめている。
「ちょっとタイム! 村雨さん。」
ボクは咄嗟に村雨のスーツの裾を掴み扉の外に引っ張る。
抵抗するかと思ったが村雨は案外すんなりと着いてきた。
扉が閉まったことを確認してからボクは村雨に小声で話しかける。
「なんか皆若くない? 1番左の子なんてボクからしたら赤ちゃん同然なんですけど。」
「今年10歳です。若いですが赤ちゃんではありませんよ。それにこの部屋に居る者は皆政府の訓練機構を上位の成績で修めた優秀な若者達です。」
「それにしたって若すぎるでしょ。ボクの記憶では祓い屋って結構危険な仕事のはずですけど。」
「勿論危険な仕事です。」
「……あんなガキに務まる仕事じゃないよ。」
なんてことない様な口調で語る村雨をギロりと睨みつける。
何故か心が酷くザワついていた。
「三ヶ月前、この区域の担当者が六人亡くなり三人が重軽傷を負いました。」
「…え?」
「この支部にいた祓い人達はもう居ないのです。
だからあの子達が新たな人材として上から派遣された。ここまでお分かりですか? 」
(理解は出来なくはないけど……。)
自分の中を渦巻く初めての感情に酷く困惑する。
何故ボクは今人間の為にこんなにムキになっているのだろう。
「ていうか新たな人材があんなちびっ子達でいい訳? 今までもそれで成り立ってたの? 」
「いえ流石に今まで派遣されてきた方々の年齢はもっと上でしたし、何より経験豊富で頼れる祓い人でした。
しかし今回の派遣どうやら上が計画していた新たな試みらしく、丁度良く人材が必要になったうちの支部が実験台になったようですね。」
「……何それ。」
自分の中に湧き上がるこの感情が理解出来ない。
フツフツと広がる心のザワつきに困り果てたボクは村雨の顔を見た。
(……え。)
そして彼の顔を見た瞬間にボクの中で何かがカチリと当てはまる。
「…あ、のさぁ。人の味方ってそういうのも含まれるもん…なの?」
認めたくはないが、見上げた先の満足そうな男の顔を見てしまってはそう理解せざるを得ない。
(想像以上に面倒なことになったなぁ……。)
……恐らくボクは村雨の願いによって感情までコントロールされている。
あの人間ファーストな瓶の力がボクの感情を無理矢理動かしているのだ。
だからあの3人の少年達を危険な目に合わせようとしている村雨に感じているコレは。
忌いましいことに……この感情は怒りだ。
目の前のこの男がとても憎らしい。
思わず口から唸り声が漏れた。
「…せめて許可とってくれない? 」
「貴方も私の許可なく代償をとってるでしょう? やってることは大して変わりませんよ。」
「ボクは良いんですよ。悪魔だもん。というか分かるんですね。」
「当然でしょう。何せ私の能力そのものを取られているんですから。」
「…それでも有り余ってんじゃん。大した豪運だよね村雨さん。それで?アンタはボクにどうして欲しいの。アイツらを哀れんで終わりじゃないでしょ。」
「言ったでしょう。貴方は人を助け組織の力となるのだと。……今はあの子達が死なないうに尽力することを貴方に期待します。」
そう言いきった村雨は何処か遠いところを見ていた。
「……村雨さんがやればいいじゃん。」
「私には他にもやるべきことがあるのですよ。
その上で部下が減らないように工夫を凝らしているんです。」
「……だからって普通悪魔使わないでしょ。」
(冷徹になれないなら、初めからやらなければいいのに。)
悪魔が村雨の後を追いかけるときに浮かぶのは足の長さが違いすぎて追いつけないからです!
誤字報告、感想、質問などいつでもお待ちしております!
評価して頂けるととても喜びます!