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トイレの悪魔 1

前編です!




「だってぇ!ボクだってやりたくてやってた訳じゃないんだってばぁ!」


この場で唯一話が通じそうな相手であった山川さんは目の前の男によって帰らされ、トイレにはボクとこの男だけが残った。


「あのねボクこの瓶に封印されてるんだけど、出るためには人間に開けて貰わなくちゃいけなくてさ。」

「だから手当り次第トイレを利用しようとした人を腹痛にし、紙を渡す代わりに交換条件を持ち掛けた、と?」

「そゆことっ! お腹痛くなるのもせいぜい3分も無いくらいにしてたし、何より気を使って便秘気味の人を狙ってたんだよ? ボクすっごく優しいからね。」


「優しい、ね。」


えっへん、と胸を張る(瓶の姿ではあるけど)と男は眼鏡越しにボクのことを見た。


「な、なに……?」

「君が封印されているその瓶、恐らく焔の小瓶ですね。」

「うぇっ?! そ…そうなのかなぁ。」


慌てて目を逸らすボクをまるで気にせず男は話し続ける。


「焔の小瓶は有名なエクソシストが手がけた悪魔封じの逸品。

何でも封印された悪魔は人間の願いを叶えなければ出ることが出来ないとか。」

「ふ、ふぅん? そうなんだぁ。」

「悪魔に強制的に願いを叶えさせるなんて作った方も大概恐ろしい方です。」

「…………。」

「あぁそういえばここのトイレに入ると腹痛になるんでしたよね。

そして何故だか何時も紙が補充されていないとか。

貴方はそんな方々にトイレットペーパー恵んでいたそうですけど。

おやどうしましたか? 先程まであんなに騒々しかったのに元気がありませんね。」


男は意地悪そうな顔でニヤリと笑った。

無表情以外の顔を初めて見ることができたはずなのに何故だろう。感動するどころか若干癇に障る。


「……最初から全部知ってたわけ?」

「まさか。希望的観測に過ぎませんよ。」


(絶対性格悪いなコイツ。)

瓶越しに睨みつけるが男から見たらボクの姿は所詮瓶のため何も伝わらなかった。


「何です? 」

「べっつにー? でアンタの願いは何なんですか?」

「おや 阿呆かと思ったら意外と話が早いんですね。」


男は心底意外だとでも言いたげに片方の眉を上げた。


「もう! とにかく早く言って下さい。」

「しかし…。貴方トイレットペーパーを配る以外の事もできるんですか?」

「な…っ、当たり前でしょ?! 」


(そ、そんな風に思われてたのボク……。)

確かにボクがやっていたのは騙し討ちのようなペーパー渡しだったけどまさかそんな事しか出来ないと思われてしまうなんて心外である。


「冗談です。」


想像の中で男に思いっきりビンタした。

勿論現実ではそんな野蛮なことはしていない。

というか男に握られている為何もできない状況である。

(うぅ…悔しい。)


「…アンタのことすっごく嫌いになりそう。」

「構いません。しかし何故このようなことをしていたんですか?

小さい願いをチマチマと叶えるより大きな願いを叶えるか契約でもした方が貴方も早く出られて良かったのでは? 」


そう尋ねてくる男に少しだけ驚く。

【願い】と【契約】の違いを理解している人間は少ない。

悪魔にとって契約は面倒モノなのである。

だから大抵の悪魔は人間の望みを叶える時、よっぽどの変態でない限り契約なんて口にしない。

その為、悪魔に詳しくない限り契約についての知識は知らないはずなのだ。

何故エクソシストでもない払い屋風情が悪魔についてこんなにも知識があるのか。


「へぇ…アンタ意外と詳しいんだね。

もしかして悪魔と何か関係があるんですか?

願いを叶えて貰ったとか。……契約したことがあるとか。」

「さぁどう思いますか? 」

「えっ聞き返してくるの? じ、じゃあ願ったことあるに一票! 」

「残念ながら悪魔に関しては豆知識程度にしか知りません。」

「…これクイズにする必要ありました? 」


結果は不正解。しかも冷たく返さてしまった。

(もう…帰りたい。)

そんな悪魔の心中を知ってか知らずか男は話続ける。


「しかし焔の小瓶に関しては知っていました。

私達払い人の間でも有名な話ですから。」

「へぇ…そーなんだ。」

「納得したのなら私の質問に答えて下さい。 」

「…え? あぁ、別に期待される程の理由は無いですよ。ただ気が乗らなかっただけっていうか…。

あっ契約は普通に嫌だったのでしなかったんですけど。」


契約は自由に生きる悪魔にとってとても面倒な存在だ。

願いであれば悪魔と人間が互いにメリットがある為、悪魔の気分次第では行われることも無くはない。

しかし契約では悪魔は人間に支配されてしまう。

望みが叶うまでの一定の期間、両者は主従という名の上下関係が結ばれるのだ。

そんな屈辱と退屈はお断りである。


「では現在誰とも契約していないのですか?」

「まぁね。ほらボク可愛いから契約したら離してくれなくなっちゃうかもでしょ?」

「可愛さの欠片も見当たりませんが。」

「アンタほんっと可愛くないよね。」

「では可愛くない者同士さっさと契約を結んでしまいましょう。」

「本来のボクは可愛いんだってば! ていうか……は? 契約?! 僕の話ちゃんと聞いてました?! 」

「今までのツケが回って来たのだとでも思いなさい。」


あからさまに嫌がっているボクに対して契約を望んでくる男にギョッとする。

話の意図を読み取れないタイプなのか、それとも図々しい性格なのかは分からないが非常に厄介な人間であることは間違いない。


「この蓋を開けるだけでいいんですか? 」

「 いや 蓋に手を乗せてアンタの望みを言うんだけど…。え、本当に契約する気ですか?」

「私は最初からそのつもりです。

ところで仮にも悪魔との契約だと言うのに随分簡単ですね。何故です? 」

「そりゃ本来のやり方じゃないからね。

この瓶に閉じ込められている限りは悪魔側に何のメリットも無いし、願いの代償もボクが7割負担ですよ。まったく人間ファーストも流石に度が過ぎます。」

「7割負担するもなにも貴方はトイレットペーパーを渡しただけではないんですか? 」

「あれボクの手作りだから。」

「…悪魔の考えることを理解できるなんて思ってはいませんが、まさかここまでとは。」


話が一通り終わったのか男は再び考え事に耽り静かになってしまった。

喋らなくなった男をボクも静かに見つめる。

(そういえば初めてちゃんと顔見たかも。)

改めて見た彼は眉間に皺が寄っていて、相変わらず怖い顔をしていた。

(……こんな人がボクの新しい主かぁ。)

そう考えてゲンナリとする。

見た目にこだわりは無いが、もう少しにこやかで可愛らしい主人を望みたいものだ。

(まぁ…払い屋なんて殆ど短命な奴ばかりだし、例え面白く無くても暇つぶしにはなる…かな。)

悪魔は静かにこの状況を受け入れることにしたのだった。




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