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神野君の憂鬱 7

遅くなりました! すみません!




「もしかしてですけど。キミ悪魔に何か叶えて欲しいことがあるんですか? 」


「……。」


ボクの言葉を聞いた神野君の身体が少しだけ揺れた。

(当たりみたいだね。)

神野君は俯いたまま顔を上げなかったが、そのではフルフルと震えている。


「どうして悪魔に? 」


「……。」


「悪魔との契約には代価が求められます。

そして、その代価は神野さんを一生後悔の渦へと飲み込んでしまうかもそれない。」


神野君は何も答えずに下を向いたままだ。


(きっと、彼も代償が伴うことは理解しているんだろうな。)

ボクは人間と契約をした経験こそ乏しいけれど、人間の願いを叶えたことはいくらかある。

かつてボクに望みを願った彼等は。

ボクの瞳越しに夢を見た人間は、皆一様に頑固だった。


「…もし神野さんが叶えたいモノが代価の上で成り立つものなんだとしたら。

ボクはソレも良いと思いますよ。」


きっと、目の前に居る彼も説得したところで聞きやしないのだ。

だから。仕方が無いから、ボクが傍にいるうちはボクが助ける。

面倒だけれど、それが村雨との契約だ。

ボクの言葉を聞いて神野君が顔を上げた。

彼が驚いたような顔をして此方を見ているのは、止められるとでも思ったからだろう。


「……え。」


「反対すると思いました? 」


「……うん。なんで、止めないの?」


「別に、大した理由はないですよ。

ただ神野さんを説得するほうが面倒だと思っただけです。」


「……そう、かな。」


「そうですよ! ボクはキミが案外強情なこと知ってるんですからね。」


ボクは両手を腰に当てて、じとりと彼を見つめる。

神野君は目を丸くさせると小さく「ごめん、なさい。」と呟いた。


「別にいいですけど。」


話は逸れるが、人間が悪魔と繋がることを禁じている国は多い。

それは、悪魔の力が願いを叶える絶対的な存在だからであり、同時に人の命すら簡単に壊してしまう存在だからである。

村雨がどうやって許可を得たのかは知らないが、ボクの記憶ではこの国も悪魔を禁じているはずだ。

それでも尚、悪魔に手を伸ばす者はこの国にいる。この屋敷の人間もそうだった。


(なぜ現状に満足できないんだろうね。)

無欲に見える神野君ですら悪魔に願いたいことがあるらしい。

彼の顔をじっと見つめていると、不意に神野君がポツリと呟いた。


「……ぼくは、」


言葉を紡ごうと口を動かす神野君に表情はない。

ないはずのなのに、何故だろうか。

神野君の顔が酷く寂しそうに見えてしまった。


「……家族が、欲しい。」


「かぞく?」


かぞく、家族。家族とは血が繋がっている者や、一緒に暮らしている同居人のことだろうか。


(そういえば神野君くらいの年だと両親と一緒に暮らしているのが一般的、なのかな。)

しかし彼は現在、ビルの社員居住スペースに1人で暮らしている。

神野君の両親はどこにいるのだろう。


「家族、ですか。」


「……うん。きみなら叶え、られる?」


「うぅん。叶えてあげたい気持ちはあるんですけど。ボクじゃどうにも出来なそうですね。」


「……それは、村雨さんと契約している、から…? 」


「流石ですね。もしかして悪魔についてあらかた調べてます? 」


「……うん。」


「なら、なんで。」


「……きみなら、他の悪魔を知っているんじゃないかって思って。」


(なるほど。最初からそれを狙っていたんだね。)

感心しながらボクは記憶を辿り、神野君に丁度良さそうな奴が居ないかと考えた。


(些細な願いしか叶えられない小物では駄目だし、ボクと同じくらい力を持ってて、尚且つ人間の願いを叶えることに抵抗が無さそうな奴。)

頭を捻らせて思い出したのは1人。

確かボクより願いを叶えた数は多いはずだし、かなりこういうことに慣れているはずだ。


(でも、アイツ性格悪いんだなぁ。)

過去、彼と契約した人間を見た事がある。

あれは100年前くらいだっただろうか。

確かお金持ちになりたいと願った、とか言っていた気がする。

ボクが見せて貰ったときには、金塊を骨のように咥え、尻に植え付けられた尻尾を悪魔に振るどうしようもない姿になってしまっていたけれど、一体何故ああなってしまったのだろう。


(いや、そもそもそんな奴を神野君に引き合わせていいものなのか? )

奴に合わせた日には、面白半分で大きな代償を神野君に贈るだろうことは想像に難しくない。


(……そんなの村雨さん絶対怒るよなぁ。)

奴の願いを叶える力は本物なのだが、如何せん神野君が変態廃人になってしまう可能性が否めない。

でも、ボクの顔見知りで人間の願いを叶えてくれそうな奴はそういない。

何せ自分の時間を生きているような奴等だ。

人間に興味を持っているアイツのが異常なのだろうから仕方がない。


「……タルト。」


ボクがうぅん、と悩んでいると神野君が魅惑のフレーズを放った。


「……へ? 」


「タルト食べに行くんでしょ。…お店、閉まっちゃうよ。」


「え?! うわ、ほんとだ。早く行きましょう神野さん!」


「うん。」


ボクは神野君の手を掴むと屋敷の出口に向かって走り出した。

ボクの頭の中は既にタルトでいっぱいである。







慌てた様子で僕の手を掴んで走り出した彼を見つめる。

外に出ると既に辺りはオレンジ色に染まっており、一目で夕暮れ時だということが分かった。

お目当てのタルトまで小一時間ほどかかるから、彼は慌てているのだろう。

実際、人気のお店だからもう無くなっている可能性も高い。


(そんなに、タルト好きなんだ。)

僕の手を力強く掴む彼の手を見る。

その繋がりは、今まで僕にはなかったものだった。

夕焼け色に染まる中を銀色の髪がキラキラと光り輝いている。


「ありがとう…。」


小さな声で呟いたから聞こえていないだろうと思ったのに、前から「こっちの台詞ですよ! 時間教えてくれてありがとうございます!」 とズレたお礼が返ってきた。


(違うよ。)

僕のことを否定しないでくれてありがとう。

いっぱい考えてくれて、ありがとう。

僕の言葉を聞こうとしてくれてありがとう。

言葉を返してくれて、ありがとう。


(あぁ。この人が、僕の家族になってくれたらいいのに。)


彼は僕を車に押し込むと、運転手に向かって「タルト屋さんまで! 」と物凄い形相で頼んでいた。

そんな彼を横目で見ながら、僕は未だ繋がれたままの手をきゅっと握り返した。




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