神野君の憂鬱 5
投稿が遅くなってしまいました! すみません!
神野君が何やら物言いたげにこちらを見ているが、ボクは何にも気づいていない振りをする。
「ほら神野さん! そろそろですよ! 」
ボクがピョイと宙に浮かび神野君の肩に手を置くと、彼もようやく前を向いた。
現れたのは予想通り低級霊。
ドロドロとした沼のようなモノが地面を這うように暗い廊下から玄関ホールへと入ってきた。
ソイツはボク達に近づく度、ぼこぼこと音を立てて身体を膨れさせる。
そして時々腕のようなものが生やしては、形を保てずにべチャリと崩れるのだ。
まぁ見た目こそキツいが、単に生前の形も保てない邪念の塊や、生きてる人間の強い思念が集まって蠢いているだけの下等なモノ達である。
(うーん。これなら大丈夫かなぁ。)
ボクは目下にいる神野君を見た。
村雨さんが言うには、彼は術師の養成施設で天才と呼ばれる程の才能を持った人間らしい。
(…だからといってこんな幼い人間に仕事させるなんて悪魔より悪魔だと思うけど。)
下手に手を出してペースを崩されても困るので、取り敢えずボクは手出せずに神野君を見守っていることにした。
神野君は暗闇の隙間から溢れるように現れたソイツを見ても無反応のままである。
「……。」
神野君は悪霊をジッと見つめていた。
その表情からは相変わらず感情が読み取れない。
悪霊はドロドロと蠢きながらゆっくりと神野君の方へと近づいた。
その目(実際にはないけれど)は神野君をロックオンしたかのように狙いを定めている。
恐らく、神野君の上質な霊力と若い肉体がさぞかし豪勢な食事にでも映っているのだろう。
しかし、霊が神野君に再び近づこうと動き出した瞬間である。
天井から何かが勢いよく飛び着いた。
「おお。」
霊に飛びかかったのは二体の人形である。
ドロドロが形成した腕を犬型の人形が落下の勢いのまま鋭い牙で食いちぎる。
鳥型も激しく動き回りながら霊から溢れ出し膨張する身体を引き裂いていった。
霊は身体を傷付けられる度に、甲高い叫び声と低い呻き声を発し、周囲に伸びて人形を飲み込もうと蠢いている。
二体の人形は、伸びる腕の間を器用に腕をすり抜けながらドロドロな霊を翻弄していった。
そして周囲に腕を振って苦しむ悪霊は次第に玄関ホールの真ん中に誘導されていく。
暴れながらホールの中央に進行する霊は、それでも尚諦めずに神野君に向かって手を伸ばした。
(おっと! )
ボクは咄嗟に神野君の脇に手を突っ込むと彼をふわりと持ち上げた。
「びっくりさせちゃいました? 」
「……。」
調子良く神野君に笑いかけるボクに、神野君は小さく首を横に振ると再びまっすぐに悪霊を見つめた。
不思議に思ったボクは神野君と同じ方向を見てみた。
そこには先程まで彼を守るように立っていた二体の人型が悪霊を挟むように立っているではないか。
「あれ。もしかして、ボク必要無かった? 」
二体の人型は、悪霊が神野君に向けて伸ばしていた腕を既に切り落とし終えていた。
ボクの言葉に神野君は小さく首を横に振る。どうやら否定してくたらしい。
(な、なんか年下に気遣われちゃった…。 ていうか神野君めちゃ早いな。)
人形使いと名乗るからには、この人形達は神野君が操っているはずだ。
しかし、あの一瞬で今の状況を判断し人形を操るとは…
(流石天才、ってこと? )
神野君の素質にも驚くが、同じくらい操っている人形にも目を惹かれる。
どうやら彼は上からも相当期待されている子らしい。
「あぅぅう゛ぁぁあ゛あぁあ゛ぁいいィィ。いいぃいぃいいッ。」
悪霊を四体の人形が取り囲んだのを見て、神野君がボクの手をギュッと握る。
どうやら下に降ろして欲しいみたいだ。
ボクは要望通り神野君をホールの床へと降ろした。
霊は四体の人形に囲まれ苦しみながら暴れ続けている。
しかし、人形の効力なのか一向に人形の包囲網から抜け出すことが出来ずにいた。
神野君はそこへゆっくりと近づいていく。
(…霊の苦しげな声には無関心か。)
あるいは、この光景に見慣れてしまったのだろうか。
齢十数年の少年が見ていいものではないだろうに、彼はまるで何も感じていないかのように悪霊の除霊を続けている。
「…行っておいで。」
神野君がそう呟くと彼のバックから新たに小さな人形が飛び出した。
(五体目! ……どうやって操ってるんだろ。)
ボクが知る限り人形を使う術師は結構多い。
しかし、通常人形使いが一度に操ることが出来る人形の数は多くても二体までのはずである。
理由は簡単。
人間の手が2つしか付いていないからだ。
だが神野君は二体の人型と鳥型、犬型、そして今、五体目の人形を操っている。
五体目の人形は、手のひら程の小さな身体をドロドロな悪霊よりも大きく膨らませた。
「…おぉ。」
そして四体に囲まれ動けずにいる悪霊に口を近づけると、そのままバクりと飲み込んでしまう。
人形は悪霊を口の中に閉じ込めると、そのまま口を動かし始めた。
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