因果応報
『ほれ。見てごらん。あの二人』
死神と名乗る青年に言われるがまま僕は彼らを見た。
そこに居た彼らの姿を見て、僕は呆然と立ち尽くす。
『な? 君のことを笑っているよ』
僕の思考をなぞるようにして放たれた死神の言葉が遠い。
確かにあの二人は笑っていた。
「あいつ、マジで死んだよ」
「本当、馬鹿みたい」
聞きたくもない言葉が無情にも僕に流れ込む。
耳を塞いでも止められない雑音は僕の心を無造作に、強く打ち鳴らす。
『悪いけど止められないよ。だって、君を現世に留めているのはあの二人への怒りだもん。止めたいなら素直に成仏しな』
そう。
僕は既に死人だ。
同級生であるあの二人に虐められ、その末に自殺した哀れな学生だった。
考えが甘かった。
僕は自殺をすれば二人に一生心に残る傷跡を負わせられる……そう本気で信じていた。
『惨めだねぇ。方や自殺した陰キャ。方やそれを笑う恋人』
死神の言葉が僕の傷をさらに抉る。
どうにかしてほしい。
そう思ったが、どうしようもないことは自分が一番よく分かっていた。
死神は無表情のまま僕を見つめ、そして言った。
『これに懲りたら小さい事を忘れて生きるようにしな。まぁ、君はもう死んでいるんだけどさ』
たった一つの事実が心を握りつぶすような苦しみとなり、そして。
「おい! 見えるか!?」
誰かの声が聞こえた。
僕は自分でも抑えられない産声をあげながら、どうにか目を開く。
「俺たちの子だ!」
おそらくは父にあたるであろう人物が泣きながら僕を手渡す。
きっと、母にあたるであろう人物へと。
「本当……生まれて来てくれたんだね……」
その女性は出産直後であるためか息も絶え絶えだったが、それでも幸せを描いたような顔で僕を見つめていた。
両親に当たるであろう二人が僕を見て歓喜の涙を流す。
二人はおそらく、僕の名前であろう聞き馴染みのない名を繰り返す。
そんな二人を見て。
僕は満面の笑みを浮かべていた。
その最中。
『おい。一応、忠告をしておくが小さい事は忘れろよ』
あの死神が空中から僕に警告をする。
けれど、その表情は明らかに何かを期待しているものだった。
分かっているよ。
小さい事はもう忘れる。
だけど、これは大きなことなんだ。
僕にとっては何よりも。
「生まれて来てくれてありがとう」
言葉を繰り返す二人を。
僕を自殺にまで追いやった元同級生の夫婦を見て、僕は喜びに打ち震えながら産声をあげていた。