第六話 女神
オレを出汁にして一頻り笑った後、女神の奴が言うには、オレの姿を元に戻すのにもエルフに着替えるにも今すぐには無理で、一カ月くらいはこのままの姿で居て、その後に着替え呪文を使わないと大変なことになるかも知れないってことだった。
おいおい、今大変なんだけどよ、とオレは思う。
しかし抗議をしようにも今のオレはしがないナキウサギだ。
どれだけ必死に訴えても、「ぴゅぴゅっぴゅー」くらいしか言葉がない。
それじゃあ余りにも格好が付かねえだろう。
加害者側にこれ以上笑われるのは勘弁して貰いたいところだ。
まあ、なんかこっちの世界の理とか、ルールみたいなモンがあんだろう。
また魔法失敗みてえなことになったら目も当てられねえし、今のナキウサギ暮らしに別段不満も不便もねえからな。ここは黙って従うことにした。
そうして女神の奴が、「まったく、何やってんだか、コイツもバカなの? バカドラゴンなの?」と呆れたように言って、オレのスキル「1/4殺し」でキレイに四分割されて、今もほかほかと湯気を立てているドラゴン野郎に向かって人差し指を一振りする。
ドラゴン野郎は一瞬のうちに合体して元通りだ。ちょっとした池のようになっていた血溜まりも消えた。
そして驚くべきことに生き返りやがった。間の抜けた面で、きょとんとしてオレ達を見ている。
すげえな、異世界、なんでもありかよ。とオレは驚く。
女神の奴が「アンタも相手を見て喧嘩を売んなさいよ。」と、復活させたドラゴン野郎に指を突き立てて説教を始めた。
ドラゴン野郎はさっきまでの威勢の良さはどこへやらだ。
デカい身体を小さく丸めてペコペコと平謝りをしている。
女神の奴の話によると、この世界にいきなり現れた異常個体を調べるためにドラゴンの野郎が飛んできて、今回の不幸な邂逅となったらしい。
あと、オレのレベルは3だとばかり思っていたんだが、ナキウサギになった時点で普通の人間や動物の上限となるレベル100に到達しちまってたらしい。
古代と呼ばれた時代には人族同士で殺し合ってもレベルが上がったんだが、それによって今以上に殺人やら戦争が絶えなかったんで、人族同士の場合はレベルが上がらない仕様に変更された。
しかしオレは別の動物になっちまったせいで、一応積算されていた経験値みたいなもんが有効になって、その結果一気にレベルアップしちまったんだろうって話だ。
因みにドラゴンの野郎のレベルは軽く1000超えなんで、本来オレなんかは相手にならないはずなんだが、オレの「半殺しスキル」に付与された期間限定の「ジャイアント・キリング」がキッチリ仕事をしたらしい。
それと「半殺し」スキル自体が、相手を半分にするスキルってことのようだ。
「バカ、ちょっとは考えて使いないさいよ。」と女神の奴から注文がついた。
レベル1000超えのドラゴンだか何だか知らねえが、強すぎるってのも考えもんだな。
結局オレに瞬殺されちまってるんだから、あんまり意味がねえな。
そんな奴のイキリなんざ屁の突っ張りにもなりゃあしねえな。とオレは思う。
そんなドラゴン野郎だが、時折こっちを睨んで来やがる。
おう掛かって来いよ、今度はなます切りにしてやんぞ。と、オレもドラゴン野郎を下から睨め付ける。
そんなオレ達を見た女神の奴がため息をついて、
「なんか反省してないみたいだから、アンタもナキウサギね。」
そう言って、ドラゴン野郎に魔法を使った。
するとドラゴン野郎は黒いナキウサギになっていた。
まったく酷え世界だ。オレなんかよりもよっぽど酷え。
今やナキウサギとなったドラゴン野郎は目を剥いて驚愕した後、地団駄を踏みながら大袈裟な手振りを交えて抗議の声を上げるが、その声は「ぴゅぴゅぴゅー」だ。
アメリカのカートゥーンの小動物キャラみてえな大袈裟な仕草は、滑稽でしかねえ。
「泥鰌の地団駄」ってヤツだ。
臍が茶を沸かしちまうぜ。
オレと同じナキウサギで、しかも黒いってーのは気に入らねえが、ドラゴンもああなっちまったらお仕舞いだな。
頭を抱えてもんどり打って、ゴロゴロと転がったりしているが、元はドラゴンだったと言われても誰も信じねえだろう。
そんなことを考えながら鼻で笑っていると、奴はそんなオレに気付いて体当たりをかましてきやがった。
ぶっ飛ばされたオレはすぐに起き上がって跳び蹴りを食らわす。
そしてポカポカと殴り合いになった。
身体のつくりが変わっちまったせいで、腰の入ったパンチは打てねえから文字通りのポカポカだ。
しかし見た目はナキウサギのくせに、このバカは結構殴る力が強え。
舐めて掛かっていたら奴の大振りの左フックに意識が飛びそうになった。なもんでオレも本気でポカポカした。
女神の奴が「そんなに殴り合うのが好きなら、カンガルーにでもなってみる?」と言うので、殴り合いをやめた。
バカドラゴンの野郎は仰向けになって腹を見せて降参していやがる。まったく情けない奴だ。と、同じ姿勢なオレは思った。