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第四話 魔の森

二話三話の要約

傭兵衛兵軍勢を半分にして森へと逃げ込む。

 気がつくと、オレをしつこく追いかけてきていた金色軍の斥候らしき連中は居なくなっていた。


 どうやら途中で諦めて引き返して行っちまったらしい。


 夢中で走っていたせいか随分と森の奥まで入り込んじまったらしく、周囲には鬱蒼うっそうと茂る木々があるばかりで、目印になるようなものは何もねえ。


 地図にも書かれていない場所だから、要は迷子だ。


 土地勘ゼロの異世界だからどこに居ようと迷子とかわりはねえんだが、さすがに少し不安になる。


 時刻を確認しようと腕時計を見ると、餓鬼供の拳は想定外の衝撃だったんだろう、風防が割れていて針がねえ。のっぺらぼうだ。



 ふと誰かに見られているような気配を感じ、視線を探して振り返ってみると二十メートルくらい離れた木の影から、見たこともねえ獣がオレを見ていた。


 少しばかり猫背で全身が灰色の毛で覆われていて目が赤い。


 ピンと尖った耳をしていて、牙が生えている。


 もしも狼男ってのが居るのならばこんな感じなんじゃねえかっていう、直立歩行する魔犬のような感じだ。


 まさかこんな森の中で仮装しているわけじゃねえだろう。


 あれが魔物ってヤツなのか? とオレは思う。


 周囲の木々と比較するとサイズ的にはオレよりも小せえみたいだが、手にはバットを束ねたようなぶっとい棍棒のようなものを持っている。


 小兵こひょうながらも存在力があるって言うのか、鎧は着てねえが傭兵連中よりも手強てごわそうなたたずまいだ。


 当分どころかこれ以上半殺しスキルは使いたくねえんだが、襲われるのならば仕方がねえと覚悟を決めた。


 スキルの習熟度が上がったから、この場でスパッといけるはずなんだが、どんなツラなのかじっくり拝んでみるのも悪くはねえかと奴のほうへと歩を進めると、何だかひどく慌てていやがる。


 奴はオレの物騒ぶっそうなスキルが分かったのか、それとも野生の勘なのか、手にしていた棍棒を投げ出すと、尻に帆を掛けたかのように一目散に逃げ始めた。


 どうも一匹だけじゃあなかったようで、近くに潜んでいた犬モドキ供が釣られるように一斉に逃げ出して行く。


 内股で不格好なのは股の間に尻尾を挟んでいるかららしい。文字通り尻尾を巻いてってやつだ。



 どうやら荒事は避けられたようでほっとする。


 話の通じるような相手には思えなかったが、魔物のほうが人間なんかよりもよっぽど利口に思える。



 そんな訳でやっと一息つけた。


 しかし、どうしたもんだかと考えるが、良い考えはさっぱり浮かんでこねえ。


 国を相手に喧嘩しちまったとなれば「身体を使った適度な労働、適度な収入、そして適度な余暇」なんて言う、のほほんとした暮らしは夢のまた夢だろう。


 いくら半殺しスキルが強力だと言ったところで、数の力に押し潰されるのは火を見るより明らかだ。



 その後見つけた川で喉をうるおし、上着とシャツを洗ってみたが、返り血を浴びたオレの一張羅(いっちょうら)のスーツがキレイになることはなかった。


 上着の袖は千切れているし、鉤裂きも多い。よく見れば背中側は斜めにスパッと切れていやがる。


 言っておくとるしじゃねえぜ。


 懇意の仕立て屋を家まで呼んで仕立てたスーツ、フルハンドメイドのテーラーメイドってやつだ。生地は国産だがな……


 まあ、ここは気を取り直して、何か食えるモンでも探そうと森の中を歩き回ったんだが、すぐにも暗くなってきちまった。


 服はびしょびしょで空きっ腹で先立つものも保証人も居ねえお尋ね者の素寒貧すかんぴんで、ついでに迷子だ。


 お勧めされた「半殺し」スキルじゃあなくて、「つねる」スキルにでもしておけば良かったなどと考えても今更だ。


 で、思った。


 流石にもうね。駄目だろうと……



 女神の奴に連絡するのは気乗りがしねえが、別れ際に使い方を教えられた異世界通信のための無線機? のようなものイメージして、右手の親指と小指を広げて軽く振ると目の前に現物が現れた。


 それをピポパして、女神の奴に連絡を取った。え? ピポパって音がすんだよ。


 女神の奴とはすぐに連絡がついた。


 そこで「ちょっと時間を巻き戻せ。こんなの聞いてねえぞ。」


 オレは奴に文句を言った。


 しかし女神の奴は「そんなの無理だ。ばかなの?」と言ってきた。


 なので、「はいはいバカですよ。すいませんね。」と答える。焼け糞だ。


「とにかくちょっとヤベえんだよ。確かに凄えスキルだが、何の因果かいきなり極悪殺人犯だ。人類の敵みたいになっちまってる。この地雷としか思えねえスキルとは縁を切りたい助けてくれ。」


 そう言って泣きついた。


 女神の奴は大きな溜息を吐いた後、


 時間逆行もスキルの変更も無理だが、姿形すがたかたちを着せ替えることは出来る。と言う。


 なんだよ着せ替えって、人様ひとさまの身体を何だと思っていやがるんだと思ったが、ここで怒らせるのは得策ではないだろう。


 どんな感じになるのかと聞くと、エルフとかドワーフとか獣人等々に種族が変えられるってことらしい。


「じゃあそれで頼むわ。」とオレは投げやりに答え、おそらくオレと同じような博愛主義、平和主義なはずのエルフに着せ替えて貰おうかと思ったが、アレだ。ウサギでもねーのに耳が長いってのはいただけねえ。


 邪魔だろ? アレ……


 首をサッと横に振った時にちらっと見えたりしそうでイヤだ。


 耳が良いのも良し悪しだ。世の中聞こえない方が良い音もある。なんでも加減が大切だろう。


 それとも恒温動物のくせに体温調節が不得手で、耳が長くないと鼻血が噴水のように噴き出すのかよと言えば、そんなこともねえようだ。


 そこで耳が長く尖ってないエルフっていうオプション付きで依頼すると、女神の奴からダメ出しされた。


「バカ、ウサギは耳が長いからウサギなの。エルフの耳が長くなかったら、それこそタダの痩せた人間じゃないの。」


 そこでオレはゴネた。


「おいおいウサギだってあれだぞ、近縁種のナキウサギなんかは顔の割に、耳が丸くて大きいかもだが、耳そのものは短いじゃねえか。」


「わかったわよ。でもこんなことやるのは始めてだから、失敗しても恨まないでよね。」


 女神のヤツがなかば喧嘩腰にそう言う。



 そうしてオレはナキウサギになった。


 身体が縮んで脱げちまったズボンの中からゴソゴソと這い出して、落ちている異世界無線機に走り寄るが、上手く声が出ねえ。


 あうあうしつつパニクりそうになる。


 そうしてやっと出てきたのは「ぴゅいー」という声高い鳴き声だった。


 夕暮れの静寂しじまに、物悲しくも響く声だ。


 おいおい何とも可愛らしい、オレらしくもない声じゃねえか、などと感心したが、今はそんな場合じゃねえ。


 異世界無線機からは、「ちょっと聞こえてる? 何とか言いなさいよー」と、女神の奴の詰問調の声が聞こえるが、オレの答えは「ぴゅぴゅぴゅー」だ。


 オレは頭に来て異世界無線機をガリガリとかじり始めた。


 女神の奴も異常事態に気付いたのか、今すぐそっちには行けないけど、三日後には行くから、今居る魔の森の、そのピポパの傍に居なさいよーと言って通信が終わった。


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