5王女でしゃばる
クリストフは翌日知った。
ブロスと関係のあった侍女たちが辞めさせられたと。思えばクリストフが聞きかじった数だけでも5人はいた。
そしてやっとソルが辞めさせられた理由がわかった。
(クッソ!あいつ。王族だからって好き勝手しやがって!ソルを傷つけておまけに仕事まで奪ったのか。なんて勝手な奴。あぁぁぁぁぁぁ…お、俺はそれなのにあんな事を言って…ソルは泣いていた。あいつと別れるのがそんなにつらかったのか?もしかして少しでも近くにいたいから騎士団に就職したんじゃ?…)
クリストフの憂鬱はさらに拍車がかかった。
それなのに、あれからクリストフは騎士隊でからかいの対象になりその話が王女アンナにも伝わる。
「クリストフ、聞きたいことがあるの」
「なんでしょうか王女様」
「あなた、そのソルと言う女性が好きなの?」
クリストフは思わず転びそうになる。
「はっ?いったいどこからそのような事を?私とソルとは幼いころに一緒に遊んだことがあると言うだけで私は騎士団に入りましたしソルは両親が亡くなって早くに働き始めたらしいです。それがつい最近騎士団で働くことになってそこで再会したと言うだけの関係です」
「でも、お堅いあなたがそのソルとやらと嬉しそうに話をしていると聞きましたが」
「えっ?王女様。まさか私が女性と話をしたから怒ってらっしゃるのですか?」
クリストフの心臓はなにかとんでもない間違いを起こしたのかとバコンと跳ね上がった。
何しろソルの事となると脳内の考えがまともに働かなくなる傾向がある。
ソルがブロスの事をまだ思っていると思っていたし、他の奴らはソルに気軽に話しかけて…あいつらと話をしているだけで頭に血が上る始末。
そんな態度を他の奴らに見抜かれていたとわかってますますパニックに陥る。
「まさか。私が貴方に焼きもちでも妬くと?うぬぼれないでよ。誰があなたなんかに…私はただ好きなら手助けをしてあげようかと思っただけよ」
15歳の王女は大人びている。考え方も王族教育で振る舞いも大人と同じことを求められる。
それゆえアンナはクリストフに恋の手助けをしようと思ったらしい。
「な、何を言ってるんです。わ、私はそんなつもりは…」
クリストフは額に汗をかきながら髭ずらで良かったと小さく息を吐いた。きっと自分は今顔が真っ赤になっているはずだろうと。
「あら?私の言うことが聞けないって言うのクリストフ。そう言えば急病で私付きのメイドが休むことになったの。だからソルを専属のメイドにするわ。私はあなたを気に入ってるって知ってるでしょう?その人がクリストフにふさわしいか見極めてあげる。さあ、ソルをここに呼んできてちょうだい」
「王女様、いくら王女様でもいきなりそんな事は無理です。調理場には人手も足りていないようですし…わ、私はそ、ソルの事など…す、好きでは、な、ないのですから」
クリストフは何度もどもりながら否定の言葉を吐く。
だが、15歳反抗期真っ只中の王女の好奇心を抑え込むことは難しく…
とうとうソルを呼び出すことになった。もちろんクリストフを呼びに行かせる。
(どうすればいい。少しでもブロスのそばに近づけたくないのに、王女様のメイドだって?まったく俺のご主人は何を考えている?こうなったら俺が目を光らせてブロスを近づけさせないようにするしか…)
クリストフの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
言いにくいがソルに言うしかないと…
「すまんソル。王女様は難しい年ごろで言い出すときかないんだ。お前を専属のメイドにしたいと言ってもううるさくて…」
「どうしてそんな事になったの?まさかクリストフ余計なことを言ったんじゃないでしょうね?」
「そんな事言うはずがないだろう。俺は何も言ってない。王女が勝手に…」
その先を言おうとしてクリストフは慌てて口を閉じた。
「でも、王女のご命令なんでしょう?行かないわけには…こんな格好でいいのかしら?」
ソルは下働きが着るような茶色のブラウスとロングスカートにぴにーと呼ばれるエプロン頭には可愛らしいホワイトプリムをつけている。
クリストフにはその姿さえ萌えそうになってぎゅっと拳を握りしめた。