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4新たな職場で


 ソルは騎士団の募集を見てすぐに応募した。

 騎士団の建物の中に案内されて中に入るとすでに2人ほど募集に応募した人がいた。

 事務室に入り面接を行う前に身元調査がされた。

 ソルはこれでも元は子爵の令嬢だ。身元は確かだと言われたがこれまで王宮で働いていた事を話すとどうして辞めたのか聞かれて困った。

 でも女官長の書いてくれた紹介状には真面目で責任感が強く問題ないと書かれてあったので運よく仕事に就くことが出来た。

 一緒に応募した人も働くことになった。その二人は夫婦でやっぱりここに住むらしい。

 何でも開いていた食堂がつぶれたとかで住み込みで働けて食事も出るので喜んでいた。

 (世の中には私と同じように困った人がたくさんいるらしいわ)とソルは思った。

 

 とにかくすぐに仕事が決まりソルはほっと胸を撫ぜ下ろした。

 早速下働きの者たちが住んでいる建物に案内された。

 案内してくれたのは下働きを束ねている調理場の責任者でボリスと言う年配の男性だった。

 「出来れば夕食の支度からでも入ってもらいたいんだが…」

 3人はそう言われてオリバーとメリープ夫妻は今日は休みたいと断りソルは仕事をしたいと言った。

 

 ⁂⁂⁂

 

 騎士団のはずれに建った部屋には他にも事務職や馬の世話をするものなどが雑多に住んでいるらしい。

 ボリスが「女が一人でここに住むのは珍しい。何せ野郎は気の荒い連中もいる。酒でも入れば騒いだりあんたをからかったりするかもしれん。そんな時はすぐに俺に言ってくれ」と言われた。

 ボリスも1人ものらしくここの1階に住んでいるという。

 ソルは両親が亡くなって子爵家が没落した事を話した。

 部屋は安全を考慮して3階の端の部屋に決まった。荷物の片づけは1時間もかからなかった。

 そしてソルは言われた時間に調理場に行った。

 

 ここの騎士団は王都キスクの警備と犯罪取り締まりなどを行う騎士隊と王宮の近衛兵隊の2種類があって食事時間は食堂の関係もあって二回に別れているらしい。


 ソルは調理場の手伝いが終わると今度は配膳係に回された。

 「あれ、新しい子?名前は?ねえ、今度俺とデートしない?」

 ソルが配膳をしていると並んでいる騎士隊の男性から声を掛けられた。

 「あの、そういうことは困りますから…」

 数人に次々に言い寄られ調理場からボリスの怒鳴り声がした。

 「お前ら、さっさと行け!」

 ボリスが叫ぶと渋滞していた配膳台がスムースに流れ始めた。

 ソルはほっと息を吐いた。ブロスとあんな別れ方をしたばかりで心はまだまだしおれている。

 こうやってヤジを飛ばされるなんて思わなかった。

 (振られたばかりで、男なんか信じれないって思ってるのに…就職先間違ったかな?ううん、ここなら住むところもあるし食事にだって困らない。自分さえ気持ちをしっかり持っていれば大丈夫よ)

 そんな事を考えながらも手を動かす。



 「ソル?」

 いきなり名前を呼ばれてソルは驚いた。

 「誰?」

 (大きな身体に赤銅色の髪、茶色の瞳は薄い…見覚えのある色味。だがこんな毛むくじゃらは知らない)

 「どうしてここにいるんだ?」

 さらにその人はまるで知った人間みたいに口をきいた。

 (うん?えっ?まさか?)

 ソルのだだ下がり気味の脳みそが反応する。

 「もしかしてあなたクリストフなの?」

 (うそ!クリストフは騎士団に入ったの?ああ、そうか。彼は伯爵家の3男だったから…)

 ソルの頭がまだ整理のつかない間に怒ったように彼が聞いて来る。

 「ああ、だからどうしてここに?」

 (どうしてそんなに怒ってるのよ。私何かした?)

 「クリストフこそいきなり何?…それにあなたこそどうしてここにいるのよ!」

 「俺は騎士団に入って今は王女の護衛騎士をしている。ソルこそどうしてここにいるんだ?」

 クリストフはまるで尋問でもするみたいに聞いて来る。

 (もう、久しぶりに会ってすごくうれしいのに…クリストフったらどうして怒る訳?それにそんな髭ずらで熊みたいにガタイが大きくて…もぉ!)

 ソルはなぜかうるうる目を潤ませて見れば下まぶたに涙が溢れそうになっている。


 「ちょ、ちょっと待て!俺何か悪いこと聞いたのか?すまん。悪かっただから泣くな!ソル」

 クリストフは大きな身体でおろおろして慌ててトレイを置くとソルの腕の外側で大きな手のひらをおたおたさせた。

 「だって…王宮の仕事。首になったの…門を出たら騎士団の表に調理補助募集の張り紙があって…グスッ…」

 「わ、わかった。それでここで働くことになったって事か?」

 ソルはこくんと一度首をおった。

 クリストフは納得してごくりと喉を鳴らした。

 「じゃ…毎日ここに来ればソルに会えるって事なのか?」

 「それはそうだと思うけど…私住み込みだし、もしかしたら朝食の時にだって会えるかもしれないわ」

 「そうか…そうなんだ…それは…うん」

 クリストフはなぜか満足そうに笑うとこくこく首を追って嬉しそうにトレイに手を伸ばした。

 「それで、今晩のメニューはなんだ?」

 「ビーフシチューとから揚げよ。たっぷり食べてね」

 ソルはそう言うとトレイに山盛りのから揚げとビーフシチューの入った皿を置いた。

 クリストフはありがとうと言うと「でも、良かった。あれからずっと心配してたんだぞ。元気そうで良かった。これからよろしくなソル」と言ってテーブルについた。

 

 それから時折ソルの方を見て彼女にちょっかいを出そうとしている奴らをじろりと睨んで黙らせた。

 クリストフは大きくて髭もはやしていて年の割に凄く迫力があってソルに誘いをかけた騎士たちはみなその睨みに口を閉じてテーブルについた。

 

 クリストフは食事を終えると「また明日な。あっ、あまり無理するなよ。おやすみ」そう言って出て行った。


 「おい、見たか?クリストフの奴。女としゃべってるぞ。あの女とどういう関係なんだ」

 他の騎士たちが口々に不思議がっている。

 クリストフは女とは全く縁のない生活をして来た。確かに王女の護衛騎士をしてはいるがそれも彼がそう言う事に硬いと周りの見解があったからで…

 すぐにクリストフがソルと幼なじみだったとの情報が飛び交っていた。


 ソルにはクリストフの態度がおかしかった理由がわっぱりわからなかったがとにかく再会できてうれしかった。

 当然クリストフは幼なじみで恋愛対象には全く入っていない。

 (ああ。これから毎日クリストフと会えるなんて楽しかった子供の頃みたい。明日も楽しみだわ)

 ソルは今日はとても疲れていたが一日の終わりにそんな事を思いながら心地よい眠りについたのだった。








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