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3クリストフの嘆き


 クリストフは皇国騎士団に入って4年になる。今年で20歳だ。

 元々ハ‐ヴェル伯爵家の3男とはいえ母は後西だったので家を出ることは決まっていたし何しろ子供の頃から身体が大きく力があった。

 それでついたあだ名がビッグベアーだった。

 赤銅色の髪に色見薄い茶色の瞳。肌は浅黒く毛深い。おまけにすぐに顔が赤くなるものだから大人になってからは髭を生やしているので、今でもビッグベアーのあだ名を返上できずにいる。


 1年前騎士団の巡回をしていたクリストフは王都キスクで買い物をしていた王女が襲われるところに遭遇した。

 数人の騎士が犯人を取り押さえる中、クリストフは持ち前の力を発揮してまるで熊のように犯人に立ち向かった。

 それを見ていた王女アンナはクリストフを一目で気に入ってしまう。

 そして指名された13歳の王女アンナの護衛騎士の役職。

 騎士団員からすればこれは破格の出世コースで、クリストフは皆からうらやましがられた。

 だが、クリストフはあまりうれしくはなかった。

 本来外で駆け回る訓練や見回り、犯人確保などの実践が好きだし、何より王宮は窮屈だった。


   ⁂⁂⁂


 クリストフは幼いころから避暑で訪れていたモルウェーは、アセトン子爵領にあってアセトン子爵一家の別荘と隣同士だった。

 避暑に来ても兄とは年が離れていて上のふたりの兄はいつも一緒に遊ぶがクリストフはなぜか仲間外れにされた。

 仲間外れの理由が上の兄とクリストフの母が違うからだと知ったのはもっと後になってからだった。

 クリストフの母は父の愛人だったらしい。母の家は男爵家だったが没落していた。そして前妻が病気で亡くなって後釜に入ったらしい。


 クリストフは自分の外見を気にしていた。赤い髪色で身体も大きいクリストフを兄はいつもからかった。

 特に瞳の色が薄く気持ちが悪いと言われた。

 兄たちは金色の髪で美しい碧色の瞳でそれはきれいな顔立ちをしていたからだ。

 クリストフは自分の外見に偏見を持っていて髪色も瞳の色も大嫌いだった。

 でもソルは違った。彼女はクリストフの外見など全く気にしない。

 クリストフはソルといると楽しくて仕方がないようになった。

 そんな事があって避暑に来るといつもソルと遊ぶようになっていった。

 身体は大きいのに性格は臆病で人見知りで大人しいクリストフだったがソルとはなぜか気が合った。


 だが、クリストフが騎士団に入る前の年、アセトン子爵と夫人の乗った馬車が事故を起こし亡くなったと聞いた。

 屋敷は人手に渡りまだ15歳のソルは引き取り手もいないらしいと…

 それっきり子爵領は没収されハ‐ヴェルの避暑地はモルウェーではなくなった。

 彼女とはまた今年も会おうと約束していたのに…

 ソルとは会うこともなくクリストフは騎士団に入った。


 ソルを見かけたのは半年前。ほんの偶然だった。

 王女の茶菓子が届いていないと聞いて調理場の辺りまで出向いた時だった。

 護衛騎士がする事ではなかったが、少しでも退屈しのぎと運動したい気持ちからだった。

 一生懸命に野菜を切っている女が目に入った。

 最初はソルだと分からなかった。でも、あの淡いピンクの髪色と紫色の瞳はそうそういるはずのない色合いだったので間違いないと確信した。

 それにしてもあまりに美しくなったソルを見てクリストフは声を失った。

 ソルに気づいてもらえず声をかけるタイミングを完璧に失った。

 それ以来クリストフは王宮に上がるたび何かと理由をつけては外庭や調理場、王宮から騎士団への帰り道にもわざわざ回り道をして洗濯場や下働きの女性がよく休憩しているベンチにソルの姿を探すのが精いっぱいだった。


 そんな時だった。

 夕暮れ時ソルが外庭でブロス殿下と密会しているのを見たのは…

 脳が衝撃で真っ赤に染まり目の前がチカチカして思わず倒れ込みそうになった。

 息をはぁはぁと吐き出し何とか足を前に運び彼らの視界から見えなくなるように立ち去るのが精いっぱいだった。

 クリストフは完全に打ちのめされた。

 (俺は失恋したと…)

 









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