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お別れ前提。やっぱりですか。そんなの最初からわかってましたが  作者: はるくうきなこ


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2/11

2捨てる神あれば拾う神あり?


 それからしばらく経った。

 ソルはブロスの事を忘れようと必死で仕事に精を出した。

 ブロスを時折見かけて胸が締め付けられる。それでも諦めるしかないんだと自分に言い聞かせた。

 なのに…


 下働きを取り仕切る女官長のハシビに呼び出された。

 「ソル、あんたは今日で首だ。今日中に荷物をまとめて出て行ってくれ」

 「えっ?どうしてでしょうか。私何か失敗をしたんでしょうか?出したらお詫びします。ここを追い出されたら行くところがないんです。お願いします。どうか、もう一度考え直して頂けませんか?」

 ソルは縋るように女官長の足元に跪く。


 「ったく!私だってあんたがきちんと仕事をしてるのは知ってる。でもねぇ…皇太子殿下の命令なんだよ。だから、逆らうことは出来ない。わかっておくれよ」

 「それって…どういう…?」

 「あんた派手に殿下と…だっただろう?それが婚約者の耳に入ってねぇ…相手は高貴なご令嬢だろう?殿下がそんな卑しいものと関係を持っていたと分かれば…それに同じ王宮内の女じゃ…ねぇ。私があのくそ女たらしの婚約者でも同じことを思うんじゃないかねぇ…」

 「だったら、殿下が直接私に言えばいいんです。こんな姑息な手を使って私を追い出すなんて卑怯だわ。殿下だってそんな女と知って関係を迫って来たのに…私がそんな高貴な方の誘いをどうやって断ればよかったんです?」

 ソルは感情的になるが女官長に責任はない。それはわかっているが…


 「でもねぇ…あなたもそれくらい予想できたはず。相手が悪かったと思って諦めるのね。せめて紹介状は書いてあげるから斡旋所にでも行けば仕事は見つけるはず。まだ若いんだからいくらでも仕事はあるわ。ひょっとしたらここよりいいところが見つかるかも知れないわ。元気を出しなさい。さあ、仕事はいいから荷物を片付けて…」

 ハシビも気の毒とは思うが相手は皇太子とその婚約者。どうすることも出来ない。


 ソルは仕方なく部屋に戻って荷物をまとめる。

 (そりゃ、私があんなやつに身体を許したのが悪かったってわかってる。でも好きになったんだもの。あの深い翡翠色の瞳が大好きだった。私にだけ見せてくれる笑い顔も彼の美しい手の平から出される菓子にでさえ心が震えたものだ。

 ああ…どうしてあんな好きになったんだろう。ひどい男だってわかってたはずなのに…私が何を下って言うのよ!ほんと。こんな仕打ちするなんて思っていなかったわ。

 ふん!身分が高いからって何よ!ほんとに勝手なんだから!!)

 ソルはブロスに未練があったが、これできれいさっぱり諦める事が出来ると思った。

 そしてこの時二度と男は信用しないと決めた。


 その日ソルは片手で持てるほどの荷物を持って王宮の門を出ようとした。

 「ソル!」

 いきなり誰かに呼び止められる。

 ソルは振り返った。

 そこには豪奢な馬車に乗ったブロスが…彼は婚約者のマリエッタを乗せている馬車の中から顔を出すと言った。

 「こんな事をするつもりはなかった。聞けばソルは子爵のご令嬢だったとか…何か困った事があったらいつでも言ってくれ!」

 「……」ソルは開いた口が塞がらない。ただ、黙ってその場を去ろうとする。

 「ブロス様、そんな女に話しかけないで下さらない?わたくし言いましたわよね。婚約前にきちんとしておいて下さいって…」

 「ねぇマリエッタ。そんな事はとっくにきちんと出来ているさ。愛してるのは君だけなんだ。心配しないで。さぁ、今日は結婚式の準備の打ち合わせがある。機嫌を直して…」

 ソルの耳殻にブロスの甘い声が響いた。

 思わず胸の奥が疼いて脚が止まる。

 (彼は私にも吐息を吹きかけ甘いささやきをしてくれた。それと同じことをこの人にもしているんだ。いつまでもこんな男に思いを寄せていたなんて!でも…辛い)

 胸の中にぞわぞわ湧き上がる嫉妬。それを嫌悪してまた気落ちする。


 

 ソルは肩を落としながら王宮の高い鉄柵の門を区切る抜けると石畳を歩き始めた。

 王宮の隣には皇国騎士団がある。時折王宮内の外庭からも練習する姿や声が聞こえてくる近さだった。


 ソルは大きくため息をつくとずっとうつむけていた顔を上げた。

 目の前に騎士団の門が見えた。そして門の前に張り紙があった。

 ~大至急 調理補助出来る女性も求む。年令不問 衣食住保証 週に一度休みあり~

 ソルの目が大きく見開かれた。

 (なにこれ?今の私にピッタリの仕事じゃない。こんな巡り合わせがあっていいの?)

 ソルはさっきまでこの世に自分ほど不幸な人間はいないとまで思い詰めていた。が…今はとにかく働くところ住むところを探すのが先決問題なのだから。


 ソルはすぐに騎士団の門を叩いた。

 「すみません。あの、表の求人見たんですが…あれに応募したいんです…ここを開けて頂けませんか?」

 騎士団の門がぎぃぃぃぃと音を立てて開いた。








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