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7. 遂に着いたぞ!商業都市ニベル

商業都市 ニベル

北西に位置する大規模な港や、比較的危険度の低いモンスターが多く生息している森を切り開く事によって作られた交易路など、貿易に適した環境が整っている事から『神が与えし大地(ディオス・ティエーラ)』とも称される、この世界有数の商業都市である。


「はえー、これが都市ニベルか……」


あの後、命からがら何とか洞窟をぬけた俺は偏差値が50くらい下がったような声を漏らしながら、エレナと共に街を闊歩していた。


——50も下がったら俺の偏差値は残るのか?


「どうです、商業都市ニベルは?」

「いやぁ、何だかもう凄すぎて言葉が出ないな……」


どこか中世ヨーロッパの街並みを思わせる景色の中に自分が溶け込んでいる思うと、まるで歴史の教科者に入ってしまったような不思議な気持ちになる。

そんな叙情的な感情にふける俺を見て、エレナは満足そうに微笑んだ。


「異世界から来た方達は皆、そのような反応をされるそうですよ」

「そりゃ、こんな立派な街並み見せられたら誰でも驚くって。もし仮に、驚かない奴がいたらそいつに血は通ってないだろうな」

「ふふ、それは何よりです」


(エレナさんマジで、スケバンみたいなブチギレさえなければ可憐なんだけどな……)


「……どうかしましたか?」

「い、いやぁ、何でもない」

「そうですか? 何だか冷や汗を——」



『気のせいなんかじゃないですよエレナ! スグルは何か隠し事をしています!』



何て聞き覚えのある声と共に、目の前に突如として表示されたウィンドウに見覚えのある顔が浮かぶ。


「イーナっ! お前がどうして!?」

『ふっふっふっふ……、大量に魔力消費したせいで、そちらの世界にしばらくは行けませんが、こうしてウィンドウ越しなら会話可能なのです!』

「え、別にいいよ」

『またまた、照れ隠しなんかしちゃって素直じゃないですね』

「いや、目の前にずっと表示されてると鬱陶しいし。……てか、暇なのか?」

『ひ、暇!? 女神であるこの私がですか?』

「だって、こんな与太話(よたばなし)に首を突っ込むなんてよっぽど暇じゃないと出来ないだろ」

『ひ、酷いです! スグルのバカぁ!』

イーナが幼稚な捨て台詞を吐くと、目の前のウィンドウがプツリと閉じた。


「嵐みたいな奴だよな……」

「女神様とは思えない程、賑やかですよね」

「……で、これからどうする?」

「もう日も落ちかけていますし、もう今日は宿に泊まって明日ギルドへ行きましょう」


——エレナの何気ない一言に俺は固まる。


……そういえば、俺金持ってない。


宿に泊まろうにも泊まれない。それどころか、このスカスカの腹の中に食べ物も入れられない。

顔からスッと血の気が引いた気がした。


「……ごめん、金なんて一文も持ってないや」

「でしたら、今日の分は私が待ちますよ」


その言葉を待っていた。というか、エレナならその言葉を口にするだろうと分かっていた。

だけど俺は、そんな自分に物凄い嫌悪感を覚えた。


「……あのさぁ」


俺の絞り出すようにして発せられた声に、エレナはキョトンとした表情を浮かべる。


「あぁ、もしかして悪いと思ってます? 勿論、お金が入ったら返して貰うつもりですよ。だから——」


「違うんだ」


いや、大枠として捉えれば違わなくはないのだが、俺は奢られるのが申し訳ないみたいな、ざっくりとした事を言いたいんじゃない。


「……でしたら何ですか?」


「こんなトラブルメーカーで無能力の異世界人なんかが当たり前のようにBランク冒険者であるエレナに頼りっぱなしで良いのかなって……」


途切れ途切れになる言葉を懸命に繋いだ。

その様子をエレナは神妙な面持ちで見つめていた。


「もちろん、エレナとこのまま一緒に行動を共に出来たら嬉しいよ。でも、ただの遭難者であった俺はこの街に着いた時点で、エレナにお礼を言って別れるのが普通、というか当たり前の筈だ。なのにしぶとく、エレナの世話になろうとしてる俺って、どう考えても品のない非常識な奴だと思うんだ。だから……」


エレナは神妙な面持ちから一転、地面に向かって大きなため息を吐いた。


「いつも飄々としているスグルが、いつになく深刻そうな顔して何を言うかと思えば、なに水臭い事言ってるんですか……らしくないですよ」


むぎゅ。


エレナは沈んだ俺の顔を両手で挟んで持ち上げると、濁りない透き通った瞳で真っ直ぐ俺を見つめた。


「スグル、私達は出会いがどうであれ共に窮地を脱した仲間です」

「仲間……」

「そう、仲間です。……その顔を見るに、もしかして私の事、仲間って思ってくれてませんでした? 結構、傷付きますよ……」

「いや、別にそんな事は……」

「いいですよ、何か言おうとしなくても。そんな取ってつけたような弁明聞きたく無いですから…… だって、例えスグルが私の事を仲間と思っていなくても」



"——私は勝手に傷付きながら、貴方の事を勝手に仲間だって思い続けますから"



「そんな私をドンドン頼って下さい。変に謙遜して互いに傷付くなら、図々しいくらい頼ってくれた方が、私も嬉しいですし、頼られ甲斐があります」

「エレナ……」

「あ、でも貴方が堕落しきった時は思い切り顔に一発いれて、縁切りしますからね」


俺はフフっと軽く鼻を鳴らす。


「だから今は、迷惑とか考えて変に気を遣おうとしないで下さい。そんなスグル、私は嫌ですよ」


「……エレナ、ありがとな」

「本当、今のスグルは変ですよ」


エレナは悪戯に微笑んだ。


「間違いないな…… よしっ、それじゃあ暗くなる前に飯食べて、宿に行こう!」

「ふふ、そうですね」


『めでたし、めでたし。これにて、第七話完ッですね』


「おい、イーナ。なに最後にちゃっかり、美味しいところ持ってこうとしてんだよ」

『そ、そんな事ないですよ!』

「てかお前、やっぱり暇だろ」

『ぐぬぅ……、えぇ、暇ですよ!』


あっ、開き直った。


『だって私の仕事って、担当であるあなたの監視ですもん! それを否定されたら、奇数を延々と数え続けるくらいしかやる事ないです!』 


決まりきった法則性のある数を数えて何になるんだ……

せめて素数を数えろよ。


「イーナ、私は別にスグルと違って鬱陶しいとか思いませんからいつでも話して下さい」

『え、エレナ……、流石、冷徹極まりないスグルとは大違いです!』

「悪かったな血も涙もない悪虐非道なクソ人間で」

『そ、そこまで言ってないです……』

「まぁ、俺も暇なら喋ってやるから」

『何です、ツンデレですか?』


イーナはウィンドウの中で頬を膨らませ、口に手を当て笑いを堪えるような仕草をした。

ちょっと優しくしたらすぐ調子に乗るな。


「あーもう、この話終わり終わり」

『ちぇっ、仕方ないですね』


イーナは面白くなさそうに、目を細める。


『じゃあ今度こそ、第七話完ッ』

「じゃないからな、まだちょっとだけ続くぞ」

『そんなぁ、私で綺麗に締めようと思ったのに』

「やっぱり、美味しいところ持っていきたいだけじゃねーか!」


〜〜〜〜



——翌日——


速やかに宿をチェックアウトした俺とエレナは、早朝まだ人通りも少ない街の中を歩んでいく。


「いやぁ、昨日の飯は美味かったなぁ」

「まだ言ってるんですか?」

「だって、ブルホーム?とかいう、猪みたいなモンスターを使った異世界料理があんなに美味いとは思わなかったからな」

「はぁ全く……、あの料理、結構高かったんですからね。後でちゃんとお金払って下さいよ」

「分かってる、分かってる」

「本当に分かってます? やっぱり少し甘くし過ぎましたかね?」


エレナは眉を寄せた困り顔を浮かべる。


「ほら、スグル着きましたよ。浮かれ気分もここまでですからね」


エレナが足を止めたその先には、石造りで出来た堅牢かつ重厚で巨大な建築物が(そび)え立っていた。

俺はそのあまりの迫力に唾を飲み込む。


「ここが商業都市ニベルの冒険者ギルド……!!」

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