想
友人が死んだ。
その知らせは突然、私の携帯に入ってきた。
小学校と中学校が同じで実家も近い、地元の男友達の一人。とは言っても、彼はあまり学校に来ることはなかった。身体が弱かったらしい。入退院を繰り返し、最近はずっと入院していた。
彼は私の初恋だった。
たまに学校に来ては、嬉しそうに友達と話し、それと同じ表情で授業を受けていた。幼い私にはそれがとても魅力的に見えた。
だから小学校を卒業する時、告白した。私なりに彼への想いを伝えた。けど、彼は「ごめん。」と言った。
後で考えると、彼はその時から自分の死が私たちよりも近いことを感じとっていたのだろう。
しかし、幼い私はそこまで考えが及ばなかった。
それから中学生になり、彼はさらに学校に来ることが少なくなった。それと同時に、私は彼と話すことがなくなった。なんとなく気まずかった。
私は彼と付き合うことはできない。それがわかればわかるほど、たまに見る彼の笑顔は眩しかった。
丁度そのときぐらいからだろうか。私はギターを始めた。姉のお下がりのギター。チューニングの合っていないギターで、コードも知らない私は、音を鳴らしてみた。押さえる弦の種類や位置で音が変わる。それがとても面白かった。
ギターを始めて少ししたころ、私は初めて作曲をした。今聴けば酷い曲だ。彼への想いを音に込めて作った曲。今でもたまにその曲を弾いている。当時の感情が蘇り、泣きそうになることもある。
ギターへの熱意か、彼への想いかはわからないが、私はギタリストとして生活している。
私の作った曲はそこそこ売れていて、贅沢するには足りないが、普通に生活する分には困らないぐらい稼ぐことができている。
ファンもたくさんいる。アンチもそこそこいる。けど、そんなの気にしていては、表現者として生き残れない。知識のあるアンチの意見は的確なことが多く、そこそこ参考にさせてもらっているから、意外と私のためになっている。不吉なファンレターが来たことあったけど、事務所が守ってくれているから安心している。それも、作曲で売れたおかげだ。
彼のおかげなのかもしれない。
そんなことを考えながら、夜のコンビニを後にした。今日は金曜日。少し贅沢して、高めのアイスを買った。週に一回のアイスは私の恒例行事で、月に一回の高めのアイスは特別だった。
私は少し浮き足立っていた。そのせいかもしれない。
突然背中に大きな衝撃がかかった。勢い良く押されたような。
ふらつきながら振り向くと、黒いパーカーの背中が走っていった。何か変なものを付けられたのかもしれない。そう思って私は背中に手をやった。
ヌメっとした液体が手についた。
恐る恐る手を見てみると、赤の液体がついていた。
血だ。
そう自覚した瞬間、私は膝から崩れた。
痛い痛い痛い、熱い、痛い痛い熱い…。
何が起きたんだろう。背中を押されただけなのに…。
意識が朦朧とする中、私は彼のことを考えていた。
彼は死んだ。私も死ぬかもしれない。これは運命なのか。同じ運命なら運命の糸の方が良かった。
彼は死ぬ時何を思ったのだろうか。
彼は何故死に対してあんなに冷静だったのか。
あの時彼は謝罪をした。勝手に告白して勝手にショックを受けたのは私なのに。彼は自分が悪いかのように謝罪をした。
たぶんあの時から彼は、死を受け入れようとしていた。
彼は冷静に自分を見ていた。なのに、冷静になれない自分が恥ずかしかった。
私は、彼を想って作曲し続けた。その結果がこれか。
でも死ぬってことは、彼に近づくことになるのかな。彼に近づけるなら、これで終わりでも良いかもしれない。
私は結局、彼を想うだけで知ることはできなかった。
そうか。
結局私は、彼に恋していた、それだけなんだ。
【次話投稿】
2024/7/28/20:10
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