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第五百三十四話【三つ巴の様相】


 この世界、この街には、人と変わらないような動きをする機械人形が存在する。

 そしてそれは、おそらくだけど、人と同じように扱われている……可能性が高い。

 そんな街で、その機械人形が破壊される事件が発生した。一度ならず、何度も、何度でも。

         

 俺はそれを……ただ、壊されたという結果だけをいくつもいくつも見せられていた。

 予防することも、解決することも、犯人を特定することも許されず、すべてが終わったあとの現場だけを見せつけられて……


「……勇者……じゃ、ないな。これをやったのは、間違いなく勇者じゃない」


 ひとつの結論へと辿り着いた。これをやったのは……こんな事件を起こしているのは、異世界からやって来た勇者ではない、と。


 まず、状況から推察出来る要素として、これは物理的に破壊されていることが挙げられる。

 何か硬いものを、とてつもない力で叩きつけて破壊した。金属製の機械人形が大きく破損するほどだから、相当硬くて重い鈍器を使っているのだろう。

 これは、勇者のやり口とはとても思えない。


 勇者だから、人に希望を与える者だから、こんな残酷なことはしないだろう……って、そんなしょうもない理由じゃない。

 もっと単純で、そして唯一わかっている勇者の情報がそう確信させるんだ。


 そうだ。勇者は魔術師なんだ。治癒の力を引き継いで、それを他人へ行使することの出来る稀有な存在。

 その魔術師って生き物が――学者であり、術に対して絶対の自信を持つ人間が、果たしてそれと無関係な方法で、わざわざこんなことをするだろうか。

 答えは、否。俺が知る限り、高い次元で魔術を修めてる連中は、こういうことをしでかすときには、絶対に魔術を使う。単純に、術の試しがしたいから。


 そうだ。魔術師って生き物は、根本的にはろくでなし……もとい、魔術のために何かをする……って、そういう思考で生きている。

 であれば、てんで未知の存在である機械人形を前に、それを術の実験台にもせずに破壊する……なんてことは、天地がひっくり返ってもやらないだろう。


 それと併せて、もしも勇者が魔術師らしからぬ理性と善性を備えていた場合。

 この場合は、術を使わずにこれを破壊する理由がない。単純な理屈だけど、魔術を使ったほうが簡単に壊せるハズだから。

 騒音を気にしたとか、周りの目を欺こうとしたとか、そういう事情があった……のなら、そもそもこんなふうに残骸を放置しないだろうから、それは間違いない。


 ただ、そういう結論を出す以前の段階に、硬くて重たいものを魔術で操作して、それで破壊した可能性……というのも浮かび上がる。

 けど……こっちについては、状況証拠的に否定出来るだろう。


 最初に見つけた機械人形の残骸の周りには、焼け焦げたような跡がいくつも見られた。あれはおそらく、高出力の強化魔術による影響だ。

 あのとき、俺はたしかに聞いたんだ。ドロシーが俺にかけてくれたのと同じ、強化魔術の言霊……雷の術の言霊を。

 つまり、勇者はドロシーから習ったのだろうその術を得意としていて、戦闘に用いている……と、そう考えていい。


 けれど、それ以降の残骸の周りには、その焦げた跡が見当たらなかった。

 つまり、もしも勇者がこれをやっていた場合、二度目以降は対応を変えた……ということになる。

 なる……が、しかし、だ。肝心要、機械人形の残骸そのものは、最初の物も含めて、すべて同じ壊されかたをしているときた。

 つまり、機械人形はずっと同じ方法で壊されている……ということ。


 案外強くなかったから、強化魔術で回避能力を上げるまでもなかった……のなら、そもそもあんなふうにそこら中を焦がすこともなかっただろう。

 そこから導かれる解としては、機械人形は強化魔術を用いない誰かが破壊した……となる

 そして、勇者はその条件には当てはまらない。やっぱりあのとき、勇者は機械人形を破壊した誰かと戦っていた……って、そう考えるべきなんだろうな。


 さて……そんな答えを出して満足したいところだけど、しかしそうなると、もっと大きな疑問が浮かび上がってしまう。

 別の世界からやって来た勇者じゃないなら、いったい誰がこんなことをしているのか……と。


「考えられるのは、機械の統治に反逆する勢力……だけど。でも……」


 ただの人間にあれを壊せるだろうか。その部分の疑問が解消されないことには、この可能性を深く考えても意味はない。


 実際の状況を知らない。経緯を知らない。それでも、フリードが瀕死の状態に追い込まれるほどの武力がこの街には存在する。

 この時点で、屈強な兵士が何人いようとも簡単に制圧してしまうのだろう……とは、容易に想像出来てしまう。


 だから、もしも可能性があるとすれば、強力な機械人形を使役し、それを使って抵抗しているか……あるいは、機械人形そのものが反逆の意志を見せているか……だけど。

 でも、機械人形を作れるだけの設備は工場にしかなくて、それは当然、あのモノドロイドをはじめとした、統治者サイドが掌握していると思って差し支えない。

 そんな状況で、既存の汎用機を一方的に破壊してしまえるような機体を作れるか……と、そう問われれば……


「ありがちな設定だけどな。スクラップの中からジャンクを集めて、スラムで組み上げられたワンオフの特殊機体……なんてのも。でも……」


 そんなことは絶対にあり得ない。どんなに都合よくことが進んでも、それが現実になることはない。


 そもそも、廃棄されるパーツ自体が管理されるだろうし、よしんばそれを拾えたとしても、それは既製品の使い古しでしかない。

 高性能な機体は高性能な部品からしか生まれ得ない。これを覆すようなご都合主義は、残念ながらこの世界には適用されていないだろう。


 それでも、特殊個体の暴走……管理化から外れ、誰の指示も受けずに破壊行動を繰り返している……なんて分岐も考えた。

 考えた……が、それもほとんどあり得ないだろう。少なくとも、もしそうならもっと騒ぎになってるハズだ。

 住民にそれが知らされないとしても、あのモノドロイドってやつが知らないわけもない。

 知っているのなら、その時点ではただの遺体でしかなかったフリードを運び込ませる暇なんて……


「……ん? あ、いや。それは……どうだ? あり得る……か?」


 もしも、造反した特殊機体を暴走させた犯人だと思った……のなら、そういうのもあり得るのか?

 実際、フリードは身元不明で、状況から鑑みるに、機械人形と交戦状態にあったわけだから……


「現実には、フリードとその特殊機体は関係ない……けど、それはモノドロイド視点ではわかったことじゃない。となると……」


 いるかもしれないのか、統治から抜け出した特別な機械人形が。

 それも、おそらくはやみくもに暴れているんじゃなく、身を隠しながら、なんらかの目的を達成するために行動しているやつが。


「機械に自我がある……なんてのがもう眉唾だけど、今の街の在りかたを受け入れられない個体が発生したのなら……」


 そいつが同族である機械人形を破壊する理由はなんだろう。パッと思い浮かぶのは……機械ではなく、人の味方をするため……とか?

 しかしこれも、機械が人を管理している……なんて、俺の妄想じみた推測ありきの可能性だし……


 なんにしても、機械人形を壊して回っているのは、勇者一行ではない……と、それだけはほぼ間違いないだろう。

 それがわかっていれば、とりあえず安心だ。勇者と敵対する必要があるかも……なんて悩みを抱かなくて済むからね。


 それに、もしそうだとしたら、次の手がかりもそのうちに見つかるハズ。

 だって、勇者と、機械人形を壊しているやつと、街を治めているモノドロイドとの三つの意志が集まっていることになるんだから。

 そんな場所を、誰にも見つかることなく、二十四時間フラフラさまよっていれば、いずれは決定的な証拠に行き当たる……ハズ。ハズ……うん。


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