表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
503/547

第四百九十八話【途絶えた足跡】


 すごく、すごく長いあいだ、馬車に乗って旅をした。旅……なのかな?

 昔みたいに、お話ししながら、楽しく進んだわけじゃない……から……えっと……


「……ビビアン……」


 知ってる道も進んだ。知らない道も進んだ。馬車から見える景色は、ほとんど知らないものだったけど、でも、思い出がいっぱい残ってた。


 ガズーラおじいさんと友達になったキリエ。でも、デンスケがお腹を刺された場所でもあるから、ちょっとだけ胸が痛くなった。

 おじいさんを探しに行ったクリフィア。マグルは……いる、かな? もしかしたら、旅をしてるかな? そんなお話しもしたよね。

 それから……アーヴィン……は、えっと、あんまり思い出はない……けど、もうすぐガラガダだ……って、うれしかったから、覚えてる。


 それで……すっごく時間がかかったけど、僕はまたガラガダへやって来た。

 ビビアンに会うんだ。あのころと違って、楽しくお話しをするためじゃない……けど、会って、いろんなことを教えて貰わなくちゃ。


「えっと……あれ? ビビアン……の……」


 街に着いて、またビビアンの工房へ行こうと思ったんだけど……

 街の様子が……みんなの様子が、ちょっとだけおかしい気がした。


 それに……なんでだろう。街の中に、ビビアンの魔術痕が……あんまり残ってない……?


「……? ちょっとだけ、街の人とお話ししてもいい? えっと、えっとね、ビビアンがね、薬を作って、それをあげてるお店があるんだ」


 どうしたんだろう。街の人が、みんな……ちょっとだけ……ううん。昔に来たときより、ずっと……ずっと、つらそうにしてる。

 これは、僕がつらいから……? あのころは、楽しみで、ずっとわくわくしてたから、みんなも元気……に、見えてたのかな?

 だから、今は僕がつらいから、みんなもつらいように見えてる……だけ?


 でも、魔術の痕跡が少ないのはなんでだろう。それが気になるから、お話しをしに行こう。

 デンスケなら、きっとそうすると思う。気になったら、ちゃんと調べて、もやもやしなくなってから進むんだ。


 みんなにいいよって言って貰って、僕はまたビビアンが薬をあげてるお店を目指した。

 昔に来ただけだから、道はあんまり覚えてない。それに、魔術痕も消えちゃってるから、探すのにちょっとだけ時間がかかっちゃった。


 でも、ちゃんとお店には着いた。着いてから気づいたけど、触る魔術で探せばよかったんだよね。

 やっぱり、デンスケがいないとダメだ。デンスケがいてくれたら、こんなことすぐに教えてくれたのに。

 やっぱり……僕は、デンスケがいないと……


「……ううん、違う。そうじゃないよ」


 ぶんぶんって頭を振って、かなしい気持ちを追い払う。

 これで追い払えたことはないけど、ちょっとだけ頭が痛くなって、かなしいのが気にならなくなるから。


 僕は、デンスケがいなくても大丈夫になるんだ。そのために、ビビアンに教えて貰うんだ。

 ビビアンに魔術を教わったら、きっともっとすごくなって、そうしたら、デンスケがしてくれてたことも、ちゃんと自分で出来るようになる……よね?


「こんにちは。えっと、えっと……」


 じゃあ、早くビビアンに会わなくちゃ。そのためには、お店の人とお話しして、みんなが元気じゃないのはなんでなのかを教えて貰って……?

 あれ? それは、僕が気になっただけだから、ビビアンに会うのとは関係ないのかな?

 でも、気になったままはダメ……だから、じゃあ、お話ししなくちゃいけないよね。


「……あら? 貴女は、ええと……そう、マーリンさん。マーリンさんですよね?」


「え? ぴっ! え、えっと、えっと……うん。僕は、マーリンだよ。お姉さん……は……あぅ…………あっ、メーインさん……だよね?」


 お店に入ってすぐに、お姉さんに声をかけられた。

 緊張して、ちょっと怖かったけど……でも、この人は、知ってる人だ。

 僕達をビビアンのところに連れて行ってくれた、お店の人……メーインさんだ。


「お久しぶりですね、お元気そうで何よりです。本日はどうされたんですか?」


「えっと、えっとね……みんな、元気がない……の? えっと、久しぶりにね、ガラガダに来て、えっと……」


 ええっと、なんて言ったらちゃんとわかって貰えるかな。

 いつも、デンスケが説明してくれてたから……僕は、いつもお話しするだけだったから。

 ルードヴィヒさんのところでも、それでちょっとだけがっかりされた……んだよね。じゃあ、出来るようにならなくちゃ。


「えっと、えっと……街の人が、元気じゃない……みたいだったから。何かあったの? 前に来たときは、みんなもっと元気だったよね?」


 出来てるかな? 伝わったかな? 不安だったけど、でも、メーインさんはうなずいてくれて……じゃあ、ちゃんとわかってくれたんだ。

 だけど……メーインさんは、ちょっとだけさみしそうな顔になって、こくんって、また、今度はちょっとだけうなずいた。


 うなずいたけど……何も、言ってくれなかった。言わないほうがいい……って、思ってるみたい。

 でも……知らなくちゃ。だって、みんなが落ち込んでるんだ。僕は、みんなを守るんだから。デンスケなら、きっとそうしたから。


「教えて。みんな、なんでかなしいの? 僕がみんなを守る……から、だから……」


 あれ? って、ちょっとだけ胸の奥に言葉が引っかかった。

 もしかして……って。ちょっと待って、って。僕の中で、嫌な気持ちがちくちくして……


「……ビビアンの薬……ない、の? 街に、魔術痕もなかった……よね? ビビアンは……ビビアンはいないの?」


「……っ。さすがに……貴女には簡単に見抜かれてしまいましたね。さすが、先生が見込んだ魔術師さんです」


 ビビアンがいない? ビビアンがいないから……ビビアンが、薬を作ったり、畑をよくしたりしてあげてないから、みんな元気がないんだ。

 それがわかったら、胸の奥のほうがぎゅって熱くなった。早く行かなくちゃ……って。早く、ビビアンに、街の人を助けてあげて……って、伝えなくちゃ、って。


「――呼んでくるよ! ビビアンなら、みんなをまた元気にしてくれる。僕が、ビビアンにお願いしてくるよ」


 それが決まったら、僕は急いでお店を出て、そして……


「――ザック! 来て!」


 一緒に来て……って、言ってないけど。でも、いるよね? だって、ザックは――


 来て。って、呼んでからすぐに、影が僕の周りを暗くした。そして、みんなが驚いてるところに、ザックはゆっくり降りて来てくれた。


「ザック、えっと……あっち。あっちの、山のふもとに行って。ビビアンに会いに行くんだ。急いでね」


 くるる。と、ザックはいつもみたいに返事をしてくれて……でも、どこかさみしそうな顔で、僕のことを乗せてくれた。

 ザック……やっぱり、ザックもさみしいんだね。いつもだったら、デンスケも一緒だもんね。僕しかいなくて、大好きなデンスケを乗せてあげられなくて……


「……っ。行こう、ザック」


 また、かなしい気持ちで胸が痛くなったから、頭をぶんぶん振って、それを追い払ってからザックに乗った。

 そして、ビビアンの工房があったところへ……街の外の、山のふもとに向かう。


 ビビアンがいない。ビビアンが、街の人を助けてあげてない。

 ビビアンは優しいから、いじわるしてるんじゃないと思う。じゃあ……出来ない理由があるんだ。


 研究が忙しいのかな。それとも、別のことをしてるのかな。ビビアンは僕よりいっぱいいろんなことを知ってるから、全然わからないや。

 行って、お話しして、お願いしなくちゃ。また、街に行ってあげて、って。それから……僕に、これからどうしたらいいのか、教えてって。


 ザックに乗って、昔来たときよりずっと早くにあの場所へとやって来た。

 でも……そこに、ビビアンの工房はなかった。壊れた建物があって、ビビアンが住んでたあの家は……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ