第四百九十七話【羽ばたいて】
街に戻って、フリードと一緒に王様のところへ行った。
そこで……フリードは、すっごく怒ってた。
はじめは王様に怒ってるのかなって思ったけど、そうじゃないみたい。
だけど、何に怒ってるのかはわからなかった。僕は、フリードのことをわかってあげられなかったんだ。
そんなフリードに、王様も……怒ってた……のかな?
すっごく怖い顔で、すっごく悲しそうに、ダメだよ……って、言ってた……んだよね?
王様も、フリードも、言ってることが難しいから、よくわからなかった。
でも、ふたりとも、すごくさみしそうに見えた。
それから王様は、僕に……えっと……しきけん? を、くれるって言ったんだ。
それを聞いたら、フリードはもっと怒ったけど、でも、王様もフリードに怒ってた。
でも……でも、僕はそれを止められなかった。
デンスケだったら、ちゃんと止めてあげたのかな。ケンカはダメだよって、教えてあげたよね。
じゃあ、僕がやらないといけなかった……のかな。だって、デンスケは、今はいないから。
デンスケは……
「……デンスケ……」
そのあと、フリードは別の部屋に行っちゃって、僕はひとりでみんなのところに帰ることにした。
でも、そこにデンスケはいない。ザックも部屋の中には入れないから、またひとりぼっちに戻っちゃった。
「……ぐす。でも、大丈夫。僕は、魔導士だから。デンスケが……みんなが褒めてくれた、魔導士だからね」
ずっとひとりだったのに、ずっとさみしかったのに、それが初めてのものみたいにつらかった。
僕はずっとひとりで、みんなから嫌われて、悲しかったし、さみしかった。
今はそうじゃないのに、そのころと同じくらいつらい。なんでだろう。
わかんない。わかんないけど、デンスケがいないから、教えて貰えない。
じゃあ、今はもう考えないでおこう。目をつむって、明日の朝になったら、きっとデンスケが……
「……デンスケ……ぐす……」
夢を見た。眠って、起きて、それがわかった。
ずっと、見なくなっていた夢を、また、視たんだ。
「……そっか」
夢の中には、何も出てこなかった。ひとりで森の中を歩いてて、ザックみたいな、でも大きくないフクロウがいて。
それは、夢……だけど、夢じゃなかった。いつか、そうなる。ずっと、ずっと、ずっと見ていた、夢。
デンスケにあげるまで、ずっと――
「――ぐしゅ……ぅう……ひぐっ……」
もう――いないんだ。デンスケは、もうどこにもいないんだね。
ザックが見てた場所には、デンスケの血がいっぱいあった。あんなにいっぱい血が出たら、怪我が治っても生きていられない。
風で触る魔術を使っても、デンスケを見つけられなかった。どこにも、デンスケがいなかった。
どこにも――ごーれむがいるところ以外は全部見たのに。いちゃダメなところ以外は、全部見たのに……っ。
わかってたんだ。フリードが言ってることも。デンスケがいなくなっちゃったって……デンスケが、死んじゃったって。わかってたんだ。
だけど、それじゃあ、僕はどうしたらいいの。デンスケがいなかったら、僕は何も出来ないのに。
それが怖くて、ずっと、信じないようにしてたんだ。デンスケは、どこかに行って、ごーれむを壊してくれる人を探してるんだって、そう思って。
そんな人、いないよ。そんな人、いるわけないんだよ。僕でも壊せないものを壊せる人なんて、どこに行っても見つからないんだよ。
だって、僕は――
「ぐす……」
デンスケがいない。じゃあ僕は、どうしたらいいの。
ずっと、ずっと、デンスケが僕の手を引っ張ってくれた。デンスケがいたから、僕は魔導士になれた。みんなに褒めて貰えたんだ。
デンスケ。デンスケ、デンスケ。
僕の初めての友達。大切な友達、大好きな友達。
頑張ろうと思えたのは、デンスケが教えてくれたから。何をしたらいいか、教えてくれたから、頑張れたんだ。
デンスケがいればよかった。でも、それだけじゃさみしいよって、デンスケがいっぱい友達を作ってくれた。
だけど……フリードも、みんなも、いる……けど……っ。でも……デンスケが……いなかったら……
どうしたらいいの? 僕はどうしたらいいの? デンスケ。僕は、何をしたらいいの?
もう一度会いたい。もっと、ずっと、一緒にお話ししたい。また、みんなで……
「……デンスケ……っ」
僕は……魔導士……だよ。僕は、魔術師よりすごい、魔導士……だ。
僕は……みんなを、守る。守らなくちゃ。デンスケが、出来るよって言ってくれたんだから。
でも、ひとりだと何をしたらいいのかわからない。デンスケがいないと、僕は何も出来ない。
じゃあ、デンスケを知ってる友達に……フリードに、聞けばいい……けど。
フリードも、すっごくかなしい……から。デンスケがいないのが、すっごくつらいから。
だったら、ほかの友達に……デンスケが一緒に作ってくれた、大切な友達に会って、教えて貰えば……
「……ビビアン。ビビアンなら、助けてくれる……」
僕は、魔導士マーリンだ。僕を魔導士にしてくれたのは、デンスケと、ビビアンだ。
そうだ。ビビアンに会いに行こう。ビビアンなら、きっと知ってる。ビビアンなら、何をすればいいか、教えてくれる。
それに……デンスケがビビアンに会わせてくれたみたいに、ビビアンも、デンスケに会わせてくれるかもしれない。
「……えっと、えっと……」
ガラガダ……まで、行くには……えっと、どうすればいいんだろう。
ザックにお願いする……? でも、ザックはガラガダを知らない……から。じゃあ……
「……そうだ。えっと、王様は、僕に……とっく……? しきけん……を、くれた? から……しきけんは……デンスケが持ってた……」
あの剣のことかな? よくわからないけど、でも……たぶん、デンスケがやってたことが、僕にも出来る……ってこと、だよね?
じゃあ、みんなにお願いして、馬車に乗せて貰える……のかな。みんななら、ガラガダも、知ってる……よね?
「フリード……は、えっと……王様のところ……だから、じゃあ……ひとりで行かなくちゃ。僕が、頑張らないと」
行かなくちゃ。そう思って、僕はみんなのところへ向かった。
みんな、まだすごくかなしそうな顔で、つらそうで、見てると僕も苦しくなっちゃいそうだった。
でも、お願いしなくちゃ。僕に、しきけんがあるなら、デンスケと同じことをしなくちゃいけないなら、僕が、みんなを守らなくちゃ。
そのためにも、ビビアンに教えて貰うんだ。僕はこれから、どうすればいいのか。
「えっと、えっと……みんな、ガラガダ……って、知ってる? 僕を、そこへ連れて行って欲しいんだ。デンスケがいない……から、僕が、えっと……ビビアンに……」
みんなのところに行って、すぐにお願いした。馬車で、ガラガダまで連れて行って、って。
でも……嫌だって言われるかな。みんな、すっごくかなしい……から。今は、わがままなこと言っちゃダメ、って。
「……ガラガダ……か。わかった、馬車を出してやる。お前ら、話は聞いてたな。嬢ちゃんが前向いてんだ、いつまでも俯いてられねえぞ」
嫌がられるかな……って、思ったけど。でも、みんな、いいよって言ってくれた。
まだかなしそうだったけど……ちょっとだけ、元気になった……のかな? みんな僕を見て、笑顔になってくれた。
そっか。王様が僕にくれたのは……僕がやらなくちゃいけないことは、みんなを元気にすることだ。
みんなを守る。みんなと戦う。みんなを元気にする。いつも、デンスケがやってたこと。全部、僕がやるんだ。
それからすぐにみんなが準備をしてくれて、僕はまた馬車に乗って、ずっとずっと遠く、デンスケと一緒に歩いた道を戻って、ガラガダを目指した。
ビビアンなら、きっと教えてくれる。みんなを元気にしてあげる、僕に出来ることを。




