表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
489/509

第四百八十四話【デコイ】


 マーリンのおかげで、本物にほど近い……と思われるゴーレムの模造品を、目の前で観察することが出来た。

 けれど、そうして得られたものは、こいつもこいつでとんでもない問題だ……ってことだけ。


 本体は岩でも土でもなく、水である。水の形を制御することによって、硬くて重たい岩を自由自在に動かすことこそが、あのゴーレムの本質だ。

 マーリンが教えてくれたことを要約すると、大体そんな感じ。


 なら、その水をどうにかすれば解決するんじゃないか? たとえば、マーリンの大火力で蒸発させてしまうとかで。と、そう思ったんだけど。

 残念ながらそれも、マーリン本人の口から否定されてしまった。


 温度、湿度、気圧、あるいはそれ以外の様々な要因、環境が、どんなものであろうともあの形を保つ。それが、あのゴーレムを作った魔術式だろう。

 そんな説明を受ければ、さすがに……いくらなんでもめちゃくちゃだろと、頭を抱えるしかなかった。


 魔獣を抑えてくれているかもしれないから。が、手を出さない理由だったけど、そもそもこいつらも、あの魔獣と変わらないくらい厄介な脅威で間違いない。

 もしかすると、マーリンの魔術でも突破出来ないかもしれないんだ。そんなのがゴロゴロいるなんて……


「……万事休す……だったな、あのままだったら。なんとか首の皮一枚耐えたって感じだ」


 普通なら、もうダメだ、おしまいだ……って、絶望してしまうところだけど、ギリギリで踏みとどまれる理由がある。

 それはひとえに、あの山にはしばらく関わらなくて済むようになったから、だ。


 もっとも、ただ無視していいだけの状況だったら、それはやっぱり諦めでしかない。

 諦めてしまうことと絶望してしまうことは、向いてるほうは違うかもしれないけど、最終的には同じこと。

 もうなんともならないって事実を受け入れて、目を背けるか、塞ぎ込んでしまうか、その違いだけ。


 でも、今回は状況が違う。

 あの山にかかわらないで済むのは、そうなるように全力で取り組んだ結果だ。

 つまり、一時的なものかもしれないけど、全員の無事を勝ち取ったってことなんだ。


 まあ、気の持ちようと言われたらそれまでだけど、それだけで結構違うから不思議なもんだ。

 事実、俺は今、かなりほっとしている。どうしようもない現実を目の前にして、これにみんなを飛び込ませなくて済んだ、よかった……って、胸を撫でおろしてるから。


「……よし。ほっとしたら、じゃあ次は対策を考えないとな。解決はいつかの未来に託すけど、全部丸投げは許されないし」


 で、安心したのは俺だけじゃないんだろう。

 フリードもどこか呆けた顔をして、俺に言われるまで、どこにも焦点が合ってない感じだった。


 でも、対策って言葉ひとつですぐにスイッチを入れて、険しい顔で……けれど、ちょっとだけ余裕のある表情で頷いてくれた。


「現時点で破壊する手段がないのであれば、そればかりはどうにもなるまい。ただ、そのときが来るまでに研鑽を積むばかりだ。だが……」


「そうだな。マーリンでも壊せないかもしれない……けど、壊せないと決まったわけじゃない」


 さて、まずは何から対策するべきか。と、そう思ってたけど、その前にフリードが口を挟んでくれた。

 どうやら、俺とまったく同じ意見みたいだな。さすが、ずっと一緒に旅をしただけあるよ。


 あのゴーレムは、マーリンですら完全には解明出来なかった。

 今ある模造品も、おそらくはこうだろう……と、仕組みのほうを再現したもので、外見はそれなりに違う部分も多い。

 つまり、あのゴーレムは、マーリンでさえ手に余る魔術によって作られた……と、そう考えていいだろう。


 これを大雑把に解くと、あのゴーレムは、マーリンの魔術よりもさらに複雑で、高位のものだ……と、そうすることが出来る。

 だから俺達は、あれはマーリンでさえ破壊出来ない可能性が高い……と、そう仮定した。


 けれど……


「理解が難しいこと、より高度な技術であることは、それを打ち倒せない理由じゃない。きれいに解体しなくたって、力ずくで壊しちゃえばいいんだから」


「そうだな。そして、君ならばそれも可能だろう……と、我々は意見を同じくした。どうだろうか」


 あの魔術は難しいかもしれない。理解して、ちゃんと分解するのは無理なんだろう。

 でも、魔術師としてのこだわりを持たないマーリンなら、やりかたを選ぶ必要もない。


 少なくとも、まとっている硬い岩の装甲を破壊してしまえば、危険度はぐっと下がるハズだ。

 そして、マーリンの火炎魔術なら、岩石だろうとなんだろうと、まとめて粉砕するだけの威力が備わっている。


 そういう根拠で、俺もフリードも、ゴーレムの破壊そのものは不可能じゃない……と、そう思った。

 けどそれは、あくまでも素人考え。マーリンに不可能なんてない。って、押しつけに等しい期待を込めた願いみたいなものだ。


 だからこれを、ちゃんと本人に聞いてみる。

 分解は出来ないのか。それでも、破壊は出来るのか。あるいは、破壊すら出来ないのか、と。


「……えっと……うーん。壊すだけ……なら、出来るよ。だって、岩も燃やしたらボロボロになる……から。だから、僕なら壊せるよ」


「……ふ。本来、岩石を破壊するだけの火力など、人の手には余るものなのだがな。それでも、君ならば実現出来る……と」


 ふん。と、一層大きな鼻息とともに、マーリンは力強く肯定した。

 魔術を完全には解明出来なくても、物理的な限界によって破壊することは出来る。なんと単純で、なんと恐ろしい自信だろう。


「……でも、壊さないほうがいい……よね? まだ、魔獣を倒せるようにはなってない……から」


「うん、そうだね。そっちが解決しないことには、あの山では問題を起こすべきじゃない」


 さてと。ちょっと勇気の出る返事をして貰ったところで、しかし冷めた現実が襲いかかる。

 結局、魔獣の問題が解決しないから、あのゴーレムには手を出せそうにない。そこがなぁ……


「……それなのだがな。模造品を前にして、ひとつ思いついたことがある。リスクはもちろんあるが、まずはそれが可能か否か……という点から確認したい」


「ゴーレム魔術を見て何か思いついたのか? なんだよ、そんなのあるならさっさと言ってくれればいいのに」


 本当に今しがた思いついたのだ。と、フリードは困った顔をして、しかしちょっとだけ自信ありげに、その思いついた作戦を説明してくれる。


「泥人形を破壊し、そのうえで、こちらで制御可能な代替品を設置するのはどうか。見た限りでは、両者のあいだに争いは発生していないのだろう。ならば……」


「……そうか。追い払われてるんじゃなくて、あれがあると知ってるから近づかないんだとしたら。それとそっくりなもの……いや。同じものがあれば……」


 あの環境の半分をこちらが掌握すれば、いつか魔獣を倒せる準備が整ったとき、一気に中腹まで駆け上がることが出来るかも。


 たしかに、リスクはある。あの魔獣は賢いから、ちょっとした変化を見逃さない可能性も低くないから。

 だけど、もしかしたら……とも思える。もしもそれが出来るのなら、状況は一気に好転するんじゃないかって。


「本当に実行するかどうかは、もうちょっと考えなくちゃいけないけど……でも、方針は定まったな」


「ごーれむの魔術を、もっとちゃんと似せればいいんだよね? 大丈夫、出来るよ。任せてね」


 おお、頼もしい。えへんと胸を張った姿は、過信でない自信に満ち満ちている。


 それに、もしこれが成立したなら……成立させられるくらい似たゴーレムを作れたら。この一件は、王宮へ打ち込む楔になる。

 またいつ熱がぶり返すかわからない以上、こっちはこっちで予定があるんだってアピールもしておきたいからね。


 そうと決まれば、さっそく……さっそく…………どうしようか。

 マーリンは魔術の開発、改良だけど、俺は…………て、手伝えること、あるかな?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ