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第四百八十二話【考えるべきときに】


 翌朝早く、ゴーレムの魔術をもう一度確かめるために、俺とフリードはほとんど同じタイミングで目を覚ました。

 小さな拠点とは言え、部隊が寝泊まりするための施設だから、ここでは三人一緒の部屋で寝泊まりしてるわけじゃない。

 それでも、ほとんど同じタイミングで部屋を出て、廊下で鉢合わせ、食事の支度をして、今日はどうなるかと話をした。


 でも……揃って頭から抜けていたのは、肝心要のマーリンが、朝寝坊しがちなお子様だった……ってこと。


「おーい、マーリン。まだ寝てるの? 起きなよ、もう朝だよ」


「ふふ。旅のあいだには、こういったことも少なくなかったな。王都で生活しているあいだはどうだっただろう。私が知る限りでは、ある程度克服していたように思えるが」


 朝早くに起きて市場へ行って、それからお店を開けてたくらいだから。もうお寝坊さんとは呼べない、ちゃんとした生活を送っていた……ハズだけどなぁ。

 それに、山での調査中だって、朝になったらちゃんと起きて、一緒に支度をしたもんだ。


「それだけ疲れてた……疲れ果てるくらい難しい魔術を、あんな短時間で組み立てた……ってことなのかな。これまでに蓄積した疲労もあるだろうし、しょうがない……か」


 のんびりしてる時間はないけど、マーリンの体力をむやみに削るべきでもない。休めるときには休ませてあげないと。

 ふたりして早起きしたけど、ちょっと暇になっちゃったな。


「昔みたいに、昼前まで起きてこないってことはないだろ。じゃあ、一度王都まで戻る……って選択肢もなしだな。うーん、どうするか」


「ふむ……であれば、先に準備を整えておくのはどうだろう。魔術式に必要なものを……ではなく、発動した術の何を観察し、どのような情報を得るべきか、と」


 なるほど、先に要点の洗い出しをするのね。

 昨日は暗くてはっきり見えなかったけど、とりあえずの印象は、山で見たものとはちょっと違うな……くらいのものだった。

 それはつまり、見た目よりも中身を似せようとした術ってことなんだろう。


 なら、あの術によって何が再現されていて、そのうちのどの部分に注目して弱点を探すべきか。今から考えておけば、スムーズに研究を進められるかも。


「一番は、あれは壊せるものなのか……って部分からだよな。まあ、本当に再現出来てるんだとしたら、マーリンはその壊しかたも知ってそうだけど」


「しかし、彼女だからこそ破壊出来た……では、状況は何も変わらない。せめて、私と君でも打破する手立てを見つけ出さねば」


 そう……だな。マーリンだったら破壊出来る……じゃ、結局何も好転しない。


 もしもあのゴーレムを突破しても、その向こうの魔獣と戦うそのときには、やっぱりマーリンの力が必要になる。

 となると、その前段階で消耗し過ぎる状況は避けなくちゃならないだろう。


 もっと厳しい言いかたをするなら、マーリンの力に頼らなくちゃならない状況を抜け出せないなら、どれだけ足掻いてもあの山を踏破するのは不可能だ、とも。

 彼女と肩を並べられるような仲間がいないなら、現状から何も進歩がないって意味なんだから。


「いつか、あの魔獣を倒す力を持った誰かが現れる。でも、その力を発揮させてやれる足場がないんじゃ話にならない。攻略出来る部分は、理想論だけでも固めておかないと」


 じゃあ、マーリンの魔術なしであのゴーレムを倒すとして、いったいどんな部分につけ込めば破壊出来るだろうか。


 まず前提として、あれは無機物で、硬い岩石の塊だ。

 ただ剣技を磨いただけではとても倒せない、魔獣とは別のベクトルで脅威となるだろう。


 それを倒す……破壊する……無力化するとなったら、いったいどんな方法があるだろうか。


「……まず、機動力を奪う方法を考えるべきか。あれが砂と岩の塊であるならば、それを濡らすか、あるいは乾かすか。なんにせよ、流動性を削ぐ一手を試してみたい」


「あー、なるほど。もしも乾いた砂で繋がってるなら、それが濡れて泥になれば、うまいこと動かなくなる可能性もあるもんな」


 べたべたするし、這い回る抵抗になるだろう。

 反対に、あれが泥で繋がっているのなら、それを乾かせば、案外それだけで崩れてくれるかもしれない。


「素材由来の弱点って話だったら、薄くて鋭い剣より、鉄製のハンマーとか、岩盤を割るための太い杭とか、そういうのが武器として有効かな?」


「ふむ、道理だ。だが問題は、あれだけの岩塊を叩き砕くだけの鉄槌を振り回せる剛力が、この国にどれだけいるか……だろう」


 それは……うーん。それこそ、刀鍛冶みたいな人なら……いや、刀がないけどさ、この国に。

 それに、そんな重たい武器を持ってたら、いざ戦いになって敵に囲まれたら、手も足も出せないか。


 まだ実物をちゃんと見てないとはいえ、しかし弱点を考えるってのも難しいな。

 ゲームの話だったら、弱点属性があって、あるいは弱点部位があって、それをうまく活用すればいいんだけど……


「……いや、待てよ。マーリンはさ、あれは金と水の属性……と、土も大量に使ってるって言ってたよな。そういうのって、魔術的な弱点になったりしないのかな」


「……そうか。本来、自然界に存在するあらゆる物質は、その属性の偏りによって特性が決まっている……と、習ったことがある。であるならば……」


 えーっと……なんだっけ。金の属性……金属の、磁性を利用して動かしてる……って、マーリンは言ってたよな。

 じゃあ、その磁性を奪ってやれば、あいつらは動かなくなったり……とか。


「えーと、えーと……そう、そうだ。高温で熱すると、磁石は磁力を失うんだ。それだけで倒せるとは言わないけど、構造を脆くしたり、動きを止めたりは出来ないかな」


 金と水と土の属性で出来たものなら、その反対……風や火の属性に弱い……とか、そういう話があったりしないかな。と、そんな単純思考だけど、どうだろ。


 フリードも魔術を専門的に習ってるわけじゃないから、これの答えはすぐには出ない。

 でも、大雑把にはふたりとも理解してるから。考えるぶんには問題ない。


 それに、そういう方面からのアプローチなら、マーリンがいるおかげですぐにでも試せる。

 確認しやすい候補からリストアップしていけば、案外あっさりと弱点が見つかるかも。


「ふわあ……ふたりとも、もう起きてた……むにゃ。おはよう……」


「おはよう、マーリン。よく眠れた? だいぶ疲れてたみたいだから、もうちょっとゆっくりしててもいいよ」


 おっと、いかん。起きたばかりの眠そうな顔のマーリンを見たら、つい甘やかしてあげたくなってしまった。

 しかし、今はやるべきことがあると本人も自覚してるから。眠そうに目をこすりながらも、もう一度部屋へ戻るようなことはしない。偉いぞ。


「あのゴーレムの弱点について、確かめられそうなものを列挙していたところだ。実証に入る前、食事がてらに、君の意見も聞かせて欲しい」


「……ごーれむの……むにゃ……弱点……? えっと……ふわ……ふわぁ……んにゃむ……」


 わあ……すっごく眠たそう。こんなになってるの、ずいぶん久しぶりに見たな。

 やっぱり、とんでもなく疲れたんだろう。それを思うと、もうちょっと休ませてあげたい気持ちはある。


「むにゃ……えっと……えっと……ふわ。たぶん、えっと……炎は、あんまり効果がないと思う……よ。岩が溶けちゃうくらい……ふわぁ……熱かったら、違うけど……」


「ふむ、そうか。金の属性……磁力によって稼働しているのならば、あるいは熱に弱いかと話をしていたが……単純に、材質に有効でない攻撃では効果も望めない、か」


 でも、眠そうにしながらも、マーリンはちゃんと考えて答えをくれた。なら、いつまでも甘やかそうとしないで、その頑張りに報いないとね。


 というわけで、マーリンの朝ご飯をささっと準備して、目が冴えるまでの雑用をちょっとでも取り除いてあげることにした。

 なんか……甘やかさないための行動が、結果として全部甘やかしになってしまった。なんで……?


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