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第四百三十話【いい方法はないものか】


 王都北方に設けた拠点からザックに乗ってさらに北上し、魔獣の群れが生息する地点の確認に向かう。

 特区調査殲滅部隊の休日を見計らって、俺達はたった三人でそんな作戦を敢行した。


 目的は……何より、現実を知ることにある。

 この先にどれだけの脅威が存在するのか、その脅威を払うにはどれだけの備えが必要なのか。

 何よりも、それがマーリンの魔術による攻撃でしか突破出来ないとなったら、調査用の活動拠点を作ることも難しくなる。

 だから、そうしなくてもいい抜け道はないものかと、わずかでも情報を集めたいんだ。


 移動中、いつもなら楽しく喋ってる三人だけの時間なのに、俺達に会話らしい会話はなかった。

 もっともそれは、ザックの上だから……飛行中だから、話し声も風を切る音でかき消されてしまう、ってのもある。

 でもそれ以前に、和気あいあいとお話しをするだけの余裕が、誰の心にもないことを示していた。


 そして……問題の地点から少し手前で、マーリンはザックに合図を出した。

 一度ここで下りよう。ここから先へ進む前に、ちゃんと状況を確認しておこう。って、そういうことなんだろう。


「……マーリン、この時点で魔獣の群れは見えてるの? ザックの上から見てても、俺じゃとても……」


「えっと……見える、よ。僕は、魔獣の群れが見えてる。だけど、まだちょっと……もうちょっとだけ、遠くにいるよ」


 マーリンの視力でも遠くに見えるくらいの距離で、安全確認を徹底しなくちゃならない……か。

 本当にとんでもない数の魔獣がいるんだな、この先には。それはまた……はあ。気が滅入る話だ。


「私が確認したときには、もう少し先まで進まねばならなかった。ただ……ふむ。マーリンの口ぶりを思うに、そのころよりももっと奥に集まっているのだろうか」


「もっと奥……? それは……えーと、あれか。群れが移動したんじゃなくて、時間の都合ってやつか」


 魔獣の全部がもっと北へと移動したんじゃなくて、ただ偶然、前回は警戒のために南下していた群れを見かけたんだろう……って話かな。

 あるいは、この時間……まだ朝の早い時間には、群れを小さくまとめて固まって休んでる、とか。


 なんにしても、ここからもう少しの地点までやってくるとは思っておくべきだろう。

 それも、フリードが警戒するほどの数が、だ。群れの一端だけでもそんな数って……


「……うん、やっぱりたくさんいる。ザックなら襲われないと思うけど……大丈夫、かな?」


 事情を把握しきれていない俺とフリードをよそに、マーリンは探知魔術でこの先の状況を完全に把握したらしい。

 そして、それでもザックなら大丈夫……上空ならば襲われることはないだろうと、少しばかりの安心を教えてくれた。


 ただそれでも、だからと言ってこのまま進んで大丈夫という保証にはならない。


「ザックの姿を見て、警戒して、迎撃のために攻撃する……ってのは無理でも、追いかけられたら俺達も拠点に戻れなくなる、か」


 もしも執拗に追い回されたら。上空には隠れる場所もないわけだから、追跡を躱すのは難しいだろう。

 テリトリーの外に出てしまえば問題ない……と、普通の動物相手ならそう思えるんだけど……


「引き返すことも出来ず、魔獣で埋め尽くされた地上に降りることも叶わず。最悪の場合、ザックにかなりの負担を強いる結果になるだろうな」


「しかもそのうえ、結局マーリンの魔術で全滅させるしかなくなった……なんてことになれば、なんのためにここへ来たのかわかんないし。うーん……」


 この調査の目的は、あくまでも情報収集。その情報収集は、マーリンの術で地形ごと攻撃しなくてもいい方法を探すためのもの。

 だから、ヘマしてそうするしかなくなった……なんてのは絶対に避けたい。

 最終的にはそれしか方法がなかったとしても、このときにはまだ選択肢を残しておきたいからね。


「歩いて近づく……のは、もっと危険だよな。それで見つかった場合、どうやったって逃げ切れない。戦うしかなくなっちゃうし」


「場合によっては、マーリンの術による殲滅も難しくなる。ふむ……」


 でも、じゃあどうすればいいのか。

 空から近づけば見つかる可能性が高くなる。だからって、地上なら見つからないわけじゃない。


 ここから探知魔術で調べ続けるのもひとつの手ではある……けど、それじゃあ目的のほとんどは達成出来ない。

 この先にいる魔獣がどの程度の脅威なのかを測らなくちゃならないんだから、なんとかしてはぐれた個体を狙えないものか。


「おびき出す……のは、難しいか? でも、出来るならそれがいちばんいいよな。少数だけを相手にして、その個体の強度を確かめて……」


 それで群れ全体の危険度がはっきりわかるわけじゃないけど、特別な個体が群れてるのかどうかがわかれば、ある程度は策も立てられる。

 それこそ、数だけが脅威で、それぞれは大したものじゃないとなれば、俺とフリードなら地上で戦っても平気なハズ。


 でも……魔獣をおびき寄せるなんて、やったこともないし、試そうとも考えなかった。

 それも、群れ全体じゃなく、その一部だけを都合よく誘導しようとなると……


「狩りに用いられる手法とすれば、餌による誘導か、あるいは音や狩猟動物に追い立てさせるか……だが。ふむ……」


「餌なんて都合よく手に入らないし、入ったとしてもそれで食いつくかわからない。食いついた数が多過ぎてもダメだしな」


 なら、音で誘導するか? となっても、しかし音を立てれば逃げるわけじゃないのが魔獣だから困った。

 猟犬に追わせようにも、魔獣を追い立てられるような生き物なんてどこにも……


「……ん? 魔獣を追い立てる……動物……狩猟用の……強くて、賢くて……?」


 いる! と、ちょっとだけ大きな声を出してしまったから、その張本人……もとい、張本鳥にびっくりされてしまった。

 ごめんね、大きい声出して。もうすっごい、モフモフになっちゃったね。全身の羽毛を逆立てて、すっごい……びっくりしてるね……


「ザックだ。ザックに誘導して貰えばいい。ザックなら反対に襲われる心配もないし、それに俺達の言葉をちゃんと理解してくれる」


「……ふむ、なるほど。私達が背に乗っていては、見つかれば逃げる以外に選択肢はないが……」


 見つけさせて、それを地上に残った俺達のところへ誘導して貰えば。


 もちろん、リスクはある。魔獣の感知能力が優れていたり、あるいは群れの中での伝達能力が高かったりすると、群れ全体がザックについてくる可能性があるから。

 それでも、現状で考えられる作戦としては、一番無難で、かつ一番リターンを得られそうなものだ。


「マーリン、どうかな。魔獣の今の配置……どこにどのくらいいるかが細かくわかれば、ザックならやれると思うんだけど」


「えっと……えっと……うん、出来ると思う。でも……」


 でも。と、そう言うと、マーリンは視線をフリードへと向けた。

 フリードにも案を求めている……んではなくて、フリードに確認したいことがあるんだ。

 自分が見たときはこうだった。でも、フリードの話を聞くと、そればかりとは限らないから、と。


「ああ、そうだな。群れが固まっているのだろう今よりも、警戒のために散ったあとにこそ作戦を決行すべきだ」


 フリードが見たときには、もっとこっちまで魔獣の群れが来ていた。つまり、群れが全体的に広がっていた可能性がある。

 その状況が再現されれば、ザックはより安全に、より少数の魔獣を誘導出来るだろう。


 そうと決まれば、もうしばらくは待機だ。

 探知で魔獣の位置を逐一確かめながら、群れの密集が解かれる瞬間を待とう。


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