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第四百二十五話【理解などなくても】


 特区調査殲滅部隊の、実質的な初任務は無事に完了した。

 いきなり魔獣と遭遇したりもしたけど、けが人も出ず、その後の調査でも大きなトラブルは発生しなかった。


 そういう結果が出たわけだから、部隊は一度王都へ戻り、調査報告のために王宮を訪れていた。

 俺やフリードだけじゃなくて、みんなで。王宮騎士団との情報交換もかねて、部隊みんなが集合したんだ。


 それで、部隊員のみんなは騎士団と合流し、現場目線の意見交換をしてくれている。

 マーリンもそこに混じって……るけど、人が大勢いると、あんまり意見は言えないかな? 人見知りはしなくなったけど、引っ込み思案ではあるからね。


 一方で、俺はフリードと一緒に、役人のもとを訪ねた。

 今回もやっぱり調査報告書を出す必要があって、それを直接渡すためだ。


 まだもうちょっとはフリードが一緒じゃないと不安……なのは、どうやら俺だけじゃないらしい。

 頼むより前から一緒に来てくれたから、フリードもまだ手放しでは任せられないと考えてるんだろう。


 で、役人さん相手の報告も終わって、俺達もこのままみんなのもとへ合流しよう、出し合って貰った意見を聞こう……と、なる予定だったけど。

 その前に一件、確認しなくちゃならないことがある。


 そう。例の、なんか知らないけど俺の力が思ったより強くなってる気がする事件について、王様に聞かなくちゃならないことがあるんだ。

 なんか……本当に情けなくなるね。自分が出来ることすらも把握してなかったんだな……って……


 まあ、そんな反省は後回しにして、だ。


「……剣に何かしらの細工をしたか……と? 此度の遠征に際して、そのようなきらいを感じ取ったと申すか」


「はい。あるいは、未熟な私の身を案じてくださり、特別なまじないを仕掛けた魔具のようなものを授けてくださったのでは……と」


 まず疑ったのは、剣が特別な可能性だった。


 今まで俺は、鞘に収まったままの剣しか使ったことがない。だから、実際に刃のついた剣を使うのは今回が初めてだった。

 ただそれでも、大きな槍でも貫けないものを切り裂く剣が普通なわけはないとわかる。

 普通じゃない……とすれば、何かしらの細工がしてあるんじゃないか、って。


 でも、フリードいわく、見た目は普通の剣だとのこと。武器については知識も豊富だろうから、それはほぼ間違いない……のかな。

 だけど、だからって絶対にそうとは限らない。フリードにだって、知らないものはあるんだから。


 そう。たとえば魔術。

 知識は持ってるって言ってたけど、実際に使えるわけじゃない。つまり、マーリンみたいに魔術の痕跡がわかるわけじゃないんだ。

 だとしたら、もしも武器に魔術的な強化が施されていても気づけない可能性は高いだろう。


 もっとも……もし魔術で強化された武器なんだとしたら、マーリンが気づいてそうだけど。


 万が一にも俺の技量が知らないところで上がってる可能性も考えたし、検証もした……けど。

 結果は……フリードに苦い顔をされて終わりだったよ。うん……


 とまあ、いろいろ考えた結果、俺達だけじゃ到底答えが出せそうにない……って判断をしたわけだ。

 だから、ある意味では予定通り、王様に話を聞きに来たんだ。あの剣をくれた張本人だからね。


 だけど……その反応を見ると……


「ふむ……余は、そのような備えを施したつもりはない。あるいは、貴族の中に気を回す者があったやもしれぬが、しかしその剣に触れる機会はなかっただろう」


「陛下も手を加えてはいらっしゃらず、私に味方してくれる誰かも、この剣に細工をする機会はなかった……ですか。では……いったい……」


 やっぱり、王様も身に覚えはないみたいだ。

 それに、ほかの誰かが細工をした可能性についても否定している。

 たぶん、大切なものだから、王様か、あるいは王様直属の誰かが管理していたものなんだ。それには誰も手を加えられないだろう。


「……しかし、それになんの問題がある。其方は其方が思うよりも強かった……と、ただそれだけの話であろう。ならば、次にはその強さを基準に自らを測ればよいだけのこと」


「そ、そう……なのですが。その……出所のわからない強さを、どれだけ信用していいものか……と……」


 うん、まあ、心配し過ぎなのはわかってるけどね。

 それでも、今は大勢を率いる立場になったんだ。なら、戦力の把握は出来る限り正確にしておきたい。


 そんな俺の考えを、王様はどうやらあんまり理解出来ない……理解はしても、それが優先される理由に納得がいかないみたいだ。

 実力で国ひとつ建てた人間の胆力を、こんな小市民の神経と同じだと思わないで欲しい……


「しかしなぁ。其方自身、剣を振るうことは初めてだったのだろう? そのことにも驚かされるが、その強さを問題視する……などとは」


 まったくもって無駄だろう。と、あまりにもはっきりとぶった切られてしまって……あの、もうちょっと手加減を……


「え、ええと……そう、です。そうなんです。無駄……とはわかっていても、しかし制御出来ない力だった場合を考えると……」


「おかしなことを。熟練の騎士とて、腕より長い剣を指先のごとくは扱えぬ。扱えたとて、不意に身体をどこかへぶつけぬとも限らぬではないか」


 うっ。え、ええっと……お、思ったよりちゃんと説き伏せられたな、これはまた。


 うん、王様の言う通り。まったく言い返せないや。

 そもそも、剣なんて振り回してる時点で危ないんだから。その切れ味や威力がどれだけ上がっても、結局は延長線上の出来事にしかならない。

 だとしたら、気をつけるべきポイントが変わらないってことでもある。なら、あんまり気にし過ぎても……って話か。


「安心せよ、其方は強い。王宮騎士団が、フリードリッヒが、そう認めておるのだ。ならば、制御の利かぬ力まで含めて、其方の強さだと認めるべきだろう」


「……はい。肝に銘じます」


 堅苦しいのう。と、ちょっと呆れられてしまったけど……まあ、これが俺のやりかただと思えば。


 剣が切れ過ぎる理由はわからない。でも、そこまで含めて俺の強さだ……ってのには納得した。

 要は、俺がちゃんと気を張ってればいいんだ。当たり前だけど、武器を手にした時点でその覚悟は持ってなくちゃならないんだから。


「この度はご助言いただき、誠にありがとうございます。陛下のお言葉のおかげで、いくらか吹っ切れました」


「そうか。であればよいが……ふむ。いくらか、か」


 あっ、ちょっ、なんでそんなとこで不服そうな顔するの。王様なのに。王様にそんなふうにされたら、俺はもう全力で謝るしかないじゃないか。


「くっ、はっはっは。そう慌てんでもよい。この部屋に余と其方しかおらぬ時点で、このときの発言ひとつで裁こうなどという意思は持ち込んでおらん」


「お、お戯れを……」


 本当にこの人は……ふたりきりだと容赦なくからかってくるの、本当になんなんだ。フリードでもそこまで砕けてないのに。


 でも、王様の言葉でちょっと気持ちが軽くなったのは事実だ。

 結局は、俺が気をつけていればいいだけの話。使い慣れれば、あるいは使い古せば、奇妙な力の出所もそのうちに理解出来るようになるだろう。


 肩の荷を蹴っ飛ばされた形で下ろして、そのまま玉座の間をあとにした俺は、部隊のみんなのもとへと戻った。

 フリードが取り仕切って、意見交換で出た対策をまとめてくれたみたいだけど……うん。やっぱり、隊長はお前のほうが…………いやいや。俺も精進しないとな。


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