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第三百九十八話【巨鳥を従える勇者】


 王様公認となったザックを正式に迎え入れ、月影の騎士団はより一層の活躍を続けていた。

 魔獣を発見する能力に長けるザックが増えたことで、俺はなおのことひとりで……ひとりと一羽で仕事をする機会が増えたよ。

 正直なところ、マーリンと一緒に歩き回れないのはさみしい。仕事だから仕方ないと割り切りはするけど、気持ちの問題はまた別だからね。


 もっともそれは、ザックがいなかったとしても同じこと。マーリンに任せたくなる仕事が多いから、基本的にはバラバラになっちゃうんだ。

 そういう意味では、ザックがいてくれるおかげで、多少はさみしさも緩和されている……のかもしれない。


 フリードとロイドさんいわく、本当はもうちょっと多人数で仕事を受けたいとのこと。

 それが出来ないのは、やっぱり人手がまだ足りていないのと、何より特別な組織として周囲に認知させなくちゃならない期間だから。

 特別な仕事を受けるにふさわしい組織であると、王宮にも、そして国民にも知らしめることで、北方の調査を受け持つ準備を進めているんだろう。


 そんな事情もあるから、今はこのさみしさも我慢だ。いつまでもこんな規模で運営するつもりじゃないのは知ってるしさ。

 それにこういうときは、ただ依頼をこなすだけでいい俺より、ふたりのほうが大変だろうし。

 ならせめて、実績で支えるくらいの気概がないとね。


 と、そういうわけで、だ。

 俺は今日もザックと共に王都を出発し、西方の街へと……王政との確執が発端で、王宮騎士団との連携が不足している地域へと訪れていた。


 その後のプリエンタさんの尽力のおかげもあって、わずかに残っていた因縁みたいなものもかなり払しょくされたらしい。

 だから今こそ、王族であるフリードの運営する月影の騎士団が、西側の街をきちんと守っていかなくちゃ。


「……よし。ザック、この辺で降りよう。いきなり街のど真ん中に降り立ったら、いくらなんでも不審に思われるからさ」


 さて。頑張る理由が明確な以上、気合が入らないわけもない。じゃあ、いろんなところをちゃんとしなくちゃね。


 とりあえず、この大きなフクロウが防壁を飛び越えて街へ降り立つなんて光景は、不必要に怯えさせかねないから避けよう。

 ってことで、街の少し前で地上に降りられるように、ポンポンと頭を撫でて指示を出す。


 そうそう。ザックなんだけど、どうやら背中に人を乗せても平気らしい。

 いや……ちゃんと捕まってなくちゃいけないし、風強過ぎてめちゃくちゃ怖いけどね?


 でも、いつもいつも大フクロウに咥えられて登場……なんて情けなさ過ぎる姿をさらさなくて済むのは、とってもとってもありがたいよ。


「よーしよし、オッケー。降りるからかがんでくれ。よっ……ほっ。いやぁ、まだ慣れない。強化魔術を貰ってるときは、あれよりもっと高くまで跳べるのになぁ」


 咥えられてるときのほうが、正直に言って安心感があった。少なくとも、かじかむ手で捕まってなくちゃならないなんてことにはならないから。

 しかし、情けない姿を見せるほうがつらいからね。男にはプライドってものがあるんだ。


 そうして地表に降り立てば、ザックは、もうちょっと近くまで行けたとでも言いたげに、ほろ。と、小さく鳴いて俺の背中をつついた。

 なんか……本当に感情表現がわかりやすいな、お前は。


「あんまり近くだと、誰かに見られるかもしれないからな。まだお前のことを知らない人に勘違いされるのは、俺としても不本意なんだよ」


 最悪、俺が情けない格好になるくらいなら許せる。嫌だけど。

 でも、晴れて正式に仲間として認められたザックが、勘違いでも怖がられるのは避けたいものだ。

 だって、大事な友達なんだ。俺にとってもマーリンにとっても、もちろんフリードにとっても。


 たしなめるようにそれを説いてやれば、ザックは目を細めて……どうしてかまた俺のお腹をつついた。

 それはそれ、これはこれ。歩くのはめんどくさい。とか、そんな文句があるんだろうか。あるんだろうな。


「まあ、そうか。飛べるなら飛んだほうが楽ちんだよな、お前としては。歩き回るほうが慣れてないだろうし」


 ほろ。ほろ。と、何度も返事する姿は、そうだそうだと怒っている風にも見える。

 でも……ごめんな。こればっかりは変えられない。俺達はあくまでも、みんなを守る騎士団だから。怯えさせるわけにはいかない。


「わっ。こらこら、つつくな。帰りは堂々と街中から飛び立てるから。みんなに信頼して貰ったあとなら、誰にも怖がられないで済むからさ」


 触れ合う機会が先にくれば、このもふもふは大勢から愛される素質を持っているからね。

 そうでなくても、噂の騎士団の仲間だと知られれば、これもまた特別さの所以かと思って貰える。


 たぶん、そういう目論見のもとに、フリードも俺と組ませているんだろう。

 部隊の中にデカいフクロウが混じってる……よりも、派遣されたのがデカいフクロウを連れた騎士だった……のほうが、インパクトが強いからね。


 じゃあ、その目論見通りことが運ぶように、俺もそれなりの働きをしなくちゃならないな。


 あれやこれやと言葉を尽くして機嫌を直して貰ったザックと共に、正門から堂々と街へお邪魔する。

 みんなびっくりした顔でザックを見てるけど、正面切って登場すれば、襲ってきたわけじゃないとは理解して貰えるだろう。


「その紋章……もしや、王都の騎士様でございますか。お待ちしておりました。さあさあ、どうぞこちらへ。ああ、しかし……ええと……」


 ひとまず役場を訪ねるか。と、大通りを歩いていれば、向こうから出迎えにやってきてくれた。

 まあ、こんなのがいれば目立つし、誰かから話が行ったんだろう。出てきて貰って申し訳ない。


「どうも、こんにちは。すみません、大きいのが一緒で。大丈夫ですよ、外で待てるやつですから」


 ほろ。と、ちょっと怒られたけど、ペット扱いしたわけじゃないから許して。

 それともあれか? なんでひとりだけ建物に入るんだよ。さみしいだろ。と、文句を言いたいのかな。いや、それはないか。


 まあなんにしても、こうして文句を言ってくれれば、それをなだめる姿をみんなに見せられる。

 そうすれば、街の人からもちょっとだけ理解して貰えるだろう。この騎士は、この大フクロウを手なずけているんだ、って。


「王都では、このような生き物を使役する術が開発されていたのですね……」


「使役……とは、ちょっと違いますけどね。それに、こいつが特別なだけで、ほかには普通の馬車馬がいるくらいです」


 恐怖が薄れれば興味が出るし、興味が出れば関心も向く。関心が向けば話題があがるし、話題にあがれば話が出来る。

 こうして話が出来るだけで、騎士としてだけじゃない、個人としての信用もそれなりに得られるだろうから。初めて訪れる街でのザックの仕事は案外多いのだ。


「こいつはザック。月影の騎士団の一員です。あ、俺はデンスケです」


「ザック……様に、デンスケ様ですね。本日はご足労頂き、まことにありがとうございます」


 いかん、自己紹介がザックの紹介よりあとになってしまった。まるで俺のほうが立場が低いみたいじゃないか。

 ま、それはどうでもいいことなんだけど。


 道のど真ん中で立ち話をしていても仕事にはならない。迎えに来てくれた役人と共に、一度役場へと入ろう。

 そのあいだ、ザックはお外で待っててね。こら、ふてくされないの。お前、不機嫌になるとすごい顔に出るよな……


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