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第三百九十六話【待ってるあいだに】


 ザックには特別な力がある。魔術や異世界転生なんて意味の特別ではなく、そのまま本来の意味での特別さが。


 人の言葉をきちんと理解出来る。そのうえで、指示を聞いて適切に動くことも出来る。

 巨体がゆえに、大荷物を運んだり、人を運んだり、中型程度なら魔獣を倒すことも難なくこなす。

 さらには、元来夜行性であることも相まって、野営時の見張りも任せられるのだ。


 それに、これらの特別な力は、フリードやマーリンの助けになるだけでは収まらない。

 月影の騎士団には、王宮騎士団やほかの組織から移籍してきた騎士がいて、それ以外にも新たに雇用した人が働いている。

 そういう人にこそ、ザックの力は大きな助けになってあげられるだろう。


 そうなれば、月影の騎士団が誇る戦力は、あるいは今現在の王都にあるどの組織よりも強いかもしれない。

 ザックがいれば、魔術なんて使えなくても、遠い場所の魔獣を発見出来る。その接近を感知して、迎撃することも出来る。

 それだけのことが出来るなら、たとえ少人数の部隊だったとしても、中隊と変わらないくらいの戦果を挙げられるハズだ。


 それに何より、ザックは目立つ。このことが、月影の騎士団にとって……延いては、王都や王宮にとっても、大きな価値を持つ可能性は高い。

 目立つってことはつまり、より多くの人に広められるってこと。

 大勢が知っている組織の活躍は、それだけ広くに希望をもたらし、勇気を振りまくだろう。

 それは月影の騎士団が発足前から掲げる理念でもあるから、なおのことザックの存在は大きいのだ。


 と、四人の貴族を相手に、俺は精一杯のプレゼンをした。

 途中から、よく口が回るとでも言いたげにフリードも感心した顔で見てたから、結局ほとんど俺がやってしまったよ。


 それで……手ごたえについては、正直わからなかった。

 だって、こんなことするのは初めて……じゃないけど、まだ慣れてないんだもの。


 とりあえず、嫌な顔はされなかったな……とだけ。その場で納得して貰えたわけじゃないから、俺からは何も予想出来ない。


 フリードいわく、これで問題ない。きっとうまくいく。たいそう感心していた。とのことだけど……

 こいつの俺に対する評価の甘さは今に始まったことじゃない。あんまりアテにしてぬか喜びするのはやめておこうかな……と。


 そんなわけで、その日のうちに解体されるなんて結末を避けた我らが月影の騎士団は、ザックの処遇についての返答を待ちながらも、これまで通りに活動を続けていた。

 今日は久しぶりに、マーリンとふたりで王都近郊の調査へ向かっているところだ。


「……ザック、呼んじゃダメかな? 僕もザックと一緒にお出かけしたかったのに……」


「ダメだよ、まだ。もうちょっとだけ我慢しようね。ちゃんと許して貰えれば、堂々と一緒に外に出られるんだから」


 向かってるところ……なんだけど。

 デンスケは一緒に遊んだのに、どうして僕はダメなの? とでも言いたげな目で、出発する前からずっと訴えられている……


 ルールで決まっているとか、ダメって言われたとかなら、マーリンもすぐに理解する。

 でも……この件については、俺が先に例外を作っちゃったせいで、どうにも納得がいかないようだ。


 それに、マーリンから見たザックは、何も不思議なところなんてない大切な友達でしかない。

 それがどうして、まるで腫れ物みたいな扱いを受けなくちゃならないんだと、内心では憤っているのかもしれない。


「……それに、もしザックが騎士団の一員になっても、マーリンはあんまり一緒には仕事出来ないかもしれないね」


「え……なんで……? 僕の友達だよ。ザックは、僕の友達……なのに……」


 ああ、しゅんとしちゃった。

 でも……あとになって、マーリンは別行動ね。なんて言われたら、もっと悲しむだろうから。先に釘を刺しておかないと……と思ったけど……


 ザックを特別な戦力として騎士団に迎え入れるなら、そのときの扱いは当然、マーリンやフリードと似たものになるだろう。

 特にマーリンとは、広い範囲を感知出来る、魔獣を見つけ出す能力が優れていると、特別な戦力たる要素が似通っているから。

 公的な組織として運用する以上、マーリンとザックはわけて部隊を編成するべきだ……と、外からそんな指示が挟まるのは想像に易い。


 もちろん、フリードもロイドさんも、それを是とはしないだろう。

 でも、月影の騎士団が街を守る組織である以上、たとえそれが貴族や政治家、あるはほかの似た組織からの言葉だとしても、民意には逆らえない。

 より大勢を守ることの出来る選択を。と、そう迫られれば、さしものフリードも、マーリンとザックを離れ離れにせざるを得ない日が来るだろう。


「お仕事だから……ね。ザックがいれば、ほかのみんなでも魔獣を簡単に見つけられるよね。だから、ザックにはそっちのお手伝いを頼みたいんだよ」


「……ザック……」


 ああ、もっとしょんぼりしちゃった。でもそれはつまり、俺の言ってることを理解して、気持ちは残念だけど、話には納得したってことだろう。

 やっぱり、もう子供じゃないな。言動や振る舞いは子供っぽいとこもあるけど、中身はすっかり王都に馴染んだ立派な魔導士だよ。


「……でも、仕事の時間以外ならずっと一緒にいられるよ。ザックが窮屈しないで済むような施設も借りる予定らしいから、また昔みたいに一緒に眠れる」


「ほんと? じゃあ……早くお仕事終わらせないとね。ふん」


 ふんふんと鼻息を荒げて気合を入れる姿にも、どことなく貫禄がついてきたような気さえする。

 これはさすがに親バカかなぁ……? でも、心なしか表情も凛として見えるんだよね。


 そんな頼もしいマーリンと共にやって来たのは、街から出てしばらく歩いた湿地だった。

 以前にも王宮騎士団の手伝いで近くに来たことがあって、そのときに軽く説明を受けたんだよね。

 なんでも、魔獣の種類が多くて、いつも準備が大変だ……って。


「来るたびに襲ってくる魔獣が違ったら、そりゃ準備も対処も大変だよな。で……こんなとこに派遣されたってことは……」


 どうやら俺達は、かなり期待して貰っているようだ。

 マーリンまで一緒ってことは、このあたりの魔獣を根絶させるくらいの成果を求められていると考えていいだろう。


 それだけならマーリンひとりでも大丈夫そうなところに、どうして俺も一緒なのか……については、まあ……なんだ。お目付け役的な意味合いがあるんだろう。

 マーリンの魔術は強大過ぎるから、その力を発揮させるなら、きちんと手綱を握る誰かをつけるべきだろう、と。


「よし。そろそろポイントに着くから探知をお願い。資料で見た魔獣のどれがいるか……なんてわかんなくても、マーリンなら大丈夫だよね」


「うん、任せてね。触れる羊雲トッタス・キュムレウス


 ひゅう。と、さわやかな風が頬を撫でたのが、探知魔術の発動を教えてくれる。

 ただの風にしか思えないそれが湿地の奥深くにまで行き届けば、マーリンは地形のすべてを両手で撫でたように把握出来てしまうんだ。


「……この奥の、いっぱい草が生えてるところにたくさんいるよ。水の中……にいる……? でも、泳げるわけじゃないみたい」


「泳げないのに水の中に……? えーと……ああ、なるほど。水浴びしてるんだ」


 魔獣も生き物だからね。きれいな水場があれば、飲むし、餌を取るし、場合によっては涼みもするか。

 で……草がいっぱい生えてるところってのは、そもそもそこら中が茂みになってるところを鑑みて……水草が多くて、水面が見えない場所……ってところかな。


「デンスケ、ここからでも倒せるけど、どうしよう。えっと……水も多いし、木もまだ新しいから、加減すれば燃え広がらないよ」


「うん、わかった。じゃあお願い。ちゃんと加減して、魔獣だけを焼くイメージでね」


 まだこっちからは姿も見えてないのに、こんなとこから攻撃出来ちゃうなんて。

 あれだね。マーリンは本当に、ゲームに出てきたらバランス崩壊待ったなしだね。


 それからすぐに、炎の魔術が唱えられる。

 それが最良の結果をもたらしたのを見てから、俺達はまた湿地の奥へと足を踏み入れた。

 全部これで解決するなら、本当にこの辺りの魔獣を根絶出来ちゃうかも。


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