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第三百八十七話【奇怪な難問】


 勇者として、その名前にふさわしい活躍をする覚悟が出来ているか。と、王様は俺にそう尋ねた。

 俺はそれに、はっきりと、躊躇することなく肯定の意思を示した。


 まあ、まとめてしまうとたったこれだけの出来事だったわけだが、しかしその中身はもうちょっとだけ複雑な話でもあって。


 まずもって、王宮に呼び出されたのは、王様から直接依頼を受けるためだった。

 それは嘘で、ただ呼び出すのに都合のいい口実が欲しかった……なんて、王様の立場や忙しさを考えれば、そんな馬鹿な話は当然存在しない。


 王様から、そして王宮から任された仕事はふたつ。

 ひとつは、くだんの因縁によって詳しい情報を得られていなかった、王都西方の街の調査をするというもの。


 仲が悪かったってだけで、同じ国の仲間同士、連絡はしてたし、情報共有も欠かしたつもりはないだろう。

 それでも、プリエンタさんの例が見つかってしまったからには、きちんと知れていない部分がほかにも隠されていると考えるべきだ、と。


 フリードがほとんど視察に行けていなかったように、王宮との縁が近い人物ほど立ち入れない時期が長かったんだ。

 となれば当然、都合のいいように話が曲がってしまっていても不思議はない。少なくとも、あの街があんな状況だとは、誰も知らされていなかったんだから。


 王都からそれなりに近い街ですらそんなありさまだったんだから、こっちの依頼はすぐに納得も出来たし、緊急性も高いだろうと思えた。

 でも……もうひとつの依頼というのが、またなんとも、俺にもフリードにも難解なものだったんだ。


「デンスケ、フリード、街が見えたよ。ほら、あっち」


「……いや、あのね。俺の目ではそんな遠くは見えなくて……」


 しかしながら、難解な依頼に頭を抱えつつも、ひとつ目の依頼がどれだけ重要かは理解していたから。

 俺達は三人で馬車に乗って……今回は王子が手綱を握るようなバカなことはせず、騎士団からもうひとり馭者を連れてきて、四人で王都を出発していた。


 今はプリエンタさんのいた街からもう少し南を……あそこよりも魔獣の被害が少なそうな場所を走っているところだ。


「……ふたりとも、楽しそうじゃない……ね。やっぱり、歩いたほうがよかったよ。そのほうが、いっぱいお話し出来たから」


「マーリンよ、私達はそんな理由で悩んでいるわけでは……いや。あるいは君の言う通り、風に吹かれながら歩いて解決すべきだったやもしれないが……」


 さて。そんな馬車移動の最中にも、俺とフリードは揃って首をかしげていた。


 ひとつの問題はさっさと解決する。それは間違いない。

 だけど、そのあいだにもうひとつについて悩まないでいるのは不可能に近かった。それだけ変な話だったんだよ。


「王様の真意はどこにあるんだろ。前にもこういう、試すような問答を出されたことがあったんだよな」


 フリードの目を覚まさせろ……なんて、今にして思えば禅問答みたいだったよな。

 それそのものが……って意味じゃなくて。俺視点からは何も変じゃないフリードの、その内に抱えている問題をあぶりだして解決しろ……ってのが。


 で……だ。そんな問答みたいな依頼ってのが、話そのものは単純明快な、いわゆる人探しだった。

 ただ……その人を探してなんになるのかについての説明もなく、それを達成したら――あるいは出来なかったらどうなるかという話もなかったんだ。


 もちろん、王様や王宮が直接下した命令だ。そんなのにかかわる人物ともなれば、秘匿性の高い重要人物であっても不思議はない。むしろ、そうでなくちゃおかしい。

 けど、問題なのはそこ。隠してなくちゃならないような人物なら、どうして今になって、それもこんな小さな組織に探させるのか。


「依頼そのものは真っ当に思えるのだがな。しかしながら、どうにも間尺に合わぬ話に思えてならない」


 間尺に合わない……ってフリードの言葉の通り、この依頼を俺達に出すことは、いろんな部分がちぐはぐになっている気がするんだ。


 王宮とかかわりの深い重要人物を探すのなら、こんな小さな組織を使わず、それこそ王宮騎士団を動員すべきだろう。

 特別な組織として信頼を得つつある俺達だけど、それはあくまで魔獣退治の能力について、だ。

 残念ながら、人探しについては経験もなければ自信もない。


 もしかしたら、マーリンの探知魔術をアテにしたのかもしれないけど……残念ながら、あれはマーリンの視覚や触覚を拡張したものに過ぎないから。

 知っているものを探すのならいざ知らず、知らない人を探し出すなんてことには使えない。

 このことは王様にもちゃんと説明した。それでも、依頼を取り下げることはしなかったんだ。


 なら、何がなんでもすぐに見つけ出さなくちゃならない人ではないんだろう……と、そう考えると、今度はフリードの存在がノイズだ。

 王様から今のフリードがどう映ってるかはわからないけど、こいつはこれでも王子で、人探しのためにアテもなく王都を離れていい存在じゃない。


 それがどうしたことか、俺達三人を纏めて指名してきたんだ。

 つまり、俺にもマーリンにもフリードにも経験させたいことがあると考えるべき……なんだろうけど。


「……これっぽっちも想像出来ない。なんだよ、俺達が会っておかなくちゃならない人物で、しかも行方知れずになってるって……」


 人探しこそ方便で、行かせたい場所がある……のかな?

 でも、それならそうと言えばいいし、隠したいにしても、こっちも魔獣についての調査って名目で問題ないハズだ。


 どれだけ考えても王様の真意が読み解けないから、マーリンがつまんなそうにふてくされてもなお、俺達は頭を抱えたまま…………


「ごめんごめん、ため息ばっかりじゃつまんないよね。せめて今から街に着くまでのあいだだけでもお喋りしよう」


「私もあまりに気が利かなかった、許して欲しい。君が望むのならば、どれだけでもつき合おう」


 拗ねちゃった姿を見たら、これ以上放置なんて出来っこないよ……っ。

 どうしてもマーリンには甘いんだよな、俺もフリードも。こう……なんて言うのか。いわゆる、惚れた弱みってやつだろうか……?


 でも、ご機嫌取りも遅かったみたいで、街に着くまでマーリンの機嫌が直ることはなかった。

 こういうところは子供じゃなくなってきた弊害なのかな。いや。そもそもこんななるまで無視した俺達が悪いで間違いないんだけど。




 そして、人探しを頭の片隅に入れながらの調査の日々は続いた。

 プリエンタさんの街の近くでは、やっぱり王宮との因縁みたいな話はそれなりに聞こえたけど、遠くまで来ればそんなものは誰の口からも聞かれなかった。


 ただ……噂の有無と街の状況とは完全に無関係みたいで、西側はどこも王都では把握出来ていない問題を抱えた街ばかりだった。


「……想像以上だな。まとめてみると、こんなにもはっきりと浮かび上がるもんか」


「ふう。不要な感傷だとはわかっていても、どうにもため息をこぼしてしまうな、こればかりは」


 あの街では魔獣による農作物への被害が甚大だ。つまり、人の活動圏まで魔獣が侵入している。

 この街では道路が破壊される事態に陥ってしまっていた。これじゃあ、助けを求めるのも一苦労だ。

 その街では、どの街では……と、問題を箇条書きにし、それらの深刻度を印の大小である程度視覚化しながら地図に写すと、どうにも……頭が痛くなりそうだった。


 こんな重たい依頼になるなら、もうひとつの人探しなんてやってる余裕はない。

 王様なら、こうなることも多少は想像出来ただろう。それでも、どちらもこなせと命じた意味って……


 考えていてもわからないし、進まない。

 予定されていた訪問をすべて終えた俺達は、大急ぎで王都へと戻るのだった。

 事情を報告して、一刻も早く王宮騎士団を派遣して貰わないと。


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