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第三百五十七話【集結する騎士団】


 そして、その日はやって来た。


 王宮騎士団への叙任。それに対抗するための新たな騎士団の創設。そして、その騎士団への引き抜き。

 俺がフリードと一緒に戦えるかどうかを争点とした、王様と王子の戦い。その日が、ついにやって来た……らしい。


「すごい、ね。デンスケ。こっちも。ここからも、すごいね。遠くが見えるね。広いね。すごいね」


「……うん、そうだね。そうだけど……マーリンはもっと高いところからの景色を見たことがあるハズでは……?」


 らしい。と、不確定なのは、まだその説明を直接受けたわけじゃないから。

 説明されてないのにそう思ってるのは、フリードからの招待状で、王宮内部の一室に通して貰えたから。


 で……マーリンのテンションが高いのは、その部屋が高いところにあって、そこからの眺めがいいから……らしいけど。

 貴女は空を飛べたんだから、もっともっといい眺めもまだ記憶の中にあるのでは……?


 さて。ことの発端は、先述の招待状が店に届けられたところ……今から四日ほど前にさかのぼる。

 ようやく王子自ら出向くなんてやりかたを改めたかと感心したのも束の間、連絡が直前過ぎると文句がこぼれそうになったのは内緒だ。


 招待状の内容はこう。

 指定された日時……四日後に、王宮へ来るように。この招待状を見せれば、役人が部屋へ案内してくれるだろう、と。

 ただそれだけ。重要な部分に一切触れてないのは、それを外部へ持ち出すわけにはいかなかったから……だろうか。


 そんなわけで、いきなりでまだ困惑してるし、説明もないから何もわかってないんだけど。

 ひとまず、重要な話をしなくちゃならないから、今までみたいに外部の施設を使うのではなく、直接王宮に呼ばれた……という事実がここにある。

 もうそれだけで……はあ。頭が痛い……


「……デンスケ、楽しくない……? おっきいお部屋、あんまり好きじゃなかった?」


「え? あー……いや、そうじゃないけどさ。うん……部屋が大き過ぎて落ち着かない……のは、あるかな」


 マーリンはのんびり屋さんだなぁ。と、癒される余裕もない。残念ながら。

 だってここは王宮で、ついこのあいだ収容……もとい、軟禁されてた場所だから。あんまりいい思い出はないんだ。


 もっとも、その軟禁自体は嫌な思い出じゃないから、それだけで気分が滅入るほどでもないんだけどさ。

 そこはやっぱり、これから何が起こるのかわかってない不安が問題なわけで。


「……フリードはなんでこんなとこに呼んだんだろうな、って。話をするだけなら、いつもみたいに静かなところでいいのに」


「……? ここも、静か……だよ? えっと……」


 うん、そうだね。それは本当にそう。静かなのは間違いない。だって、ほかに人はいないから。

 でも、物々し過ぎて静かに感じないんだよ。なんと言うか……落ち着かない。

 うん……そう言うべきだったね。日本語って難しいや。実際は日本語じゃないんだろうけど。


 とまあ、そうしてマーリンとボケあってるところに、ドアをノックする音が届いた。

 フリード……だろうか。それとも、役人さんだろうか。フリードが別室で待ってるから、そっちに行ってくれ……的な案内で……


「失礼します。デンスケさん、マーリンさん、少しぶりですね。お変わりなさそうで安心しました」


「ロイドさん。こんにちは。えっと……もしかして、ロイドさんも王子に呼ばれたんですか?」


 姿を現したのは、もうすっかり杖に慣れ切った様子のロイドさんだった。

 その足取りは軽やかで、つい最近怪我を負ったとは到底思えないものだ。なんて身体能力……


「私も、新しい騎士団の責任者として同席させていただく予定です。一時のこととはいえ、任命いただいたのですから。きっと、デンスケさんの助けになってみせましょう」


「おお……心強いです。なんと言うか……王子よりも、ずっと」


 あいつ、ちょっと暴走気味なとこあるからな。特に最近は。

 それに、相手が王様ともなると、王子のネームバリューはそんなに強くない。よそで見せたような力技は絶対に通じないだろう。


 としたら、冷静に立ち回れる大人の手は、どれだけ借りたって足りないくらいだ。まあ、ロイドさんもまだ若いんだけど。


「……しかし、と言うことは……だ。やっぱり、王様に直談判する会に呼ばれた……ってことでいいのかな? うーん……」


 ここのところの説明がないあたりに、やっぱりフリードの慌てっぷりが窺える。

 外部に漏らすわけにはいかないから詳細を書けないのは仕方ないとして、何をするのかくらいは書けただろうに。


 まあ、これ以外に何か別の可能性があるか……と聞かれると、そりゃまあ……以外にはないよねと言わざるを得ないんだけど。


「正直なところ、ロイドさんから見てこの作戦はどうなんですか? 俺には……やっぱり、難しいのかなって気も……」


 さてと。知ってる顔が来たから安心……って、気を抜いていい場面じゃないからね。

 フリードの手伝いを出来る限りやると決めたからには、足を引っ張らない準備をしなくちゃ。


 このあと、何が行われるのかはわからない。それでも、意思の確認と共有はしておくべきだろう。

 何かあったときに話を振られないとも限らない。そうなったときに答えられないんじゃ、組織として難ありとみなされかねないからね。


「……意外……ですね。私はてっきり、デンスケさんは王子に全幅の信頼を寄せていらっしゃるのかと思っていましたが……」


「そりゃあ……信頼はしてますけど。でも……」


 信頼はしてる。でも、その信頼してるフリードから見ても大物が相手なんだ。なら、一緒になって警戒するのは、仲間として当然のことだろう。


 それに、王様の人柄や思慮深さについて、俺も直接話をする機会があったのに、これっぽっちも底が見えてない。素顔がわからないままだから。

 おおよそのことを理解しているフリードに比べて、あまりに得体が知れなさ過ぎる。これで楽観視は、いくらなんでも無理があるよ。


「……そうですね。私は……王子の能力いかんにかかわらず、やはり難しいかと思います。当然ですが、決定権があるのは国王陛下。ならば……」


 たとえ説得が成功しても、有益性を示せても、いざ決断の判を捺すときに気変わりすればそこまで。ロイドさんはそう言って、苦い顔で顎に手を当てた。


「陛下の周りには、優秀な補佐官がいらっしゃいますから。最終的な決定権は陛下にございますが、しかし誰に頼らず決めるということも当然あり得ないでしょう」


「……とすると、王子が王様を説得しても、まだ説き伏せなくちゃならない相手がたくさんいる……ってことですか」


 でも、王様を説得出来たなら、それこそ王様とふたりがかりで話をすれば、フリードなら補佐官もまとめて説得出来るんではないだろうか。

 一瞬だけそう思ったけど、問題がそう展開しないことも思い出す。


 もう、そんなに時間がないんだ。

 王宮騎士団への叙任の話が出てから、すっかり日が経っている。いつそれが決定事項になっても不思議じゃない。

 いや……あるいは、既に決定した話を無理矢理捻じ曲げようとしているのかもしれない。


 どちらにしても、状況はとても悪いと言えるだろう。

 今日、王様を説得しても、明日には決断するとなれば。そのときには、補佐官を説得する時間はない。

 あるいは、もう決まったことを捻じ曲げようとしているなら。そんなものを、補佐官がそのまま許すハズがない。


 それに、王様が相談役として選んだ補佐官なのだとしたら。それはきっと、反対意見を言う係でもあるということだから。

 絶対にそこで議論が行われると考えたら……ずっと信頼してきた補佐官と、まだ未熟な王子の主張。どっちを優先するかは……


「――デンスケ、マーリン。ロイド卿。すまない、待たせた」


 これは……本当に旗色が悪いのかもしれない。そう思ったところへ、フリードが姿を現した。

 まるで狙っていたかのように、俺のネガティブな考えを吹っ飛ばすように。


 だけど……頼りになる黄金騎士の姿を見ても、不安の全部は流れ落ちなかった。

 こんなにも頼もしいフリードでさえ、王様を説得出来るかわからない。その事実だけで、どうしても。


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